2024.12.03

あのこと

観てみた、オードレイ・ディヴァン監督映画。2021年公開。

1960年代、まだ中絶が違法とされていた頃のフランス。大学生のアンヌは学業で優秀な成績を示し、将来を嘱望されていた。ところがある日妊娠が発覚。彼女は医師に相談するものの、法に抵触する施術は手が出しようがない。アンヌはあちこちで手段を探し、遂には自らの手で堕胎を試みるのだが…という内容。

原作はアニー・エルノーの小説「事件」、ヴェネツィア映画祭では金獅子賞を獲得している。中絶を巡る女性の苦悩を中心に、社会的な是非やジェンダーの問題を描いている…のかなあ?、自分は正直言い切る事にためらいを覚える。

画面は殆ど主人公女性の姿のみを追いかけており、狭く圧迫感のある閉じた世界。しかも次々に試される違法中絶カタログ的な展開。自らの肉体を執拗に傷つける描写の連続は、これどう見てもホラー映画だろと。またもや何でこんな映画観てるのか、判らなくなった訳だが…これはこれですごいのも、まあ確か。
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2024.12.02

アイダよ、何処へ?

観てみた、ヤスミラ・ジュバニッチ監督映画。2020年公開。

1995年ボスニア。セルビア人勢力により占拠されたヘルツェゴヴィナの街では、彼らに追われたイスラム教徒が、国連軍の安全地帯に助けを求め集まっていた。避難民は武装勢力から移送を強要され、通訳として働く女性・アイダは夫と息子2人の身を案じて、必死にそれを逃れる方法を探るのだが…という内容。

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の際に起きた、「スレブレニツァの虐殺」を題材にした戦争映画。と言っても派手な戦闘や、歴史への巨視的視野がある訳ではなく…母親が家族を救おうとする、大変身近な作品として観る事が出来る筈。

当時の東欧情勢は知っていた方が勿論いいけれど…予備知識が無くても突然恐ろしい状況に投げ込まれた混乱や恐怖を、追体験できる様な説得力がある。ただそのお陰で、最初から最後まで緊張を強いられるのが仲々つらい。自分も何でこんな映画観てるのか、途中で判らなくなった程だが…すごい作品だな。
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2024.11.30

愛欲の港

観てみた、イングマール・ベルイマン監督映画。1948年公開。

長かった8年間もの航海から帰港し、港で落ち着く事にした元船員のヨスタ。彼はある少女が投身自殺を図ったところを未然に助ける。やがてその娘・ベリトとの交際が始まるのだが、彼女には家庭問題や施設での生活といった暗い過去があった。しかも再会した施設の仲間から、堕胎費用をせがまれ…という内容。

公開は5年程前だが、本作は出世作「不良少女モニカ」(1953年)と大体同傾向の作品と言っていいだろう。(スウェーデン自体は参加していないものの)第二次大戦後の暗い社会情勢を背景に、当時の危機意識を採り上げている。

印象としては「松竹ヌーベルバーグ」辺りを思い起こさせられたのだから、これはかなり先行している(〜モニカがヌーベルバーグの作家に影響を与えているのだから、内容面で同様な本作もだ)。…ただヌーベルバーグの様にスタイリッシュではなく、どちらかと言うと説教くさい辺りは、やはりベルイマンだからか。
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2024.11.29

渇望

観てみた、イングマール・ベルイマン監督映画。1949年公開。

元バレリーナのルートは、かつて不倫相手との間の子を中絶しながらも、捨てられた過去を持つ。現在は夫・バッティルと、戦後間もないドイツ国内を列車で新婚旅行中だが、不妊となりバレリーナとしての夢も失った彼女は、夫につらく当たってしまう。一方ルートのバレエ仲間だったヴィオラもまた…という内容。

本作もベルイマンでは比較的初期の作品。内容的には夫婦の愛憎劇という感じだが…その前に登場俳優が似ているせいで、観ていて混乱してしまった。不倫相手は軍人だった筈が後に登場したら医者になってて、あれ軍医だったのか?、と思ったら別人だった(あと他にも)。無駄に難解な印象になってしまった。

一種の心理サスペンスという感じ(結末だけは唐突にメロドラマ)、宗教方面への言及がないと今一つベルイマンという感じがして来ない。時代背景も知らなかったせいで、これまた無駄に混乱してしまったものの…まあ、これはこれで。
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2024.11.27

歓喜に向かって

観てみた。イングマール・ベルイマン脚本、監督映画。1950年公開。

バイオリン奏者のスティグが受けたのは、妻・マルタと娘が事故死したとの報。やがて彼はマルタとオーケストラ団員として出逢った頃を回想する。いつしか恋に落ち結ばれる2人だが、スティグの演奏家としての困難に加え、夫婦生活は決して平穏なばかりではなかった。一旦は別れる事になる2人だが…という内容。

ベルイマンの比較的初期の作品だが、後にモーツァルトのオペラ「魔笛」を映像化するだけに、音楽的な嗜好が窺える辺り興味深い。ただ本作は音楽映画と言うよりは、むしろ夫婦の愛憎劇という感じ。まだベルイマン独自の感性が花開いたとは言えず、個人的にはルネ・クレール辺りが作りそうな…という印象かな。

興味深いと言えば本作で老指揮者を演じるのは、ベルイマンの師匠であるヴィクトル・シェストレム。「野いちご」(1957年)の老教授役も、この人だと今回知ったけれど…「霊魂の不滅」の監督(!)かあ。演技の方も達者なものですな。
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2024.11.26

道化師の夜

観てみた。イングマール・ベルイマン脚本、監督映画。1953年公開。

馬車を連ねて進む、巡業サーカス団。座長のアルベルトは曲馬師・アンを愛人として興行を続けたものの、一座は経済的に追い詰められていた。ある町で地元の劇団に助力を乞うたものの、侮辱を受ける。その町はアルベルトが、妻と2人の子供を置き去りにした場所。彼はサーカスの廃業も考えており…という内容。

ベルイマンとしては比較的初期の作品で、「不良少女モニカ」の翌年の作。サーカスを題材にしている為か、フェリーニ作品っぽいと言うか…それだけではなく(同時代的な影響から?)「ネオレアリズモ」を思わせる作風なのは興味深い。

サーカスの映画で、こんな陰鬱な気持ちにさせられるのも珍しい(「地上最大のショウ」なんて本作に較べたら、楽しいばっかりだな)。クマちゃんかわいそう。…とは言え冒頭の幻想的なシーンなどは、フェリーニがまだ「青春群像」(1953年)を撮っている頃なのに、そちらに先駆けてフェリーニっぽいという逆転現象。
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2024.11.24

第七の封印

観てみた。イングマール・ベルイマン脚本、監督映画。1957年公開。

黒死病が蔓延する中世のスウェーデン。十字軍遠征から帰還した騎士・アントニウスは、彼の死を宣告する死神にその猶予を求める為、チェスの勝負を挑む。対戦は幾日にも渡り、その間に騎士は様々な人々、その生と死の様相を目撃する。そして彼は自身の居城へと帰還し、妻と再会するのだが…という内容。

「鏡の中にある如く」「沈黙」と共に「神の不在」三部作を成す、ベルイマンの代表作。という通り宗教的な内容だが、「死神」がいるのなら不在じゃないし。…とは思ったものの、英語なら単なるDeathで「神」は付かないからいいのか。

かなり重厚で難解な映画だけれど…旅芸人や鍛冶屋の存在からは、そこはかとないユーモアが感じられる。そうした点からか(時代設定だけでなく)本作は、シェイクスピア作品と近い印象がある。そもそも何で死神とチェスしてるのかって辺りで、悲劇とも喜劇ともつかない…それすなわち生と死の境界なのかも。
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2024.11.23

「まぼろし小学校 / 昭和B級文化の記録」串間努著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1996年発表。

「昭和時代の小学校生活ってどんなだっけ?」という疑問を抱いた著者が、アンケートや取材を元に当時の子供文化をまとめた1冊。文房具に給食、掃除や遠足等々という、小学生に欠かせなかったあれこれを回顧する…という内容。

大変な労作。案外類書が存在しないという意味でも、貴重な記録となっている。…ただ個人的には9割の内容はピンと来なかった。昭和と一口で言っても長いし、自分は結局そのうちの6年間しか(しかも狭い範囲での)体験しかしてない訳で。懐かしいよりもむしろ、自分と違うんだなあ、という印象の方が強かった。

あと当時流行ったアイテム等を、販売会社に取材する辺り凄いけど…その社の沿革を長々書かれてもな。加えてアンケートの文章をそのまま掲載していたり、読み物としては正直なんだなって。まあ律義に全部読もうとしたからこの感想なのであって、自分にヒットする話題だけつまんで読むのがいいんじゃないかな。
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2024.11.21

「図説 小松崎茂ワールド」根本圭助編著

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読んでみた、日本人編者によるビジュアル・ムック。2005年発表。

「小松崎茂」は1915年に南千住で誕生し、画家志望から転じてイラストレーターとなった。殊に少年誌での戦記やSFイラストに才能を発揮し、大変な人気を博した。本書では、彼の生涯に渡っての業績を解説していく…という内容。

なのでビジュアル要素は強いものの、伝記的な内容がメインの一冊。とは言え小松崎の生涯は余りの人気故の多忙で、絵をひたすら描く以外殆どエピソード的なものは無かったり(火事くらい?)。代りに同時代の世相や同時代画家の作品も併せて紹介する事で、立体的に小松崎の存在を浮かび上がらせている。

個人的にサンダーバード等での印象が強いので、幅広い作風が知られたのはよかった。まあ小さいカット少々で判った気になるのも何だが、西部劇や秘境物の絵物語をそんな読みたい訳でもないしな。むしろドラマチックな人生ではない分、弟子たちの小松崎を慕う言葉や、その一徹を通した最期に胸を打たれる。
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2024.11.20

「昭和ちびっこ未来画報 / ぼくらの21世紀」初見健一著

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読んでみた、日本人著者によるビジュアル文庫。2012年発表。

少年漫画誌や学習誌等、1950年〜1970年代の子供向けメディアには、来るべき「未来」を予測した記事に溢れていた。本書はそうした当時の予測図を、希望に溢れる未来から破滅的な終末までを集めて紹介している…という内容。

文庫サイズとは言え、本書はそうしたイラストをカラーの見開きで掲載しているので、かなり見やすいのが有難い(まあ元々の印刷が悪いので、文章が読みにくいのは仕方ない)。雑誌記事に限らず、大阪万博(ミャクミャク様じゃない方)パビリオンや相澤ロボット等、同時代の未来的ガジェットも見られて楽しめる。

ただもっと面白い記事があるんじゃないの…という、多少物足りない感覚はあるものの、文庫だし値段的なところもあるので、これで丁度いいのかも。ところで他の書籍にもあった小松崎先生の「宇宙をさまよう都市宇宙船」って、(誰も指摘していないけれど)ジェイムズ・ブリッシュの小説が元ネタなんじゃないかな?

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posted by ぬきやまがいせい at 14:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書