2019.09.15

「前衛音楽の漂流者たち / もう一つの音楽的近代」長木誠司著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1993年発表。

音楽表現の「前衛」として時代の先端を行く作品を発表しながらも、現在では忘れられてしまった作曲家達。本書ではそうした作曲家8名にシェーンベルクを加えて、20世紀の前衛音楽を人物評伝的な側面から綴っていく…という内容。

その8名の内訳はシュテファン、ブゾーニ、レーガー、シュレーカー、ヒンデミット、ツィンマーマン、バラケ、シェルシ…といった顔触れ(現在でも名高いシェーンベルクは、敢えて採り上げたというのが著者の弁)。自分も殆ど知らない名前ばかりなので、楽曲の説明をされても今一つピンと来なかったのは仕方ないよな。

とは言え知られざる作曲家の知られざる業績を辿るだけでも刺激的で、楽しく読めた。…特に興味深かったのがシェルシという人で、自らはほぼ作曲に関わらず共同制作者の作を自分名義で発表していた。要は佐村河内問題を彷彿とさせる話なのだが、その是非や受容のされ方など比較するのも面白いのでは。
posted by ぬきやまがいせい at 20:59 | Comment(0) | 読書

2019.09.14

ハンバーガー・ヒル

観てみた。アンソニー・バリル主演、ジョン・アービン監督映画。1987年公開。

1969年、戦争中のベトナム。アメリカ軍の第101空挺師団は、補充された未熟な新兵から次々に死んでいく過酷な戦場で日々を送っていた。そんな彼らへ新たに下った命令は、北ベトナム軍が強固な陣地を敷く、937高地の奪取だった。まるで兵達を「ハンバーガー=肉塊」に変えるかの様なその丘で…という内容。

ベトナム戦争で行われた米軍「アパッチ・スノー作戦」を題材にした戦争映画。当時アメリカでは前年の「プラトーン」を始め、ベトナム戦争の実情に踏み込んだ作品が製作されており、本作もその1本。まあ実際のところ映画としては、オリバー・ストーンやキューブリックが手掛けたものに流石に及ばないんだけど…

偶然その場に居合わせてしまったかの様な…もらい事故体験みたいな臨場感は本作ならではだと思う。たまたま戦場に集まっただけの普通の若者達による青春映画的な要素も強い分、銀幕を飛び越えて来た何かに衝突された気分。
posted by ぬきやまがいせい at 22:54 | Comment(0) | 映画

2019.09.12

コールド・スキン

観てみた。D・オークス主演、ザヴィエ・ジャン監督映画。2017年公開。

1914年、南極海の孤島で気象観測員の任に就いた主人公。島で唯一の住人である灯台守・グルナーが言うには、前任者は病死したらしい。そして島での最初の夜、住居が人ならざる怪物に囲まれた。彼は夜になると襲って来る怪物に対抗する為、グルナーと協力し灯台を死守する事になったのだが…という内容。

カタルーニャ文学の作家、アルベール・サンチェス・ピニョルによる長編小説「冷たい肌」が原作。ただ文学と言っても映画化された本作を観た限り、クトゥルー神話に出て来る「深きものども」っぽい半魚人系クリーチャーとのバトルが延々繰り広げられる、ホラー以外の何者でもない内容(原作もそのままらしいけど)。

まあ文学が原作と言われると僅か2人の登場人物による対立や葛藤、苦悩みたいなのが描かれている上、少々生理的に気味が悪い描写がある辺り成る程そういうものかって。確かに結構な力作だけれど…正直面白くはないかなあ。
posted by ぬきやまがいせい at 21:21 | Comment(0) | 映画

2019.09.11

「現代音楽のパサージュ / 20・5世紀の音楽[増補版]」松平頼暁著

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読んでみた、日本人著者による音楽解説書。1995年発表。

「現代音楽」とはいかなるものであるか。一般的に理解が難しいとされるそうした音楽を、その分野における先駆者の紹介から始まって、作曲や演奏の手法による分類を手掛かりに、20世紀における発展を紐解いていく…という内容。

本書は1984年に刊行された「20.5世紀の音楽」に、その後10年の展開を新たに書き加えた改訂版。作曲者でもある著者という事もあって、現代音楽の代表的作品の紹介は勿論、Brian Eno等ポピュラー方面の音楽家に関しても視野に入れており、現場的視点から広範に全体像を捉えた概説書となっている。

個人的には今まで何の気なしに聴いてた作品が、案外重要作として語られていてへえと。…とは言え作曲技法等に関しての記述はかなり専門的で、正直入門書には向かないかなあ。でもこのジャンルはやはり聴く上である程度は文脈を押さえた方がいいのも確かなので、興味のある人は読んでみてもよいのでは?
posted by ぬきやまがいせい at 21:36 | Comment(0) | 読書

2019.09.09

「ユダの窓」カーター・ディクスン著、砧一郎訳

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読んでみた、アメリカ人作家による推理小説。1938年発表。

ジェイムズ・アンズウェルはエイヴォリー・ヒュームとの会見中に意識を失って、気が付いた時には相手の死体が転がっていた。無実を訴えるもその部屋は完全な密室。メリヴェール卿が弁護を担当する事になったのだが…という内容。

カーター・ディクスンというのは、前回紹介したディクスン・カーの別ペンネーム。そして本書は彼が最も得意とする「密室殺人もの」の代表作と言われている。「ユダの窓」というモチーフをちらつかせて興味を引く手法は見事だが、いざ種明かしされると実に単純明快なので、上手いこと謎めいた象徴を見つけたものだ。

本書はメリヴェール卿を主人公とするシリーズの長編第7作だそうで。「法廷もの」という形式もあって、毎章新たな証人の口から意外な真相が明らかになる展開にも惹き付けられる。真犯人(フーダニット)の意外性も充分だったけど…密室トリック(ハウダニット)にばかり気を取られて、そっちは完全に忘れていたな。
posted by ぬきやまがいせい at 21:29 | Comment(0) | 読書

2019.09.08

「皇帝のかぎ煙草入れ」ディクスン・カー著、井上一夫訳

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読んでみた、アメリカ人作家による推理小説。1942年発表。

トビイ・ロウズとの結婚を控えるイヴの許に、ある夜前夫アトウッドが押し掛けて来る。彼女との復縁を迫る前夫だったが、その時向かいのロウズ邸でトビイの父親が殺害されてしまう。しかも彼女には殺人の嫌疑が掛かり…という内容。

カーの最高傑作と評される事も多い長編。ただ作者自身は本来密室殺人ものが得意とされるのに、本作にそういった要素が無い事もあって、一方で異色作とも言われている。らしい…まあ自分はカー作品自体初めて読むので、流石にピンと来ないわな。とは言え本書における驚きの展開は、流石評判に偽りなし。

本書に対して、かのアガサ・クリスティが最大の賛辞を送ったと言われる(見出しに書いてある)が、実は出所の怪しい話っぽい。それでも実際良く出来た作品なので、まあ一種の伝説として傾聴しておこう。…ところでキンロス博士って以前何度も事件を解決したと書いてあるのに、登場するのは本書だけなのな。
posted by ぬきやまがいせい at 02:17 | Comment(0) | 読書

2019.09.06

「幻の女」ウイリアム・アイリッシュ著、稲葉明雄訳

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読んでみた、アメリカ人作家による推理小説。1942年発表。

ある夜ヘンダーソンは酒場で初めて出逢った女と観劇を共にするも、帰宅すると妻が何者かに殺害されていた。彼に突き付けられたのは死刑宣告。親友のロンバートは、その夜のアリバイを握る「幻の女」を追うのだが…という内容。

海外ミステリ小説のランキングでは、常に上位に入る人気作であり名作。日本では終戦直後に江戸川乱歩を虜にして以来、評価を不動のものとしているのだから大変な作品だ。…実際今読んでも殆ど古さを感じさせないし、緻密で重層的な構成に驚きの結末を兼ね備えた、まさに理想の作品と言ってもよいだろう。

ネタバレになるから具体的には触れないけれど、何度も映像化されているというのは結構意外な気が。文章と違ってアレがアレしてるのが、映像だとばれちゃうじゃない。まあ少なくとも本作を読む限りでは、筋が通っていてお見事。…ところで原題の「Phantom Lady」って、ボトムズのフィアナが引用したのかな?
posted by ぬきやまがいせい at 21:13 | Comment(0) | 読書

2019.09.05

「僧正殺人事件」ヴァン・ダイン著、井上勇訳

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読んでみた、アメリカ人作家による推理小説。1929年発表。

ファイロ・ヴァンスが今回遭遇した事件は、イギリスの童謡・マザーグースの歌詞を再現するかの様に行われた連続殺人だった。しかも犯人が新聞社に向けて、「僧正」の名で犯行声明を送り付けるという大胆なもので…という内容。

素人探偵ヴァンスを主人公にしたシリーズの第4作。古典ミステリ名作中の名作であると共に、見立て殺人・童謡殺人というモチーフの先駆けとなった作品としても知られている。…まあ実は全くの最初ではない様なのだが、「誰が殺したクック・ロビン」という有名な歌詞を広めたのは、本書と見て間違いないみたい。

またマザーグースだけでなく本書には「チェス」や「数学(最新科学)」といった、これまたミステリっぽい題材に関しての衒学が披露されている辺り、後続への影響は多大なのだなあって。…まあ今読むと推理小説としては少々物足りない部分もあるだろうけれど、知的でスタイリッシュな要素は現在でもやはり刺激的。
posted by ぬきやまがいせい at 21:06 | Comment(0) | 読書

2019.09.03

「非Aの傀儡(なるえーのかいらい)」A・E・ヴァン・ヴォークト著、中村保男訳

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読んでみた、アメリカ人作家によるSF小説。1956年発表。

26世紀。地球と金星を救ったゴッセンは、再び巨大な陰謀に巻き込まれたのに気付く。彼の精神は、他星の若き王族の肉体の中に入ってしまったのだ。ゴッセンはまたもや「非A哲学」を駆使して、危難に立ち向かうのだが…という内容。

成恵…じゃなくて、本書は「非Aの世界」続編。著者の小説の中でもよく知られた作品で、「ワイドスクリーン・バロック」というジャンルを代表している前作だが、読んでいて正直混乱する内容なのも確か。そこへ行くと本書は内容面がかなり整理されているので、前作だけで終わりにせずセットで読んでおくべき作品かも。

実は1984年には第3作「Null-A Three」も刊行されたものの、現在のところ本邦未訳。こっちも読めたらいいのだけれど、正直今後邦訳が出そうな気もせんなあ。前作が太陽系規模の話で案外こじんまりしていたのが拍子抜けだった分、本書のスケール感には手応えがあった。第3作は更に…と期待してしまうのだが。
posted by ぬきやまがいせい at 21:06 | Comment(0) | 読書

2019.09.02

「ブラウン神父の童心」G・K・チェスタトン著、中村保男訳

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読んでみた、イギリス人作家による推理小説。1911年発表。

小柄で丸顔、眼鏡と蝙蝠傘を常に携えたカトリック司祭・ブラウン神父。そんな彼がひとたび事件に遭遇したら、鋭い機知と見事な推理力を発揮する。本書はブラウン神父初登場である「青い十字架」他、全12編を収録した初短編集。

ホームズやポアロには及ばないが、推理小説の探偵として有名なのが「ブラウン神父」。ただミステリの中でも古典に興味がある人しか知らないかな、とは思ったものの…だからって魅力として劣るかと言われるとそんな事はなく、神父のとぼけたキャラクターと共に、本書のトリックやアイデアは冴えに冴えている。

神父というキャラを探偵役に据えたからか、通常のミステリ的な謎解明の手順とは異なった構成の作品が意外と多く、そういった辺りも独特でいい。とは言え基本的には先行作である、ホームズ物を踏まえているとは思うけど…相棒役の定着にも一捻りあるので、これは本当に事前知識無しに読めてよかったなあと。
posted by ぬきやまがいせい at 20:51 | Comment(0) | 読書