観てみた、トニー・ジエラ監督によるドキュメンタリー映画。2017年公開。
役者として活動する「レオン・ヴィターリ」は、憧れのスタンリー・キューブリック監督の映画「バリー・リンドン」に出演。ところが彼は将来を期待されながらも俳優業を引退し、同監督の助手として長年映画製作のあらゆる面に関わる様になる。本作で彼はキューブリックの側で過ごした日々を回想する…という内容。
先日紹介した「〜愛された男」とは姉妹編の様な内容だが、たまたま偶然似通った人物がキューブリックの周囲にいただけらしい。そう考えるとやはりカリスマ的な存在とはこうした、自らを捧げ尽くす様な人々を惹き付けるのだろうな。
本作ではキューブリックの、映画制作に関するエピソードが多く聞けて楽しい。と同時に(まるで信長の草履を懐で温めた秀吉の様なのに)、ヴィターリ自身は同監督の死後も自ら立つ事はなく、彼の影として生涯を終えた(2022年没)のに考えさせられる。いや本作こそ、彼が浴びた最大のスポットライトなのかも。
2023.03.25
2023.03.23
「ブロディーの報告書」J・L・ボルヘス著、鼓直訳

読んでみた、アルゼンチン人作家による短編小説集。1970年発表。
語り手が入手した、ある未発表の手稿。それはスコットランド人の宣教師・ブロディーが政府宛てにしたためた、ムルク(ヤフー)という未開種族の奇妙な生態に関する報告書だった。…という表題作を含んだ、全11編が収録されている。
上記作はガリバー旅行記を踏まえたものなので、著者の作風を言い表す「バベルの図書館」という印象にも合致していると思う。でも本書はならず者や争いを題材に、主に自国の風土に根差したリアリティスティックな作品が中心となっている。…マジックリアリズムからマジックを引いた感じ、とでも言えばいいのか。
なので賛否両論というのも仕方ないけれど…そこはボルヘス、どこか「奇譚」とも言えそうな独特の味わいが残っている。ナイフがもたらす因縁話なんか顕著で、何だかんだ面白いんじゃないかな。個人的にはやはり表題作で「悲しき熱帯」っぽいかな?、と思ったらそれどころでなく、まるでSFなヘンテコさが良い。
2023.03.22
キューブリックに愛された男
観てみた、A・インファセリ監督によるドキュメンタリー映画。2015年公開。
レーシングドライバー志望のミリオ・ダレッサンドロは、「ある物」を運んだ事をきっかけに、映画監督「スタンリー・キューブリック」の専属運転手となった。自動車関連に留まらず、公私に渡ってキューブリックを支える様になるダレッサンドロ。本作では彼が長年見つめた、キューブリックの姿を回想する…という内容。
「ある物」とは「時計じかけのオレンジ」で使用された、ペニスのオブジェ。…なので「2001年宇宙の旅」を始め、それ以前の話は出てこない。主に語られるのはキューブリックの私生活だから、作品内容との関連は期待しない方がいい。
とは言えキューブリックが彼に宛てた、仕事や買い物等を指示するメモ書きが大量に紹介されるのが楽しい。しかし物持ちのいい人だな(…今やその1枚1枚がお宝なんだけど)。気難しいイメージのキューブリックが、気難しい中に見せるチャーミングな一面を知る事が出来た、その物持ちのよさに対して感謝しよう。
レーシングドライバー志望のミリオ・ダレッサンドロは、「ある物」を運んだ事をきっかけに、映画監督「スタンリー・キューブリック」の専属運転手となった。自動車関連に留まらず、公私に渡ってキューブリックを支える様になるダレッサンドロ。本作では彼が長年見つめた、キューブリックの姿を回想する…という内容。
「ある物」とは「時計じかけのオレンジ」で使用された、ペニスのオブジェ。…なので「2001年宇宙の旅」を始め、それ以前の話は出てこない。主に語られるのはキューブリックの私生活だから、作品内容との関連は期待しない方がいい。
とは言えキューブリックが彼に宛てた、仕事や買い物等を指示するメモ書きが大量に紹介されるのが楽しい。しかし物持ちのいい人だな(…今やその1枚1枚がお宝なんだけど)。気難しいイメージのキューブリックが、気難しい中に見せるチャーミングな一面を知る事が出来た、その物持ちのよさに対して感謝しよう。
2023.03.20
「ガンシップ」ヘンリー・ジーベル著、江畑謙介訳

読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1987年発表。
ベトナム戦争当時。米空軍が地上の軽車輛破壊の為に、輸送機の機体に重武装させた「ガンシップ」。本書は同機で低光量TV担当の航法士だった著者が、戦闘や破壊に加え仲間との友情等、かつての日々を振り返る…という内容。
現在でも改良型が運用中のAC-130、本書中だと最大火力は40o砲。その為成果判定が「完全破壊」かどうかで、揉めているのが興味深い。要するに簡単に修理可能では不十分という事だが(その後導入された105o砲のお陰で、現在でも通用している様だ)…そんな話を延々されても余り面白くはないのにな。
本書は孤独な戦闘機パイロットと違い大人数の人間模様が中心で、陽気な青春群像はいかにも米軍戦記という感じ。なので戦闘狂としか思えない一方、著者の苦悩も描かれており意外に奥行きのある内容。個人的にははミサイルの追撃を、回避機動だけ(チャフ/フレアは未装備)でしのいだのには驚かされた。
2023.03.18
「戦闘機の航空管制 / 航空戦術の一環として兵力の残存と再戦力化に貢献する」園山耕司著

読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2018年発表。
航空機が安全に離発着する為、その支援・誘導をするのが「航空管制」の役割。本書は自衛隊元航空管制官の著者がその豊富な体験を踏まえ、知られざる軍事における航空管制を、豊富な写真や図版と共に解説する…という内容。
副題の仰々しさからすると防衛・軍事関係の論文みたいだが、実は普通の新書本(まあ「サイエンス・アイ新書」はカラー写真が目を引くシリーズではある)。でも内容はビックリするほど専門的で、これに近い内容を読んだのは多分雑誌「ザ・マーチ」や「軍事研究」とかそんな辺りしかないと思う。かなり貴重なのでは。
ただ書評を見ると(この手の本の常だが)疑いつつ読む必要はありそう。とは言え最新鋭のF-35での航空管制の変化や空中待機誘導の方式等、仲々他では読めない話は多い。でも流石にそういうのばかりではつらいからか…本書後半では普通に(多分著者も専門じゃない)戦闘機の種類の紹介なんかしてた。
2023.03.17
「ドッグファイトの科学 / 知られざる空中戦闘機動の秘密」赤塚聡著

読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2012年発表。
戦闘機同士が行う空中戦。特に互いの立場を入れ換え、敵機の後方から射撃機会を伺う「ドッグファイト」は、操縦者の高い技術や力量を必要とする。本書は現代におけるドッグファイトを、機動や装備の面から解説する…という内容。
ハイ/ローヨーヨーやシザーズ運動等、空戦機動を一通り紹介しており、図版と共に判りやすい本。自分は一応知識としてはあったけど…エースコンバットをやっても、旋回だけしてれば大体どうにかなるから(インメルマンすら)使った事ないな。ゲームはTV画面しか視界がないので、機体の平行すらよく判らんし。
とは言え本書では機体の持つ位置エネルギー・運動エネルギー等の概念面を、基本から説明してくれるのに加えて、アクロバット機動やミサイル等が一通り載っているので、楽しく読めるんじゃないかな。特にHOTAS概念による操縦桿・スロットルレバーの操作ボタン類の解説は、結構類書にはないかもしれない。
2023.03.15
「ファイター・パイロット」フランク・J・オブライエン著、土屋哲朗、光藤亘訳

読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1986年発表。
ミサイルや機関砲で武装し、強力なジェットエンジンで音速を超えて大空を駆ける戦闘機。本書は「ファイター・パイロット」である著者のベトナム戦争での体験を軸に、戦闘機の運用から将来への展望までを解説していく…という内容。
著者は空軍の所属で、乗機はやはり「F-4ファントム」。装備で20oバルカン砲を挙げているので、型式はおそらくE。…本書でもやはり爆撃に関する解説が中心だが、戦術航法装置=TACAN等の誘導設備。特に前線航空管制=FACの重要性を特記している辺りなど、専門的ながら説得力があって大変興味深い。
一応空中戦に関する解説もあるのだけれど…どうした事かあまり文章に熱を感じない。内容が空中機動どうのじゃなく、AWACSによる誘導を踏まえた空戦だからかという気も。古い本ではあるが実体験部分が素晴らしいのに対して、そうじゃない辺りは単に「古い本」になっちゃってるのは(仕方ないけど)少々残念。
2023.03.14
「ベトナム空戦史(原題:Phantom over Vietnam)」J・トロッティ著、井上寿郎訳

読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1984年発表。
1966年、米軍が参戦中のベトナム。著者は海兵隊航空群の戦闘・攻撃隊に所属するパイロットとして、日夜現地上空を飛行していた。主な任務は地上への爆撃だが、その遂行には高度な技術と多大な困難が必要とされ…という内容。
邦題には「空戦史」とあるけれど、包括的な内容ではなく体験談なのに加え、戦闘機同士の空戦の様な話は出てこない。いい加減なもんだが…原題にある通り、著者が乗るのは「F-4ファントム」戦闘爆撃機。本書は同機をまるで尼のカスタマーレビューの様に、実際に用いる人の視点で詳細に解説してるのが見所。
だから世傑等の本では知りえない、「使い勝手」まで綿密に語っているのはすごい。全ファントム好き必読。…ただ逆に機体解説面では判らない点も多い(海兵隊所属で時期的なところからすると、多分B型?)。加えて著者がインテリなので、戦争とは少々違う方面の苦悩を述懐してる辺り、共感面で可否はありそう。
2023.03.12
バリバリ伝説
観てみた、鳥海永行監督によるアニメーション映画。1987年公開。
バイクで峠を攻める高校生・グンは、ある日同年代のライダーとの競走で手痛い敗北を喫する。その相手の名はヒデヨシ、なんとグンの高校への転入生だったのだ。常にいがみ合う2人だったが、同級生・美由紀が運営するチームのメンバーとして、鈴鹿4時間耐久バイクレースに参加する事となって…という内容。
原作はしげの秀一の漫画。前年に前後編で発売されたOVAを、再編集した劇場版となっている。荻野目洋子が歩惟役で出演し、主題歌も担当しているけど…ある意味原作初期のノリには合っているかもしれん(いいとは言っていない)。
で盛大にネタバレしとくと、本作で描かれるのは秀吉の死まで。原作自体それ以降何やってるか知ってる人少なそうだし、妥当な所か(自分の場合はWGP編の内容に印象が上書きされてた)。それよりネタバレすると、峠バトル中に「かめっ!」って叫んでない! …うーん、ギャグっぽくなりそうだし仕方ないのかな。
バイクで峠を攻める高校生・グンは、ある日同年代のライダーとの競走で手痛い敗北を喫する。その相手の名はヒデヨシ、なんとグンの高校への転入生だったのだ。常にいがみ合う2人だったが、同級生・美由紀が運営するチームのメンバーとして、鈴鹿4時間耐久バイクレースに参加する事となって…という内容。
原作はしげの秀一の漫画。前年に前後編で発売されたOVAを、再編集した劇場版となっている。荻野目洋子が歩惟役で出演し、主題歌も担当しているけど…ある意味原作初期のノリには合っているかもしれん(いいとは言っていない)。
で盛大にネタバレしとくと、本作で描かれるのは秀吉の死まで。原作自体それ以降何やってるか知ってる人少なそうだし、妥当な所か(自分の場合はWGP編の内容に印象が上書きされてた)。それよりネタバレすると、峠バトル中に「かめっ!」って叫んでない! …うーん、ギャグっぽくなりそうだし仕方ないのかな。
2023.03.11
「日本探偵小説全集1 / 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎集」黒岩涙香、小酒井不木、甲賀三郎著

読んでみた、日本人作家による推理小説アンソロジー。1984年発表。
日本で初の探偵小説となる「無残」(1889年)を執筆した「黒岩涙香」をはじめとして、医学者ならではの専門的知見を最初に採り入れた「小酒井不木」。本格・変格という日本独自の概念を提唱した「甲賀三郎」と、日本推理小説初期の作家による画期的な代表作を数々集めた、シリーズの第1巻が本書…という内容。
最近気付いたのだけれど、自分の場合推理小説は古ければ古いだけ好きだな。じゃあ世界最高のミステリは「モルグ街の殺人」や「無残」か…と言ってしまっても、そう的外れではない気が。本書に収録された作品はどれも面白いね。
涙香は翻案中心で独自作は「無残」がほぼ唯一なのは残念だけど、小酒井も甲賀も現在の推理小説と遜色無い作品なのはすごい。ただ本書は殆ど短編で、長編は甲賀の「支倉事件」だけ。これがミステリと言うよりはむしろ実録犯罪小説なのだが…何だか大正のロス疑惑みたいな話で、それはそれでビックリ。