2024.04.24

「故郷から10000光年」ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア著、伊藤典夫訳

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読んでみた、アメリカ人作家によるSF短編小説集。1973年発表。

本書は著者が「ティプトリー・ジュニア」名義でSFを発表する様になった、初期の短編を集めた作品集である。ハリイ・ハリスンが「彼女」を見い出した経緯を、回想した序文を寄せている。本書タイトルの由来となった短編、「マザー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」を始めとする、全15編を収録…という内容。

本書の白眉は「故郷へ歩いた男」。異様な状況設定と抒情的で感傷的な作風が、見事な時間SFとして結晶している。ただその代わりに他は、「起」もなしに「承」が始まって「転」も「結」もなしに「承」だけで終わる印象の作品ばかり。これは未熟だからなのか?…まあ「たったひとつ〜」では、そんな印象なかったしな。

でも本書は著者自身の体験が反映しているという述懐を元に、「悲劇的な最期」から振り返ると、案外すんなりと納得できてしまう感じはある。…ただ常に追い詰められているかの様な切迫感は、作家本来の持ち味でもあるんだろうけど。
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2024.04.23

「Afrique victime」MDOU MOCTAR

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聴いてみた、ニジェールのサイケデリック・ギタリスト。2021年発表。

「エムドゥ・モクター」は1980年代、ニジェールの遊牧民であるトゥアレグ族の子として誕生。同地の音楽家の影響から(周囲から反対されつつも)ギタリストを目指し、2008年には最初の作品「Anar」を制作した。その後はリリースを重ねるごとに広い聴衆を獲得し、現在はワールドワイドの演奏活動を行っている。

トゥアレグ族の民族サイケは以前にも紹介したけど、要するにあんな感じ。ただ本作はSublime Frequenciesの実況録音作と違って、スタジオでの収録。それから打楽器にドラムを使っており、かなり西洋音楽的というか普通っぽいので…北アフリカサイケを最初に聴いた時の衝撃というのは、流石に感じられない。

逆に言えば、それだけ取っつきやすいんじゃないかな。興味深いのは本作をリリースしたのがMatador Records…Sonic YouthやPavement等を擁した、オルタナ系インディーロックの総本山から出ているのは、実際面白いと思う。
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2024.04.21

「グリンプス」ルイス・シャイナー著、小川隆訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編SF/ファンタジー小説。1993年発表。

長年の不和の後に父親を事故で亡くした、ステレオ修理業を営むレイ。彼はある日、敬愛するロックバンドの存在しない楽曲を再現する能力に気付く。そして彼は「幻のアルバム」を世に出す為に、苦闘を始めたのだが…という内容。

そのアルバムというのが、Beach BoysやDoorsにJimi Hendrixの作品だというのだから、まさにロックファンの夢が叶う作品だろう…刊行当時は。今やSmileもFirst Rays〜も、オフィシャルリリースされているのだから時は無常に流れた。それでも本作の着想の見事さは、いささかも損なわれていないのでは。

それより問題なのは…本作が途中から、精神科のカウンセリングみたいになっちゃう辺り。主人公と周囲との軋轢・葛藤が大きく採り上げられており、別に辛気臭い方のウディ・アレン作品みたいなのが読みたい訳じゃないんだがって。元々別個に構想していた2冊の本を、合体させたそうで…どうしたもんだろ、これ。
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2024.04.20

「Millions of dead cops」M.D.C.

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聴いてみた、アメリカのハードコアパンク・バンド。1982年発表。

「MDC」は1979年のテキサス州で、The Stainsの名前で結成。その後拠点をサンフランシスコに移し、バンド名も現在のものに改められた。1982年には、本作である1stアルバムを自主制作。初期の米国ハードコアを先導する存在として活動するも、一時解散。2000年には再結成され、現在も活動中だとの事。

1982年にこの音は相当すごい。彼らが影響を受けた存在として、Black FlagとDOAを挙げていて成程。先日見たドキュメンタリーで、その両バンドの全国ツアーでジャンルの裾野が広がった、という話の証明みたいな存在なんだな。

加えて野太いボーカルを始め、(UKと違う)USならではのハードコアの方向性が明確に示されている。一方でカントリーっぽい曲も収録されているのがユニーク…Jello BiafraのレーベルAlternative Tentaclesが、再発の際協力していると聞いて納得。歌詞も社会派だそうだけど…その辺は残念ながら判らんね。
posted by ぬきやまがいせい at 23:40 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽

2024.04.19

「Fuck religion, fuck politics, fuck the lot of you!」CHAOTIC DISCHORD

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聴いてみた、イギリスのハードコアパンク・バンド。1983年発表。

「ケイオティック・ディスコード」はDave Bateman、Shane Baldwin、Ampex、Aphrodite、Ransidというメンバーで1982年に結成された。のだが、実はほぼVice Squadのメンバー(Ransidは同バンドのローディ)で、ちょっとした冗談として誕生したとの事。その為長年、正体不明の存在と考えられていた。

Riot City Recordsよりの1stアルバムが本作。日本でも「失望」という邦題でリリースされ、当時最先端だったChaos U.K.やDisorderとも同格のノイズコア・グループとして人気を集めた。…今回入手したのは、Westworld Recordingsより2016年に再発されたもので、15曲もボーナストラックが加えられた。

何しろ冗談からコマという存在だからか、初期パンク的なユーモアというか「ナゲヤリ感」があってカッコいい。そういう辺り、Gai〜Swankey'sのルーツ的な感じもあるけれど、どうなのかな(…映画だと、名前は挙がってなかったな)。
posted by ぬきやまがいせい at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽

2024.04.17

「人類と病 / 国際政治から見る感染症と健康格差」詫摩佳代著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2020年発表。

人類すべてが乗り越えるべき大きな課題が、あらゆる「病」の克服である。本書では新型コロナを始め、ペストやエイズ等の感染症。更に近年先進国で問題となった生活習慣病等、国際的な取り組みの歴史を解説する…という内容。

本書の執筆を始めたのは2015年からとの事だが、実際に刊行されたのは「コロナ禍」が社会問題と化した2020年4月。実に象徴的なタイミングながら、本書は目先のトピックばかりに囚われている訳ではなく、人類と病との戦いをこれまでの歴史から振り返り、今後の課題を提示する包括的内容となっている。

興味深いのは劇的とも言える天然痘の撲滅等だけではなく、身近な生活習慣病が同列な問題として並置される辺り。国際間・企業間の利害や、個人的嗜好の尊重にその逆の貧困等…一筋縄ではいかない困難からは、コロナが一段落した様に見える今であっても、戦いにはまだ終わりが見えないのだなあ、と。
posted by ぬきやまがいせい at 21:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2024.04.16

「アヴァン 1958-1967」ヴェルヴェット・アンダーグラウンド

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聴いてみた、アメリカのロックバンドのレア音源集。2019年発表。

2002年。ニューヨークの露天市で発見されたアセテート盤の内容とは、「The Velvet Underground」1stアルバムの別バージョンを収録したものだった。本作は1966年に制作された「Scepter Sessions」を中心に、同バンドの初期デモや関連セッション等、レア音源を集めたコンピレーション…という内容。

NYの露店すごいな!…というアルバム。曲自体はこの時点で、ほぼ完成している(Europian Sonのガシャーン!とか)のが興味深い。まあ本作を聴くのは余程のマニアだと思うから、多少?の音質の悪さ位大して気にならないのでは。

個人的にはそれより、初期ジャムセッションというのに惹かれたんだけど…アヴァンギャルドな感じ(ESPオムニバスみたいな)を期待したら、全然違った。とは言えルーが仕事で手掛けたR&R曲とか、わざわざ聴かない様なのも入っていて面白い。特にNicoの初期シングルは、前々から聴きたかったので嬉しい。
posted by ぬきやまがいせい at 23:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽

2024.04.15

「戦後世界経済史 / 自由と平等の視点から」猪木武徳著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2009年発表。

第二次大戦後の復興から始まって、石油危機にソ連崩壊、グローバリゼーションといった激動の時代を過ごした「世界経済」。本書では、主要先進国に留まらず周辺諸国の動向も含めて、包括的に戦後経済を解説する…という内容。

とにかく幅広く、包括的な話題を採り上げているのが特長。相応に分厚い新書本ながら、よくここまで簡潔にまとめ上げたものだと。まあ読んだ感じは解説されたと言うより「並べられた」という印象だが…著者も冒頭のはしがきで「粗い地図」を描いたと記しているので、概観した「眺め」そのものが肝要なのだろう。

とは言え、自分も同時代を過ごした様なトピック(日米経済摩擦とか)など、今となってはあれって何だったんだろうな、という気分になった。そうした個人史的な感懐に触れる一方で、殆ど馴染みのない国々の経済動向もまた存在する訳で。そうした本だからか、世界の「多様性」に思いを馳せたり、馳せなかったり…
posted by ぬきやまがいせい at 16:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2024.04.13

津軽のカマリ

観てみた、大西功一監督によるドキュメンタリー映画。2018年公開。

1910年の青森で誕生した「高橋竹山」。幼くして視力を失い、盲目の彼は生きる為に三味線を手にした。やがてその活動は全国的に知られる事となり、彼は津軽三味線の第一人者として評価されるまでに至った。本作はインタビューや演奏風景、彼の親族や弟子たちの証言から、竹山の生涯を追う…という内容。

ハンディキャップに加えて、貧困と差別を耐え抜く事で得られたのが竹山の芸。さらに東北の厳しい風土に、戦争や災害と言った時代の困難を超えた、彼の言葉や演奏には重みがある。…ただ初代竹山だけではなくそうした幅広い話題を(説明として以上に)扱っており、話があっちこっちするのが映画としてはちと。

演奏自体を見るのなら、初代よりも二代目竹山の方が印象的だったくらいかも。とは言え自分にも津軽三味線の魅力の、一端程度はわかった様な…個人的に三味線なら浄瑠璃がアヴァンギャルドで好きだけど、こちらもいいもんだね。
posted by ぬきやまがいせい at 23:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2024.04.12

BLUE GIANT

観てみた、立川譲監督によるアニメーション映画。2023年公開。

仙台で独りサックスの練習に打ち込んで来た高校生、宮本大。彼は卒業を機に、世界一のプレイヤーを目指し東京へとやって来た。そして華麗な演奏をするピアニスト・沢辺雪祈と、全くの素人であるドラマー・玉田俊二と共に、バンド「JASS」を結成。名門ジャズクラブ出演を目標に、奮闘するのだが…という内容。

原作は石塚真一と、NUMBER8(本作で脚本も担当)による漫画。現在でも連載中の作品だが、導入部の仙台編をダイジェストとし、東京編を中心にした構成となっている。その為2時間の映画としては、少々強引な面もある様だが…

その代わりか尺は演奏シーンに割いており、それが大変に見応えある。音楽の出来に確信がないとこんな構成は取れないだろうけど、映像も負けていない。大胆なカメラアングルや移動に、様々な手描き技術等を駆使し千変万化するアニメジャズ空間は夢幻の心地(CGの違和感だってその一部ではないかと)。
posted by ぬきやまがいせい at 19:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | アニメ