2021.09.30

「狼たちの曠野」高千穂遥著

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読んでみた、日本人作家による長編SF小説。1981年発表。

一面の「曠野」を縦横にハイウェイが走る世界。武装バイカー集団が農村を襲う中、不手際で殺人を犯したアキラは「ゾク」から追われる事に。やがてロコフを始めとする仲間を得て、彼自身がゾクのアタマとなるのだが…という内容。

1979年公開の「マッドマックス」からの影響が指摘される本作だが、バイクが世界の中心となった奇妙な神話的空間は独特(これは第4作に先駆けた?)。そうしたナンセンスな感覚とバイオレンスな描写は、むしろ個人的にはハーラン・エリスンを連想させられた。…まあお話自体は「七人の侍」っぽくなるんだけど。

本書は何より大友克洋による、カバー画が超かっこいい。グループ名を(バイクのプレートにも)「FIRE-BALL」としたのは、著者の茶目っ気なのかなとは思うけれど、主人公の名前「アキラ」はただの偶然かな…連載開始は翌年だし。それにしても近年自転車のイメージが強い著者なのに、超面白いバイク小説だ。
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2021.09.29

戦争と人間

観てみた、山本薩夫監督映画。1970年、1971年、1973年公開。

昭和初頭。緊張高まる満州情勢を背景に、新興財閥伍代家では当主由介を始めとする人々が、それぞれの立場から歴史の激動に巻き込まれていく。張作霖爆殺事件からノモンハンまで、戦争は人間の運命を飲み込んで…という内容。

五味川純平の小説を原作とする本シリーズ。「第一部 運命の序曲」「第二部 愛と悲しみの山河」「第三部 完結篇」と順次公開され大ヒットしたものの、本来四部作の予定が製作会社・日活の経営悪化により(完結篇と銘打ってはいるけど)途中終了となってしまった。まあそれだけスケールのある作品なのは確か。

完走していたら恐らく、12時間オーバーになっていたんだろうな(現状でも9時間半弱)。当時の日活オールスター登場もすごいけれど、特に第三部での「ノモンハン事件」再現がすごい。ソ連軍協力による一大スペクタクルは、確かに一見の価値あり。ただ戦争映画としては、第三部が殊更陰惨で説教臭いのだが…
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2021.09.27

「ファンタスティックコレクション No.8 / SFイラストの世界 スタジオぬえのすべて」朝日ソノラマ刊

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読んでみた、日本の出版社によるビジュアル・ムック。1978年発表。

松崎健一を中心に集まったSFファンの団体が、会社組織へと発展し1974年に誕生したのが「スタジオぬえ」。本書は宮武一貴、加藤直之らが手掛けたロボット内部図解や挿絵を始めとする「SFイラスト」を集めたムック…という内容。

誕生からわずか4年後だけあって、極初期の活動が記録された貴重な本。応援コラムを寄せた野田昌宏が「10年早い」と言う通り、本書にはまだ後に参加した、河森正治や佐藤道明といったメンバーの名前は見えない。まあ河森の略歴を見ると78年に入社とあるが…それ以前からバイトとして仕事はしていた(ブルーバックスの挿絵だって)とは言え、まだ正式には認められてなかったって事かね。

しかしこの頃はよほど売りになっていたのか、メカの「内部図解」がてんこ盛りだなあ。記事はどれも興味深いけど…メンバー紹介のページが一番すごいかも。今や大御所な彼らの、コワモテイメージとは真逆な一面を知る事が出来る。
posted by ぬきやまがいせい at 21:02 | Comment(0) | 読書

2021.09.26

「SF画家 加藤直之 / 美女・メカ・パワードスーツ」加藤直之著

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読んでみた、日本人著者による画集/解説書。2006年発表。

日本におけるSFアートの第一人者として、長年活躍して来た「加藤直之」。本書は彼のイラスト制作を段階を追って紹介し、また近年商品化が活発な「パワードスーツ」に関しては、その成立や思考の過程から解明していく…という内容。

つまり本書は単なる画集ではなく、著者が自身の来歴を振り返るビジュアル・エッセイ集とでも呼ぶべきもの。なので版型がA5サイズ、収録イラストが小さいという点は少々残念だが、後書での説明を読めば成程となるんじゃないかな。

で興味深いのは副題にもある「パワードスーツ」。小説「宇宙の戦士」で著者がイラストを担当した事で有名だが、実はデザイナーの宮武一貴との分業ではなく「合作」だったんだな(加藤の原稿に宮武が直接描き入れる方式)。つまり宮武単独のデザイン画が存在しない…それに相当するのは後日描かれた「五面図」だろうけれど、なぜかそれは宮武自身の本じゃなく本書に収録されていたという。

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2021.09.24

「宮武一貴デザイン集」宮武一貴著

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読んでみた、日本人著者による画集/ムック。2007年発表。

日本におけるSFアートや、アニメ・実写映像作品でのメカ・デザインといった場で、長年第一線で活躍して来た重鎮「宮武一貴」。本書は彼が手掛けた代表的なデザインや、カラーイラスト類を収録したミニ画集となっている…という内容。

著者の代表作は…まあ色々ありすぎるけど、個人的には小説「宇宙の戦士」のパワードスーツだろうか。ただ本書に関しては「さよならジュピター」や「ダンバイン」といった映像作品が中心の為か、残念ながら掲載されていない(代わりに?OVA版パワードスーツは収録)。とは言えそれ以外もすごい作品ばかりだなあ。

ただ版型が小さい(A5)上に薄い本なので、ボリュームの面で少々物足りない気が。…でも著者の作品を大雑把におさらい出来るという意味では、悪くない内容かもしれない。「エンジェルリンクス」「エウレカセブン」といった作品での優れた仕事などは、自分が知らなかったせいもあって興味深く読めた事もあるし。

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posted by ぬきやまがいせい at 23:49 | Comment(0) | 読書

2021.09.23

「河森正治 / ビジョンクリエイターの視点」河森正治著

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読んでみた、日本人映像作家のムック/解説書。2013年発表。

「マクロス」シリーズ等で画期的なメカデザインを世に送り出す一方、多くのアニメーションで監督を手掛ける「河森正治」。本書はデザイン・映像制作に携わる様になった経緯から、彼の思想的背景を自らが語っていく…という内容。

学生時代から現在も続く交遊や、当時影響を受けた様々なもの。加えて自身の思想を形作ったアジア辺境を始めとする世界遍歴の模様等と、著者本人の言葉で語られていくのが興味深い。更にこれまで関わった作品の裏話(舞夢制作中止の真相とか)が楽しいのだが…なんだろう、全然共感できないんだよなあ。

まあ多分ご本人が想像以上にエキセントリックすぎて、自分じゃついてけないって感じたのかも(代わりに著者を語る関係者のコメントや、パイロット他との対談の方が面白く読めた)。とは言え「天才」が成し遂げた、創作に関する秘密の一端が窺えるのだから、ファンや興味のある人には必読の一冊だろう。チュカラ!
posted by ぬきやまがいせい at 22:24 | Comment(0) | 読書

2021.09.21

ポゼッション

観てみた、アンジェイ・ズラウスキー監督映画。1981年公開。

マルクは単身赴任で一人息子と共に自宅に残した妻・アンナが、彼の留守中に浮気をしていた事を知る。マルクは探偵を雇って家を出た妻の素行調査により、浮気相手を突き止めるのだが、その男もまた多くは知らない様子だった。アンナはどうやら狂気と共に、不可解な「何か」に取り憑かれており…という内容。

外国映画女優で言うと、イザベル・アジャーニのような妻(というか本人)が異常性癖の持ち主だったので、超法規的措置を取る作品。いやちょっと違うけどもまあそんな感じ。…アジャーニが「ピノキオ√964」みたいに吐瀉物まみれ、タガの外れた狂乱の演技を見せて、カンヌ映画祭では主演女優賞を獲得している。

浮気妻と夫(ジュラシックパークのグラント博士ことサム・ニール)の言い争いシーンなんかはカサヴェテス風だったのに、いつの間にかサイコ・サスペンスからモンスター映画へと変貌していく怪作。…よし!、見なかったことにしよう。
posted by ぬきやまがいせい at 22:41 | Comment(2) | 映画

2021.09.20

ドクター・スリープ

観てみた、マイク・フラナガン監督映画。2019年公開。

あの惨劇から数十年後。成長したダニーはその能力から、「ドクター・スリープ」と呼ばれる様になっていた。一方不老の者達による謎の集団が、少年少女に対する儀式殺人を起こしていた。それを感知した少女・アブラは、ダニーと共にその集団と対決する事に。彼らは再び呪われたホテルに向かい…という内容。

原作はスティーヴン・キングによる「シャイニング」の続編小説。作者はキューブリック監督による映画版に対して批判的だった様だが、映画化された本作はそちらからの要素も採り入れている。ただテイスト自体は結構違っており、どちらかと言うと…「死霊伝説」の続編とでも言われた方がシックリ来る感じだな。

血じゃなくて煙を吸う「吸煙鬼」みたいな連中を退治して回る話になっていて、あれシャイニングってこんなんだっけって。後半ホテルが舞台になるとようやくそれっぽい雰囲気になるけれど。まあ…いつものキング原作の映画ですわ、これ。
posted by ぬきやまがいせい at 22:54 | Comment(0) | 映画

2021.09.18

「映像の原則 / ビギナーからプロまでのコンテ主義」富野由悠季著

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読んでみた、日本人著者による映像製作入門書/指南書。2002年発表。

「機動戦士ガンダム」をはじめ、長年映像の制作に携わって来たアニメーション映画監督「富野由悠季」。本書は彼が重視する「コンテ主義」を中心に、映像作品を成立させる上で「原則」となる様々な要素を解説していく…という内容。

大変に面白い一冊。まあ著者の書く文章はある種「独特」な為、そこが批判を受ける様なのだが…以前紹介したニルセンの本なんかに較べたら、遥かに判りやすいよ!(いや著者の小説の文章がアレなのは自分も否定しないけれど、いつもそこだけ突っつけばいいと考えるのは、単なる思考停止で感心しないな)。

読みにくかったら他の入門書で勉強して、再び取り組んでもいい位の内容だと個人的には思うし。「上手・下手」「イマジナリィライン」等まさに原則である大前提から、著者の現場であるアニメ業界に対する懸念や提言等と興味深い。喝!と振りかざしつつ自身に向けた、自嘲的なユーモア交じりなのも著者らしい。
posted by ぬきやまがいせい at 16:37 | Comment(0) | 読書

2021.09.17

彼らは生きていた

観てみた、P・ジャクソン監督によるドキュメンタリー映画。2018年公開。

1914年からの4年間イギリスを始めとする連合国軍と、ドイツら同盟国軍の間で行われた「第一次世界大戦」。特に西部戦線における塹壕戦では、毒ガスや戦車の投入といった凄絶な戦闘が繰り広げられた。本作は帝国戦争博物館所蔵の資料を基に、同戦争における英国の若者達の姿を再現する…という内容。

本作では戦闘に参加した兵士達から聴き取ったインタビュー音源を始め、基本的に当時の素材から再構成したものだが…フィルムはデジタル修復の上白黒からカラーに着色され、加えて無声映像から「読唇」して新たな音声を付け加えたもの。これらの作業を積み重ねる事により、驚く様な臨場感が生まれている。

より凄惨さや生々しさを増し、ダイレクトになった描写は確かにショッキングだが…でもまあ作品に対する印象自体は、「映像の世紀」のデラックス版という感じじゃないかな。とは言え成る程、努力の甲斐のあった作品だと思えるのでは。
posted by ぬきやまがいせい at 20:49 | Comment(0) | 映画

2021.09.15

「映画道楽」鈴木敏夫著

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読んでみた、日本人著者によるエッセイ集。2005年発表。

スタジオ・ジブリのプロデューサーとして、数多くのアニメーション映画を手掛けて来たのが、著者である「鈴木敏夫」。本書は彼が幼少期から愛好して来た映画から、自身製作に関与した映画の裏事情までを語っていく…という内容。

本書は鈴木が書いた(語り起こし)初めての著書。今回読んだ2012年刊行の角川文庫版には、加筆修正と共にその後観た映画をあれこれ語った、長文のあとがきが付されている。…まあ内容自体は上記した通りだけど、流石に宮崎・高畑とも渡り合ってきたアニメ界の巨人だけに、鋭い視点や面白い逸話が満載。

その後も色々と本は出版している様だけれど、初めての本だけに目一杯ネタを引き出したそうで。著者のアニメとの関りや趣味・嗜好が知りたかったら、割と本書だけでもよさそうな。また著者自身が予告編用等に描いた、コンテ類も掲載されているのだが…なんでか書き文字や絵が宮崎駿風で、上手なのが面白い。
posted by ぬきやまがいせい at 15:51 | Comment(0) | 読書

2021.09.14

「イラストレーターの仕事 アニメーターの仕事」わたせせいぞう、大塚康生著

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読んでみた、日本人著者による入門書/指南書。1992年発表。

「ハートカクテル」で知られる漫画家/イラストレーター「わたせせいぞう」、「ルパン三世」キャラデザイン等で知られるアニメーター「大塚康生」。共に業界の第一線で活動して来た2人が、志望者に向けて書いたのが本書…という内容。

不思議な取り合わせ…ただ本書は上記2人の共著ではあるものの、合作ではない。前半にわたせ・後半が大塚という風に、それぞれ自身の分野に関する話を書いた文章を、合体させてしまった本。とは言え両者ともかなり実践的なので興味深いのだが…わたせのバブリーな内容には、ぶっちゃけ目眩がして来た。

大塚の方は後進育成に熱心だったという評判通り、アニメーター志望者には参考になりそうなお話。と共に現在の日本アニメ業界における「作画監督」制の特異さに関する解説に、紙幅が多く割かれているのが面白い。…合理性追求から生まれた作業方式だが、それだけで割り切るべきでない問題もあるのだなと。
posted by ぬきやまがいせい at 16:10 | Comment(0) | 読書

2021.09.12

「風の帰る場所 / ナウシカから千尋までの軌跡」宮崎駿著

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読んでみた、日本人映画監督のインタビュー集。2002年発表。

音楽評論家・渋谷陽一が、アニメ監督「宮崎駿」に行ったインタビューをまとめたものが本書。ロッキング・オン社の雑誌に掲載された、1990年から2001年にかけての長期取材から、映像/漫画作家・宮崎を解明していく…という内容。

面白そうな取り合わせだと思うじゃん? でも渋谷が得意分野であるロックの話をしても、宮崎が乗って来ないので正直空振り。「渋宮対談」とはいかなかったな。その後はほぼ一方的に、宮崎の話を聞いている感じだったけれど…(他の取材者が避けそうな)彼の思想面にまで触れているのは、仲々お手柄だと思う。

なので内容的には、結構抽象的な話が中心になっているのも確か。とは言え順を追って作品制作における創造の変転や、エピソードが聞けるだけで個人的には楽しい。…本書も刊行から結構な時間が過ぎた訳だが、その後の宮崎の動向に関する「答え合わせ」としても面白い。あれはこういう事だったのかって。
posted by ぬきやまがいせい at 19:05 | Comment(0) | 読書

2021.09.11

「タイム・シップ」スティーヴン・バクスター著、中原尚哉訳

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読んでみた、イギリス人作家による長編SF小説。1995年発表。

80万年後から戻った「時間航行家」は、再びタイム・マシンで未来へと旅立つ。ところが歴史は最初に見た流れから、大きく変貌していた。彼は未来人「モーロック」のネボジプフェルと共に、悠久の時空間を彷徨うのだが…という内容。

H・G・ウェルズ作「タイム・マシン」の100周年に刊行された、遺族公認の続編。ぶったまげる位面白いので、取り敢えず読んで。(…まあこれで終わらせてもいいんだけど)本書は続編として原典に対する最大の敬意と共に、その後の量子論や宇宙論といった最新科学を採り入れた、最高のハードSFとなっている。

時間航行家が19世紀人という辺り現代のSFとして独特の味を醸し出しているのだが、遠大で壮大な人間のスケールを超えた宇宙史的なビジョンに圧倒される一方で、本書の語り手を介したあくまでも「人間的」な眼差しに感動する。これは原典著者・ウェルズの作家性/人間性に向けた、敬愛の顕れでもあるだろう。
posted by ぬきやまがいせい at 15:59 | Comment(0) | 読書

2021.09.09

「映画を作りながら考えたこと」高畑勲著

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読んでみた、日本人著者による文筆集。1991年発表。

「アルプスの少女ハイジ」や「火垂るの墓」を始めとするアニメ作品で知られる、映画監督「高畑勲」。本書は彼が学生時代に執筆した映画評論から、自作や同僚について綴った文章や、インタビュー等の記事を集めたもの…という内容。

作品としては1968年の「太陽の王子 ホルスの大冒険」から、1991年の「おもひでぽろぽろ」までが時系列順に並んでいる。なぜかハイジが洩れているのだが、単純に特に書き残していなかっただけっぽい(後年書いたものは次巻に収録)。エピソードや彼の思索の流れが判り、興味深く読める内容となっている。

ただ著者の文章はユーモアに欠け、常に身構えた「余所行き」感から今一つ内面が窺えないのだが…そういう意味では学生ファン相手に(比較的)フランクに語っている、赤毛のアン・インタビューが面白い。一言でいうと「知識の圧力」だな。アニメ界における数々の論客が、著者にはタジタジというのにも納得だ。

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posted by ぬきやまがいせい at 20:52 | Comment(0) | 読書

2021.09.08

「重力の影」ジョン・クレイマー著、小隅黎、小木曽絢子訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編SF小説。1989年発表。

ワシントン大学の研究室で物理実験中のデイヴィッドとヴィクトリアは、実験機器がまるごと「影の世界」に消失するという現象に遭遇する。画期的な発見に関係者が色めき立つ中、その研究を奪おうとする陰謀が進行し…という内容。

現役物理学者が自身の大学を舞台に描く、「超ひも理論」を題材にしたハードSF。と聞くと身構えてしまうけれど、本作は(邦題の印象とは違って)割と小品という感じ。でも劇中童話が象徴する世界設定の多重構造に加え、サスペンスやサバイバルといった様々な要素を組み込んでいる辺り、案外素人離れしている。

なので割と読みやすいとは思うものの、冒頭からの実験機器や理論に関する記述は、専門的でハード。また人物設定や会話内容が、研究現場の空気(そして科学者としての理想)を臨場感と共に伝えてくれて興味深い。…まあ超ひも理論なんか持ち出した割に起きる事自体は、最近流行りの異ナントカ転移だしぃ。
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2021.09.06

「アーヴァタール」ポール・アンダースン著、小隅黎訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編SF小説。1978年発表。

異存在の手で設置された、空間跳躍装置。そのゲートを用いて探索に出ていた、ジョエルの乗る「密使号」が帰還するも、危険視した人々により宇宙船は隔離されてしまう。そんなジョエルを救ったのは、元恋人のダンで…という内容。

その後、宇宙船が迷子になってしまうのは「タウ・ゼロ」と同じ展開で、成る程同じ作者だわと。でもそれに加えて上下二分冊の本書では、男女関係のグダグダが大量投入されている辺りが違うか。ハードSFとして充実した内容なのは間違いないものの、作品の半分くらい割とどうでもいい事が書いてある気がした…

(どうでもいいだけならまだしも、ジョエルが気の毒すぎる)…まあそれは兎も角、本書の基本的構想は「2001年宇宙の旅」を発展させたものという感じがした。ただ展開や結末がかなり俗っぽい方向なので、そこは好み次第だろうな。個人的には「竜の卵」等に先駆けた、アイデアの数々こそ最注目点だと思うけど。
posted by ぬきやまがいせい at 22:16 | Comment(0) | 読書

2021.09.05

ABC・オブ・デス

観てみた。アント・ティンプソン、ティム・リーグ製作映画。2012年公開。

世界15か国より26名の映画監督が大集合。それぞれアルファベットで「A」〜「Z」の頭文字から採ったテーマを元に、5分前後の時間で「死」を描くという本作。ホラーからコメディ、あるいは時代劇からSFアクション。映像表現面としては実写POVから粘土アニメまでと、多岐に渡るオムニバス映画…という内容。

日本からも井口昇、山口雄大、西村喜廣の3名が参加している。でこの人らの作風が顕著なんだけど…本作はどうも参加者皆が直球を避けて、おふざけ方面に舵を切ってしまっているのが残念。まあさすがに5分は短いって事かなあ。

とは言えエログロ汚物下ネタばかりの中で、皆それぞれ工夫を凝らしているのも確か。個人的に気に入ったのはUの「発掘」なのだが…これは吸血鬼の視点から描かれるPOVホラー。比較的正統派の作品である事と共に、予算や制限の多い中では「POV」って本当に有効な手法なんだな、って再確認できたから。
posted by ぬきやまがいせい at 22:49 | Comment(0) | 映画

2021.09.03

マッスル / 踊る稲妻

観てみた。ヴィクラム主演、シャンカール監督映画。2015年公開。

美人モデルのディヤーは結婚式当日、異貌の怪人に誘拐されてしまう。彼女はかつてボディビルダー出身でトップモデルにまで登り詰めた、リンゲーサンと恋人だった。ところがある日彼は忽然と姿を消してしまったのだ。リンゲーサンは芸能活動を行う中で多くの敵を作り、恨みを買ってしまった為…という内容。

「ロボット」と同じ監督によるインド映画。大雑把には芸能界のバックステージ物、という事になるのだろうけれど…「美女と野獣」が出逢って「ノートルダムのせむし男」が暴れる、一大復讐絵巻になってしまうという。…まあ勿論歌や踊りもふんだんなのでエンタメ度は高いものの、かなり際どいネタの作品ではあるな。

「美と醜」という背反するモチーフを描くのに伴い、(特殊メイクによる表現ながら)肉体の変形や毀損にあまり配慮してない描写が。まあそれもある意味インドらしいのかな。…といった訳で好き嫌いは分かれそうだけど、これはこれで。
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2021.09.02

KESARI / ケサリ 21人の勇者たち

観てみた。A・クマール主演、アヌラーグ・シン監督映画。2019年公開。

19世紀末、イギリス植民地時代のインド。誇り高きシク教徒のイシャル・シン軍曹は、英国軍士官に対する反抗的態度から「サラガリ砦」へと左遷されてしまう。ところが閑職の通信基地だったその砦に、アフガニスタンの部族同盟軍が襲撃を掛ける。シン軍曹と共に砦を守るシク兵は、わずかに21名で…という内容。

実際の事件を元にしたという、インドの戦争/歴史映画。史実でもシク教徒の部隊は、悲劇的な最期を迎えた様だが…ただインド映画らしくそういうシリアスな物語の中にも、やっぱり歌や踊りのシーンはあるという。更に派手なアクションに加えて英雄叙事詩的な作風と、疑う余地も無く同国製作の映画って感じだ。

でもそういやインドの戦争物でも、以前紹介した「インパクト・クラッシュ」には歌も踊りもなかったな。それは単に潜水艦の中では、ミュージカル場面は出来ないってだけの事なのか? …判らないけれど、インド映画でも色々あるんだな。
posted by ぬきやまがいせい at 22:47 | Comment(0) | 映画