2021.10.31
「長いお別れ」レイモンド・チャンドラー著、清水俊二訳
読んでみた、アメリカ人作家による長編小説。1953年発表。
私立探偵・マーロウは、妻殺しの嫌疑を掛けられたレノックスの逃亡を手助けした。ところが彼の自殺により、事件は一応の解決を見る。疑惑の晴れないマーロウだが、その後失踪した作家の調査依頼を受ける事に…という内容。
ハードボイルド小説を代表する探偵「フィリップ・マーロウ」を主人公とする、長編シリーズの第6作。チャンドラーの作品としては、最も人気のある作品のひとつでもある。他…は自分の場合「大いなる眠り」しか読んでいないのだが、本書ではマーロウが見せる厚い友情と、そこから訪れる切ない結末に魅力がある。
いやミステリとして見ると謎解きがメインではないので、大体予想通りではあるけど…やはりマーロウのキャラクターがいちいち素晴らしい。こんな皮肉の効いた小洒落た台詞を、自然体で吐ける男になりたい。まあ船戸与一先生がチャンドラー・アンチなので自分もそんなつもりだったものの、やっぱりいいもんだな。
posted by ぬきやまがいせい at 22:20
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2021.10.30
「ロケットボーイズ」ホーマー・ヒッカム・ジュニア著、武者圭子訳
読んでみた、アメリカ人著者による自伝/長編小説。1998年発表。
スプートニク衛星が宇宙まで届いた1957年。炭鉱町・コールウッドの高校生が、サニーを中心にロケット打ち上げを目指して集まった。「ロケットボーイズ」と呼ばれる彼らが、努力を重ねて発射実験を成功させる一方…という内容。
後にNASAの職員となった著者が、青春時代を振り返った自伝的小説。1999年には「遠い空の向こうに」の題で映画化もされた。そちらと比較すると映画は相当シンプルに整理されており、原作である本書は家族や故郷への想いが長々と書き連ねられている。まあそういう辺りも、感動的と言えば感動的なのだが…
ロケットよりもそっちの方に、紙幅が割かれている印象なのでアレ?と。て言うか感動ストーリーと評される割に、悪意や怨恨という現実的対立を避けなかった分、仲々に読んでくたびれた。…でもまあ一応書いておくと、「黒色火薬」→「硝石・砂糖」→「亜鉛末・アルコール」と三段階に進化させた、固体燃料ロケット。
posted by ぬきやまがいせい at 22:03
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2021.10.28
赤ちゃんよ永遠に / SFロボットベイビーポリス
観てみた、マイケル・キャンパス監督映画。1972年公開。
環境破壊による大気汚染で、スモッグが立ち込める近未来の地球。人口増加から食料欠乏が限界に達した為、政府は今後30年間に渡る新生児の出産禁止を発令した。だが代わりに与えられる「ロボットベビー」に満足できないキャロルは、夫のラスにも秘密で妊娠。遂に夫婦は赤子を授かるのだが…という内容。
キャロル役のジェラルディン・チャップリンは、喜劇王チャールズ・チャップリンの実娘。でも本作は喜劇とは程遠いディストピアもので、ジョージ・オーウェル「1984年」やJ・G・バラード「終着の浜辺」等を連想させる、ある意味英国SFの伝統に根差したもの。…大昔にTV放映を途中から見て、ずっと気になっていた。
まあ暗いばっかりで正直陰鬱になる内容なのだが…20世紀の享楽的生活を、反面教師として展示している博物館が面白い。まるでナチスの「退廃芸術展」だなと考えるとゾッとするが、シュールな寸劇になっている辺り一服の清涼剤。
環境破壊による大気汚染で、スモッグが立ち込める近未来の地球。人口増加から食料欠乏が限界に達した為、政府は今後30年間に渡る新生児の出産禁止を発令した。だが代わりに与えられる「ロボットベビー」に満足できないキャロルは、夫のラスにも秘密で妊娠。遂に夫婦は赤子を授かるのだが…という内容。
キャロル役のジェラルディン・チャップリンは、喜劇王チャールズ・チャップリンの実娘。でも本作は喜劇とは程遠いディストピアもので、ジョージ・オーウェル「1984年」やJ・G・バラード「終着の浜辺」等を連想させる、ある意味英国SFの伝統に根差したもの。…大昔にTV放映を途中から見て、ずっと気になっていた。
まあ暗いばっかりで正直陰鬱になる内容なのだが…20世紀の享楽的生活を、反面教師として展示している博物館が面白い。まるでナチスの「退廃芸術展」だなと考えるとゾッとするが、シュールな寸劇になっている辺り一服の清涼剤。
posted by ぬきやまがいせい at 20:44
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2021.10.27
「アマチュア・ロケッティアのための 手作りロケット完全マニュアル」久下洋一著、日本モデルロケット協会監修
読んでみた、日本人著者による科学解説書/指南書。2000年発表。
若年層の学生から趣味のアマチュアまで、自分で設計・製作して打ち上げを目指す「手作りロケット」。本書ではその魅力的な世界を、基礎理論や具体化のための計算式に製造工程。更に教育的側面等と、他項目に渡って解説する。
手作りロケットと聞いて、自分はあさりよしとおの漫画「なつのロケット」がまず浮かんだのだが。でも「モデルロケット」として扱うのは、市販の(黒色火薬を使った)固体燃料エンジンを用いて、高度数百m程度を狙うもの。液体燃料ロケットで軌道投入を成功させた漫画の小学生は、一体どんだけすごいやつらなの…
とは言え本書では高度1609m(マイルハイ)や、音速突破を狙うより強力なロケットも解説しており、想像以上のレベルではある。…内容的には相当具体的な製作ガイドなので、計算式たっぷりに接着の理屈等となかなかに大変(まあ読んでも仕方ない部分は飛ばしたけど)。知らない世界に触れられる充実した本だ。
posted by ぬきやまがいせい at 21:41
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2021.10.25
リバティ・バランスを射った男
観てみた。ジョン・ウェイン主演、ジョン・フォード監督映画。1962年公開。
上院議員・ランスがかつて、駆け出しの弁護士として過ごしたシンボン。彼はその町で「リバティ・バランス」という無法者から、手酷い暴行を受けていた。そんな彼を支えたのがハリーという女性、だが牧場主のトムもまた彼女を愛していた。そんな中リバティが新聞編集長を、半死半生の目に遭わせて…という内容。
ドロシー・M・ジョンソンの小説を原作とする本作は、ウェイン&フォード・コンビによる最後の西部劇映画だとの事。…主役はトム役のウェインなのだけれど、お話の中心はランス役ジェームズ・ステュアート。ウェインはいかにも強そうな、いつものガンマン然として登場するのに活躍は?…という辺りが本作のキモ。
まあ個人的にウェインは、どの作品を見ても何だかいけ好かない印象があるので、本当何で昔の映画ファンには人気あったんだろうと。本作もそういう意味ではまさにそのままなのだが…そういう辺りの逆手に取り方も「キモ」だな。
上院議員・ランスがかつて、駆け出しの弁護士として過ごしたシンボン。彼はその町で「リバティ・バランス」という無法者から、手酷い暴行を受けていた。そんな彼を支えたのがハリーという女性、だが牧場主のトムもまた彼女を愛していた。そんな中リバティが新聞編集長を、半死半生の目に遭わせて…という内容。
ドロシー・M・ジョンソンの小説を原作とする本作は、ウェイン&フォード・コンビによる最後の西部劇映画だとの事。…主役はトム役のウェインなのだけれど、お話の中心はランス役ジェームズ・ステュアート。ウェインはいかにも強そうな、いつものガンマン然として登場するのに活躍は?…という辺りが本作のキモ。
まあ個人的にウェインは、どの作品を見ても何だかいけ好かない印象があるので、本当何で昔の映画ファンには人気あったんだろうと。本作もそういう意味ではまさにそのままなのだが…そういう辺りの逆手に取り方も「キモ」だな。
posted by ぬきやまがいせい at 22:46
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2021.10.23
「ロケット開発[失敗の条件] / 技術と組織の未来像」五代富文、中野不二男著
読んでみた、日本人著者による科学解説書/対談集。2001年発表。
極限領域での技術を試行する「ロケット開発」においては、避けられない確率で「失敗」が発生する。本書は日本のロケット開発に関わる著者が、実際の失敗事例と共に、そこから得た教訓や社会的な影響等に関して提言を行う。
本書では墜落しながらも海底からエンジンを回収して、失敗を失敗に終わらせなかったH-Uの画期的事例を挙げ、ロケット開発の困難とその対処に関して一考を促す。H-UAに代替わりした後も、現在まで高頻度で成功を収め得たのは、そうした経験を踏まえたものとして成る程(口先だけではなかったんだなと)。
本書はお題からしてお役所仕事や報道に向けた、愚痴ばかりになるのは仕方ないんだろうけれど…日本の「謝罪」体質に対する懸念が興味深い。五代の言う安直に謝罪するべきでないという見解は、「プラネテス」のロックスミスが失敗会見で発した、有名な台詞を想起させる。ひょっとしてモデルにした?のかも。
posted by ぬきやまがいせい at 22:01
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2021.10.22
「増補 スペースシャトルの落日」松浦晋也著
読んでみた、日本人著者による科学解説書。2010年発表。
アメリカが1980年代より、宇宙計画の中核とした「スペースシャトル」。本書では同機を「失敗作」と位置付けて、コンセプトや機構的な問題点。更に米国の国内政治との関連から、巨大プロジェクトの破綻を明らかにする…という内容。
本書は2005年に刊行された「〜失われた24年間の真実」の増補文庫版。シャトル自体は2011年に退役したので、今読むと「死体蹴り」みたいに思えたのだが…運用中の本だったんだな。何しろ辛辣に問題点・欠点が指摘される内容で、一方で数々の成果も挙げた事を考えると少々厳しすぎと思わんでもない。
とは言え低コスト・高頻度打ち上げを謳った割には、大きな2度の事故の影響で計画遅延と高額出費を強いられたのも確か。もしアポロロケットの発展型により宇宙開発が行われていたら、と考えると納得せざるを得ない。…まあ今から本書を読むなら「死体蹴り」の為でなく、そこから教訓なりを汲み取るべきだろう。
posted by ぬきやまがいせい at 17:10
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2021.10.20
悪魔の沼
観てみた。ネヴィル・ブランド主演、トビー・フーパー監督映画。1976年公開。
義足の男・ジャッドが経営する「スターライト・ホテル」。敷地内に広がる沼で、彼は巨大なワニを飼育していた。ある日売春宿を追い出されたクララは、辿り着いたホテルでジャッドに殺害される。彼女の死体を沼に放り込んで、ワニの餌にしてしまうジャッド。その後も彼は、ホテルの宿泊客を次々襲って…という内容。
「悪魔のいけにえ」(1974年)より続く、フーパー監督の第2作。ただ前作が奇跡の様な出来栄えだった為か、もっぱら駄作呼ばわりされる事が多い。…本作では全編屋内セットによる撮影にハリボテワニの登場等と、神経を逆撫でする様なリアリティがある前作と較べると、今回はやけにB級っぽくなったのも確か。
でもアルジェントみたいに真っ赤/真っ青の照明(むしろ清順)や、実験的な電子音にラジオのカントリーといった音楽。前衛演劇の舞台を思わせる空間は、怖いよりも異様だ。前作を意識しなかったら、かなりすごいと思ったんだけどな…
義足の男・ジャッドが経営する「スターライト・ホテル」。敷地内に広がる沼で、彼は巨大なワニを飼育していた。ある日売春宿を追い出されたクララは、辿り着いたホテルでジャッドに殺害される。彼女の死体を沼に放り込んで、ワニの餌にしてしまうジャッド。その後も彼は、ホテルの宿泊客を次々襲って…という内容。
「悪魔のいけにえ」(1974年)より続く、フーパー監督の第2作。ただ前作が奇跡の様な出来栄えだった為か、もっぱら駄作呼ばわりされる事が多い。…本作では全編屋内セットによる撮影にハリボテワニの登場等と、神経を逆撫でする様なリアリティがある前作と較べると、今回はやけにB級っぽくなったのも確か。
でもアルジェントみたいに真っ赤/真っ青の照明(むしろ清順)や、実験的な電子音にラジオのカントリーといった音楽。前衛演劇の舞台を思わせる空間は、怖いよりも異様だ。前作を意識しなかったら、かなりすごいと思ったんだけどな…
posted by ぬきやまがいせい at 22:36
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2021.10.19
「宇宙医学・生理学」関口千春他著、宇宙開発事業団編
読んでみた、日本人著者による科学解説書/医学書。1998年発表。
微小重力や0.3気圧に放射線といった、地球外の苛烈な環境に晒される宇宙での活動。本書はそうした飛行士の身に起きる器質的・心理的反応の医学的知見に加え、宇宙船や宇宙開発における設備等を解説する…という内容。
日本は直接には有人での宇宙開発をして来た訳ではないので、随分とニッチな本が出ているなと思ったのだが…NASAでのミッションや(本書刊行時には実現前の)ISSへの参加を見越したものと思われる。この分野に限らず自分は、専門書というのを殆ど読まないので結構手こずったものの、大変面白く読めた。
骨量・筋肉の減少に宇宙酔いといった、宇宙飛行士に関する肉体的現象を詳しく知る事が出来るのは興味深い。特にアポロ計画で飛行士達が月面に到着した際、不可解な「閃光」を体験したという謎が「宇宙からの帰還」にもあったけれど…それに関しては「宇宙放射線」を原因とする見解が載っており、へえと。
posted by ぬきやまがいせい at 21:28
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2021.10.17
F2グランプリ
観てみた。中井貴一主演、小谷承靖監督映画。1984年公開。
全日本F2選手権で、1人のドライバーが命を落とす。そのレースに出走していた中野は、死亡した宇佐美の妹・しのぶと恋人関係にあった。危険を非常に恐れる様になったしのぶ、しかも中野はテスト走行中に重傷を負ってしまう。そしてF2に関わる人々それぞれの思惑の中、再びレースが開催され…という内容。
原作は海老沢泰久の同名小説だが、当時F2で実際に起きた出来事が採り入れられている。主人公のモデルは日本人初のフルタイムF1ドライバーとなる中嶋悟で、自身もチラッと出演。この当時中嶋はF2に出走の傍ら、ホンダF1マシンのテストドライバーとしても活動しており、その後への布石としても興味深い。
まあ若き日の中井貴一や峰岸徹といった出演陣に目を引かれるけれど、ドラマ自体は正直陳腐かなあ。それよりも知られざる存在の本作は、現在の「スーパーフォーミュラ」に繋がる記録として、貴重な映画が残されていたんだなと。
全日本F2選手権で、1人のドライバーが命を落とす。そのレースに出走していた中野は、死亡した宇佐美の妹・しのぶと恋人関係にあった。危険を非常に恐れる様になったしのぶ、しかも中野はテスト走行中に重傷を負ってしまう。そしてF2に関わる人々それぞれの思惑の中、再びレースが開催され…という内容。
原作は海老沢泰久の同名小説だが、当時F2で実際に起きた出来事が採り入れられている。主人公のモデルは日本人初のフルタイムF1ドライバーとなる中嶋悟で、自身もチラッと出演。この当時中嶋はF2に出走の傍ら、ホンダF1マシンのテストドライバーとしても活動しており、その後への布石としても興味深い。
まあ若き日の中井貴一や峰岸徹といった出演陣に目を引かれるけれど、ドラマ自体は正直陳腐かなあ。それよりも知られざる存在の本作は、現在の「スーパーフォーミュラ」に繋がる記録として、貴重な映画が残されていたんだなと。
posted by ぬきやまがいせい at 22:41
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2021.10.15
「宇宙からの帰還」立花隆著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1983年発表。
ロケットに搭乗して地球外の環境に身を置いた、宇宙飛行士と呼ばれる人々。彼らの多くはその際、神の存在を強く感じたと言う。本書は飛行士達から「宇宙体験」に関して聴き取り、その神秘的とも言える様相に迫る…という内容。
上記の事実を初めて世に広めた画期的な名著。ただ要点を言えばそれだけなので、飛行士個々の生い立ちやスキャンダル話まで読む必要はない気もしたけど…そうした人物像をを踏まえて、彼らが宇宙体験により如何に変わったか(或いは変わらなかったか)を丁寧に聴き出した、切り口自体に圧倒される思い。
まあ宇宙体験の宗教的な解釈に納得できるかは兎も角、飛行士達が宇宙で目撃し肌で感じた経験を自らの口で語る、その臨場感だけでも他では得難い。なので本書は宇宙開発史の本と言うより人物伝的だが、人物の内面そこにまた「宇宙」が存在するのだなと(何だか、NWSFみたいな結論を書いてしまった)。
posted by ぬきやまがいせい at 19:19
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2021.10.14
「ビジュアル大図鑑 / 宇宙探査の歴史」ロジャー・D・ローニアス、柴田浩一訳
読んでみた、アメリカ人著者による科学解説書。2018年発表。
古来より人類は「宇宙」に思いを巡らし、ロケットの発明を機に地球外へと乗り出して行った。本書は天体観測から始まり月面着陸、スペースシャトルの興亡やその後の宇宙探査・計画を、多数の図版を用いて紹介していく…という内容。
改めてこの話題を振り返ると(少々寂しい事ながら)、米ソの対抗による宇宙開発競争時代が、割とクライマックスだったのも確かかも。とは言え本書はそれだけに限らず、日本を始めとする他国の成果も一通り解説する傍ら、ロズウェル事件やフィクションの宇宙探査にも触れており、仲々に広範な内容で楽しめる。
で何だか印象としては、書籍版「コズミックフロント」みたいな感じだなと。入門的すぎず専門的すぎず、実際本書はそのNHK-BSの番組での匙加減に近い感覚。でもそちらは毎週話題があっちこっちするので、順序よく説明してくれる本書の方が理解はしやすいんじゃないかな。しかしこの本重すぎて、手が疲れた…
posted by ぬきやまがいせい at 18:50
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2021.10.12
「暗黒神話大系シリーズ / クトゥルー6」ラヴクラフト&ダーレス著、大滝啓裕編
読んでみた、怪奇小説のオムニバス・シリーズ。1989年発表。
大地主である先祖の土地・ビリントンの森にやって来た青年・アンブローズは、やがて周囲を巻き込んでこの世ならざる存在の復活に手を貸す事に。その名はヨグ=ソトース…という長編「暗黒の儀式」と共に、短編2作を収録している。
上記作(1945年)は「クトゥルー神話」の開祖・ラヴクラフトが遺した断章に、ダーレスが補筆する形で長編化した作品。なので設定面ではダーレスの解釈によるC神話を基にしたものだけど…内容的にはすごい事が起きそうで、銃弾2発で呆気なく終わる辺り、別にラヴクラフト設定でも変わらんのでは?という印象。
一時期は批判の多かったダーレスも、近ごろ復権した様だが…実際の作品を読んだ限りだと、(個人的には)無理に擁護しようって気にもならんなあ。まあC神話ってもの自体お話どうこうじゃなく、あの名前が出たこの名前が出たってな辺りに興奮するものだから…そういう意味で、ご本尊の出てしまう本作はズルい。
posted by ぬきやまがいせい at 02:36
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2021.10.11
「樹のごときもの歩く」坂口安吾、高木彬光著
読んでみた、日本人作家による長編推理小説。1958年発表。
矢代と巨勢博士が調査する事になったのは、終戦後まるで丹下左膳の様な姿になって「復員」して来た男の事。実は同家ではその5年前に、不審な轢死事件が起きていたのだ。その上しかも、次々に新たな殺人が起きて…という内容。
安吾が1949年から推理小説「復員殺人事件」を連載するも中絶。それを彼の没後、1957年より高木が引き継いで完成させたのが本書である「樹のごときもの歩く」。まあ当然、安吾による真相を惜しむ声が大きい訳だが…高木が創意を発揮した完結編も相当な力作。個人的には、これで充分なんじゃなかろうかと。
ぶっちゃけ名作と呼ばれる「不連続殺人事件」が、あまり好きではないもんで…読者挑戦型として歴史的意義は大きいけど、今読むと無理ありすぎだ(あと不連続と違って探偵役が出ずっぱりな方が、やはり感情移入しやすいしな)。ちなみに「復員〜」は「UN-GO劇場版 因果論」の原作。えぇ…そ、そうなのかなあ?
posted by ぬきやまがいせい at 23:30
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2021.10.09
「屍者の帝国」伊藤計劃、円城塔著
読んでみた、日本人作家による長編SF小説。2012年発表。
屍者を再生して、労働力とする技術が確立された19世紀末。ワトソンは英国諜報機関の依頼で、アフガニスタンへ調査に赴く。その地では「屍者の王国」が建国され、更に最初の屍者「ザ・ワン」の策謀が浮かび上がり…という内容。
2009年に逝去した伊藤の遺稿を、円城が書き継ぐ事で完成させたのが本書。伊藤が実際執筆したのは「プロローグ」だけなので、ほぼ円城による小説と言えそうだが…文体はその部分をかなり踏まえた上、作風でも伊藤作品を相当尊重した感じが窺える(後書では謙遜からか、否定気味のコメントをしているが)。
でも他の作品との違いから、批判されたりもする様で。文体自体は設定から来る大時代的な表現だろうし、「謎の人物の追跡劇」「既存体制の崩壊」といった大筋は、毎度の伊藤作品っぽい展開になっている。…でも映画の真面目っぽい印象とは少々異なるナンセンスな感覚は、円城の持ち味って事かもしれんね。
posted by ぬきやまがいせい at 23:46
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2021.10.08
「日本沈没 第二部」小松左京、谷甲州著
読んでみた、日本人作家による長編SF小説。2006年発表。
日本列島が海中に没してから25年。元日本領土の海上で追悼式典が行われるのを、各地に難民として分散した国民が見つめていた。そんな中日本の開発した「地球シミュレータ」が、全地球規模の気候変動を予測し…という内容。
ベストセラーとなった小説「日本沈没」の続編だが、本書は前作の著者・小松を中心とするチーム制で、執筆に関しては谷に一任される形となっている。そのため作風に多少相違があるのも確かで…まあ個人的にはその点承知した上で読んだから、寒冷地でのサバイバルが大々的に描かれる辺りなどは成程なと。
ただ前作を起承転結の「起」としたら、本書はずーっと「承」だけで話が終わってしまう印象かも。そりゃ前作のスペクタクルに較べたら、ひたすら地味なのも確かなので。それより「起承転」と位置付けて、本書は「結」と見た方がよいのでは。「流亡の民」となった日本人を描く事こそ、本来この作品の眼目なのだし。
posted by ぬきやまがいせい at 20:37
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2021.10.06
パラサイト / 半地下の家族
観てみた。ソン・ガンホ主演、ポン・ジュノ監督映画。2019年公開。
老朽アパートの半地下室に住む、ギテクを主人とする4人家族。底辺生活を送る中、息子のギウが富裕階級・パク家で家庭教師の職を得る。その立場を足掛かりに、邸宅で長年働く人々に成り代わり、一家全員がまんまとパク家に「寄生」してしまった。ところがある日追い出した筈の、元家政婦が現れ…という内容。
カンヌ映画祭パルム・ドール、更に米アカデミー賞では作品賞を始めとする4部門を獲得した本作。韓国映画に留まらず、世界の映画史上でも仲々他に類を見ない高評価を達成した。まあそれに相応しい内容かどうか、色々意見はあるだろうけれど…個人的には「スノーピアサー」の後で、よく持ち直したもんだなと。
貧富格差を「地下と豪邸」に準え、ブラックユーモアと暴力描写を経て、物哀しい結末に導く手際は流石。とは言え作品としての重量感で「母なる証明」に軍配を上げたいけど、そこまで至らない「見切りの良さ」も高評価の所以だろう。
老朽アパートの半地下室に住む、ギテクを主人とする4人家族。底辺生活を送る中、息子のギウが富裕階級・パク家で家庭教師の職を得る。その立場を足掛かりに、邸宅で長年働く人々に成り代わり、一家全員がまんまとパク家に「寄生」してしまった。ところがある日追い出した筈の、元家政婦が現れ…という内容。
カンヌ映画祭パルム・ドール、更に米アカデミー賞では作品賞を始めとする4部門を獲得した本作。韓国映画に留まらず、世界の映画史上でも仲々他に類を見ない高評価を達成した。まあそれに相応しい内容かどうか、色々意見はあるだろうけれど…個人的には「スノーピアサー」の後で、よく持ち直したもんだなと。
貧富格差を「地下と豪邸」に準え、ブラックユーモアと暴力描写を経て、物哀しい結末に導く手際は流石。とは言え作品としての重量感で「母なる証明」に軍配を上げたいけど、そこまで至らない「見切りの良さ」も高評価の所以だろう。
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2021.10.05
万引き家族
観てみた。リリー・フランキー主演、是枝裕和監督映画。2018年公開。
東京の一戸建て住宅に暮らす柴田治を主人とする5人家族は、「万引き」で生計を立てていた。そんな中育児放棄されていたらしき少女を連れ帰り、一緒に生活する事に。彼らはまるで本当の家族の様に海水浴を楽しむのだが、ある日祖母がこの世を去る。そして遂に偽の家族に終わりの時が来て…という内容。
カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得した話題作。実際に起きた事件から着想したとの事だが…同じく実在事件を元とする「誰も知らない」に近い印象。というか同監督がこれまで手掛けた作品群と、かなり共通した内容だと思う。
実話題材に加えて、「都市生活の孤独」や「(疑似)家族」といったモチーフは、これまで同監督が繰り返し語って来たテーマで…個人的には正直、またかよと。ただそれらの過去作のエンドマーク、更に「その後」を描いた様な感覚なのは興味深いかも。でもそれと同時に、本作の「その後」は別に気にならんなあって。
東京の一戸建て住宅に暮らす柴田治を主人とする5人家族は、「万引き」で生計を立てていた。そんな中育児放棄されていたらしき少女を連れ帰り、一緒に生活する事に。彼らはまるで本当の家族の様に海水浴を楽しむのだが、ある日祖母がこの世を去る。そして遂に偽の家族に終わりの時が来て…という内容。
カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得した話題作。実際に起きた事件から着想したとの事だが…同じく実在事件を元とする「誰も知らない」に近い印象。というか同監督がこれまで手掛けた作品群と、かなり共通した内容だと思う。
実話題材に加えて、「都市生活の孤独」や「(疑似)家族」といったモチーフは、これまで同監督が繰り返し語って来たテーマで…個人的には正直、またかよと。ただそれらの過去作のエンドマーク、更に「その後」を描いた様な感覚なのは興味深いかも。でもそれと同時に、本作の「その後」は別に気にならんなあって。
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2021.10.03
ボヘミアン・ラプソディ
観てみた、ブライアン・シンガー監督映画。2018年公開。
1970年代の英国。ペルシャ系移民の青年は後に「クイーン」となるバンドに売り込み、その素晴らしい歌唱でボーカリストの座を得る。その後「フレディ・マーキュリー」と改名した青年はバンドと共に、遂に世界の音楽界で頂点に立った。ところが自身の秘められた性的嗜好から、彼は苦悩を抱えて…という内容。
真面目な「スパイナル・タップ」みたいな映画(逆だ逆だ)。まあ個人的にQueen自体には、それ程思い入れは無いのだけれど…それでも名曲誕生の瞬間や、ライヴ・エイドでのステージ再現には結構感動してしまった。ただフレディ役の人が画面に映るたびに、「誰?このオッサン」って脳裏によぎってしまうのがな。
他のQueenメンバー役の俳優陣が本人にソックリすぎて、その差が際立ってしまったのかも(エンディングで映る実物フレディは、やっぱりカッコいい)。…どうでもいいんだけど、ZEP再結成にノーリアクションかよとか思ってしまった。
1970年代の英国。ペルシャ系移民の青年は後に「クイーン」となるバンドに売り込み、その素晴らしい歌唱でボーカリストの座を得る。その後「フレディ・マーキュリー」と改名した青年はバンドと共に、遂に世界の音楽界で頂点に立った。ところが自身の秘められた性的嗜好から、彼は苦悩を抱えて…という内容。
真面目な「スパイナル・タップ」みたいな映画(逆だ逆だ)。まあ個人的にQueen自体には、それ程思い入れは無いのだけれど…それでも名曲誕生の瞬間や、ライヴ・エイドでのステージ再現には結構感動してしまった。ただフレディ役の人が画面に映るたびに、「誰?このオッサン」って脳裏によぎってしまうのがな。
他のQueenメンバー役の俳優陣が本人にソックリすぎて、その差が際立ってしまったのかも(エンディングで映る実物フレディは、やっぱりカッコいい)。…どうでもいいんだけど、ZEP再結成にノーリアクションかよとか思ってしまった。
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2021.10.02
「悠久の銀河帝国」アーサー・C・クラーク、グレゴリイ・ベンフォード著、山高昭訳
読んでみた、イギリス・アメリカ人作家による長編SF小説。1990年発表。
遥か未来。都市に引き籠っていた人類を、アルヴィンが再び銀河帝国の道へと促してから数世紀。旧人類のクレイは何者かに襲撃され、仲間が全滅する。それはかつて銀河中心に封じ込められた、恐るべき敵の復活で…という内容。
クラークによる初期の作品「銀河帝国の崩壊」(1948年雑誌掲載)を第1部に、その続編としてベンフォードが執筆した第2部を合わせたものが本書。クラーク自身が後に「都市と星」(1956年)という前掲書のリメイク版を発表しているのだが、それとは全く違う内容として展開させているのが興味深い。…のだけれど。
続編は続編ながら、そのテイストの違いには面食らうんじゃないかな。どうもベンフォードは自作の「銀河の中心」シリーズである「光の潮流」(本書の前年1989年刊行)から、作風やアイデアを流用してしまっている。まあ自分の小説からなら問題ないとは言え…一応他人様の続編と、銘打った作品なのになあって。
posted by ぬきやまがいせい at 23:22
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