2021.11.30
「TOKYO YEAR ZERO」デイヴィッド・ピース著、酒井武志訳
読んでみた、イギリス人作家による長編小説。2007年発表。
1945年8月15日、全てが無より始まる「東京零年」。玉音放送が流れる中、女性惨殺死体が発見された。そして1年後、更に2つの女性殺人事件が発生。担当の三波警部補は、一連の犯人と思しき男に辿り着くのだが…という内容。
実在の連続強姦殺人、通称「小平事件」を題材にした、東京三部作の第1巻。同事件は若松孝二監督が「続日本暴行暗黒史 暴虐魔」として映画化もしているが、英国人の著者が戦後日本を舞台にノワール小説を描くという事で話題になった。綿密な取材に基づいた内容で、大変な力作なのは間違いないものの…
擬音や短いフレーズが執拗に反復する特殊な文体は、まるで強迫症の思考の様で読んでるこっちまで気が狂いそう。本書は単なるノワールではなく、泉鏡花や上田秋成の影響も受けているという辺り興味深い。でもどちらかと言うと「雨月物語」より夢野久作ぽかったり。不思議と巻末の参考文献にはなかったけど。
posted by ぬきやまがいせい at 01:09
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2021.11.29
「ホワイト・ジャズ」ジェイムズ・エルロイ著、佐々田雅子訳
読んでみた、アメリカ人作家による長編小説。1992年発表。
1958年L.A.。弁護士資格を持ちながら、マフィアの殺しも請け負う悪徳警官・クライン警部補。彼はある邸宅で番犬を惨殺した侵入犯の事件を担当する一方、大富豪の元から逃げ出した女優の追跡も引き受けるのだが…という内容。
エルロイの代表的シリーズである「暗黒のL.A.」第4作。内容はいわゆるノワール小説だが、著者の代表作として同ジャンルの作家に多大な影響を与えた。まあ話自体は同シリーズの他作とそう違わないけれど(面白いかどうかだけなら「L.A.コンフィデンシャル」の方が個人的には上かな)、特筆すべきはその文体。
単語や短いセンテンスが連ねられる、「電文体」「クランチ文体」と呼ばれるもの。感じとしてはメモ書きや戯曲のト書きみたいな印象で、小説地文に用いる事が画期的だった様なのだが…どうも自分の場合、「棺姫のチャイカ」の片言な喋りを連想してしまってなあ。まあ確かに真似したくなる気持ちも判るんだけど。
posted by ぬきやまがいせい at 03:16
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2021.11.28
美しき諍い女
観てみた。ミシェル・ピコリ主演、ジャック・リヴェット監督映画。1991年公開。
ニコラと恋人のマリアンヌは、フレンホーフェルという大画家の邸宅を訪ねる。そこで画家は彼がかつて妻をモデルに着手しながらも挫折した「美しき諍い女」という画題の作品を、マリアンヌを新たなモデルとして制作する決意をする。絵は周囲の人間関係に影響を及ぼしつつも、描き進められたのだが…という内容。
バルザックの短編小説「知られざる傑作」から着想を得たという本作。要は原作という訳ではないので…内容は結構違う。小説は芸術や芸術家に対するアイロニカルな着眼点があるけれど、本作映画版は画家の制作風景を長廻しでの撮影をメインに、芸術行為を「客体化」して捉えた多分真逆の作品になっている。
ペン画によるクロッキーに木炭デッサン、更に油彩と段階を追っているのが興味深い。ただそれを4時間にも渡って描くので、途中で飽きた…いやもう本気で飽きた。結末が小説と違うのにおやとは思ったけど、そんなの別にいいよ。
ニコラと恋人のマリアンヌは、フレンホーフェルという大画家の邸宅を訪ねる。そこで画家は彼がかつて妻をモデルに着手しながらも挫折した「美しき諍い女」という画題の作品を、マリアンヌを新たなモデルとして制作する決意をする。絵は周囲の人間関係に影響を及ぼしつつも、描き進められたのだが…という内容。
バルザックの短編小説「知られざる傑作」から着想を得たという本作。要は原作という訳ではないので…内容は結構違う。小説は芸術や芸術家に対するアイロニカルな着眼点があるけれど、本作映画版は画家の制作風景を長廻しでの撮影をメインに、芸術行為を「客体化」して捉えた多分真逆の作品になっている。
ペン画によるクロッキーに木炭デッサン、更に油彩と段階を追っているのが興味深い。ただそれを4時間にも渡って描くので、途中で飽きた…いやもう本気で飽きた。結末が小説と違うのにおやとは思ったけど、そんなの別にいいよ。
posted by ぬきやまがいせい at 02:02
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2021.11.25
T-34 / レジェンド・オブ・ウォー
観てみた、アレクセイ・シドロフ監督映画。2018年公開。
第二次大戦中の1944年。ドイツ軍捕虜になったソ連戦車兵・イヴシュキンは、数度の逃亡失敗の末にある命令を受ける。それは鹵獲された非武装のT-34/85戦車に乗って、戦車戦演習に参加するというもの。彼は乗員を集めて戦車を整備、しかも残されていた砲弾を密かに携え、戦場に乗り込んで…という内容。
何だか知った様な話だな…と思ったら「鬼戦車T-34」(1965年)。ただ本作はそちらのリメイクではなく、戦争当時有名だったらしい同じ伝説を元にしたからだとの事。まあ本作はドンパチが売り物のエンタメ系なので、雰囲気はだいぶ違う。むしろこの荒唐無稽さから、ガルパンが引き合いに出されるのに納得した。
ただ砲弾が空中を飛ぶ描写等、スローモーションを多用するガイ・リッチーみたいな演出は、旧東側戦争映画では(何故か)頻繁に見るので新鮮さはない。おふざけ感ばかりが強調されるから…個人的には鬼戦車の方が好きだなあ。
第二次大戦中の1944年。ドイツ軍捕虜になったソ連戦車兵・イヴシュキンは、数度の逃亡失敗の末にある命令を受ける。それは鹵獲された非武装のT-34/85戦車に乗って、戦車戦演習に参加するというもの。彼は乗員を集めて戦車を整備、しかも残されていた砲弾を密かに携え、戦場に乗り込んで…という内容。
何だか知った様な話だな…と思ったら「鬼戦車T-34」(1965年)。ただ本作はそちらのリメイクではなく、戦争当時有名だったらしい同じ伝説を元にしたからだとの事。まあ本作はドンパチが売り物のエンタメ系なので、雰囲気はだいぶ違う。むしろこの荒唐無稽さから、ガルパンが引き合いに出されるのに納得した。
ただ砲弾が空中を飛ぶ描写等、スローモーションを多用するガイ・リッチーみたいな演出は、旧東側戦争映画では(何故か)頻繁に見るので新鮮さはない。おふざけ感ばかりが強調されるから…個人的には鬼戦車の方が好きだなあ。
posted by ぬきやまがいせい at 04:05
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2021.11.24
「トレインスポッティング」アーヴィン・ウェルシュ著、池田真紀子訳
読んでみた、スコットランド人作家による長編小説。1993年発表。
スコットランドのエディンバラで暮らす青年・レンツことマーク・レントンは、シック・ボーイら仲間と共にヘロイン漬けの日々を送っていた。犯罪やHIVで命を落とす連中を尻目に、彼らの代わり映え無い日常は続くのだが…という内容。
1996年にダニー・ボイル監督で製作された映画が有名だけど、原作である本書も新たな英国文学のメルクマールとして圧倒的に支持された。…内容は大雑把には映画と一緒だが、多視点・断片的エピソードの集積(手法としては恐らく「意識の流れ」を汲んだもの)を、ポップな文体でスピーディーに読ませてしまう。
コメディ調とも言えそうだけれど、扱っているのがヘビーな「麻薬」関連の話なので、ノワール小説の一種として紹介されているのは面白い(ただそういう辺りは、グロテスクなトリップ描写のある映画の方が深刻な位だが)。しかし映画で主題歌を担当したIggy Popは、原作だと直接登場する場面があったんだな。
posted by ぬきやまがいせい at 16:43
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2021.11.23
人類SOS! / トリフィドの日
観てみた、スティーヴ・セクリー監督映画。1962年公開。
地球全土に流星雨が降り注いだ翌日、それを目撃した人々全てが失明していた。更に自由に移動して人を襲う、殺人植物「トリフィド」が大繁殖を始め、文明は瞬く間に崩壊してしまった。一方眼の治療中だったメイスンを始め、孤島の灯台で暮らす生物学者のグッドウィン夫妻達は、危機を免れたのだが…という内容。
原作はジョン・ウィンダムのSF小説。原作は別れ別れになった主人公がヒロインを探す、「君の名は」(古い方)みたいな話なんだけど…文明論的な問題提議も含んでおり、そのまま映像化するのは少々冗長になりそう。なので主役を2人に分けて、判りやすい解決に着地する映画は、意外に悪くないんじゃないかな。
原作では流星とトリフィドになんの関係もない(!)ので、多少関連を持たせているだけで充分印象がいい。しかし電流柵だの音に反応するだの…(思った以上に)本作はゾンビ物のルーツだな。冒頭はまんま「28日後」が借用してるし。
地球全土に流星雨が降り注いだ翌日、それを目撃した人々全てが失明していた。更に自由に移動して人を襲う、殺人植物「トリフィド」が大繁殖を始め、文明は瞬く間に崩壊してしまった。一方眼の治療中だったメイスンを始め、孤島の灯台で暮らす生物学者のグッドウィン夫妻達は、危機を免れたのだが…という内容。
原作はジョン・ウィンダムのSF小説。原作は別れ別れになった主人公がヒロインを探す、「君の名は」(古い方)みたいな話なんだけど…文明論的な問題提議も含んでおり、そのまま映像化するのは少々冗長になりそう。なので主役を2人に分けて、判りやすい解決に着地する映画は、意外に悪くないんじゃないかな。
原作では流星とトリフィドになんの関係もない(!)ので、多少関連を持たせているだけで充分印象がいい。しかし電流柵だの音に反応するだの…(思った以上に)本作はゾンビ物のルーツだな。冒頭はまんま「28日後」が借用してるし。
posted by ぬきやまがいせい at 03:13
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2021.11.21
「アレイスター・クロウリー著作集3 / 麻薬常用者の日記」アレイスター・クロウリー著、植松靖夫訳
読んでみた、イギリス人著者による長編小説。1922年発表。
元飛行士のピーターは大戦終結後、貴族の地位と莫大な財産を受け継ぐ。だが妻のルーと共に麻薬に溺れ、日常生活もままならない状態に陥ってしまう。そんな彼に手を差し伸べたのが、大獅子と呼ばれるレイマスで…という内容。
天国篇・地獄篇・煉獄篇という(神曲に準えた)三部作構成の本書。小説の体裁を採っているけれど、麻薬常習者だった著者自身の半生が反映しているとの事。…とは言え単なる体験記ではなく、宗教家・魔術家の著者らしく自著「法の書」からの頻繁な引用と共に、自身の思想の一端が開陳されているのが特徴。
でも「法の書」での胡散臭い印象とは違って、本書はお話として大変おもしろい。…麻薬が題材の諸作は当事者が愚かしかったりするのだが(まあ反面教師として描くのだろうし)、本書では知性や教養を感じさせる辺り文学的でよい。でも中毒(離脱症状?)で苦しんでるのに、何故か悪魔召喚なんかしてるんだよな。
posted by ぬきやまがいせい at 02:16
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2021.11.20
「麻薬書簡 再現版」ウィリアム・バロウズ、アレン・ギンズバーグ著、山形浩生訳
読んでみた、アメリカ人作家による体験記。2006年発表。
1953年。作家のバロウズは神秘のベールに包まれた麻薬、幻覚植物「ヤーヘ」を求めてアマゾンの密林へと踏み入る。そして7年後、詩人のギンズバーグもまたヤーヘを体験する。その際のやりとりは書簡にて行われ…という内容。
1963年刊行の同書を、オリヴァー・ハリスの手で再構成したのが「再現版」。本書は2人の共著となっているものの、実は元々バロウズが執筆した散文で、後にギンズバーグの原稿を加え「書簡」形態に改められた。…らしいけど、成立過程が複雑で上手く説明出来ない。まあ普通に読む分には南米旅行記かなあ。
ただ同性愛旅行かといった内容は、まるでバロウズ版「泥棒日記」(泥棒はしてないけれど)。しかもカットアップを用いた文章なので、肝心の麻薬体験も正直何がなんだかよくわからないという。…逆に言えばビートニク作家同士の架空のやりとりといった、「半フィクション」として楽しむ分には、面白い本なのでは?
posted by ぬきやまがいせい at 20:58
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2021.11.18
「阿片 / 或る解毒治療の日記」ジャン・コクトー著、堀口大學訳
読んでみた、フランス人作家による評論/エッセイ集。1930年発表。
詩人「ジャン・コクトー」は、友人レイモン・ラディゲの死がきっかけで「阿片」に溺れた。彼の創作へ深く関わる事になる阿片だが、その後解毒の為入院治療を受ける事に。本書はその際に執筆した、日記とデッサン類を収録している。
通常は文章を綴る事も苦しい治療の様だが、著者は看護師から褒められたらしい。…で内容の方はと言うと実は阿片の事にはあまり触れておらず、その時々の思い付きを記した雑文集といった感じ。でも自身の創作裏話や少年時代の思い出、ピカソやプルーストとの交遊関係等と、幅広い話題で大変面白い。
(まあ阿片は麻薬じゃねえよ、とか常人にはよく判らない事も言ってるけれど)…個人的にはブニュエルの映画「アンダルシアの犬」や、レーモン・ルーセルの小説「ロクス・ソルス」の衝撃について、長々と語っているのが興味深い。その後著者が前衛的な映画を手掛ける、その萌芽として見ると重要な一文なのでは?
posted by ぬきやまがいせい at 23:33
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2021.11.17
「人工楽園」ボードレール著、渡辺一夫訳
読んでみた、フランス人著者による論考/評論集。1860年発表。
アシーシュに阿片といった、「人工楽園」を芸術家に与える手段である麻薬。本書は詩人・ボードレールが麻薬の効能、あるいは逆に害悪を分析すると共に、阿片体験者の先人であるド・クインシーの著作を紹介していく…という内容。
著者自身は麻薬の常用者では無かった様だが、本書を読むとそうかもしれないなって。と言うのも内容の半分位ド・クインシーの本からの引用・ダイジェスト紹介で、そちらを先に読んでいた自分は何だこれ感が。…まあ麻薬論考と言うより、前掲書の「文学評論」として読んだ方が多分しっくり来るんじゃないかな。
むしろメインのそちら(「鴉片吸飲者」)より、「酒とアシーシュとの比較」を綴った短文の方が面白い。麻薬という題材でセンセーショナルに悪徳を説く、「悪の華」を想起させる反社会性が刺激的だ。しかしボードレールはやはり、旧漢字・旧仮名遣いの方が感じ出るなあ…この本で是非如何わしさを味わってほしい。
posted by ぬきやまがいせい at 14:52
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2021.11.15
「阿片常用者の告白」ド・クインシー著、野島秀勝訳
読んでみた、イギリス人著者による自伝/体験記。1822年発表。
1785年商家に生まれた「トマス・ド・クインシー」は、学業で優秀な成績を示しながらも学校から逃亡。そして貧困生活の中、「阿片」に手を染める事に。本書は彼の半生、そして阿片の功罪を自身の実体験から綴ったもの…という内容。
当時の英国社会的にも相当センセーショナルだった様だが、彼が服用した「阿片チンキ」は一応まだ違法な薬物ではなかったらしい。とは言え衝撃的な内容…かと思ったら、「ダメ、ゼッタイ」という麻薬体験の生々しいノンフィクションと言う感じではなく、文学的な修辞まみれでどうも深刻さが今一つ伝わってこない。
実際訳者が改訂版ではなく初出版を選んだのは、文学的価値からとの事なので、まあそうした「ロマン派」的な表現に注目するべきだろう。感じとしてはヘッセの寄宿学校や、ワイルドの老化する肖像画が「阿片」に置き換わった様な。阿片による妄想が過去への悔恨という、切ない幻想として語られるのもそれっぽい。
posted by ぬきやまがいせい at 16:48
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2021.11.14
「もっとも危険なゲーム」ギャビン・ライアル著、菊池光訳
読んでみた、イギリス人作家による長編冒険小説。1963年発表。
フィンランドのソ連国境近く、森林地帯で地質調査を行う飛行士・ケアリ。熊猟を目的に訪れたという米人資産家を始め、様々な人々の登場と共に彼に危機が迫る。果たして事態の真相、そして彼の過去に何があったのか…という内容。
著者は元英国空軍パイロット。何の機種に乗ってたんだと思ったら、実は「グロスター・ミーティア」(!)だそうで。…本書でもその経験は遺憾なく発揮されているけれど、主人公が搭乗するのは「デ・ハビランド ビーバー」という水上機。ジェット戦闘機とじゃ結構違いそうだが、飛行描写の臨場感は流石の一言だな。
本書は比較的短い紙幅の中に宝探しや過去の因縁といった、様々な要素が仕込まれて盛り沢山。しかも友情を介した男と男の戦いにしびれると共に、主人公の気の利いた台詞廻しがチャンドラーを思わせ「ハードボイルド」感も楽しい。…そういや松田優作の映画「最も危険な遊戯」は、本書の誤訳的?引用かな。
posted by ぬきやまがいせい at 23:11
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2021.11.12
「新宿鮫」大沢在昌著
読んでみた、日本人作家による長編小説。1990年発表。
新宿警察署防犯課に所属する刑事、「新宿鮫」こと鮫島。署内では専ら孤立無援の捜査活動を行う彼が現在追っているのは、銃器密造犯の男だった。そんな折に新宿署の管内で、警察官を狙った連続射殺事件が発生し…という内容。
鮫島警部を主人公とする、「新宿鮫」シリーズの第1作が本書(第4作「無間人形」では直木賞も獲得している)。…著者は長年日本における「ハードボイルド」小説の在り方を模索して来たとの事で、本書が高く評価されているのにも納得。日本を舞台にした同ジャンルの、理想像を打ち立てているのではなかろうか。
特筆するべきはやはり、ドライブ感・疾走感。ハードボイルドって「足を使った捜査」…多分歩行する位のスピードってイメージがあるけれど、本書の息もつかせぬ緊張感と終始持続する焦燥感はまさに圧倒的。その代わり気の利いた台詞やユーモアには欠けるものの、芯に抱えた強靭さこそ本書のハードボイルド。
posted by ぬきやまがいせい at 20:57
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2021.11.11
「死の蔵書」ジョン・ダニング著、宮脇孝雄訳
読んでみた、アメリカ人作家による長編小説。1992年発表。
屑の山から稀覯書を見分ける「古本掘出し屋」の男が殺された。クリフ刑事は捜査に乗り出す一方、長年追ってきた暴力犯とのトラブルから、警察を辞職する事に。彼は古書に関する知識で、新たな職業に就くのだが…という内容。
自身も古書店を経営していたという著者が、その経験を活かした「クリフォード・ジェーンウェイ」シリーズの第1作。なので本書には米文学を中心に、古書に関する蘊蓄が色々出て来るのだが…あまり「衒学的」という印象は無い。殆ど金銭的価値の話ばかりなので、これ別に宝石でもワインでも変わらんのではと。
日本には「黒死館殺人事件」や京極夏彦を始め、ペダンティックミステリには事欠かないので、正直物足りなかったけど…本書の場合はやはり、主人公の「ハードボイルド」さに注目するべきだろう。そう考えると古書を金蔓としか見ない方がそれっぽい。まあ本書はハードボイルドとして読んだ方が、驚きもある筈。
posted by ぬきやまがいせい at 13:39
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2021.11.09
「興奮 / 競馬シリーズ」ディック・フランシス著、菊池光訳
読んでみた、イギリス人作家による長編小説。1976年発表。
豪州で牧場を経営するロークは、イギリスのある伯爵から競馬界で起きた事件調査の依頼を受ける。それは競走馬が出走中に突如「興奮」し、大穴を勝ち取るという不可解な事態が、続け様に起きているという事なのだが…という内容。
元騎手の著者が引退後、小説家として発表したのが「競馬シリーズ」。本書はその第3作だが日本での初紹介作として、読者から圧倒的に支持された。…内容は馬丁(厩務員)として潜入調査をする一種のエスピオナージ、加えて迫害を受けながらも矜持を失わない主人公の「やせ我慢」が、まさにハードボイルド。
まあ純粋な意味でハードボイルド小説ではないだろうけれど(むしろ英国冒険小説の香気が漂う)、その内面の葛藤や決意に手に汗握る名作なのだ。個人的に競馬の事はよく知らないし、今でも日本の競馬よりもなぜか英国の競馬界の方が詳しい位なのだが…でもあれなら知っているか、うまぴょい うまぴょい♪
posted by ぬきやまがいせい at 19:39
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2021.11.08
ブラック・クランズマン
観てみた、スパイク・リー監督映画。2018年公開。
1970年代のコロラドスプリングス。同地で初の黒人警官となったロンは、宛がわれた仕事に対する不満から、潜入捜査担当への転属を希望していた。そして電話での口八丁を駆使して、白人至上主義団体とのコンタクトに成功。だが彼は黒人である為、同僚の警官・フリップを身代わりに立てる事に…という内容。
元警官であるロン・ストールワースの同名回顧録が原作。有名な「KKK」を手玉に取った実話を、ユーモラスに描いた辺り面白い。…ただ結末で直前に起きた人種差別事件の映像を挿入したりと、やはり同監督らしくイデオロギッシュ。
なのでスッキリした気分では観終われないけれど…個人的には「ブラックスプロイテーション」映画に関する対話なんか、何だかタランティーノの向こうを張る様で興味深い。それ以上にKKKの連中が「国民の創生」を見て、大興奮しているのに苦笑してしまった。まあ(上記結末の通り)苦笑では済まない話なのだが…
1970年代のコロラドスプリングス。同地で初の黒人警官となったロンは、宛がわれた仕事に対する不満から、潜入捜査担当への転属を希望していた。そして電話での口八丁を駆使して、白人至上主義団体とのコンタクトに成功。だが彼は黒人である為、同僚の警官・フリップを身代わりに立てる事に…という内容。
元警官であるロン・ストールワースの同名回顧録が原作。有名な「KKK」を手玉に取った実話を、ユーモラスに描いた辺り面白い。…ただ結末で直前に起きた人種差別事件の映像を挿入したりと、やはり同監督らしくイデオロギッシュ。
なのでスッキリした気分では観終われないけれど…個人的には「ブラックスプロイテーション」映画に関する対話なんか、何だかタランティーノの向こうを張る様で興味深い。それ以上にKKKの連中が「国民の創生」を見て、大興奮しているのに苦笑してしまった。まあ(上記結末の通り)苦笑では済まない話なのだが…
posted by ぬきやまがいせい at 23:24
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2021.11.06
「裁くのは俺だ」ミッキー・スピレイン著、中田耕治訳
読んでみた、アメリカ人作家による長編小説。1947年発表。
私立探偵・ハマーの親友が、45口径の拳銃で射殺された。彼は怒りに燃えて犯人捜査を開始するも、更に次々と犠牲者は増えていく。一方捜査線上で知り合った精神科の女医・シャーロットと、彼は婚約するのだが…という内容。
著者の処女作である「マイク・ハマー」シリーズ第1作が本書。探偵の名前としてマイク・ハマーは、現在でもそれなりに知られているけれど(濱マイクとか)著者自身はどうなのかな。John Zornがハードボイルドを題材にしたアルバムで、タイトルに選んだ「Spillane」とは著者の事…もっとマイナーで説明にならんか。
著者はハメットらを始祖とするハードボイルドを、粗野/扇情化し大衆受けするものとした反面、その性的で暴力的内容から批判が多い。とは言え現在では「ノワール」小説として枝分かれしたので、ハードボイルドにそうした先入観を持つ人は少ないんじゃないかな。…本書もB級感だけでない、独自の良さがある。
posted by ぬきやまがいせい at 22:10
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2021.11.05
ミッドナイトクロス
観てみた、ブライアン・デ・パルマ監督映画。1981年公開。
映画の音響効果マン・ジャックは野外で環境音を採集中、自動車事故に遭遇。車中からサリーという女性を救出するも、同乗者の次期大統領候補は死亡してしまう。彼がその際の録音を聴くと事故直前、銃声が記録されている事に気付いた。ジャックはサリーと共に、陰謀に巻き込まれていくのだが…という内容。
主演はジョン・トラボルタ。デ・パルマ監督とは本作が初顔合わせかと思ったら、「キャリー」(1976年)にも参加していたんだな。翌年の「サタデー・ナイト・フィーバー」出演もあり、影のある主人公像を好演している(その後低迷)。
本作はまあヒッチコック風のサスペンス映画なのだが(「サイコ」や「裏窓」へのリスペクトが窺える)、画面分割や360度グルグル回るカメラといった、いかにも同監督らしい技巧を凝らしたカメラワークがやたら印象的。展開はアホみたいなドタバタなのに切ない幕切れと、この頃のデ・パルマは本当飛び道具の様だ。
映画の音響効果マン・ジャックは野外で環境音を採集中、自動車事故に遭遇。車中からサリーという女性を救出するも、同乗者の次期大統領候補は死亡してしまう。彼がその際の録音を聴くと事故直前、銃声が記録されている事に気付いた。ジャックはサリーと共に、陰謀に巻き込まれていくのだが…という内容。
主演はジョン・トラボルタ。デ・パルマ監督とは本作が初顔合わせかと思ったら、「キャリー」(1976年)にも参加していたんだな。翌年の「サタデー・ナイト・フィーバー」出演もあり、影のある主人公像を好演している(その後低迷)。
本作はまあヒッチコック風のサスペンス映画なのだが(「サイコ」や「裏窓」へのリスペクトが窺える)、画面分割や360度グルグル回るカメラといった、いかにも同監督らしい技巧を凝らしたカメラワークがやたら印象的。展開はアホみたいなドタバタなのに切ない幕切れと、この頃のデ・パルマは本当飛び道具の様だ。
posted by ぬきやまがいせい at 22:21
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2021.11.03
月曜日に乾杯!
観てみた、オタール・イオセリアーニ監督映画。2002年公開。
フランスの片田舎で家族と暮らすヴァンサン。自家用車と交通機関を乗り継いで工場に出勤する彼だが、ある日ふと思い付いたかの様に水の都・ベニスへと出掛けていく。ヴァンサンは水路でボートに揺られ、普段の生活では出逢えない人々と出逢って、家族とすれ違う事の多い日常を忘れるのだが…という内容。
イオセリアーニ監督は元々旧ソ連で映画制作を行っていた人だが、公開もままならない状況から1979年にフランスへと移住した。そのお陰か本作はジャック・タチやジャック・ロジエといった、フランスの映画作家を思わせる作風だった。
ストーリーらしいストーリーは無い上台詞も極端に少なく、人々の何気ない佇まいをスケッチ的に「おかしみ」を込めて描く感じ。ユル系とも脱力系とも言えそうだけれど、微妙に社会・文明批評的な視点を感じさせる辺りちょっとタチっぽいかも。ただタチほど緊張感がなかったせいか、個人的には少々退屈したかなあ。
フランスの片田舎で家族と暮らすヴァンサン。自家用車と交通機関を乗り継いで工場に出勤する彼だが、ある日ふと思い付いたかの様に水の都・ベニスへと出掛けていく。ヴァンサンは水路でボートに揺られ、普段の生活では出逢えない人々と出逢って、家族とすれ違う事の多い日常を忘れるのだが…という内容。
イオセリアーニ監督は元々旧ソ連で映画制作を行っていた人だが、公開もままならない状況から1979年にフランスへと移住した。そのお陰か本作はジャック・タチやジャック・ロジエといった、フランスの映画作家を思わせる作風だった。
ストーリーらしいストーリーは無い上台詞も極端に少なく、人々の何気ない佇まいをスケッチ的に「おかしみ」を込めて描く感じ。ユル系とも脱力系とも言えそうだけれど、微妙に社会・文明批評的な視点を感じさせる辺りちょっとタチっぽいかも。ただタチほど緊張感がなかったせいか、個人的には少々退屈したかなあ。
posted by ぬきやまがいせい at 20:57
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2021.11.02
ラスベガス万才(原題:Viva Las Vegas)
観てみた。エルヴィス・プレスリー主演、G・シドニー監督映画。1964年公開。
自動車レーサーのラッキーは、自慢のマシンでレースに出走するべくラスベガスの街へとやって来た。ところがラスティという美人に夢中になって、新エンジン購入のための資金を失ってしまう。仕方なく彼はホテルのボーイとして働く傍ら、ラスティにアタック。一方従業員コンテストで賞金が出ると聞き…という内容。
ビバ・ラスベガスと言えばDead Kennedys…じゃなくてプレスリー。こちらの曲は本作こと同名映画用の主題歌でもある。なので本作はプレスリー映画らしく歌もダンスも(恋も)たっぷりなんだけど、仲々興味深いのがカーレース要素。
本作のクライマックスで行われる砂漠地帯での公道レースは、丁度時代が同じな事もあって「マッハGoGoGo」(1967年)を連想させる。尚プレスリーが乗るのは「エルヴァMk4」という車の様だが…どうも撮影でプレスリーの顔がよく見える様に座席を上げているらしく、やたら頭が飛び出しており転倒が怖い事に…
自動車レーサーのラッキーは、自慢のマシンでレースに出走するべくラスベガスの街へとやって来た。ところがラスティという美人に夢中になって、新エンジン購入のための資金を失ってしまう。仕方なく彼はホテルのボーイとして働く傍ら、ラスティにアタック。一方従業員コンテストで賞金が出ると聞き…という内容。
ビバ・ラスベガスと言えばDead Kennedys…じゃなくてプレスリー。こちらの曲は本作こと同名映画用の主題歌でもある。なので本作はプレスリー映画らしく歌もダンスも(恋も)たっぷりなんだけど、仲々興味深いのがカーレース要素。
本作のクライマックスで行われる砂漠地帯での公道レースは、丁度時代が同じな事もあって「マッハGoGoGo」(1967年)を連想させる。尚プレスリーが乗るのは「エルヴァMk4」という車の様だが…どうも撮影でプレスリーの顔がよく見える様に座席を上げているらしく、やたら頭が飛び出しており転倒が怖い事に…
posted by ぬきやまがいせい at 21:56
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