2021.12.31

「ノストラダムス大予言原典 / 諸世紀」ミカエル・ノストラダムス著、ヘンリー・C・ロバーツ編纂、内田秀男監修、大乗和子訳

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読んでみた、フランス人著者による詩集/予言書。1975年発表。

1503年プロヴァンスで誕生した占星術師「ノストラダムス」は、後世に起きるであろう出来事を予言し、4行詩の形で書き残した。本書はそれらの仏語原文・日本語訳と共に、研究者による予言解釈を掲載したものである…という内容。

ジャムおじさんこと、ノストラダムスの「諸世紀」(この邦題に色々問題はあっても、カッコいいのは確か)。五島勉の本(1973年)により日本で起きたブームを受けて刊行されたものだが、流石に今読むと実に噴飯もの。特に英語版原書に付された、やたら中共と核戦争したがる予言者オバハンの解釈は面白過ぎる。

執筆者ごとに解釈バラバラで、当時の読者も困ったろうな。…しかし例の「第10巻72番」ばかり注目されたのは、具体的な日付が記されていたからなんだな(敢えて書かなかったとは著者の弁)。それより本書の解釈によるとノストラ氏は、マナティ(かわいい動物)の存在も予言したらしい。な、なんだってーっ!?
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2021.12.30

「イワン・デニーソヴィチの一日」ソルジェニーツィン著、染谷茂訳

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読んでみた、ロシア/ソ連人作家による長編小説。1962年発表。

1951年、スターリン政権下のソビエト連邦。「イワン・デニーソヴィチ・シューホフ」は強制収容所で目を覚まし、極寒の中囚人として過ごす。厳しい環境下での労働や食事、彼は今日も変わり映えのない1日を送るのだが…という内容。

イワン・デジャビュ…じゃなくて、その元ネタ。実際に収容所生活を送った著者が、スターリンの没後に発表した本書は世界中に衝撃を与えた(後にノーベル文学賞も獲得)。ソ連崩壊後の今読むと、告発の書という意義自体は薄れてしまったとは思うものの…個人的にはむしろ、ロシア文学の伝統を感じて興味深い。

収容所内で耐乏生活を送る囚人達は、露文学で描かれる下層民そのもの(「罪と罰」で流刑された先のラスコーリニコフは、こんな感じかもなって)で、その強かかつ躍動感のある描写は素晴らしい。…まあひどいと言えば本当にひどいのだが、それを「重喜劇」として描いた辺りに、普遍性があったんじゃないかな。
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2021.12.28

「トルストイ民話集 / イワンのばか 他八篇」トルストイ著、中村白葉訳

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読んでみた、ロシア人作家による短編小説集。1932年発表。

働き者だが「ばか」と呼ばれるイワンには、親不孝な2人の兄がいる。兄達が問題のある生活を送る一方、畑で汗を流すイワンの前に、彼ら一家を不幸に陥れようとする悪魔が現れ…という表題作を含んだ、全9編が収録されている。

3年殺しを知ってるかい?…いや知らなくてもいいけど。本書はトルストイが各地の民話を集めて、それらを改作したもの。中でも「イワンのばか」(1886年)はタイトルのお陰か妙に有名だが、肝心の内容は知らなかった。実際読んでみると、労働賛美を始めとするメッセージ性が強い反面、大変面白いのに驚いた。

試練とそれを克服する冒険の連続という話が結構ある辺り、男の子ごころをくすぐるのだ。とは言え童話と言うよりは寓話・教訓話という感じ。…それより個人的には、「悪魔」が高頻度で登場するのに興味を惹かれる。まあキリスト教での堕天した存在ともまた違いそうだから、教訓としての悪徳の象徴だろうけれど。
posted by ぬきやまがいせい at 23:03 | Comment(0) | 読書

2021.12.27

「スペードの女王・ベールキン物語」プーシキン著、神西清訳

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読んでみた、ロシア人作家による短編小説集。1967年発表。

ゲルマンは骨牌勝負の必勝法を知るという、伯爵夫人の存在を耳にする。ゲルマンは彼女の邸宅で遂に対面に成功するも、夫人はその刹那急逝してしまい…という「スペードの女王」と共に、「ベールキン物語」の5編を収録している。

露文学の祖であるプーシキンも最期は決闘に斃れ、後にやはり決闘で命を落とすレールモントフが彼への追悼詩を書いた(らしい)。「スペードの女王」(1833年)は著者が、最初に世間的に評価された作品。一読してホフマンっぽい話だな…と思ったら、解説にもそうあった。幻想譚として大変よく出来ている一編。

また「ベールキン物語」(1831年)は架空の作家が書いた小説という体裁の作品集だが、幻想と言うよりは偶然や奇遇を題材にした「奇譚」といった趣き。ただ「スペードの女王」では、骨牌(カルタ)勝負と言われても今一つイメージ出来なかったんだけど…そういや中井英夫が、「悪夢の骨牌」っていうのを書いたな。
posted by ぬきやまがいせい at 21:56 | Comment(0) | 読書

2021.12.25

「かもめ」チェーホフ著、浦雅春訳

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読んでみた、ロシア人作家による戯曲。1896年発表。

ある湖畔の屋敷で劇が上演された。台本の作者であるトレープレフは大女優・イリーナの息子で、主演したのは彼の恋人・ニーナ。ところが劇は散々な酷評を受け、しかもニーナは作家のトリゴーリンに心移りしてしまい…という内容。

著者の代表作であると共に、世界の演劇史上でも重要な位置を占める名作。という知識はあっても、内容まではよく知らなかった。…まあ個人的にはソ連初の女性宇宙飛行士、テレシコワとの関連がまず思い浮かぶ。彼女に与えられた「チャイカ」なるコールサインは、本作の有名な「私はカモメ」という台詞が由来。

なので本作の内容はニーナを中心とするものかと思ったら、大分違った群像劇。しかも著者の実体験や演劇界が題材なので、自己言及的な作品だった。有名な割にストーリーが語られないのも、成程と納得した訳だが…実際の内容よりもテレシコワのロマンチックなイメージの方で、認識されたままがいいのかも。
posted by ぬきやまがいせい at 07:27 | Comment(0) | 読書

2021.12.23

コミックマーケット99に関するお知らせ

来週12月31日(金曜日)に開催が予定されております
「コミックマーケット99」におきまして、当サークル・ジャンクアーツも
配置場所(東地区F-15b)をいただいておりましたが
ここ暫くの様々な状況を鑑みて、参加を見送る事にいたしました。

もし開催日当日に、当スペースへお越しになる予定の方がおられましたら
そういう次第ですので、よろしくお願いいたします。

ご期待くださっている様な奇特な方が果たしておられたかどうか
正直わかりませんが…まあ何卒ご容赦下さい。
posted by ぬきやまがいせい at 21:37 | Comment(0) | 日記

2021.12.22

クリスタル・ボイジャー

観てみた、D・エルフィック監督によるドキュメンタリー映画。1973年公開。

カリフォルニアで暮らすジョージ・グリノーは、サーフィン漬けの生活を送っている。サーフボードの自作から改造した外航ヨットの進水と、あらゆる面でサーフィンが中心。そして世界そのものの様な波は、全てを押し包み…という内容。

「フィン」のブランドの経営や、水中カメラマンとしても有名なサーファー・グリノーを追ったドキュメンタリー。なのは確かなのだが、それ以上に「サーフィン」の映像自体が雄弁な作品。クライマックスでは23分にも渡って「波」の映像がひたすら流れるという。…でそのBGMに使われたのがPink Floydの「Echoes」(!)。

そのシーンになると最早サーフィン映画ですらなく、波頭が水面に砕ける瞬間をスローモーションで捉えた、まるでサイケデリック・アートみたいな様相。まあ「2001年宇宙の旅」の5年後と考えたら、スターゲイト場面みたいな感覚は割と成程と言えるのかも。とは言え圧巻なのも間違いないので、一見の価値はあり。
posted by ぬきやまがいせい at 23:05 | Comment(0) | 映画

2021.12.20

黄昏

観てみた。L・オリヴィエ主演、ウィリアム・ワイラー監督映画。1952年公開。

シカゴにやって来たキャリーだが、工場を首になりドルーエという男の愛人となる。そんな時レストラン支配人・ハーストウッドとの交遊から、彼と愛し合う様に。ハーストウッドは既婚者ながら資産家の妻との関係は冷え切っており、キャリーとNYへ駆け落ちする。ところが2人の生活は、困窮を極めて…という内容。

原作はセオドア・ドライサーの「シスター・キャリー」(1900年)という小説。本作の内容的には男女関係のドロドロ、上流生活からの貧困に再上昇と、次から次へと騒動が持ち上がる大河メロドラマ。そのドタバタさ加減から個人的にはなんだか、「風と共に去りぬ」(原作本の刊行は1936年)を連想したのだけれど…

ただ風と共に〜は結構スカッとする展開もあるのに、こっちは終始暗い話ばかり。対照的立場の2人を描いたラストは、寂しくてある意味良いのだが…翌年同監督が撮る「ローマの休日」が愛され続けるのは、やはり理由があるわな。
posted by ぬきやまがいせい at 23:27 | Comment(0) | 映画

2021.12.19

「ムツイリ・悪魔」レールモントフ著、一條正美訳

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読んでみた、ロシア人作家による叙事詩集。1951年発表。

修道院に預けられた少年。だが彼はある日姿を消した後、瀕死の状態で見つかった。彼が語ったその間の事情とは…(「ムツイリ」)。ある悪魔が、婚約者を亡くした女性を激しく愛してしまう。彼女は悪魔を受け入れるのだが…(「悪魔」)。

貴族出身ながら帝政時代のロシアで抵抗運動により流刑、更に戦地送りで活躍するも決闘で落命するという、激動の人生を歩んだ著者。解説によると本書収録作は、そうした彼の人生が反映しているとの事で…当時北村透谷も言及しただけあって、「孤独」と行き場の無さが通底して感じられる内容となっている。

なので「悪魔」(1829年)が登場すると言ってもそんなに悪いばかりの奴ではなく、愛情と絶望に身を焦がす何とも哀しいお話。ちなみにゲーテの「ファウスト」(第1部1808年、第2部1833年)に加えて、アンデルセンの童話作品も同時代(「人魚姫」の発表が1837年)なせいか、どことなく共通した空気を感じる。
posted by ぬきやまがいせい at 22:24 | Comment(0) | 読書

2021.12.17

「悪魔の事典」フレッド・ゲティングズ著、大滝啓裕訳

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読んでみた、イギリス人著者による宗教・神話解説書/事典。1988年発表。

宗教書や神話、文学や美術作品等に登場する「悪魔(デーモン)」。本書はそれらの名称を多くの異称も含めて事典形式で集成し、悪魔にまつわる関連項目と共に、西洋文化におけるその知られざる側面を解き明かす…という内容。

「辞典」じゃなくて「事典」。だから有名な「悪魔の辞典」ではないのだけれど…本書も悪魔に関する成句の項目や、人物評に関しては妙に辛口(〜は大して重要でないデーモン学者だが云々とか)だったりするので、ちょっとビアスの本っぽい所もある。とは言え本書は悪魔の名前を一堂に集めた、物量が最注目点。

何しろ事典なので通読する様な本ではない筈だが…以前自分は同著者による「オカルトの事典」も読んだものの、そちらに較べたら意外と最後まで飽きずに読み通せた。まあ自分は悪魔の名前と言われても、ガンダムのネーミング元がチラホラあるな…位の感覚。でももっと興味のある人には、お宝ではないかな。
posted by ぬきやまがいせい at 23:32 | Comment(0) | 読書

2021.12.15

雄呂血

観てみた。阪東妻三郎主演、二川文太郎監督映画。1925年公開。

久利富平三郎は師である松澄永山から、あらぬ誤解を受けて破門。その上行く先々で振り掛かる災難から、遂に牢破りのお尋ね者となってしまう。善人として知られる次郎三に救われたのだが、かねてより想いを寄せる松澄の娘・奈美江に危機が。平三郎は次郎三を斬って捨てるも、捕り手に囲まれ…という内容。

牧野省三による総指揮、23歳の阪東妻三郎がプロダクション独立後の初作品となるのが本作。当時「剣戟ブーム」を起こしたと言われるだけあって、クライマックスで27分にも渡って繰り広げられる、チャンバラシーンは圧巻の内容。

ただ検閲もあってか、全然スカッとする様な内容ではないのは意外。正義漢の主人公が一方的な不利益を受けて、それに抗うも空しく…という展開で、(大正デモクラシーの空気に即したとも言われる)理不尽とも説教臭いとも感じられる作品。まあ阪妻ならやっぱり、「決闘高田の馬場」の方をまず薦めたいよね。
posted by ぬきやまがいせい at 22:03 | Comment(0) | 映画

2021.12.14

「悪魔学大全(原題:The Encyclopedia Of Witchcraft And Demonology)」ロッセル・ホープ・ロビンズ著、松田和也訳

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読んでみた、イギリス人著者による宗教解説書/事典。1959年発表。

15世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパの各地他で行われた「魔女狩り」。本書はその際の魔女裁判関連資料を中心に、サバトや淫魔・夢魔といった「悪魔学」関連用語を、項目ごとに解説していく一大研究書である…という内容。

なので(原題からも判る通り)魔女術・魔女迫害が主で、悪魔に関してはそれらの証言を介し間接的に語られるだけ。だから実際読んだ印象は、邦題詐欺に近いのだが…本書の内容の前ではそんなの些細な話。当時刊行された魔女関連書や裁判資料という、一次文献が日本語で読めるというのに驚嘆してしまう。

ただ人類史上でも類を見ない愚行の記録なので、読んでいて気が滅入る事甚だしい。単に無知が原因なら、昔の人は愚かだったんだなで済ませられるけれど、魔女裁判の産業化や悪意の誣告みたいな事例は、現代と全く変わらないのが恐ろしい。一読を薦める…様な本でもないのだが、存在は知っていていい。
posted by ぬきやまがいせい at 22:49 | Comment(0) | 読書

2021.12.12

人生タクシー

観てみた、ジャファル・パナヒ監督映画。2015年公開。

映画監督のジャファル・パナヒは乗合タクシーのハンドルを握り、イランの街並みを縫って走る。彼が今日乗せる客は路上強盗や教師、更に交通事故の怪我人とその妻を始め、様々な人生模様を見せる人々。そしてパナヒの姪である少女は映画の勉強中で、カメラを片手に車窓から撮影するのだが…という内容。

国際的に高く評価されながら、体制に批判的という事からイラン国内では活動が制限されている同監督。本作も挑発的な描写が多々あり、自国内での上映は禁止されてしまった。…そう書くと物騒なイメージを抱いてしまうけれど、師事していたキアロスタミを連想させる飾り気の無さと、穏やかなユーモアが魅力的。

まあ政府批判の為の批判と言うより、制限されたからこそ見えたのであろう「映画作りの為の映画」という辺りが興味深い。姪が少年に向ける要求は正義感ではなく、映画作りの為の「エゴ」なのは、案外監督自身の内面吐露なのかも。
posted by ぬきやまがいせい at 21:33 | Comment(0) | 映画

2021.12.11

「悪魔の系譜」J・B・ラッセル著、大滝啓裕訳

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読んでみた、アメリカ人著者による宗教解説書。1988年発表。

悪魔の存在により象徴されて来た、人類における「悪」の歴史。本書はそれをキリスト教の誕生以前に遡り、更に西洋文化における文学や美術までを含めて、人々がいかに「悪」の問題と取り組んで来たかを解説していく…という内容。

著者は本書以前にも「悪魔」に関する、4冊の研究書を刊行している。本書はそれらを普及版として簡易的にまとめると共に、内容の訂正や更新を行ったもの。まあ自分はそちらの先行書は読んでいないので有難い本だが、本書だけでも仲々に専門的な内容ではある。専門的と言うか…馴染みのない話が多いな。

後半はミルトンやゲーテといった文学の話が中心で、そういうのは「象徴」としての悪魔なので理解はしやすい。でも前半キリスト教で議論された、神学・宗教学としての悪魔はなあ。何と言うか悪魔に対する各説も、コジツケとコジツケが言い争ってるだけのまるで異次元論法。まあそれが面白いと言えば面白いけど。
posted by ぬきやまがいせい at 21:40 | Comment(0) | 読書

2021.12.09

象は静かに座っている

観てみた。フー・ボー脚本、監督映画。2018年公開。

親友が目の前で自殺したチェン、娘夫婦から老人ホーム行きを望まれるジン。親から邪見にされ教師と関係を持ったリン、不良に絡まれた友達を助けて、逆に不良を階段から突き落としてしまったブー。それぞれどこにも行き場の無い4人が惹かれたのは、座り続けているという奇妙な「象」の存在で…という内容。

唯一の長編である本作の完成後、29歳の若さで自ら命を絶ったボー監督。その時点で既に伝説みたいな映画だが、各国で多くの賞を獲得している。内容的には…彼が師事したタル・ベーラの名を挙げれば、ああと納得する感じ。

4時間という尺もだが、寡黙すぎる作風は師匠譲り。加えて被写界深度の浅い画面で逆光を用い、アップの人物をまるで「壁」の様に配した圧迫感ある映像は、台詞が語る追い込まれた状況と共に、監督自身の行く末を暗示している様で息苦しい。師の作品の様に、キリスト教的受け口があればまた違ったのかな…
posted by ぬきやまがいせい at 23:09 | Comment(0) | 映画

2021.12.08

「悪魔の話」池内紀著

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読んでみた、日本人著者によるエッセイ集。1991年発表。

人類の歴史・文化の裏面で常に寄り添うかの様に、暗躍する存在なのが「悪魔」。本書はその謎めいた悪魔に関しての実像を探るのと共に、文学や美術といった作品で描かれる姿等、周辺的な話題も含めて紹介していく…という内容。

本書は講談社のPR誌、「本」で連載されたエッセイをまとめたもの。なので内容は体系立った研究書ではなく(当たり前だ)、その回その回で著者が思い付いた話題を綴っていく感じ。時には悪魔の話からすら離れてしまうけれど、軽く読む新書としてはむしろ幅広いネタを取り扱っているので、結構面白いのでは。

ただネタ元の研究書等が、既に邦訳も刊行されている本が殆どなので、原書から当たっていた澁澤龍彦辺りと較べるとお手軽に済ませた感が。…とは言え自分も初めて知る話や、以前読んだ本でも気付かなかった着眼点があり、悪くない本だと思う。根本的な疑問に対し、大胆な結論を示しているのも興味深い。
posted by ぬきやまがいせい at 14:28 | Comment(0) | 読書

2021.12.06

富士に立つ影

観てみた。市川右太衛門主演、佐々木康監督映画。1957年公開。

第11代将軍・徳川家斉の治世。江戸幕府は富士の裾野に、軍事教練の為に調練城の建設を計画していた。そこで呼ばれたのが赤針流・熊木伯典と、賛四流・佐藤菊太郎という築城家の2人。現地測量や視察を経て、彼らはそれぞれの腹案を元に討論を行う。だが計略を用いた熊木が勝利を納め…という内容。

原作は白井喬二が報知新聞紙上で、1924年から1000回に渡って連載した大長編時代小説。「大菩薩峠」「宮本武蔵」と並んで愛された作品…の様だが、現在では余り振り返られる事もなくなったかも。筆者も興味を持って読みたくなったはいいけれど、流石に長過ぎるので、映画でちょっとお試ししてみようかなと。

映画は原作小説のほんの触りだけなのだが、(チャンバラでなく)「築城学」が話の中心というのは面白い。まあ実際読むにしても、今取り組んでる長ーい時代劇シリーズが読み終わってからか。読み始めたからには読み終わらせたい…
posted by ぬきやまがいせい at 22:00 | Comment(0) | 映画

2021.12.05

「不夜城」馳星周著

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読んでみた、日本人作家による長編小説。1996年発表。

新宿で故買屋を営む健一は、日本と台湾のハーフとして複雑な人生を歩んで来た。そんな折、仕事の相棒だった富春が新宿に戻ったという。中国系裏社会で更なるトラブルを引き起こしかねない、富春に対して健一は…という内容。

著者の小説デビュー作である本書は、国産ノワール小説として大きな衝撃を与えた。評論家時代よりエルロイを高く評価していた(らしい)だけあって、激しい暴力と倫理観から外れた悪徳が渦を巻く内容だが…個人的な印象だと音楽に例えるなら、エルロイを白人ジャズとすると本書は「ド演歌」って感じなんだなあ。

著者の文体自体は普通な事もあってか、どんなに書いても空虚なエルロイとは逆に、過去や背景を書けば書くだけ演歌調になるのは面白い。しかもこの上無くメロドラマ的でもあるので、成る程日本の読者に受けた訳だわと。…まあ日本独自のノワールを完成させたという以上に、紛れもなく面白い小説なのも確かだ。
posted by ぬきやまがいせい at 14:27 | Comment(0) | 読書

2021.12.03

「愚者が出てくる、城寨が見える(あほがでてくる おしろがみえる)」マンシェット著、中条省平訳

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読んでみた、フランス人作家による長編小説。1972年発表。

精神を病んでいたジュリーは退院後、資産家・アルトグの邸宅で彼の甥であるペテールの世話係に雇われた。ところが直後に誘拐され、ペテールと共に命の危険に晒される。2人は隙を見て、犯人から逃げ出したのだが…という内容。

まず「ノワール」って言葉が仏語なんだから、フランスがこのジャンルの本場という事でいいのかな。米ハードボイルドからの発展なのは間違いないものの、1946年にヴィアン「墓に唾をかけろ」が社会現象になったのは大きそう。…で本書の著者「ジャン=パトリック・マンシェット」も、同国を代表するノワール作家。

内容はと言うと…これ映画「グロリア」(1980年)っぽい。そちらはカサヴェテス監督のオリジナルの様だし、影響云々も判らないけれど…まあ本書の方は登場人物の狂い方が尋常じゃないので、多分関係はないだろう。とは言え米国と仏国で、当ジャンルにおける水面下の交感が続いている、実例ではあるのかな。
posted by ぬきやまがいせい at 01:12 | Comment(0) | 読書

2021.12.02

「ポップ1280」ジム・トンプスン著、三川基好訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編小説。1964年発表。

「人口1280人」の町・ポッツヴィルで長年保安官の任に就く、ニック・コーリー。妻は元より複数の女性達と関係を持つ彼だが、来たる保安官投票を始め心配の種が尽きない。だがそんなコーリーは、殺人にも躊躇が無く…という内容。

映画「ゲッタウェイ」の原作、更にキューブリック監督作品で脚本も担当したという著者だが、生前は(意外な事に)名声には恵まれなかった。現在ではノワール小説の巨匠として世界的に評価され、本書はその中でもよく読まれている代表作。で本書も、ノワールには違いないけれど…一風変わった作風と言うか。

米国ホラ話風の荒唐無稽さに、明け透けな人種差別ネタを加えたブラックな笑いが採り入れられている。そのくせ狂気を狂気とも思わない主人公の思考回路は、ゾッとするくらいに逸脱的。でもドストエフスキーやマーク・トウェインに例えられると、納得してしまいそうな文学的含蓄を感じさせる辺り、タチ悪いよな…
posted by ぬきやまがいせい at 01:28 | Comment(0) | 読書