2022.01.31

「構造主義」ジャン・ピアジェ著、滝沢武久、佐々木明訳

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読んでみた、スイス人著者によるノンフィクション。1968年発表。

様々な事物から「構造」を抽出して分析を行うという、現代思想の一分野である「構造主義」。1960年代に登場したその考えを、本書では数学や物理学、心理学に言語学といった、幅広い分野から例を引いて解説する…という内容。

著者自身は心理学者として有名だが、元々生物学の研究者出身という事もあってか、本書でも「構造主義」を広範な知識を用いて横断的に解説していく。なので論理/数学記号やらゲシタルト心理学やら、ソシュールやらフーコーやらがほいほい飛び出して面食らうものの、各分野を順繰りに紹介したと思えばいい。

一方でレヴィ=ストロースとサルトルとの論争や、フーコーの著作等に関しては結構厳しい見解を示しているのが興味深い。ただ個人的には、言葉の洪水をワッと一気に浴びせるのには、待ってくれたまえ(by 石清水)と言いたくもなるのだな。手軽に構造主義を知る事が出来る…気もしないけど、名著なのは確か。
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2022.01.30

「記号論への招待」池上嘉彦著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1984年発表。

ソシュールやパースの研究を踏まえて成立した、「記号」を用いて言語や文化等の表出を、解明する学問分野。本書はそうした「記号論」が示すものを、様々な側面から検討し、一般読者に向けて解説した入門書である…という内容。

浅田彰「構造と力 記号論を超えて」が前年の刊行なので、本書はまさに記号論が現代思想の最先端として注目された時に出た本。だからか特に記号論の歴史的成立には触れておらず(上記人物の名前は挙がってない)、割合身近な話題からこの分野の概説を行った感じ。…まあそれでも結構難しかったのだが。

個人的に本書に対する印象は、コードだ情報だコンテクストだと、まるで神林長平の小説でも読んでるかの様な(逆だ逆だ)。意味/言語/概念をこねくりまわし続ける内容は、相当に混乱させられるのだが…物事の意外な側面が明らかになる感覚が、刺激的なのも確か。今読んでも相当面白い本ではなかろうか。
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2022.01.28

「実存主義入門 / 新しい生き方を求めて」茅野良男著

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読んでみた、日本人著者による思想/哲学解説書。1968年発表。

西洋哲学の潮流の中で第二次大戦後、サルトルらによって広められた「実存主義」。本書ではキルケゴール、ハイデガー、ヤスパース、サルトルという、4人の主要人物の思想を手掛かりに、「実存」とは何かを解明する…という内容。

刊行の2年前にはサルトルが来日している事もあって、「実存主義」がリアルタイムの思想として注目される中、入門編として執筆されたのが恐らく本書。ただ長年ハイデガーを研究して来た著者だけあって、本書も本格的な内容で…それらの思想を要約していても、言うほど平易化はしてないので、相当難しいまま。

個人的にハイデガーの解説で一番判りやすかったのは「文学部唯野教授」で、本書を読むにもそれを思い浮かべてたりして。…でも実存主義に絞って解説しているお陰もあって、意外と知らずに済ませていた事(実存=現実存在の略、とか)が判る。無理に深読みはせずに、さっと概略理解の為に読むのはいいかも。
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2022.01.27

ブラックホール

観てみた。M・シェル主演、ゲイリー・ネルソン監督映画。1979年公開。

宇宙を探索中のパロミノ号が、巨大「ブラックホール」近傍で、20年前に行方不明となった宇宙船・シグナス号を発見。内部に進入した乗員達は活動を続ける多数のロボットと、唯一の生存者であるラインハート博士と出会った。孤独に研究を続けて来た彼だが、ロボットの一体が博士の秘密を語って…という内容。

ディズニーの製作による大作SF映画。公開時期を見れば判る様に、本作も「スター・ウォーズ」(1977年)の熱狂的ブームを受けてのものだろう。おそらくモーションコントロールカメラを用いただろう映像は、現在の目で見ても本当に見事。宇宙船内の広大な空間表現と共に、見応えある作品となっている。

ただその代わり、ストーリーは本当に退屈。以前観た時もしんどかったけど、今回は更につらかった。「禁断の惑星」を思わせる要素があり、成程同じディズニーだな…とは思ったけれど、本作をテンペストの翻案とは言えないよなあ。
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2022.01.25

「女の一生」モーパッサン著、杉捷夫訳

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読んでみた、フランス人作家による長編小説。1883年発表。

若きジャーヌは修道院を出て、レ・プープルの屋敷での暮らしを始める。その際出逢ったジュリアン子爵と間もなく結婚し、コルシカ島への新婚旅行に出発。だが旅先から戻った直後、夫が吝嗇で好色漢という本性を現し…という内容。

また不倫の話…でも主人公女性は被害者の方。不倫というか夫の浮気癖で、最近こういうの無職転生で見たわーと。本作は映画でなら、以前観てはいたのだが…内容ぜんぜん覚えてなかった(移動小屋破壊だけは強烈すぎて別)。でも今回実際に読んでみた原作は、意外や波乱万丈でおもしろいのなんの。

ほぼノルマンディーから移動しないし、話としても上記の通り浮気夫や、放蕩息子に振り回される女性を描いてるだけ。それが主人公女性の激動する内面感情を追う事で、何とも鮮烈な印象を与えている。まあ仏自然主義文学の大名作なんだから、自分があえて説明する必要もないだろうけど…成る程おもしろい。
posted by ぬきやまがいせい at 22:48 | Comment(0) | 読書

2022.01.24

「赤い百合」アナトール・フランス著、小林正訳

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読んでみた、フランス人作家による長編小説。1894年発表。

世紀末のフィレンツェ〜パリ社交界の花形、マルタン・ベレーム伯爵夫人。政府要人の夫を持ちながら男性との浮名を流す彼女だが、ドシャルトルの熱愛を受け遂に真実の愛に目覚める、ところが元恋人のル・メニルが…という内容。

また不倫の話…本当に定番なんだな。でアナトール・フランスと言えば、個人的には石川淳との関連をまず思い出すけれど、今回は石川訳ではなくて別の人。本書は著者唯一の恋愛小説との事なのにロマンチックではなく、当事者が自分の恋愛感情を分析的に長々とした台詞を用いて語る、心理小説といった感じ。

しかも当時のサロンで交わされていただろう知的な会話、宗教・政治に文学・芸術等を盛り込んだ(今読んだ印象だから?)衒学的という感覚もある。石川淳じゃなく、まるで小栗虫太郎だ。…とは言えこれが案外面白い。ずっと苦悩して、嫉妬心から女をまるで信用しない男の描写と共に、恋が楽しくなさそうな辺り。
posted by ぬきやまがいせい at 23:05 | Comment(0) | 読書

2022.01.23

「シェリ」コレット著、工藤庸子訳

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読んでみた、フランス人作家による長編小説。1920年発表。

元高級娼婦で49歳となる女性・レアは、同業の女性の息子で奔放な魅力を持つ青年、25歳の「シェリ」と交際していた。ところがシェリが財産目的で結婚した事で消沈、彼女は身を隠す。一方シェリも彼女を忘れられず…という内容。

女優出身で小説家のみならず、多方面にスキャンダルな話題を振りまいたという著者。本書では彼女が、ジッドを始め仏文学界から初めて認められ、作家としての実力を示した。…内容は要するに「歳の差カップルの不倫劇」で、仏文学では割と普遍的な題材らしい(自分はラディゲの、「肉体の悪魔」を連想した)。

当時の服飾や文化等に多く紙幅を割いており、風俗小説的な印象もあるのだが…馴染みの無いせいか、どうも個人的にはフワフワした感覚が。でもクライマックスになると一転(まあ当然別れる事になるんだけど)何とも鮮明で、それ故の(当時レアと同年齢だった著者自身をも見据えた)残酷さにハッとさせられる。
posted by ぬきやまがいせい at 23:26 | Comment(0) | 読書

2022.01.21

悲しみは空の彼方に

観てみた。ラナ・ターナー主演、ダグラス・サーク監督映画。1959年公開。

女優志望のローラと一人娘・スージーに、黒人女性・アニーとその娘ながら白い肌を持つサラジェーン、という2組の母子。彼女達は不遇時代を共に乗り切り、ローラは遂に舞台女優として大成功を収めた。ところが人種的なコンプレックスを持つサラジェーンは母親と対立、家を出て行ってしまうのだが…という内容。

原作はファニー・ハーストの小説「Imitation Of Life」、1934年には「模倣の人生」の題で映画化もされている。内容は女優であるローラを描いたバックステージもの…かと途中まで思ったら、いつしかアニー母子の話へぐっとフォーカスされる。要は立場の異なる2組の母子を描いた、ホームドラマと言うべきだろう。

個人的にはターナーの毛髪が、リアル・サザエさんという感じで(当時流行した髪型のアレンジだったんだな…)そこばかりが気になったのだけど。でもアニー母子の、秘めた情愛を込めた別れのシーンは本当に感動的。名作すなあ。
posted by ぬきやまがいせい at 23:47 | Comment(0) | 映画

2022.01.19

「椿姫」デュマ・フィス著、吉村正一郎訳

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読んでみた、フランス人作家による長編小説。1848年発表。

19世紀のパリで「椿姫」と呼ばれた、高級娼婦・マルグリット。彼女を一目見て惹かれた青年・アルマンは、激しい愛憎をやり取りした末に、とうとうマルグリットの愛を勝ち取る。ところが彼の父親はその成行に納得せず…という内容。

息子の方のデュマ(小デュマ)。本書は彼が書いた初の小説との事だが、その後ヴェルディによるオペラ化を始め、様々な分野で現在も愛され続ける作品となった。椿姫には早世したマリー・デュプレシという実在のモデルがいた様で、著者自身の彼女との体験が反映している。マジか、何というロマンチックな…

本書では恋人2人とは異なる第三者的な語り手の視点を置き、それが著者なのかと思ったら当事者だった。しかも老成した語り口の割に、実は24歳時の作品だという。…自己犠牲を貫いたマルグリットの抑制的な生き様と、著者の抑制的な筆致が重なって見える辺り興味深い。本当に、恋愛文学の名作なのである。
posted by ぬきやまがいせい at 22:25 | Comment(0) | 読書

2022.01.18

カラー・アウト・オブ・スペース / 遭遇

観てみた、ニコラス・ケイジ主演、R・スタンリー監督映画。2020年公開。

都会の喧騒を離れ、アーカムの森近くの屋敷に引っ越した、ネイサン・ガードナーと4人の家族。だがある夜前庭に、宇宙からやって来たと思われる隕石が墜落。しかも岩塊が忽然と消えて騒然とした後、その地での水質汚染を手始めに、動物の異常行動に怪物化。更にネイサンの愛する家族までもが…という内容。

原作はH・P・ラヴクラフトの短編小説「宇宙からの色」。本作は時代設定を現代に置き換えているものの、お話の骨子自体はまあだいたい一緒かな(筆者が読んだのは相当前なので、あらすじでの確認)。…とは言え原作で確か、「見た事も無い様な色」と形容していた色彩描写は、流石に映像にしようがないわな。

短編からの映画化なので、大したストーリーがある訳ではないけれど…クトゥルーものらしく、画面上に「ネクロノミコン」なんか登場させてる辺りはお約束。でも明らかに装丁がペーパーバックなので、えらい普及してる世界なんだなと。
posted by ぬきやまがいせい at 23:18 | Comment(0) | 映画

2022.01.16

「魔の沼」ジョルジュ・サンド著、杉捷夫訳

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読んでみた、フランス人作家による中編小説。1846年発表。

妻を亡くし、まだ幼い子供を抱えた農夫のジェルマンは、舅から再婚話を持ち掛けられる。相手の後家と会うべく出掛けた彼だが、途中の森で道に迷ってしまう。その際に機転を見せた同行の娘、マリに彼は愛情を覚えて…という内容。

シャッフル同盟じゃない方のサンド。…この本はタイトルだけ見て怪談かと思って買ったのだが、全然ちがった。内容的には著者の「田園小説」期の作品と言われており、自身が過ごした田舎での体験(本書に関してはホルバインの絵画も)が反映している。それに加えて「小」冒険、恋愛小説的な要素も見逃せない。

個人的には田舎暮らしの男女が、これまで見過ごしていた互いの存在に気付いて結ばれる…といった展開に、L・M・モンゴメリっぽさを感じたのだけど(赤毛のアン刊行が1908年だから、勿論影響を受けた?側)。でもマリが見せる緊急事態でのサバイバル技能は、結構男の子受けしそうな感じ。面白い小説だよ。
posted by ぬきやまがいせい at 22:39 | Comment(0) | 読書

2022.01.15

「宇宙誘拐 / ヒル夫妻の"中断された旅"」ジョン・G・フラー著、南山宏訳

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読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1966年発表。

1961年9月19日。「ヒル夫妻」は自動車で走行中、奇妙な飛行物体に遭遇する。その体験の際に時間感覚の齟齬が生じ、精神科医による催眠療法を受けたところ、彼らは何と宇宙人に誘拐されたという体験を語りだし…という内容。

UFOによるアブダクション事例として、最初に有名になった「ヒル夫妻誘拐事件」。本書は夫妻への取材に基づき、精神科医との実際の対話から浮かび上がる事件の全容を紹介して、センセーショナルな話題となったこの分野の古典。…ゆえに胡散臭い印象は仕方ないけれど、内容自体はほぼカウンセリング記録集。

事件が実際にあったか早計な判断は下さず、客観的記述を心掛けている辺り好印象。なのでまあ読み物として面白いかどうかまでは保証出来ないな。本書には夫妻が描いたスケッチも収録されているのだが、アブダクティは絵が下手な人が選ばれる…なんてネタの通り、元祖である夫妻の絵も大概なのである。
posted by ぬきやまがいせい at 22:24 | Comment(0) | 読書

2022.01.14

「失われたムー大陸 / 第一文書」ジェームス・チャーチワード著、小泉源太郎訳

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読んでみた、イギリス人著者による古代文明解説書。1931年発表。

1868年、チベットの僧院で発見された粘土板文書から著者は、古代太平洋上に存在しながらも水没した「ムー大陸」の実在を確信する。本書はムー大陸を世界各地に残された文献や、著者の推理を元に解明していく…という内容。

本書で一世を風靡した「ムー大陸」、でもその後の調査研究により否定されている。現在ではオカルト書そのものだが、当時はもうちょっと真面目に読まれていたのかもなとは思う。粘土板の図版や象形文字の説明も駆使した内容は、所によっては何だかレヴィ=ストロースの本でも読んでいる様な気がしてくるし。

ただそれも皆(肝心の粘土板すら)捏造と判明した現在では、全ページ疑いつつ読まないといけないので案外疲れる。…とは言えノンフィクション風に書かれた一種の「伝奇小説」とでも思いながらなら、これはこれで諸星大二郎や星野之宣的な面白さがあるかもしれん。え?、あと4冊あるの?…いやもういいです。
posted by ぬきやまがいせい at 19:50 | Comment(0) | 読書

2022.01.12

「世界の七不思議 / 古代から現代までの29話」庄司浅水著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1968年発表。

古代ギリシアの数学者・ビザンチウムのフィロンが選出したものより始まって、これまで様々な人々により語られて来た「世界の七不思議」。本書はそれらを歴史的な挿話から紹介し、著者による最新の七不思議も加えて紹介していく。

ピラミッドや空中庭園等、フィロン選定による七不思議は古代に建造された建築や巨像といった、「人工物」を集めたものなのはよく知られている通り。なので本書もそれら(加えて中世に選出された、万里の長城やピサの斜塔等)を語る際には、建築・土木事業に関する歴史エピソード集という感じで話は進んでいく。

でも著者選の七不思議はネッシーやムー大陸、雪男にUFOととたんにオカルト系書籍になってしまう。それらも客観的事実の紹介というスタンスの様だが、UFOビリーバーである事を著者自身認めた上で書いているので…まあそういう本でもある。なので個人的には前半の方が興味深かったけど、これはこれで。
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2022.01.10

「動物百科 / 謎の動物の百科」今泉忠明著

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読んでみた、日本人著者による動物解説書。1994年発表。

ネッシーやユニコーンから、ツチノコにサスカッチまで。「未確認動物=UMA」とも呼ばれるそれら謎の存在を、目撃・探索史から生物としてありうる可能性。更に誤認された原因も推測しつつ、豊富な図版と共に解説する…という内容。

なのでオカルト的な胡散臭いものではなく、程々に専門的な内容を交えつつ真面目に考察していく本。全ページカラーで図版も豊富なのに、(まあ当たり前だけど)肝心のUMAは下手ウマなイラストで、写真は関連のありそうな実在動物ばかり。いかにもな本でない代わりに、一風変わった動物研究史として面白い。

モケレ・ムベンベの古代大型哺乳類説は、(恐竜説とは)また違ったロマンがある。一方UMAとして殊更人気がある訳ではない筈だが、「猿人」の目撃例はかなり広範囲である様で、本書でも半分ほどの分量を占めている。同じ様なやつばっかりじゃん!って気にもなったけど、それだけ誤認しやすいのだろうな。
posted by ぬきやまがいせい at 23:21 | Comment(0) | 読書

2022.01.09

「地下室の手記」ドストエフスキー著、江川卓訳

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読んでみた、ロシア人作家による中編小説。1864年発表。

貧しい官吏職生活を引き払い、「地下室」で人々との交流から隔絶された日々を送る主人公。本書は虚栄心と自意識過剰が昂じて社会との接点を失った男の姿を、彼がしたためた内面発露の「手記」という体裁で綴る…という内容。

なにこの俺。昔読んだ「ライ麦畑でつかまえて」の主人公に覚えた、シンパシーを彷彿させられた。まあ同著者の創作史上の重要作、という紹介も間違いないんだろうけど…世界を呪って悪態ばかり付く主人公に、「わかるー」ってなる自分がイヤだ(文学作品の主人公を重ねてる俺カッコイイ…とは正反対だからねこれ)。

とは言え後の長編につながる要素と共に、国や時代を超えた様々な影響が窺えるのも興味深い。他人との軋轢から来る小市民喜劇はゴーゴリ風だし、主人公の内面を開陳する長広舌は埴谷雄高の「死霊」での、首猛夫による長々とした喋りを連想させる。でもやっぱり自分には、グサグサ刺さる事がつらいわ…
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2022.01.07

アンノウン・バトル / 独ソ・ルジェフ東部戦線

観てみた、イーゴリ・コプイロフ監督映画。2019年公開。

第二次大戦中の1942年11月。ソ連国内「ルジェフ」でドイツ軍に占領されていたある村を奪回するも、赤軍部隊は多大な犠牲を強いられてしまう。しかも独軍からの反撃が予想される中、敵機より撒かれた宣伝ビラを巡り兵士と政治将校とが対立。敵味方を問わない理不尽な戦場は、彼らを追い詰め…という内容。

スターリングラードにおける勝利に反し同時期ルジェルでの敗北は、ソ連では長らくタブーとして扱われて来たとの事。本作は当事者の兵士に捧げられており、凄惨でシリアスな戦闘描写と共に、政治将校との確執や身分を偽った犯罪者。加えて上層部の理不尽といった、社会派的(反戦とは違う)内容となっている。

キューブリック「突撃」やジョゼフ・ロージー「銃殺」を連想させる面もあるので、映画に娯楽を求める人にはピンと来ない作品かもな。とは言え大変な力作なので、(ロシア製戦争映画に興味があるなら特に)一見の価値はあると思う。
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2022.01.06

ボルベール / 帰郷

観てみた。ペドロ・アルモドバル脚本、監督映画。2006年公開。

スペインはラ・マンチャの小さな墓場を掃除するのは、3年前に両親を火事で喪った一家の女性達。次女・ライムンダが帰宅すると一人娘のパウラが、なんと彼女の夫を刺殺してしまった。更に叔母のパウラが急死してしまい慌ただしく葬儀を終えたのだが、長女・ソレの前に死んだ筈の彼女が現れて…という内容。

主役のライムンダを演じるのがペネロペ・クルス。本作でアカデミー主演女優賞へのノミネート等と世界的にも高く評価されたそうだが、最初に注目されたのも同じくアルモドバル監督の、「オール・アバウト・マイ・マザー」だった(らしい)。

ビビッドな色彩に悪趣味寸前のコメディ演出。更に女性ばかりが中心で、男性出演者には重要な役割が与えられてない辺り(上記作や「トーク・トゥ・ハー」と共に「女性賛歌3部作」を成すとの事)本作は、実際同監督らしい作品と言えるだろう。なのでやっぱりこの人の作品は苦手だわと、再確認した訳でもあって…
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2022.01.04

ザ・フォッグ

観てみた。A・バーボー主演、ジョン・カーペンター監督映画。1980年公開。

100周年の記念祭を迎える小さな港町、アントニオ・ベイ。だがその夜濃密な「霧」と共に朽ち果てた帆船が入港し、何者かが町民を次々に殺戮していく。地元ラジオ放送を担当するスティビーがj必死に危機を訴える中、実は100年前町の人々に殺されて亡霊となった者達が、復讐にやって来たのだ…という内容。

2005年にはリメイク版も製作されているので、同監督の代表作と言ってよいのだろうか。それにしては本当に退屈なのだが。公開当時の宇宙船誌にも前作「ハロウィン」の様な、具体的な殺人鬼じゃないと駄目だなと書かれていた筈。

とは言え霧の中から逆光で浮かび上がる亡霊は幻想的で、そのイメージをもっと活かせてたら違ったろうに。あと本作でもカーペンター自身が音楽を担当しているんだけど、それがどうにも「Tubular Bells」っぽいのは時代だなと。…映画屋ジョンがMike Oldfieldと共演する姿が脳裏に浮かんだら、なんか和んだ。
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2022.01.03

ホーリー・モーターズ

観てみた。レオス・カラックス脚本、監督映画。2012年公開。

パリの街を舞台に俳優であるオスカーは、セリーヌの運転するリムジンの中で扮装し、次々に「役」を演じていく。物乞いにモーション・キャプチャー俳優、ギャング更には「ポンヌフの恋人」の主人公と、彼は変転してゆき…という内容。

カラックスが、13年振りに監督した単独作。何でそんな表現をするのかと言うと、2008年には(以前紹介した)オムニバス作「TOKYO!」を手掛けているから。で本作にも実はそちらの「メルド」の怪人が、ゴジラのテーマ曲と共に登場するという趣向。…要は自作を含めた「映画」というものを、メタ的に描いた内容。

まあそれが判っていれば、割と面白く観られるかな。とは言い切れない感じが、正直何とも困るなこれ。…街中を歩きつつトラッド風の音楽を演奏したり、ミュージカル調に歌い始めたりと、カラックスらしく音楽の使い方なんか興味深いんだけど。よっぽど変な映画が観たい、って人にならお薦めしていいかもしれん。
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