2022.02.28

「逃げるアヒル」ポーラ・ゴズリング著、山本俊子訳

51ouPR4FMzL.jpg

読んでみた、アメリカ人作家による長編冒険小説。1978年発表。

広告会社勤務のクレアは、ある日何者かから狙撃を受ける。犯行はプロの殺し屋によるもので、襲撃に失敗した犯人は彼女を執拗に付け狙う事に。クレアは護衛に付いた刑事・マルチェックと共に、敵と対峙するのだが…という内容。

本書は2度ばかり映画化されており、最初はシルヴェスター・スタローン主演の「コブラ」(1986年)。そちらは脳筋アレンジのお陰でか、まあ原作ファンからは散々の評判だけれど…本書も読んでみると、衝突する男女の恋愛をユーモラスに描く「スクリューボール・コメディ」の、枠組みを用いた構成な辺り興味深い。

とは言え原作で特に評価されているのは、ギャビン・ライアルを彷彿とさせるクライマックスでの銃撃戦。女性作家のデビュー作とは思えない緊迫感の連続で、手に汗握る。なので途中までの展開とで、ギクシャクした印象もあったものの…やっぱり映画よりいいな。コブラはフォード・マーキュリー以外見どころないし。
posted by ぬきやまがいせい at 22:40 | Comment(0) | 読書

2022.02.27

「科学報道」柴田鉄治著

IMG_8795.JPG

読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1994年発表。

科学がもたらす画期的な進歩、もしくはそれと正反対な社会的問題。本書はそうした出来事に対する「報道」の現場に長年携わって来た著者が、自身の体験を踏まえて、科学と報道との関りを様々な実例と共に紹介する…という内容。

乱暴な事を言うと報道が大きく採り上げるニュースは大抵「悪い事」なので、本書も公害や原発事故といった科学の「負の側面」を主に扱っている(夢と希望の象徴みたいなロケット開発で、金銭スキャンダルがあったなんて知らんかったわ…)。先日の「科学技術は人間をどう変えるか」と真逆すぎてある意味面白かったけれど、記憶の底に沈んでいた気の滅入る事件を、掘り起こされて結構つらい。

…とは言え暗い・イヤな話ばかりでもなく、後半になると(著者が記者として所属した)朝日新聞の主導による、南極観測の報道フィーバーなんかで面白い。本書は「科学朝日」での連載だったそうだけど、作者も流石に疲れたのかも。
posted by ぬきやまがいせい at 20:58 | Comment(0) | 読書

2022.02.26

マガディーラ / 勇者転生

観てみた、S・S・ラージャマウリ監督映画。2009年公開。

ハルシャはインドゥという女性の手に触れた事で、電撃的な感覚に襲われる。実は2人は400年前のウダイガル王国で、それぞれ戦士と王女として暮らし、惹かれ合いながらも悲劇的な最期を迎えていたのだ。しかも転生した彼らの前に、やはり生まれ変わった旧敵・ラグヴィールが立ちはだかり…という内容。

監督を始めとする「バーフバリ」のスタッフが手掛けた、同シリーズのルーツとも言われる作品。古代英雄戦史的な題材や、悠久の時間を股にかけた構成に共通点が見られるけれど…まあやっぱりバーフバリの方が、出来としては数段上だな。いかにもインド映画な歌や踊りにアクションが、だいぶダラダラしているし。

逆に言えば、インド映画としては充分以上のクオリティではあるんだけど(そういう意味だと同監督なら、コメディメインの「マッキー」が好き)。相当に荒唐無稽でいい加減と言うかデタラメ…でもこのパワーは、やっぱり魅力的なんだよな。
posted by ぬきやまがいせい at 22:40 | Comment(0) | 映画

2022.02.24

「相対性理論」アインシュタイン著、内山龍雄訳・解説

512DNVWKV0L.jpg

読んでみた、ドイツ人著者による科学論文/解説書。1988年発表。

天才物理学者アルベルト・アインシュタインにより、時空間の概念を根本から変革するまでに至った「相対性理論」。本書は同理論における最初の論文「動いている物体の電気力学」と共に、訳者による解説を加えたもの…という内容。

上記論文が世に出た1905年には、「光量子仮説」「ブラウン運動」という重要な研究も発表されており、「奇跡の年」と呼ばれている。本書の論文は「特殊相対性理論」と呼ばれるものだが、内容自体はごく短いもの。頁数としては解説の方が長いくらいだけれど…サラっとよんで、すぐ理解できる様なものでもないな。

だからまあ、まずはブルーバックス辺りで軽く概要を頭に入れて、本書ではアインシュタイン自身が執筆した原典を(訳者の言う通りに)「鑑賞」する、という感じで取り組むのがいいんだろうな。著者自身この理論から得られた結論に「奇妙な」と記しており、ああ本人もそう感じてたのか…なんて事が判るのも面白い。
posted by ぬきやまがいせい at 22:33 | Comment(0) | 読書

2022.02.23

「科学技術は人間をどう変えるか」石井威望著

715FDj3goSL.jpg

読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1984年発表。

主に西洋のルネサンスを起点に、産業革命から最新のエレクトロニクス革命等、「科学技術」は人類史に深く関わって来た。本書は過去から将来へ向けての科学技術と人間との関係を、様々な分野から例を挙げて語る…という内容。

本書は著者が一般向けに行った講演を元にまとめたもので、成る程平易にかみ砕いた内容。それ以上に多分時代性あっての事と思うけど、日本が世界のトップにも昇りそうな当時の勢いを反映してか、大変に科学技術に対しては(自身はバランスに気を付けたそうだが)楽観的な論調となっているのが面白い。

まさに「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言うか、少し前の「日本スゴイ」を思い出す感じ。「どう変えるか」と問うているのに、公害・環境問題等の負の側面に触れていない(日本バッシングには言及)のにはビックリした。…まあ逆に言えば、当時の雰囲気を味わうにはいい本ではなかろうか。個人的にも嫌いではないし。
posted by ぬきやまがいせい at 23:26 | Comment(0) | 読書

2022.02.22

「科学の価値」ポアンカレ著、吉田洋一訳

61eRULGjF7L.jpg

読んでみた、フランス人著者による科学解説書。1905年発表。

科学の価値とは、「物事の本当の関連を教えてくれるか」であるとするポアンカレが、一般読者に向けて著したエッセイ集。数学や物理学における当時最先端の話題を採り上げつつ、著者独自の見解を踏まえて解説する…という内容。

主に数学分野で有名ながら「万能学者」とも評される著者が、科学を幅広い方面から語っている。冒頭で科学者を「論理的」「直観的」と分けているのだが…自身はもっぱら後者で、その事で批判も受けたらしい。本書でも空間を、視覚/筋肉/経験といった突飛な概念から説明する辺り、読んでて自分も何がなんやら。

本書が刊行されたのは実はアインシュタイン「特殊相対性理論」が発表された年なので、それに触れられなかった点からも少々内容の古さは否めない。でもエーテル仮説を始めとする当時主流の学説を、「いずれは撤回される筈」のものとする見解は先見の明に優れており、本書は現在読んでも示唆に満ちている。
posted by ぬきやまがいせい at 22:55 | Comment(0) | 読書

2022.02.20

「リトル・ドラマー・ガール」ジョン・ル・カレ著、村上博基訳

18623606_main_l.jpg 18623605_main_l.jpg

読んでみた、イギリス人作家による長編小説。1983年発表。

ユダヤ人を標的にした、アラブ過激派による爆弾テロが横行する欧州。英国人の舞台女優・チャーリィは、イスラエル諜報機関からのスカウトを受ける。それは彼女の演技力を活かして、組織内に潜入するという任務で…という内容。

本作も1984年にジョージ・ロイ・ヒル監督で映画化されている、様だけれど自分は未見。本作では「女優」や「演技」といったテーマが焦点になるので、映画化自体は面白くなりそうな気もするが…どうだったんだろうな。まあ本書に関して言えば、冷徹なスパイ戦の一方で、ロマンチックな薫りも添えられている。

ギリシャからパレスチナと移り変わる情景描写に、優雅なバカンスからアラブ民兵キャンプへと、落差の激しい世界の様相が暴かれるのも巧み。また現実世界を架空の劇場に準えると共に、真実と偽りの演技とのはざまに身を置いた主人公の葛藤。その上でまさに「劇的」な、一場の舞台劇の様な幕切れも鮮やかだ。
posted by ぬきやまがいせい at 22:29 | Comment(0) | 読書

2022.02.19

バーフバリ / 王の凱旋

観てみた。プラバース主演、S・S・ラージャマウリ監督映画。2017年公開。

戦いの中次期国王の座を射止めたバーフバリ。彼はある日出逢ったクンタラの王妹・デーヴァセーナに惹かれ、同国に密かに潜入する。ところがバラーラデーヴァが彼女との婚姻を望んだ事で、国母・シヴァガミと対立する事になってしまう。彼はデーヴァセーナを選び、国王の座を明け渡したのだが…という内容。

バーフバリ2部作の後編。親子三代に渡る確執・因縁を描いている本作だが、父・バーフバリと息子・バーフバリを同じ俳優が演じているので、気を抜いているとどの時点の話だか判らなくなる。…とは言え、そこが見所でもある訳で。

本作はもちろん派手で荒唐無稽なバトル描写が最大の売りだが、世代を隔てて(同じ人が演じているから、同じ人にしか見えないけど)紡がれる台詞や曰くありげな行動が、「伏線」としてバチバチっとはまっていくのが快感。単なるアクションものでない悠久のスケール、そして構成の妙を感じさせてくれるのが魅力だ。
posted by ぬきやまがいせい at 00:19 | Comment(0) | 映画

2022.02.18

バーフバリ / 伝説誕生

観てみた。プラバース主演、S・S・ラージャマウリ監督映画。2015年公開。

巨大な滝の麓の村に、一人の赤子が流れ着く。シヴドゥと名付けられた子供は成長し、25年が過ぎた。何度咎められても滝の上を目指して登り続けるシヴドゥは、遂にマヒシュマティ王国へと辿り着いた。バラーラデーヴァがその地で恐怖政治を敷く前、「バーフバリ」という王子が彼と王位を争っており…という内容。

バーフバリ2部作の前編。インド国内での最高額予算で製作、一時は興収トップを記録した本作は、国際的にも高く評価された。…内容面では神話的英雄を描いたスペクタクル史劇だけれど、実際そういう伝承があるのかよく判らない。

特筆すべきはやはり映像面で、圧倒的なスケールのアクションには目を見張る。ただ演出としては、スローと通常速を頻繁に切り替える…要はガイ・リッチー風のアレ。この手法って何か知らんけど、どこの国でも受けるんだな。でも後編になるとむしろ、ハリーハウゼンのモデルアニメ調になるのが何だか不思議。
posted by ぬきやまがいせい at 22:36 | Comment(0) | 映画

2022.02.16

「科学と外交 / 軍縮、エネルギー、環境」今井隆吉著

i-img720x720-1618458441mgdob832095.jpg

読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1994年発表。

長年月関係の薄かった「科学と外交」が、近年の目覚ましい科学技術の発達に伴い重視される様になった。本書ではそれらの関係を、核兵器を始めとする軍事、原子力等のエネルギー面、そして環境問題から解説する…という内容。

国際学者辺りが書いた本かと思って読み始めたのだが…本書の著者は理系出身ながら、軍縮会議大使やクウェート、メキシコの大使等を歴任したバリバリの外交官。なので本書刊行時でも燻っていた、湾岸戦争等に関しても独自の述懐を見せており、そうした自身の経験が反映した辺りの記述は、興味深く読めた。

ただ逆に上記した様な各項目では、科学的知見や歴史的な出来事を圧縮して列記している感じなので、読んでいてなかなか手強い(「外交」と言うよりは、国際政治との関連を説明している印象だし)。…とは言え、独自の切り口で「科学と戦後世界史」を解説しているのも間違いないので、有意義な本ではあった。
posted by ぬきやまがいせい at 23:37 | Comment(0) | 読書

2022.02.15

「ブラック サンデー」トマス・ハリス著、宇野利泰訳

51x+5AXC36L.jpg

読んでみた、アメリカ人作家による長編冒険小説。1975年発表。

中東テロ組織・黒い九月の不審な動きから渡米した、イスラエル諜報部員のカバコフ。実は組織は米人青年・ランダーの先導で、スーパーボウルの試合に集まった群衆に対する、無差別殺傷テロを計画していたのだ…という内容。

1977年にフランケンハイマー監督の手で映画化された本作だが、日本ではテロを仄めかす脅迫を受けて上映は頓挫してしまった。自分は以前ビデオで観た筈だが…内容は忘れていたな。飛行船のビジュアル面が強烈なのに、最後の最後に描かれるだけ。原作は実はフォーサイス・フォロワーという印象が強い。

テロという社会情勢を背景にした題材や、その実行と阻止を巡る構成に影響が窺えそうだけど…「ジャッカルの日」(1971年刊行)と比較すると、残念ながら人物描写面の魅力には乏しいかも。その後同作者が手掛ける「レクター博士」まで、独創的なピカレスク・キャラの登場は、待たなければならないという事かな。
posted by ぬきやまがいせい at 23:39 | Comment(0) | 読書

2022.02.13

アデル、ブルーは熱い色

観てみた、アブデラティフ・ケシシュ監督映画。2013年公開。

アデルは自分自身の恋愛感情に、どこか違和感を覚えていた。そんな時同性の友人との接触で、自分の女性を求める気持ちに気付く。彼女は同性愛者の集まるバーで、女性画家のエマと出逢い、やがて関係を持ち同棲する様になった2人。だがエマの芸術家としての成功から、彼女は孤独を覚え…という内容。

カンヌ映画祭で最高賞のパルム・ドールに輝く本作、原作は「ブルーは熱い色」というバンド・デシネらしい。漫画を原作とする映画が同賞を獲得したのは初めてで、加えて本作では激しい性表現が批評家達に衝撃を与えたとの事。

まあ自分が観たのは(FOXで放映されたR15版だからか?)、特別衝撃とは思わなかったけれど…代わりにガチレズの修羅場が衝撃的。現代フランスのサロンで交わされる会話ってこんなかってのも判ったけど、成る程スノビッシュでいけ好かない。そうした孤独とすれ違いは、確かに同賞にも相応しいと思えた。
posted by ぬきやまがいせい at 23:38 | Comment(0) | 映画

2022.02.12

「ナヴァロンの要塞」アリステア・マクリーン著、平井イサク訳

e0033570_2255074.jpg

読んでみた、スコットランド人作家による長編冒険小説。1957年発表。

第二次大戦中。独軍がエーゲ海の「ナヴァロン島」に設置した巨砲が、英国軍による救出作戦の障害となっていた。陸海からの攻略を何度も阻んだ要塞に、登山家・マロリーの率いるわずか5名のチームが挑む事になり…という内容。

グレゴリー・ペック主演で1961年に映画化された、「ナバロンの要塞」の原作が本書。自分もだいぶ以前に観たけど…どんなだったかな、忘れた。なのに本書を読んだ気になっているのも何なので、今回読んでみたという次第。原作は冒険小説の名作と言われるだけあって、本当に面白い。早く読んどくべきだった。

わずか4日程(映画は1週間)の中に苦難に次ぐ苦難、ピンチに次ぐピンチが畳みかける様に繰り出され、手に汗握る。戦争小説としてだけでなく、海洋要素に山岳要素、スパイに裏切りという全部乗せ状態。特に人物各々の内面の苦闘が描かれており…自分の生涯では最高の「俺を残して先に行け」が見られた。
posted by ぬきやまがいせい at 22:23 | Comment(0) | 読書

2022.02.10

「第三の男」グレアム・グリーン著、小津次郎訳

5110KK8M9XL.jpg

読んでみた、イギリス人作家による中編小説。1950年発表。

第二次大戦直後のウィーン。ロロ・マーティンズは、親友であるハリー・ライムが事故死した事を知る。だが目撃者の証言には、その現場に正体が不明な「第三の男」が存在していた。彼は殺人を疑い捜査を始めるのだが…という内容。

キャロル・リード監督による名作として名高い、同名映画(1949年)の原作。本書はオファーを受けた著者が準備段階に執筆したもので、そこから更にブラッシュアップを受ける事で、歴史的名画が誕生した。なのでオーソン・ウェルズによる「鳩時計」の名台詞や、有名すぎるラストシーンは本書に存在していない。

それでも充分、面白い本なのも確かだとは思うんだけど。個人的に連想したのはチャンドラーの「長いお別れ」(1953年)で…不遜なのを承知で言うと、本書とは同じ話なんだよな(ネタバレ申し訳ない)。ただ小説としては少々性急で覚え書感があるのだけ判っていれば、やはり名作と言うべき一冊ではないかなと。
posted by ぬきやまがいせい at 23:23 | Comment(0) | 読書

2022.02.09

「三十九階段」ジョン・バカン著、小西宏訳

81xv268VAfL.jpg

読んでみた、イギリス人作家による長編冒険小説。1915年発表。

ある男から要人暗殺計画の存在を知らされた青年、リチャード・ハネー。その男が殺害された事から、彼は犯人として警察、さらに「黒い石」と呼ばれる、謎の組織からの追跡を受ける。果たして「三十九階段」の謎とは?…という内容。

本書は何度も映画化された様だけれど、その中でも名高いのがヒッチコック監督による「三十九夜」(1935年)。自分はそちらは…多分観ていない様なので、あらすじを確認したら「39階段」の正体自体違ってるみたい。本書はそうした謎解き要素と共に、スコットランドの丘陵地帯を舞台にした追跡劇が描かれる。

割と指摘される通り今読むとだいぶ牧歌的で、協力者や道具が簡単に見付かる辺り都合がよすぎというのは確かに。ジャッカルが移動するたびに、人殺ししてたのとは対照的かも。…それでも主人公の機転や行動力、好奇心が当時の雰囲気(第一次大戦前)にマッチして、今でも楽しく読める小説じゃないかな。
posted by ぬきやまがいせい at 21:57 | Comment(0) | 読書

2022.02.08

「記号学 / 意味作用とコミュニケイション」ピエール・ギロー著、佐藤信夫訳

20200915163535476252_18b7d9751f1c0e6b04281ecdcb198f51.jpg

読んでみた、フランス人著者によるノンフィクション。1971年発表。

様々な分野の概念・事物から「記号」要素を見出して、それらの関係を分析する学問である「記号学」。言語学者・ソシュールの研究を元に発展したその分野を、同じく言語学者である著者が、様々な用例を基に解説する…という内容。

先日も似た様な本を紹介したけれど、(当たり前だが)本書も似た様な内容。違うのは本書が仏人著者の文章を日本語訳した事だが…中で引いている言語学に関する例が「フランス語」なので、(いかに言語学者の本でも)正直伝わりにくい。なのでそうした用例を見るなら、日本人著者の本がやはり良いだろうな。

とは言え本書も畳みかける様な語り口が刺激的なので、これはこれ。何言ってんだかわかんねえや、って難解な場面がしばしば見られるのも確かだが…オイディプス神話やボードレールの詩を例に挙げてる辺りは、個人的な趣味的に大変興味深く読めた。物事を単純化して見たい、還元主義的な人にもお薦め。
posted by ぬきやまがいせい at 23:16 | Comment(0) | 読書

2022.02.06

「ウンベルト・エコ インタヴュー集 / 記号論、[バラの名前]そして[フーコーの振り子]」L・パンコルボ、T・シュタウダー、C・ノーテボーム著、谷口勇訳

51CFcQFk3SL._SY343_BO1,204,203,200_.jpg

読んでみた、イタリア人作家/記号学者のインタビュー集。1990年発表。

1932年、アレッサンドリアで誕生した「ウンベルト・エーコ」。彼は記号論研究で名声を博した後、小説家としても世界的な成功を手にする。本書は彼が行った3回のインタビューを中心に、彼の思想や創作の秘密に迫る…という内容。

1つは小説執筆前の記号論学者として自身の見解を語ったもので、後2つは「フーコーの振り子」刊行後に内容面の注釈を行ったもの。まあ大抵は難解な彼の小説の解説を求めて、本書を手に取るものだと思うけれど…記号論を巡る応酬は(こちらも超・難解だが)、本格的な研究者としての一面が窺えて興味深い。

一面と言えば、古書蒐集家としての話も出て来る辺り面白い。インタビュアーの「すごい蔵書ですね、全部読んだの?」という質問に「そんな訳ないだろ」と答えているのが、わかるーという感じ(駄目じゃん)。…まあ記号論の解説書として読もうって人もいないだろうし、エーコの人柄が判るだけで充分に良い本。
posted by ぬきやまがいせい at 22:24 | Comment(0) | 読書

2022.02.05

ランボー / ラスト・ブラッド

観てみた、エイドリアン・グランバーグ監督映画。2019年公開。

既に老境を迎えたベトナム帰還兵・ランボーは、友人女性とその孫娘・ガブリエラと共に牧場で暮らしていた。だがある日メキシコに出掛けたガブリエラが、犯罪組織に拉致されてしまう。ランボーは彼女を救出するべく出向いたのだが、組織のマルティネス兄弟から返り討ちに遭う。そしてガブリエラは…という内容。

シルヴェスター・スタローン主演の人気シリーズ完結編。…タイトルが第1作(First Blood)を踏襲している辺り興味深いが、ランボーの個人的な苦悩に焦点を当てた辺り、成程対になる作品ではある。とは言え愛する者を失い復讐に立ち上がる展開や、老いて尚盛んな暴れ振りは、その後のシリーズも想起させる。

ただどうせシリーズを終わらせるなら、ランボーをきちんと看取ってやるべきだったんじゃないかって。そこまでの話が悲惨なので、救いが必要なのも判るけれど…常に戦い続けざるを得ない彼の姿には、やりきれなさすら覚えてしまう。
posted by ぬきやまがいせい at 22:34 | Comment(0) | 映画

2022.02.03

サムライ

観てみた、ジャン=ピエール・メルヴィル監督映画。1967年公開。

殺し屋のジェフはある男の暗殺に成功するも、その際ヴァレリーに顔を見られてしまう。ジェフは警察署内での面通しで彼女と再会したものの、何故かヴァレリーは彼を犯人と証言する事はなかった。だがその後も警察から執拗なマークは続き、更に彼を一旦は殺そうとした依頼人が、再び彼に接触し…という内容。

アラン・ドロン主演による、フィルム・ノワール作品。もの凄く寡黙な主人公の描写に、日本の「サムライ」のイメージを投影しているのだろうけれど。でもむしろ市川雷蔵でも眠狂四郎ではなく、「ある殺し屋」(1967年)の方。…まあそう考えたら、そこまで的外れでもないのか(因みに本作の日本公開は、翌1968年)。

内容どうこうではなく、やはりドロンの恐ろしくカッコイイ佇まいだけ見てれば充分な映画ではある。ソフト帽にトレンチコート、シトロエンID19(?)を乗りこなす姿には、本当にしびれる。でも車ドロボウなのだけは、今いちカッコよくない。
posted by ぬきやまがいせい at 22:42 | Comment(0) | 映画

2022.02.02

ビサイド・ボウイ / ミック・ロンソンの軌跡

観てみた、J・ブリューワー監督によるドキュメンタリー映画。2017年公開。

1946年。英ヨークシャー州の町・ハルで誕生した、ギタリスト「Mick Ronson」。初期David Bowieのバックバンド、Spiders From Marsの一員として、彼の音楽に多大な貢献をした。バンドの解散後はソロを始め、様々なセッションを行うも低迷、しかも自身肝臓癌と判明する。だが、それでも彼は…という内容。

1993年にこの世を去った、Mick Ronson。本人映像を始め、関係者の証言や当時のライブを織り込んで、彼の生涯を振り返る…という、音楽ドキュメンタリーでは定番の構成(肝心のボウイは2016年逝去だが、間に合わなかったか)。…なんかバナナマン日村みたいな人がいる、と思ったらJoe Elliottで、えー?

個人的にRonsonの活動は正直、(「beside」のタイトル通り)ボウイを介してしか知らなかったので、興味深く観られた。…本作の出演者ではLou Reedも既に亡くなってしまったし、何とも物哀しい気分になってしまう作品ではあるなあ。
posted by ぬきやまがいせい at 23:07 | Comment(0) | 映画