2022.04.30

「伊勢物語」大津有一校注

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読んでみた、日本人著者による歌物語/小説集。1964年発表。

「むかし、をとこありけり」。在原業平と思われるその男を主人公に、男女の恋愛をはじめとした様々な物語、その際詠まれたとする和歌が添えられている。平安時代に成立した「竹取物語」と並ぶ最古の仮名文学が本書…という内容。

美しい平安言葉で書かれており、読むだけで雅びな気分になれるのが良い(よく判ってないけど)。でも内容は小説というか、和歌が詠まれた経緯を説明している感じで、歌集にある解説・鑑賞とかみたいな気もするのだが。じゃあ歌集でいいじゃん?…と思うけれど、これが歌集なら古事記も歌集になってしまうか。

でも個人的に面白いのは本書でも恋愛がらみではなく、鬼が出て来て?女が喰われてしまう今昔物語みたいな話。へーそんなのもあるんだ、と思うと意外で大層興味深くないかな。まあぬきやまが喰い付くなら、どうせそんな話だし…考えたら澁澤龍彦も、喰い付いてそうなエピソードではある(書いてたっけ?)。
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2022.04.29

ブルーノート・レコード / ジャズを超えて

観てみた、ソフィー・フーパー監督によるドキュメンタリー映画。2018年公開。

1939年。ドイツ移民のアルフレッド・ライオンと、フランシス・ウルフにより設立された音楽レーベル「ブルーノート・レコード」。大戦後のアメリカで革命的な発展を遂げたジャズの中心的存在として、数々の伝説的ミュージシャンを輩出した同レーベルを、貴重な写真・音楽から関係者証言と共に綴っていく…という内容。

30年以上昔のフジTV深夜で、「音楽の巨匠たち」というのをやってたんだけど。その番組ではジャズとクラシックの音楽家を、毎週交互に紹介するという内容で…本作を観ていて思い出してしまった。そちらのジャズ編で紹介されたアーティストも、使われる写真(ウルフが現場で撮影した)も、同じなんだから当然だが。

とは言え本作はレーベルの歴史を紹介する内容なので、ミュージシャン個々には深入りしないのが物足りないと言えば物足りないかも。…それでもありがちな音楽ドキュメンタリーとは確実に一線を画しており、見応えがあるのは確か。
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2022.04.27

「音入門 / 聴覚・音声科学のための音響学」チャールズ・E・スピークス著、荒井隆行、菅原勉訳

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読んでみた、アメリカ人著者による科学解説書。1999年発表。

人間の重要なコミュニケーション手段である「音声」とは、まず物理現象としての「音」に他ならない。本書では聴覚・音声科学における「音」に関する物理的/音響的側面を、基礎的な要目から段階を踏んで解説していく…という内容。

と言っても専門書なので、やはり数値・数式が盛り沢山な事には変わりない。でも一応文系方面の読者を想定してか、丁寧に順を追って説明されているのが特徴。まずばねの振動や、対数logといった数学を経て…やっと「デシベルdB」の話になるのだから、気の長い本だとは思った(いや自分も忘れてたんだが)。

まあ例によって本書も興味本位で読んだので、後半の専門的な話は雲をつかむ様な感じで参った。とは言えこれまで知らずに済ませて来た、オーディオ関係の概念が多少でも判ったのはありがたい。…自分はこんな体たらくであまり活用出来そうにはないけれど、例題等も随所にあって役立ちそうな本ではあるよ。
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2022.04.26

ふたりのヌーヴェルヴァーグ / ゴダールとトリュフォー

観てみた、E・ローラン監督によるドキュメンタリー映画。2010年公開。

1959年。「大人は判ってくれない」が、14歳のジャン=ピエール・レオを主演に撮影された。トリュフォー監督の出現により世に知らしめられた、フランスの革命的映画運動で、同じく中心となったゴダール監督。彼らの友情、そして政治の季節と共に終わりを告げた、2人の「ヌーヴェルヴァーグ」を描く…という内容。

映画に関するドキュメンタリーだけあって、映像素材が豊富なので観ていて楽しい作品。本作の「映画」それ自体に対する言及的態度が、ゴダール的な語り口…というか、ヌーヴェルヴァーグそのものを感じさせて非常に相性が良い。

現在だと先進性といった、良い側面から語られる事の多いヌーヴェルヴァーグ。でも商業面での成功は甚だ短く、しかも中心人物2人における決定的な関係亀裂により(トリュフォーの死もあって)本作は苦い結末を迎えるのが切ない。ゴダールもその後劇映画に復帰するし、映画への愛は一緒だったんだろうにな。
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2022.04.25

「声の文化と文字の文化」W・J・オング著、桜井直文、林正寛、糟谷啓介訳

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読んでみた、アメリカ人著者による言語/文化論考集。1982年発表。

書物等が形作る「文字の文化」に対して、文字を用いない「声の文化」。本書では文字発生以前の口承を始め、「声」の表現と「文字」の表現の違いという画期的な視点を基に、人類の言語や文学と言った文化史を探る…という内容。

なので映画を声で説明する弁士か、画面に文字を付ける字幕か…みたいな話題の本ではなかった。言語学の研究書であるのは勿論、物語・詩作における根本的差異といった、「声」と「文字」という文化について突き詰めて論考した一冊。と同時に「メディア論」という切り口でも、多くの人に読まれているのは面白い。

まあとにかく、この発想はなかったわーという指摘ばかりが頻出して、目から鱗が落ちる事請け合い。(ちょっと口を濁しつつ書くけれど)「文字」は人間の論理的な思考に大きく関わっており、そこから生じた両文化に関する解説には、納得する事しきり。いい悪いではないのだろうものの…これも進歩の一つだよねと。
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2022.04.23

「音響工学講座 7 / 改訂 音声」日本音響学会編、中田和男著

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読んでみた、日本人著者による科学解説書。1995年発表。

人間の文化・生活に深く関わるのが、声帯より発せられる「音声」。本書ではそうした音響工学方面での研究をまとめ、近年の技術発展で必要となった音声分析や合成、通信における高能率符号化等についても解説する…という内容。

「いい声って何だろう?」という疑問には、自分なら「いい波形の声では?」と答える。まあ心理的な要素が関わるので、えらく乱暴な主張なのは間違いないけれど…人様の事は置いといて、自分の好みが判っていれば「波形」から絞る事が出来るんじゃないかと(ストラディバリ複製を波形から詰める様な感じね)。

で本書を読んで、何か判ったかと言うと…あんまり参考にはならなかったな(そりゃそうか)。本書は技術者・研究者向けの専門書なので、微分積分・数列行列等の数式まみれ。まあそういうのは流し見しつつだったけれど。人の声であっても物理現象なので、気流や振動として見られると面白いなあとは思ったかな。
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2022.04.21

「クリスマスに少女は還る」キャロル・オコンネル著、務台夏子訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編推理小説。1998年発表。

クリスマス間近のある町で、2人の少女が失踪した。児童略取が疑われ、15年前に同様の事件で双子の妹を失ったルージュが、捜査官として抜擢される。一方少女達の身柄は無事だったものの、奇妙な屋敷に監禁され…という内容。

犯人の正体が終盤まで不明なので、一応フーダニットの推理小説という事になるのかなあ。でもそうした謎解きは正直、あまり重要ではない気がする。判ったところで、誰?ってなっただけだし(サスペンスと評される事が多いのもそのせいかと)。…むしろ個人的には、スティーヴン・キングを連想させられた感じ。

児童・犯罪・監禁・狂犬、それにホラー映画に関するサブカルチャー的な言及。加えてやたらと長々しい悠長な語り口は、女性作家によるミステリどうこうより(関連は判らないけれど)よほどキング的。本書の物寂しい結末は「クージョ」を思わせるかも。そんな言い方をしたら、驚愕でも感動でもない気がしてしまうが。
posted by ぬきやまがいせい at 13:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.04.20

「ヴォイストレーニング大全 / [声]を仕事にする人のための実践と知識の本」福島英著

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読んでみた、日本人著者によるハウツー本。2019年発表。

「声」を用いる技術を、向上させるための訓練法である「ヴォイストレーニング」。本書は基礎的な発声から演技に至る「ことば」編、基礎的な音楽理論から感情表現に至る「歌唱」編、2部構成でボイトレの世界を解説する…という内容。

まあ自分は別に声を訓練する必要も感じてないので、本書を読んだのは単に興味本位からだけど。そういう観点からだと、本書は(当たり前だが)相当実践的な内容なので、読んで楽しいというものではないな。訓練のための例文…アならアを鍛える為の文章てのは面白いけれど、律儀に読んでも仕方ないしさ。

でも本書には参考用の音源としてCDも2枚付属しており、例文や譜面だけ見せられるのと違って、相当理解しやすいのは良いと思う。…まあ他に専門に扱っている本も別にあるだろうけど、自分は意外とこの本でああそうだったのかなんて事(日本語は高低、英語は強弱でアクセントを付けるとか)も知れてよかった。
posted by ぬきやまがいせい at 03:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.04.18

「聲」川田順造著

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読んでみた、日本人著者による言語学論考/エッセイ集。1998年発表。

本書では著者が主にフィールドワークの地とした、アフリカ各地の「声=発話言語」を中心に、日本語を始めとした他言語との比較。人類学的見地から、人間の文化・生活との関りを、幅広い視点を持って究明していく…という内容。

大雑把に言えば「文化人類学」の本で、同分野を「声」「言語」という面から語ったもの。でも連載されたのは「現代詩手帖」誌のエッセイとしてなので、そこまで専門的面に踏み込んではいない筈。…なのだけれど、アフリカ少数言語や日本の口唱歌(楽器音を口で言う技法)の解説などは、音が無いと訳がワカランな。

とは言え本書の印象としては、文庫版(1988年初版を増補・改訂したもの)の解説子が紹介していた、レヴィ=ストロースによる賛辞の手紙が的を射ている様に思う。…まあその内容だけではなく、著者がレヴィ=ストロースの弟子だったという辺りとか(翻訳も行っている)、ああ成る程なと答え合わせになった感じ。
posted by ぬきやまがいせい at 23:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.04.17

「半身」サラ・ウォーターズ著、中村有希訳

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読んでみた、イギリス人作家による長編推理小説。1999年発表。

1874年。英国ミルバンク監獄を上流婦人・マーガレットが、慰問に訪れていた。その際出逢ったのが女囚・シライナで、彼女は降霊術の際に事件を起こした霊媒だった。彼女はマーガレットの事を、自らの「半身」と語り…という内容。

ミステリとして紹介される事の多い本書だが、むしろ「百合小説」じゃないか。何しろ著者自身がレズビアンを公言しているので、そこは別にいいんだけど…推理小説として読んだら事件的なものが起きるのは最後の最後。そこまで読むのにくたびれてるから、推理する気力も湧かないうちに真相解明して終わった。

だから本書の場合シャマラン作品みたいな、オチビックリ系小説とでも思った方がいいのかも。ただ読み終わっても、ちっともハッピーな気分にならない代わり、構成や語りのギミックには舌を巻かざるを得ない。時代小説としては大して予備知識は要らないけれど、フーコーやレ・ファニュとの関連は興味深いね。
posted by ぬきやまがいせい at 04:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.04.15

ミッドウェイ

観てみた、ローランド・エメリッヒ監督映画。2019年公開。

1941年。日本のハワイ・真珠湾奇襲により、火蓋が切って落とされた太平洋戦争。その際に敵襲を防げなかった米軍情報参謀レイトンは、日本軍の次なる目標が「ミッドウェイ島」にあると突き止める。日本では山本五十六長官指揮の下、空母艦隊が同海域に進出。遂に決戦の時を迎えるのだが…という内容。

本作では何度も映画化された有名な海戦を、ドイツ人監督のエメリッヒが最新映像技術で描いた辺りが注目点か。ただ結論から言えば、やっぱりエメリッヒ映画だったという。まあそういう観点からなら、意外と悪くもなかったけれど…

持ち味のおふざけは今回封印したのか悲劇的なトーンが中心で、それなりの節度を持って描かれている(日本軍も愚かに見えない)のは好感触。でも逆に恐ろしく退屈だった。MI作戦映画なら「太平洋の嵐」(1960年)の方が面白いし、近年の戦争物としても「ダンケルク」(2017年)の方がやはりだいぶ格上だな。
posted by ぬきやまがいせい at 22:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2022.04.14

「わらの女」カトリーヌ・アルレー著、安堂信也訳

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読んでみた、フランス人作家による長編推理小説。1956年発表。

独人女性・ヒルデガルデが選ばれた募集の目的とは、老いた億万長者の妻となり、その財産を物にする主役となる計画だった。首謀者・コルフによるお膳立ての下、彼女は遂に億万長者の妻の座を射止める。ところが…という内容。

著者の代表作であり、「推理小説の革命」とまで言われた本書。でもミステリである事を意識して読むと、すぐに全体の真相自体は判ってしまうと思う(何せ登場人物が少ない)。まあ大雑把にはサスペンスかなとは思うけれど…むしろ一旦ジャンルを忘れて読めば、次の展開の読めなさから、実にハラハラできる筈。

ノワール的な導入から始まり、億万長者をだますコンゲーム要素。そして(ここでようやく)ミステリ的な展開になって、最後はピカレスク物として終わる感じ。こうしたジャンル横断的な構成と、冷徹な人物描写もあって「革命的」という評にも成る程なと。くっそイライラするわー、とは思ったものの…すごい作品だな。
posted by ぬきやまがいせい at 21:32 | Comment(0) | 読書

2022.04.12

スター・ファイター

観てみた。ランス・ゲスト主演、ニック・キャッスル監督映画。1984年公開。

田舎の青年・アレックスは、宇宙戦争を題材にしたアーケード・ゲームで最高点を叩き出した。そんな彼を開発者と名乗る、謎の男が地球外へと連れ出す。そこでは本当の宇宙戦争が行われ、戦闘機に搭乗する「スター・ファイター」として彼は選出されたのだ。だがアレックスは突然の事に戸惑って…という内容。

宇宙戦闘艇・ガンスターを始め、画面上の多くの描写を「3DCG」で制作した先駆的な作品。…ただその映像も現在の目で見ると結構チャチく、日本国内でDVD発売や配信がないのは(米本国版DVDはある)それが理由かもしれない。

内容もゲームを利用して戦士をスカウトするという、仲々に優れたアイデア(ゼーガペインもそうだっけ?)が採り入れられているものの…全体的にはどうもな。コピーロボットのコントなんか長々やってるし、想像した以上にアホみたいな話だった。因みにハインラインの小説「スター・ファイター」とは関係ない模様。
posted by ぬきやまがいせい at 22:39 | Comment(0) | 映画

2022.04.11

「ジェゼベルの死」クリスチアナ・ブランド著、恩地三保子訳

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読んでみた、イギリス人作家による長編推理小説。1949年発表。

馬上の鎧騎士が登場する芝居の舞台で、出演者の1人が殺害された。被害者は「ジェゼベル」の綽名を持つイゼベルで、出演者の内3名には、事前に殺害予告が届いていたのだ。その場に居合わせたコックリル警部は…という内容。

終戦間もない頃という事もあって、東南アジアから帰国した人々の会話の中に「日本軍」の名前が頻繁に登場するのが気になる。まあぶっちゃけ事件には、大して関係して来ないのだけれど…そういうアレコレの記述は、本書では推理に対する目眩まし・煙に巻くための、所謂「燻製ニシンの虚偽」という手法だろう。

素の文章自体が(英国作家らしく?)諧謔味に富んだ上でそれだから、本当に思考が邪魔されて参った。意図的なテクニックなんだから、巧みとも見事とも褒めたいところなのだが…最後まで読んでも、何でだか釈然としない。でも本書のトリックは、意表を突かれた上にショッキングなので、やはりこれは見事だな。
posted by ぬきやまがいせい at 23:23 | Comment(0) | 読書

2022.04.09

「ナイルに死す」アガサ・クリスティー著、加島祥造訳

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読んでみた、イギリス人作家による長編推理小説。1937年発表。

旅行でエジプトを訪れた探偵・ポアロは、ナイル川を遡行する観光船で殺人事件に遭遇する。被害者は富豪で美貌の持ち主である、新婚旅行中の若い妻。その結婚で彼女は、夫を奪われた女性から恨みを買っており…という内容。

一読してこれ、坂口安吾の「不連続殺人事件」(1947年)に似てるなと。実際その点を指摘する人も多いので、自分もミステリ読者として満更でもないな、とか思ったり。だから本作はある程度推理小説に触れていたら、今現在読むと割とすぐ真相に関する見当は付いてしまうかも。じゃあ本作の独自性はと言うと…

著者も前書きで語っている通り、「外国旅行もの」としてかなり綿密に描かれている辺りでは。クリスティー自身のエジプト体験を反映させただけあって、本書の前半はほぼ旅行記。しかも半分過ぎてようやく最初の殺人が起きるのだけれど、事件の発端は上記した様にNTR話なので…まあなんだ、そういう独自性。
posted by ぬきやまがいせい at 21:54 | Comment(0) | 読書

2022.04.08

下女

観てみた、キム・ギヨン監督映画。1960年公開。

妊娠中の妻と2人の子供がいる、ピアノ教師のトンシク。妻の頼みもあって彼は仕事先の工場で働く教え子の紹介で、若い娘・ウニを家政婦として我が家に迎え入れる。ところがある女性の自殺のショックから、トンシクはウニと関係を持ってしまう。それをきっかけに、彼の家庭は崩壊への道を突き進み…という内容。

ギヨン監督は、ポン・ジュノにも多大な影響を与えたという韓国映画界の重要人物。本作も同国の歴代映画中、トップ3とも評価された。…内容的には、ジョセフ・ロージー「召使」に例えられるサスペンスだけど、本作の方が3年早い。

個人的には雰囲気だけ見たら、やたらと扇情的な感じから新東宝の映画かよって。でも平和な家庭に潜り込んだ女の存在が危機をもたらす…という概要からは、むしろ「悪い種子」(1956年)との共通点が感じ取れるかも。そう見ると本作ラストでの言い訳がましさは、まるで「ヘイズコード」でも気にしている様だな。
posted by ぬきやまがいせい at 22:44 | Comment(0) | 映画

2022.04.06

「長靴をはいた猫」アニメージュ編集部編、森やすじ、大塚康生構成協力

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読んでみた、アニメ雑誌の関連出版によるビジュアル文庫。1984年発表。

矢吹公郎演出・東映動画制作で、1969年に劇場公開されたアニメーション映画「長靴をはいた猫」。本書はフィルム・ストーリーを中心に、同作のスタッフコメントや、宮崎駿作画による漫画等を収録したビジュアル書籍…という内容。

まあカラーページこそ比較的多めなものの、あくまでも薄手の文庫本なので、内容に過大な期待をしても仕方ない。…とは言え単独で大判ムック等の刊行までは望めない作品だけに、充分以上に貴重な一冊となっている。上記した宮崎作の新聞連載漫画などは、今現在読めるだけで有難いとしか言いようがないな。

特にキャラデザ担当・森やすじとアニメーター・大塚康生による対談は、当時の知られざるエピソードが満載。ここだけで充分元が取れる。…日本戦後アニメの勃興期であると共に、現在巨匠と呼ばれる人々が過ごした青春時代。そして楽し気な職場環境と明朗な内容が合わさって、実に幸福な作品が誕生した訳だ。
posted by ぬきやまがいせい at 02:21 | Comment(0) | 読書

2022.04.05

「ナウシカ解読 / ユートピアの臨界」稲葉振一郎著

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読んでみた、日本人著者による評論集。1996年発表。

1982年から1994年にかけて、アニメージュ誌で連載された漫画「風の谷のナウシカ」。 1984年には作者・宮崎駿自身の監督でアニメ映画化もされた同作を、現代思想・社会思想的な観点からテクスト的に分析していく…という内容。

なのでありがちな漫画解説書ではなく、デリダやアーレントを引き合いに出して(著者が後書に書いている通り)「小難しく」読み解いた本。何となくナウシカとクシャナの2人が、アーレントと重なるのは成る程。…でもストーリー面に関する読み込み様も大変なものなので、内容の手引きとして触れてもいいと思う。

本書は2019年に増補版が刊行されたものの、そちらでは旧版収録の宮崎駿インタビューが外されてしまった模様。こちらも別に宮崎が、作品に補足をする様な親切な内容ではないけれど…やはりあると無いとでは大違い。宮崎の弁舌振りは相変わらず明晰そのものながら、執筆や作品を語る「揺れ」が興味深い。
posted by ぬきやまがいせい at 02:47 | Comment(0) | 読書

2022.04.03

フリードキン・アンカット

観てみた、F・ツィッペル監督によるドキュメンタリー映画。2018年公開。

1935年にイリノイ州シカゴで誕生した、アメリカ人映画監督「ウィリアム・フリードキン」。「フレンチ・コネクション」(1971年)や「エクソシスト」(1973年)といった数々の名作を物にしたフリードキンを、自身は勿論、関係者や出演者、更に世界の名だたる映画監督が、彼の人柄や作品について語る…という内容。

いきなり失礼な事を言うと、存命だったんだなこの人。正直近作は、あまり話題にはならなくなっていたからだけれど…作中にコメンテーターとして登場するフランシス・フォード・コッポラや、ウォルター・ヒルといった同時代を盛り上げた監督達の活動もよく知らなかった。まあそのせいで、同窓会みたいな映画ではある。

内容自体はフリードキン大いに語るといった感じで、仲々興味深いのだが…リアル指向の作風に反して、当人はえらい芝居がかっているのな。でも何か決め台詞で映画終わったわと思ったら、楽屋落ちみたいになるのは茶目っ気かな。
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2022.04.02

AI崩壊

観てみた。大沢たかお主演、入江悠監督映画。2020年公開。

医療用人工知能「のぞみ」による国民の健康管理に留まらず、社会インフラまでAIが制御する様になった未来。開発者・桐生浩介が娘の心と共に帰日したのを狙ったかの様にAIが暴走、社会は大混乱に陥る。しかも浩介はテロ犯として警察から追われる上、心はAI本体の設備内に閉じ込められて…という内容。

まあお話自体は「逃亡者」、それにAIが管理する社会の危機で装飾した感じ。現在でもサーバー障害等で、ネットが使えなくなっただけでアタフタしてしまう事を考えると、本作の着眼点は結構身近なものとして感じられるので悪くない。

実際は少々気張ってしまった回の「相棒」みたいな匙加減で作られたサスペンスだから、SFと言うには流石に物足りない。ユビキタス機器の装着でAIが身体を管理するというのは、伊藤計劃「ハーモニー」を連想させられたけれど…まあ流石にそちらみたいに、突拍子の無い着地点に行き着くのは無理だろうしな。
posted by ぬきやまがいせい at 23:27 | Comment(0) | 映画