2022.05.31

「世界ハッカー犯罪白書」セルジュ ル・ドラン、フィリップ・ロゼ著、桑原透訳

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読んでみた、フランス人?著者によるノンフィクション。1996年発表。

コンピュータが急速に市民生活に浸透すると共に、それを悪用した「ハッカー犯罪」も増加を始めた。本書は20世紀末までに世界各地で派生したサイバー犯罪を集め、それらの驚くべき手口や社会的影響を紹介する…という内容。

実話の犯罪録ではあるものの、文体が小説みたいな調子なので、クライムノベルでも読んでる感じ。なので取材に基づいてはいそうだけれど、この事件や犯人どうやって知ったよ?とか、この夢オチ話なに?とか首を捻ったり。でもミケランジェロウイルスやユナボマーも紹介されてる辺り、作り話ばかりではなさそう。

本書で紹介された犯罪も、多くは現在じゃ通用しないだろう手口だったり、犯人が逮捕された事で得られた調書からなので、まあほっとしつつ読める。ものの、あの手この手を駆使したハッカー事件の記録は、純粋に興味深い。自分が連想したのは、データハウスから出てる様な胡散臭い本だけど…面白いは面白い。
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2022.05.30

狂つた一頁

観てみた。井上正夫主演、衣笠貞之助監督映画。1926年公開。

嵐の夜に、狂人達がざわつく精神病院。心を病んで入院した妻のため、男は小間使いとなって見守っていた。そんな時娘が母親を見舞いに訪れ、そこで男が働いている事を知る。彼女は結婚の報告にやって来たのだが…という内容。

これもアマプラ見放題に入っていて、衝撃を受けた作品。…本作は大正時代に無声映画として製作された、日本初の前衛作と言われている。多重露光を始め斬新な映像表現を採り入れており、「カリガリ博士」等のドイツ表現主義の影響を受けている様だが…感じとしては、リングの「呪いのビデオ」でも見てる気が。

脚本には川端康成も参加しているとの事だけれど、字幕が無いので正直よく判らない。でもこれは芸術性の為に、元々はあった字幕を削除してしまった意図的なものらしい。だからアマプラに登録されているものを、完成作として観ても構わない様だ。…まあ貴重というだけでなく、個人的にはこういうの元々好きだな。
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2022.05.28

「カッコウはコンピュータに卵を産む」クリフォード・ストール著、池央耿訳

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読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1989年発表。

バークレー研究所でシステム管理者となった著者は、僅かな手がかりから同所のコンピュータに「ハッカー」が侵入していた事実を突き止める。彼は本業の天文学者をそっちのけで、各機関と連携して犯人を追うのだが…という内容。

初期のハッカー犯罪を克明に記録した名著。80年代の本なので、技術面で少々古くなった所があるのは否めない。でも今なお通用する内容なので、実に面白く読めるはず。…自分も当時の事情やこの分野に大して詳しい訳ではないけど、直観的にスイスイ読める辺り、まるで初期Macの様に優れたUI?の本だ。

ハッカーを特定する技術的な難度以上に、FBIやCIAといった各機関の管轄争いや腰の重さが印象的。でもユーモラスで、まだ笑って済ませそうな辺りも本書の魅力だろう。最近では東映みたいな、シャレにならない事件があったし。そんなのデジモンに退治させろよ…と思ったけど、デジモンからまずやられてたわ。
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2022.05.27

シェラ・デ・コブレの幽霊

観てみた。J・ステファノ、R・スティーヴンス監督映画。1964年製作。

盲目の富豪に毎夜、亡き母親から電話がかかる。妻ヴィヴィアの調査依頼を受けたオリオンは、地下の墓所で彼女が幽霊と接触するのを目撃。これには過去に、「シェラ・デ・コブレ」なる教団で起きた事件が関わっており…という内容。

衝撃…まさかアマプラ見放題で、日本語字幕版が見られるとは。と聞いても衝撃を受けない方に説明すると、本作は幻のホラー映画として有名で、劇場未公開に終わった筈が日本でのみTV放映され、その怖さが長年語り草になっていた。近年日本人の研究家がフィルムを手に入れて、ソフトリリースが待たれていた。

本国BDは発売済みなのに、日本盤はまだ? と思っていたらアマプラに登場という。古い作品なので、流石に今観てキャーキャー言う事はできないけれど、ゴシックホラーとしての雰囲気作りは上々(半露出の幽霊がよい)。伝説は伝説のままの方が…という意見も判るけど、伝説の一端に触れられただけで満足した。
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2022.05.25

ヒューマン・ハイウェイ

観てみた。B・シェイキー、D・ストックウェル監督映画。1982年公開。

戦争の危機が迫る中、原子力発電所では歌謡コンテストが開催される事に。また近くのダイナー兼ガソリンスタンドでは経営者が代わり、従業員は戦々恐々。だがそんな中、整備士・ライオネルが憧れる大スターが現れて…という内容。

本作で主演に監督(変名)、私費を投入して自主映画として製作したのが、なんとNeil Young。更に当時先鋭的存在だったDevoを起用、独特な世界を作り上げている。自身の演奏シーンも勿論挿入されているのだが…演じた整備士というのがちょっと足りない感じ。常に変顔してるせいでYoungと判らんかった。

内容はと言うと「サタデー・ナイト・ライブ」のコントみたい、と聞けば一発で伝わるかも。何でまたYoungが、こんなトンチキな映画を作る気になったのか全く判らないものの…一時の気の迷いと言うには、結構真剣だったっぽい。個人的にはトリップ場面で、急にニューシネマ風になる辺りなんか結構好きなんだけど。
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2022.05.24

「曾根崎心中・冥途の飛脚 他五篇」近松門左衛門著、祐田善雄校注

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読んでみた、日本人作家による浄瑠璃台本集。1977年発表。

恋仲にあった徳兵衛とお初。だが縁談話や金銭問題により、追い詰められた2人は…(曾根崎心中)。飛脚でありながら遊女・梅川の為、公金に手を付けた忠兵衛は…(冥途の飛脚)。という表題作を含んだ、全7編が収録されている。

先日書いた通り、浄瑠璃台本は難しい。でも大抵は三味線伴奏のための添書きが煩わしいからなので、それを読み飛ばす要領を心得ていれば、割と大丈夫(になった)。本書は近松の代表作が収録されているけれど、うち4編も「心中物」。つまりだいたい同じ話なお陰で、まあざっと読めば判るんじゃないかな?

しかしその全部が(もっと楽な方法にすればいいのに)「刃物」を使っての自害だからか、旧漢字・旧仮名・文語体であってもえらく生々しく迫って来る。曾根崎は宇崎竜童主演の映画でも、痛々しい限りだったしなあ。…とは言えそうした破滅的な恋愛が、近松による義太夫の語りで美しく、永遠の輝きを保っている。
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2022.05.22

「[第5の戦場] サイバー戦の脅威」伊東寛著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2012年発表。

すでに国家間戦争、または平時の裏側で現実となっている「サイバー戦」。本書では「第5の戦場」と呼ばれるその見えない戦いを、各国事情や実際の事例を挙げつつ、近い将来における危機への警鐘と共に解説する…という内容。

著者は自衛隊に設立されたサイバー戦部隊、「システム防衛隊」で初代隊長を務めた人物。なので内容は折り紙付きだが、軍事雑誌では書かれない様な興味深い話を、判りやすく説明してくれている。割と珍しくもない各企業でのシステム障害を、他国からの偵察的攻撃の可能性と示唆する本書は仲々にこわい。

ちなみに米軍が提唱した「第5」というのは、陸・海・空・宇宙より続く戦場という意味合い。なんだかSFというかガンプラバトルでも連想してしまうけれど、現実的な脅威として備えるべく軍事・国防的立場で考えてみる契機にはなるだろう。個人的には(XB-70に関して)気になる記述はあったものの、良書だと思うよ。
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2022.05.21

作家マゾッホ / 愛の日々

観てみた、フランコ・ブロジ・タヴィアーニ監督映画。1980年公開。

19世紀オーストリア。作家のマゾッホは文通で知り合った女性を、自身の小説の登場人物と同じ「ワンダ」の名で呼び関係を持った。やがて結婚する2人だが、マゾッホの被虐的性癖を受けてワンダもまた変わってゆき…という内容。

監督はなんと、タヴィアーニ兄弟の弟の方。なのでイタリアによる製作で作中の言語も伊語のためか、マゾッホではなく「マゾク」と発音されていたな(えっ?まちカド?)。内容的には実際のマゾッホの生涯を踏まえたものの様だが、彼の小説「毛皮を着たヴィーナス」よりも、それっぽい性描写がふんだんに見られる。

マゾッホは「マゾヒズム」の語源になっただけあって、本作でも鞭がビシーッ、オッサンがアウーって悶える内容。それを見て楽しめるかどうかは見る人次第だが…成る程これが小説の元ネタか、というのも判って面白い。また夫婦の結末を見ても、対立概念であるサド侯爵夫妻と真逆になっているのは、仲々に興味深い。
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2022.05.19

「好色一代女」井原西鶴著、横山重校訂

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読んでみた、日本人作家による浮世草子/長編小説。1960年発表。

「好色庵」に暮す老女は、草庵を訪れた若者2人にこれまでの人生を語って聞かせる。由緒ある家庭の生まれの女は、色恋沙汰で身を持ち崩す。その後の人生は各地を渡り歩いて、様々な「好色」生活を送るのだが…という内容。

西鶴の処女作である「好色一代男」を嚆矢とする「浮世草子」、その第6作が本書。内容的には(題名の通り)そちらとは対を成すもので、女の一生を借りて様々な江戸風俗・好色文化を、網羅的に描いたものとなっている。要するに風俗小説で…興味深いのは確かだが、個人的にはどうも趣味とは違うかなあと。

でも本書ではなぜか、人形の前で嫉妬話をしたらその人形が暴れ出した…という怪談・奇譚的エピソードも収録されている。一代男の方でも過去に怨みを買った女が「妖怪」として現れる、なんて話も入っていたけれど、こっちは作中で今一つ浮いた感じもするし。とは言え他は忘れても、この話だけは覚えていそうだ。
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2022.05.18

ファースト・マン

観てみた、デイミアン・チャゼル監督映画。2018年公開。

極超音速実験機のパイロット、ニール・アームストロング。彼は娘の死を機に、米国が行う宇宙開発への参加を決意する。ジェミニ8号では危険な状況から見事に生還を果たし、更なるアポロ計画でも最初に月面着陸を行う11号に選抜される。だがそれに先駆けた1号で、友人の飛行士が事故死して…という内容。

あまりにも有名な人物だが、意外とその内面にフォーカスした作品は無かったか。本作は主人公視点の主観描写を強調する事で、彼の人格面に斬り込むと共に…ロケット打上・月面着陸等を疑似体験できる、体感型の映画でもある。

ただ(アームストロング本人が寡黙な人物だった様だけど)宇宙飛行士って、こんな四六時中「死」について考えてるのか?、って気がしたり。でもそうした彼が月面という死の世界へ沈降し、最後に生の世界へと上昇する、神話的プロセスを経た「再生」の物語でもあるんじゃないかなって。…うん、仲々に感動的だ。
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2022.05.16

キース・ヘリング / ストリート・アート・ボーイ

観てみた、ベン・アンソニー監督によるドキュメンタリー映画。2020年公開。

1958年にペンシルベニア州で誕生した「キース・ヘリング」は、NY地下鉄駅の壁面に絵をゲリラ的に描く活動で注目される。ポップでリズミカルな画風を持ち、親しみやすい彼の絵は瞬く間に世界的な評価を受ける様に。ところが同性愛者でもあるヘリングは、当時猛威を振るっていたエイズに感染して…という内容。

1990年にこの世を去った米人画家のドキュメンタリー。恐ろしく多作な彼の代表作…というのがあるのかは判らないけれど、ヘリングの「画風・作風」は誰でも知ってる(真っ先に挙がるのはユニクロのTシャツだしな)というのが面白い。

本作は彼の短い生涯を1時間弱という、通常の映画としては短い尺の中で語っていく。ポストパンク〜ヒップホップのリズムがバックに流れる本作の「時間」は、生き急いだヘリングにふさわしいだろう(端々に超音速旅客機・コンコルドの映像がモンタージュされるのも面白い)。…いや、「生き切った」人じゃないかな。
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2022.05.15

「風来山人集 / 日本古典文学大系 55」風来山人著、中村幸彦編

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読んでみた、日本人著者による小説/読本集。1961年発表。

江戸時代の学者・発明家として知られる平賀源内は、「風来山人」の筆名で作家活動もしていた。閻魔大王が女形の役者に懸想した事で起きる騒動を描いた「根南志具佐」を始め、浄瑠璃「神霊矢口渡」といった作品を収録している。

内容的にはいわゆる「戯文」というもので、地獄の獄卒以外にも河童や海の幸が擬人化され登場する滑稽な話。併録された「風来六部集」の方では、屁やチ〇コの話ばかりしていてなんだこりゃと思ったら…当時実際に起きた事件や、社会・幕府を採り上げて風刺する文章だった。言われないとわからんな、これ。

でそうした文を読んで連想したのが「宮武外骨」。実際外骨は同郷出身の源内から影響を受けて、社会や政府を下ネタパロディ化するスタイルで活動を行った。編者は源内の思想自体には、厳しい評を加えていたけれど…本書自体は楽しめるんじゃないかな(ただ巻末に解説が付される位、浄瑠璃台本は難しい)。
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2022.05.13

ブニュエル / ソロモン王の秘宝

観てみた、カルロス・サウラ監督映画。2001年公開。

映画監督のルイス・ブニュエルは青年時代に親交深かった、画家サルバドール・ダリと詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカの登場する、架空の映画を構想する。時は2002年、彼らはソロモン王の秘宝で世界を見通すと言う、鏡面テーブルの謎を追う。地下迷宮へと進んだ3人が、そこで目にしたものとは…という内容。

監督がサウラという事でびっくりしたけど、やっぱり純粋な冒険ものという訳でもなかった(加えてやっぱりフラメンコ・シーンもあるし)。ブニュエルが主人公ってだけで驚くものの、スペイン本国では当然超の付く有名人なんだろうしな。

彼の作品に対する言及が楽しいけれど、どちらかと言うと登場人物それぞれの内面世界を描いて、観念描写寄りな作品な辺り人を選ぶ内容だろう。サウラらしくもないし、ブニュエルリスペクトという感じでもない(強いて言えばオリヴェイラっぽい)。まあこういう映画があったら喜んで飛びつく人向けかな(…俺か)。
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2022.05.12

「新訓 万葉集」佐佐木信綱編

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読んでみた、日本人著者による歌集。1927年発表。

奈良時代の末期に編纂されたとされる、日本最古の歌集が「万葉集」である。本書では漢文として書かれた同書の原文を、仮名交じりに書き下した「新訓」とし、より幅広く現代の読者に向けて紹介するものとなっている…という内容。

本書も刊行から100年近くが経った事もあり、旧漢字・旧仮名遣いというのでも、現在だと読むには仲々手強いのだけれど…折角万葉集を読むのなら、現仮名というのも少々寂しいしな。実際読むと驚く程多数の歌が収録されており、そうした作が現代にも伝わっているという、(変な話)その物量だけで感動する。

なので短歌(あとその歌がどんな経緯で詠まれたかという説明文)が一杯載っている本。かと思ったら、「長歌」という現代ではあまり詠まれない形式もかなり多いのが興味深い。で驚いた事に、本書の最頻出漢字は、多分「妹」だな。日本最古の歌集が、最古の妹文学だったというのはすごいね。…勘違いしてる?
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2022.05.09

「蕪村俳句集」与謝蕪村著、尾形仂校注

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読んでみた、日本人著者による句集。1989年発表。

松尾芭蕉や小林一茶と並び賞される、江戸時代中期の俳人「与謝蕪村」。本書は彼が生前に句集刊行のために自選していた俳句を、散逸した資料を復元して集めた1055句に、「春風馬堤曲」他の俳詩を収録している…という内容。

「春の海 終日のたりのたり哉」「菜の花や月は東に日は西に」を詠んだ作者、と言えば知らぬ人はいないだろう。逆に言うと、その二句以外は知らなかった訳だが…それは自分が無知だっただけだな。本書は上記した趣旨のものなので、有名なのが洩れてるかもしれないけど、蕪村の句に触れる分には悪くなさそう。

俳句と言うのは今も昔も簡潔な「十七音」なので、(本書では新漢字旧仮名遣いだが)読んで理解が難しいというところは一切ないとは思う。内容自体は今も昔も、季節ごとに見られる自然や風物を題材にしたものだし。…と思ったら、前回話題にした能の演目「隅田川」について、詠んでいる句もあるのが興味深い。
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2022.05.08

「能楽名作選 / 原文・現代語訳」天野文雄編訳

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読んでみた、日本人著者による戯曲集。2017年発表。

日本古来よりの長い歴史を持つ、伝統芸能である「能楽」の一分野が「能」。本書ではその代表的な演目から59曲を選び、原文と現代語訳を併録する事で、能における戯曲としての側面に関する手引きとするものである…という内容。

能は舞台上で器楽による伴奏と共に、台詞や舞踊をもって演じられる綜合的な芸能なので、ストーリー要素だけ切り出して読むと何か印象が違うというのが正直。とは言えかなり理解が難しい台詞が、現代語で読めるのは鑑賞する上で役に立ちそうではある。加えてまとめて読むと、各作の共通点も見える訳で。

なんかある土地を僧侶を始めとする「ワキ」が訪れて、その地の曰くを聞いた後に、曰くの中心的人物「シテ」が幽霊として現れる(「松風」等)、という話が相当多い(だから話だけに注目してもなって事)。あと親子が再会するって話も本当に多いんだけど…「隅田川」は、その両方を合わせた様な感じで好きだな。
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2022.05.06

ジャームス / 狂気の秘密

観てみた。ロジャー・グロスマン脚本、監督映画。2007年公開。

1975年のLA。後にダービー・クラッシュと名乗る高校生シンガーは、仲間を集めてパンク・バンド「Germs」を結成する。ドラム担当を始め、頻繁なメンバーの入れ替えはあったものの、地元で人気を獲得した。ところがGermsとしての活動はファンの暴動騒ぎ等で停止、ダービーは行き詰まってしまい…という内容。

驚いた事に本作はよくあるドキュメンタリーではなく、(メンバーが質問に答えるインタビューから始まるからてっきり)なんと劇映画。Germsって映画が作られるほど人気あったっけ?…と正直思ったけど、まあ伝説的存在なのは確か。

筆者の場合は、山塚EYEが好きと言っていたから興味を持ったのだが…やはりこの手のバンドはどんなに伝説と言われても、適度な匿名性あってのものじゃないかなって(正直ストーリーだけ見ると、空しくなってしまう…哀しい事に、シンボルの青い円を裏切ってるし)。まあ興味を持って観た後に言う事でもないが。
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2022.05.05

「時の娘」ジョセフィン・テイ著、小泉喜美子訳

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読んでみた、イギリス人作家による長編推理小説。1951年発表。

入院生活で退屈を持て余すグラント警部は、歴史的な大悪人として知られる15世紀の英国王・リチャード三世の肖像画に惹かれる。調査するうちにグラントは、彼が本当に巷間言われる様な悪人だったのか疑問を持ち…という内容。

シェイクスピアの史劇でも描かれた通り、同国では長年悪人として信じられて来た。自分は近年の研究までは知らないので、本書の内容通り綺麗さっぱり容疑が消えたのかどうかまでは判らない。でも「歴史ミステリ」の先駆者として登場した本書が、そうした冤罪を晴らしていく過程はスリリングで面白いのも確か。

ただ英国史、特に「薔薇戦争」関連の知識がある程度はないと、それもピンと来なさそう。勿論自分も全然詳しくはなかったけど、シェイクスピアの戯曲を読んでおけば割と大丈夫。ただ「リチャード三世」を読むにはその前作、「ヘンリー六世」3部作を読む必要があるという。…まあ、そっちも面白かったのでだいじょうぶ。
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2022.05.03

AK‐47 / 最強の銃 誕生の秘密

観てみた、コンスタンチン・バスロフ監督映画。2020年公開。

第二次大戦中の1941年。ソ連軍戦車兵のミハイル・カラシニコフは、負傷して休暇が与えられる。だが彼は故郷には帰らず、腹案として温めていた新型銃開発を独自に始める。その私製銃が評価され、軍主催の性能試験に選出されたカラシニコフ。だが専門教育を受けていない彼は、製図が出来ず…という内容。

後に世界中で用いられる事になる、名作アサルト・ライフル「AK‐47」開発者の、生誕100周年を記念して製作されたロシア製伝記映画。なので戦争映画という訳でもないのだが…銃器開発者ではサミュエル・コルトもジョン・ブローニングも映画化されてたりしないのだから、同国では相当大きく扱われている感じだ。

おしどり夫婦による開発話というのは感動的だけれど、突撃銃のコンセプト自体はドイツのStg44が大元…みたいな事には、流石に触れてないか。それより素人発明家が歴史を変えてしまうって、サクセスストーリーがとても良いね。
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2022.05.02

ル・コルビュジエとアイリーン / 追憶のヴィラ

観てみた。オーラ・ブラディ主演、M・マクガキアン監督映画。2016年公開。

1920年代フランス。女性インテリア・デザイナーのアイリーン・グレイは、恋人・ジャンと過ごすための海辺の家を計画する。その際新進建築家のル・コルビュジエに協力を仰いだものの、両者の意見は対立。しかも別荘の完成後にコルビュジエは、彼女の意に沿わない壁画を無断で描いてしまい…という内容。

別荘の完成パーティーでコルビュジエと話してるのが、同じく家具デザイナーのシャルロット・ペリアン。この女性の方が共同作業者として関りが深いので(日本とも)、こっちの人の映画かと勘違いしてた。本作で採り上げるグレイは、自身が手掛けた別荘「E.1027」が、長年コルビュジエ作と誤解されて来たそう。

なので仲々興味深い題材の映画なんだけど…グレイを上げて、コルビュジエをコスい人物として描いているのがなんかな。色々名作建築も見られるかと思ったら、そんな事もないし。まあ題材だけで、充分興味深いのも確かなのだが。
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