2022.06.30

「宇宙をぼくの手の上に」フレドリック・ブラウン著、中村保男訳

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読んでみた、アメリカ人作家によるSF短編小説集。1951年発表。

本書は短編の名手として知られる著者が刊行した、初のSF系作品集。本書には「狂った星座」「星ねずみ」といった代表作を始め全9編が収録されており、後続に多大な影響を与えた、珠玉のアイデアの数々が楽しめる…という内容。

MS戦記じゃない方のブラウン。本書の序文で著者は(ユーモア交じりながら)、SFを書く事の大変さを語っているけれど…多分本心なんだろうな、とは思う程度には意表を突くプロットばかりで納得してしまった。ただ初の短編集だからか後のショートショートとは違って、もうちょっと腰を据えて書いている感じもある。

「さあ、気ちがいに」という(何とも物騒なタイトルを持つ)短編は、未来に転生したナポレオンの生まれ変わりの男が、宇宙の真実を突き付けられて…というスケールの大きな作品。よく考えたら転生もナポレオンも関係なくね?、とは思ったものの、人を食った様でいて重量感のある作品と言っていいかもしれない。
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2022.06.29

頭上の敵機

観てみた。グレゴリー・ペック主演、ヘンリー・キング監督映画。1949年公開。

第二次大戦中。英国に駐留するアメリカ軍の爆撃機部隊・第918航空群は、思わしくない戦果から指揮官を更迭。後任としてサヴェージ准将が、その任に当たる事に。彼は任務遂行するべく部下への締め付けを強め、そのため反感を買ってしまう。准将は率先して機上の人となり、前線へ向かうのだが…という内容。

原作はサイ・バートレットとバーン・レイ・Jrの小説。護衛戦闘機を伴わないB17によるドイツ本国への昼間爆撃行は、米国でも英雄視されているからか(日本爆撃のB29と違い)映画でも描かれる事が多い。本作はその決定版だろう。

でも本作は別にそうした勇ましいものではなく、指揮官の苦悩を中心に据えた「中間管理職の悲哀を描いた作品」として捉えられる事が多い様だ。個人的には…なんかチーム立て直しに監督が代わったスポーツ物みたいだなと。目をかけた岡ひろみやお蝶夫人が戦死して壊れちゃう、宗方コーチという感じなのだが。
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2022.06.28

「縮みゆく人間」リチャード・マシスン著、吉田誠一訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編SF小説。1956年発表。

核物質と化学物質を浴びて、身体が徐々に縮小するという異常な状態にあるスコット・ケアリー。彼は日々決まった寸法が縮む中、孤独に目前の死を迎えようとしていた。そこは家族の目すら届かない、自宅の地下室で…という内容。

著者の長編小説第2作にして、翌年には自身が脚本化した映画も公開されている。…内容は上記した通り極めてシンプルだが、昆虫サイズに縮小した主人公がクモの襲撃に、飢えや渇きと戦うサバイバル要素が中心。でも感じとしては無茶苦茶過酷な借りぐらしというか、カフカを思わせる不条理ものという印象も。

なので理不尽な目に遭った主人公が家族に当たってばかりで、結構読むのがしんどいのだけれど…どうか頑張って最後まで読んでほしい。そこに待っているのは価値観の転倒・認識の拡大という、SF的で壮大(縮小してるのに)な驚異のビジョン。安易なB級イメージとは真逆な辺り、まさに価値観を転倒された。
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2022.06.26

地獄の天使

観てみた、ハワード・ヒューズ監督映画。1930年年公開。

正反対なロイとモンテのルトリッジ兄弟。第一次大戦が始まり、2人は共にイギリス軍パイロットとしてドイツ軍との戦いに赴く。彼らは鹵獲した独軍機に搭乗し、敵弾薬庫を爆撃する任務に志願。ところが作戦を前に固い性格の兄・ロイは、長年想いを寄せる女性・ヘレンに別れを告げようとしたものの…という内容。

ヒューズというのは映画「アビエイター」でも描かれた、実業家のヒューズ。多数の実物航空機を購入し本当に空中戦を行った破格の映像は、それだけで目を見張る。撮影での死亡者やヒューズ自身の負傷に加え、製作費の度を超えた高騰という呪われた作品だが…よくぞこんな映画を残してくれたと、拝むばかり。

映像的な面が強烈なので、あまり内容で語られない気がするけれど…戦争悲劇という面から見ても、(ジャン・ルノワール「大いなる幻影」辺りを彷彿とさせ)思った以上に素人離れしている。まあ色恋の辺りは退屈だが、必見の一本。
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2022.06.24

超音ジェット機

観てみた、デヴィッド・リーン監督映画。1952年公開。

第二次大戦中、英軍パイロット・トニーは航空機会社社長の娘・スーザンと結婚。戦後彼は義父・ジョンの下で、超音速を目指すジェット機のテスト飛行を行う。ところが実験中に機は激しい振動で操縦不能となり、トニーは帰らぬ人となる。戦時中には弟も飛行事故で喪ったスーザンは、父親と対立し…という内容。

リーン監督版…というかイギリス版「ライトスタッフ」といった映画だけれど、実際に観ると父と娘の対立を中心にした家庭ドラマといった趣き。…とは言え実物の英国航空機を撮影した映像は、大変に貴重な上に見応えがあるのは確か。

本作の主役機は「スーパーマリン・スイフト」。正直知らない機体だったのだが…例の「駄っ作機」にも採り上げられた大失敗作。でも本作ではカッコよく描かれており、花道を飾れたのではなかろうか。それ以外にもジェット旅客機・コメットやバンパイアと、OPではまるでメインキャストの様に紹介されてるのが面白い。
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2022.06.23

「刺青の男」レイ・ブラッドベリ著、小笠原豊樹訳

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読んでみた、アメリカ人作家によるSF短編小説集。1951年発表。

全身に「刺青」を入れた奇妙な男。未来から来た老婆に彫られたという、彼の刺青は夜になると動き出す。刺青が垣間見せる18つの物語は、やがて本当に起きる予言だというのだが…という表題作を含んだ全20編が収録されている。

ぶっちゃけた事を言うと、個人的にブラッドベリはあまり好きじゃない。この作家はSF以外に「幻想文学」も多く手掛けているけど、自分はそっちの方の好みがうるさいせいかも。本書だとポオやビアス等の登場する「亡命者たち」を読めば判るんじゃないかな、無邪気ではあるものの圧倒される印象というのはないし。

無論そんな自分でも「火星年代記」を名作と呼ぶにやぶさかではない。代表的短編集である本書も「万華鏡」(地下帝国ヨミ編ラストの引用でお馴染み…まあ本書を読むと、トキワ荘世代の作家の元ネタっぽいのがあちこちに)を始めとして、悲劇的・破滅的なトーンが中心になっている辺りの緊張感が良いと思う。
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2022.06.21

恐怖の洞窟

観てみた。トミー・カーク主演、ラリー・ブキャナン監督映画。1969年公開。

ある夫婦が自動車旅行中道に迷い、ガソリン切れで人里離れた一軒家に救いを求める。その家の主人は2人を洞窟へと誘い、夫は男が地下で飼っていた古代の怪物の犠牲にされてしまう。妻は一緒に捕まっていた古生物学者、そして男に監禁され服従を強いられる女と共に、脱出を目指すのだが…という内容。

監督のブキャナンは、以前紹介した「金星怪人ゾンター」の人。本作は最低監督として知られる彼の、多分もう一つの代表作(?と言っていいのか)。それでも不気味な出だしは悪くなく、それなりに期待を持たせるのだが…細ツリ目で出っ歯な顔の、昔の風刺画に描かれる日本人っぽい怪物が登場したらもうアカン。

それでも怪物が出ずっぱりだったらまだ笑えたのに、サイレント演出で延々おばちゃんの回想をやられて、流石にこっちの忍耐が尽きた。…ゾンターよりはいくら何でもマシだろう、という甘い期待を余裕で下回るブキャナン、恐ろしい子。
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2022.06.20

宇宙からの暗殺者

観てみた、W・リー・ワイルダー監督映画。1954年公開。

核実験を観測中、マーティン博士を乗せた飛行機が墜落。博士は無事に帰還するも、胸部には覚えのない手術痕が残されていた。それ以来彼は核実験に異常なまでの執着を見せ、遂には機密情報を盗み出すまでに至る。実は博士は死亡したところを宇宙人に蘇生されて、スパイとなっていたのだ…という内容。

宇宙人の侵略がソ連の脅威を反映していたとする説、そのままの映画。前半は結構シリアスなスパイ物的展開を見せたのに…肝心の宇宙人が卵ケースを加工した、半球目玉を装着してるパーティーの扮装みたい。シリアス感台無し。

でもヒル夫妻の件に先駆ける様に、アブダクト事例を描いているのは興味深い。巨大な目玉も、グレイタイプを間違って表現した様な感じでもあるし。…まあ内容自体は、残念としか言いようがないけれど。宇宙人が侵略用に飼育した虫やトカゲを大映しにするシーンは、刃牙のイメージトレーニングかと思った。
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2022.06.18

「中継ステーション」クリフォード・D・シマック著、船戸牧子訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編SF小説。1963年発表。

南北戦争時代からその当時の姿のままで、田舎の屋敷でひっそりと暮らすイノック。彼は実は全宇宙から異星人が旅行の途中に訪れる、「中継ステーション」の管理人だった。だがそんな彼の生活にも危機が迫って……という内容。

主に「都市」(1952年)で知られる著者の、もう一つの代表作。そちらは「火星年代記」を思わせる内容だったので、本書の方がより著者らしい作品かもしれない。著者を評する際には「田園的」「牧歌的」とよく言われる様だが…本書は田舎の一軒家が大宇宙と人類の運命の結節点になるという、セカイ系みたいな話。

まあ実際のんびりした雰囲気(個人的にはジョルジュ・サンドを連想した)だし、色々と奇妙な異星人が主人公の元にやって来るという「21エモン」みたいな作品でもある。でもそうした閉じた小空間の中から「都市」に負けない程の、宇宙スケールに及ぶ広がりを感じさせてくれる辺り、成る程これは間違いなく名作。
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2022.06.17

月のキャットウーマン

観てみた、アーサー・ヒルトン監督映画。1953年公開。

グレンジャー隊長一行を乗せたロケットが、人類で初めて月への着陸に成功する。月面探査に乗り出した彼らは、洞窟内に呼吸可能な空気を発見。更にすでに滅びた月の先住民だという美女集団、「キャットウーマン」と出逢う。男性が絶えてしまったというキャットウーマン達には、ある狙いがあって…という内容。

実際の月着陸はるか前の製作とは言え、チープすぎる出来から馬鹿にされる事の多い作品。でもこれを馬鹿にしたら…初代スタトレも馬鹿にする事にならないかなって。初代って西部劇とか古代ローマの星に降り立って、その地でカーク船長が女王みたいなのといい関係になるなんてな話、散々やってたじゃん。

…まあその手の人達が怖いのは、「ファンボーイズ」を観て知ってるからもうやめる。本作も心底退屈なのは否定しようがないので、こんなの観るのは物好きだけだな。でも有名SFドラマのルーツかもと、思いながら観ると楽しいよ?
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2022.06.14

怪物宇宙船

観てみた、ロジェリオ・A・ゴンサレス監督映画。1960年公開。

男性が完全に絶えてしまった金星では、2名の女性飛行士を他惑星へと派遣し、男性を誘拐する任務を与える。ところが機器の不調から、ロケットは「他惑星の男性=怪物」を満載して地球に緊急着陸する。彼女達が降り立ったメキシコの地には、陽気だがホラ吹きで知られる青年・ラウレアノがいて…という内容。

見た事も聞いた事もない、メキシコ製のSF映画…さすがアマプラ。手軽に観られ過ぎて有難味がぜんぜん湧いて来ないものの、観られるだけで貴重な作品(のはず)。内容的にも全くシリアスでないコメディ作品なので、あまり真面目に観る人もいないだろうけれど、これが意外と馬鹿にできない内容となっている。

映像面では宇宙船の描写やモンスターの造形がかなり凝っているし、歌や踊りに人物設定とお国柄が出ているのも楽しい。まあ最初は知的な感じだった怪物たちが結局アホみたいに暴れて皆殺しなのは、少々気の毒だったかなあ…
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2022.06.13

「分解された男」アルフレッド・ベスター著、沼沢洽治訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編SF小説。1953年発表。

テレパシー能力を用いる「超感覚者=エスパー」が、社会の在り様に深く関わる未来。エスパー企業を経営するライクは、ビジネス上の確執からライバル社の社長を殺害に及ぶ。パウエル刑事は捜査に乗り出したのだが…という内容。

ベスターの長編1作目にして、ヒューゴー賞第1回受賞作が本書。この作品で著者は「文体」が注目され、特にタイポグラフィックな表現は他作家に散々模倣されたとの事。…ただ文体の事を言うならこの作品、スピレイン作「裁くのは俺だ」(1947年)等から、B級ハードボイルドの粗野さを採り入れた感じじゃないかな。

内容自体SFミステリというかハードボイルドのSFパロディみたいで、途中までえらい退屈。でも終盤になって現実認識の崩壊が起きてからは、俄然面白くなった。…とは言え最終的には話が小さくまとまってしまうので、個人的には「虎よ、虎よ!」の方が上かなって。「もっと引っぱる、いわくテンソル♪」は好きだけれど。
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2022.06.11

土と兵隊

観てみた。小杉勇主演、田坂具隆監督映画。1939年公開。

1937年11月。日本軍による上陸作戦により敵軍は潰走、玉井伍長率いる分隊も大陸の広大な大地を、「土」を踏みしめて移動する事になった。果てしなく続く行軍また行軍、そうした中の戦闘では死者や負傷者も出て…という内容。

原作は火野葦平の小説。本作は軍部主導で製作された戦争映画で、戦後米軍に接収されたもののその後返却。今回観たのは(またアマプラ…すごいの入ってるな)1968年の再公開版だが、30分以上カットされている様だ。…内容自体は国策映画だけれど、戦意高揚一辺倒とは決して言えない素晴らしい名作。

特徴的なのは本当に中国の町を破壊する戦闘…という以上に、無言で行軍する兵隊を延々映し続ける映像。幾何学的で整然とした前衛的にも見える画面は、レニ・リーフェンシュタールに匹敵する。それと共に等身大の若者を自然体で描いた本作は、悲惨さばかり推さざるを得ない戦後作とは一線を画している。
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2022.06.10

「バーチャルリアリティ / 理論・実践・展望」サンドラ・K・ヘルセル、ジュディス・P・ロス編集、広瀬通孝監訳

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読んでみた、アメリカ人著者による科学解説書/論文集。1991年発表。

「バーチャルリアリティ」と名付けられた事で、幅広い層から注目を受ける様になった新世代のメディア技術体系。本書はこちらの分野に関して12名の執筆者が、理論・実践・展望という3つの視点より、論考したものである…という内容。

本書は前年刊行の雑誌に掲載された論文をまとめたもの。「VR」という用語が、現在の意味で用いられるようになったのは1987年との事なので、ごく初期の科学論文が読める本になる。概念的な面でもまだ未整理なためか、ギブスンの小説「スプロール」シリーズが頻繁に引き合いに出されているのが興味深い。

ギブスン発の用語では「サイバースペース」は現在でも聞くけれど、ジャックインやデッキ等は流石に余り使われないしな。…本書の内容自体はまあ論文だし、図版も少ないので決して愛想のよい本ではない。でもなぜか(芸術運動の)「フルクサス」に関するデータベース化?の項目は、やけに写真が豊富だという。
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2022.06.08

ミラノカリブロ9

観てみた、フェルナンド・ディ・レオ監督映画。1972年公開。

ミラノを拠点とするマフィアから、30万ドルもの資金がすり替えられた。犯行を疑われたウーゴは3年の服役の後、組織へと戻る。警察、マフィアそして彼の昔の女。凄惨な爆弾の洗礼も絡んで、益々闇は深まるのだが…という内容。

タイトル(9はノヴァと読む)を聞いてピンと来る人は、伊ロックに詳しい人。つまりプログレバンド「Osanna」による、同名2ndアルバムは本作のサントラ。まあ映画音楽だって事は知ってたし、何度も聴いた筈だけれど…実在する映画だったんだなって。本作は国内DVDも出た様だが、アマプラで見かけて仰天した。

内容的にはいわゆるノワール映画…でもジャンル名のフランス語のイメージとは少々違っていて、野蛮で猛々しい作風が魅力的。成る程ジャッロやマカロニ・ウエスタンとも共通した、噛み砕き方してる。本作も例によってタランティーノが好む作品の様で、エネルギーの横溢とでもいうべきラストに刮目したいところ。
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2022.06.07

「人工現実感の世界」服部桂著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/科学解説書。1991年発表。

CG等のコンピュータ技術を用いて、本物と見紛う程の仮想的な「現実感」を人工的に作り出す新たな技術。本書ではそれらの開発・研究における最前線の人物・装置をレポートし、「人工現実感」の世界を解説していく…という内容。

最前線も何も、30年以上も前の本か。そんな本を今更読んでも…という気はするけれど、まあ自分は最新のVR/ARに興味がある訳でもないから別にいいのだ。そういやこの分野の名称は「バーチャル・リアリティ/アーティフィシャル・リアリティ」に定着した様だが、本書時点では議論の最中なのが興味深い。

今見ると武骨で不格好な機器類が逆にカッコよく、有象無象のベンチャー企業の存在が夢を感じさせてくれる。なお人月の神話のブルックスも、初期VR関係者。実際概念自体は現在と大して変わらないので(今だってクソゲーにフルダイブ出来る訳じゃないしなあ)、当分野の歴史を紐解く意味では悪くない本。
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2022.06.05

サント VS ゾンビ

観てみた。サント主演、ベニート・アラズラキ監督映画。1961年公開。

父であるラザフォード教授がハイチからの帰国後に失踪し、グロリアはロドリゲス刑事に助けを求める。彼がプロレス界の英雄「エル・サント」に捜査協力を要請する一方、夜の巷では銃撃を受けても倒れない何者かによる強盗事件が発生していた。サントは「ゾンビ」の力を悪用した黒幕を追うのだが…という内容。

これもアマプラ見放題にあって驚いたの。…メキシコプロレスの英雄・サントが活躍する映画シリーズで、この作品が彼の実質的な初主演作に当たる様だ。まあプロレスラーなら日本が誇る力道山も何作も主演しているので、そこまで特殊な事ではない。サント映画の見所は、彼が「ヒーロー」として怪物と戦う辺り。

ルチャリブレの覆面レスラーは(J・キャンベルの言う)神話的英雄そのもの…という話は、自分じゃなくもっと詳しい人の解説を聞いた方がいいだろう。本作も素朴な内容ながら、思っていた以上に「正義のヒーロー」として真剣な作品だ。
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2022.06.04

「タイタンのゲーム・プレーヤー」フィリップ・K・ディック著、大森望訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編SF小説。1963年発表。

人口が激減した上に、タイタン人による支配を受けている未来の人類。一部の特権階級は異星人によりもたらされた「ゲーム」を介して、地球上の土地を賭けの対象にしていた。そんな中、プレイヤーの1人であるピートは…という内容。

文学指向の強いディックが、収入のために泣く泣く書いたペーパーバックSF第1作。本書に対しては著者自身、厳しい言葉を残している様だが…駄作を覚悟して読んでみると、これが案外悪くない。やたらに展開が早く、どんでん返しの連続の本書からは(解説に指摘のある通り)、「非Aの世界」を連想させられる。

ディックが「ワイドスクリーン・バロック」を書いていたんだな、とか言うと傑作っぽく聞こえたりして? まあ著者の代表作より受けるイメージからしたら、少々安物感があるかもしれないけれど。薬物への言及やクラシック・レコード趣味等、これはこれで(著者をある程度知っているなら)本書もまたディックらしいと思う筈。
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2022.06.02

「人月の神話 / 狼人間を撃つ銀の弾はない」フレデリック・P・ブルックス Jr.著、滝沢徹、牧野祐子、富沢昇訳

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読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1996年発表。

1960年代にIBM社でOS開発に携わった著者が、その際の経験を基にソフトウェア工学における、マネージメントについて論じた歴史的な名著。同分野に限らずプロジェクト管理論の古典として、現在でも広く読まれている…という内容。

同書の元々の刊行は1975年だが、今回読んだのは1995年に「原書発行20周年記念増訂版」として再刊されたもの。初刊行時から本書の内容に関しては議論され、その後の検証も含めて新章を書き下ろしている。著者自身内容の確かさを再確認しているだけあって、現在でも普遍的に通用する書籍のようだ。

まあ流石にコンピュータに関する概念や用語は古くなってしまっており、(ハッカーと画家とは違って)正直全然理解できなかった。…でも大丈夫、本書で示された「ブルックスの法則」や「銀の弾はない」として知られる卓見は、誰が読んでも納得できるはず。集団作業をする際、心に留め置いたらいいかもしれない。
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2022.06.01

「ハッカーと画家 / コンピュータ時代の創造者たち」ポール・グレアム著、川合史朗訳

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読んでみた、アメリカ人著者によるエッセイ集/ノンフィクション。2004年発表。

Yahoo!ストアの母体となったViawebの設立者にして、Lisp言語のプログラマである著者のエッセイをまとめたのが本書。ソフト開発やビジネス上の自論やLispの利点、「ハッカー」の並外れた存在について縦横に語る…という内容。

「ハッカー」と言ってもコンピュータを使った犯罪者の事ではなく、本書では「特別に優れたプログラマ」を指す言葉として用いている。この書名は「ハッカーと画家」との共通点から来たものだが、芸術性・創造性…に限らず、作業手順等に関しての指摘でもある。自分はプログラムはせんので、ふーんそうなのかなと。

なので各プログラム言語の利点や欠点等、説明を聞いても正直よく判らないのだが、その語り口の面白さで楽しく読めた。ただ著者がビジネスについて語ると…ひ〇ゆきやホ〇エモンみたいな事言っててイラっと(いやそういう人らの方が、影響を受けたんだろうけど)。でもスカンクワークス好きなら、多分いい人だ。
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