2022.07.31

「日月両世界旅行記(じつげつりょうせかいりょこうき)」シラノ・ド・ベルジュラック著、赤木昭三訳

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読んでみた、フランス人作家による長編小説。2005年発表。

主人公はボトルを身に付けて、月へと飛ぶ。そこで彼が目にしたのは…(「月の諸国諸帝国」1657年)。月から戻った主人公は、箱を組み合わせた乗り物で太陽を目指し…(「太陽の諸国諸帝国」1662年)。本書には上記の2編を収録。

著者は主に彼をモデルにした、エドモン・ロスタンの戯曲で知られている。自分は「鼻がでかい人」というイメージしかなかったけど、本書でも自分でそう書いていたな。…内容的には「原SF」という辺りが注目点だが、(銀背でも刊行された削除版とは違って)本書は著者の哲学や批判が繰り返し語られる、思想的内容。

そのせいかぶっちゃけ、読んでもあまり面白くはない。まあ著者の考え方の先進性や重要性は、解説を読んで理解はしたけれど。例えば「ガリバー旅行記」「ほらふき男爵」等にはストーリー的な面白さがある辺り、やはり違うと思う。…でも本書がそれらに1世紀も先行した作品と判ると、認識を改めざるを得ないな。
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2022.07.30

「未來のイヴ」ヴィリエ・ド・リラダン著、齋藤磯雄訳

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読んでみた、フランス人作家による長編SF小説。1886年発表。

女性に失望し自殺をも覚悟した青年貴族・エワルド。恩のある発明家・エディソンはエワルドの為に、彼の恋人であるアリシヤと瓜二つの姿を持った「人造人間」の製作を約束する。そして遂に、その日がやって来るのだが…という内容。

「アンドロイド」という用語が初めて使われたという本書。「フランケンシュタイン」(1818年)と比較すると、死体の継ぎ接ぎだったそちらと違い人工物により構成されている辺り、よりSF的な人造人間として完成している。しかも(割と単純なプロットに反し)延々とそうした方面の、技術的な説明が続くのもSF感が高い。

でも本書で最も強調されるのは、そうしたガジェット開陳より「ミソジニー」じゃないかと思うんだけど。単純なストーリーに呆れる程に装飾的な文体で女性嫌悪が盛られているのは、相当いびつな感覚。偉大なSFの先人であるフランケンシュタインが、女性作家の手になるものというのを考え合わせると…複雑だなあ。
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2022.07.29

「Music for films」ELENI KARAINDROU

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聴いてみた、ギリシャの現代音楽作曲家。1991年発表。

「エレニ・カラインドルー(現地語表記:Ελένη Καραΐνδρου)」は、1941年にティヒオで誕生。ギリシャ音楽院でピアノと作曲を学び、留学先のパリでは民族音楽を研究した。ギリシャに帰国してからはテオ・アンゲロプロス監督の作品を始めとして、多くの映画音楽を手掛けているとの事。…ちなみに女性の作曲家。

本作はそのアンゲロプロス作品から、「シテール島への船出」「蜂の旅人」「霧の中の風景」という3作の音楽を収録している。1984年の「シテール島」以降、遺作「エレニの帰郷」(2009年)まで全ての作品で劇伴を担当しており、実際本作を聴くとテオ作品の掛け替えのない一部として、思い起こす事が出来る筈。

逆に言えば3作から収録しているのに、何で全部の曲調が似た印象なんだとは思ってしまうけれど。とは言えぼんやりと霧に煙った情景や、曇天の淡い光を思わせる音楽は、アンゲロプロスの印象そのまま。そのままに胸を締め付ける。
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2022.07.27

あした晴れるか

観てみた。石原裕次郎主演、中平康監督映画。1960年公開。

青果市場勤めの傍ら活動する、新進カメラマンの耕平。彼はフィルムメーカーから「東京探検」というテーマでの作品制作を依頼され、その補佐に宣伝部員のみはるが付く事に。困った人を見逃せない熱血漢の耕平は、偶然撮影した老人が出所したてのヤクザ者・人斬り根津から狙われていると知り…という内容。

中平監督と裕次郎のコンビと言えば、「狂った果実」(1956年)だが…本作はそちらと違ってコメディ色が強いものの、当時の勢いをそのまま封じ込めている。全体的にモダンでコミカル、端々のスノビッシュな台詞すら逆に小気味良い。

ただ登場人物が顔を合わせれば口喧嘩、街を歩くたびにぶつかって喧嘩を始める。何なの?この狂犬どもは…とあまりの凶暴さに、正直イライラしてしまった。当時の人はこういうギャグで笑ってたのかなあ?、と不思議な気もしてくるけれど…現在でも本作の評判自体はよい様だ。まあ軽く観る分には楽しい映画。
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2022.07.26

「小遊星物語」パウル・シェーアバルト著、種村季弘訳

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読んでみた、ダンツィヒ人作家による長編SF小説。1913年発表。

太陽系内の小惑星・パラスに住む奇妙な生物達。地球にも訪れていたという彼らは、建築家であるレザベンディオの構想を基に、自星の北側に巨大な「塔」の建造を始める。果たして、光る「雲」の向こう側にあるものは?…という内容。

余り知られていない作家だと思うけれど(建築家ブルーノ・タウトは影響を公言していた模様)、本書は「異星人SF」のジャンルとしては相当に先見的な内容を持っている。…まず人型を大きく離れた(翼のある4本脚のタコみたいな?)形態に、実在生物とは全く異なる生態という、今読んでも大変独創性に溢れたもの。

(訳者・種村も解説者・高山も畑違いだろうから、ノータッチなのは仕方ない)幻想文学方面じゃなくSF方面から喩えるなら、「ロシュワールド」や「老ヴォールの惑星」とか、そんな作品とも遜色ない感覚。…ただ突飛すぎて読んでても全然イメージ出来ないため、実際の印象は「奇書」としか言いようがないんだけど。
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2022.07.24

女を忘れろ

観てみた。小林旭主演、舛田利雄監督映画。1959年公開。

修はボクサー時代に傷つけた相手を見舞った際、近所に未完成アパートの存在を知る。その物件は知人の女子大生・尚子が士建屋の大沢に頼んだものだが、なぜか工事を引き延ばされていた。尚子に惹かれる修は、大沢に工事再開を催促してトラブルに。しかも修には、同棲中の女性・雪枝がおり…という内容。

本作の監督である舛田は、「宇宙戦艦ヤマト」の人というイメージ…別にアニメ監督という訳ではない筈だけど。かと言って実写の方でも「人間革命」や「ノストラダムスの大予言」と、キワ物的なフィルモグラフィという感じがする様な。

本作は「日活の舛田天皇」と呼ばれた時代のもので、上記イメージと違っているのは確か。ただ内容自体は青春映画…と言うより、辛気臭い三角関係を描いた恋愛もの。ボクシングやジャズドラマー等と主人公の設定だけは盛ってる割に、そういう方面の期待には応えてくれない。うん、やっぱりキワ物の方がいいね。
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2022.07.22

「動く人工島」ジュール・ヴェルヌ著、三輪秀彦訳

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読んでみた、フランス人作家による長編SF小説。1895年発表。

フランスから米国へ、演奏旅行にやって来た弦楽四重奏団。ところが彼ら4名は「スタンダード島」政府を名乗る者に、ある人工島へ連れ去られてしまう。そこは何と海上を自在に移動できる、科学技術・先端社会の島で…という内容。

日本の初期SF作家が、ヴェルヌに影響を受けていたのはまあ当然の話。という事は香山滋を始め、南海・辺境を舞台にした冒険小説風味が強いのも(「十五少年漂流記」等をもう一方の代表とする)ヴェルヌ由来の要素だろう。要は東宝怪獣映画の南洋指向も、ヴェルヌがルーツだって言ってしまっていいのかも?

本書は著者後期の代表作で、科学的な人工島での旅行記だが…ユートピアとしての思考実験以外は、立ち寄る南洋諸島での出来事中心(英国と対立して、猛獣を島に放たれたりも)。だからか?やたらに、人食い族人食い族という言葉が連呼されるという。これ日本へロマンと同時に、誤解も広めたよなあ…って。
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2022.07.21

「毒ガス帯」コナン・ドイル著、龍口直太郎訳

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読んでみた、イギリス人作家によるSF小説中短編集。1971年発表。

宇宙空間に広がる有毒なエーテル帯に、地球が突入しつつあると言うチャレンジャー教授。彼が警告した通りに人々は世界中で、異常な行動の後に次々に倒れていって…という表題作(1913年)を含んだ、全3編が収録されている。

本書の前作が、かの有名な「失われた世界」(1912年)。でも著者が生み出したシャーロック・ホームズ程には、本作のチャレンジャー教授は親しまれていない気が。まあ傲岸不遜の怒りっぽい性格に加えて髭面のオッサンでは(語り手のフォローに反して)、シュッとしたホームズみたいに人気が無いのも仕方ない。

とは言え本書は、初期の「終末SF」として読み応えある。世界の壊滅を描いた後の小説や映画が、いかに影響を受けているか判って驚くけれど…この後もシリーズは続いてるってメタ知識があると、結末に関しては見当が付いてしまうかも。逆に酸素ボンベ云々は、3年前のハレー彗星騒動の影響があるのかな?
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2022.07.19

「山椒魚戦争」カレル・チャペック著、栗栖継訳

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読んでみた、チェコ人作家による長編SF小説。1936年発表。

ヴァン・トフ船長が太平洋上の島の入江で見付けた、魔物と恐れられる生物。「山椒魚」に似たそれらは高い知能を有しており、人間が使役して一大産業を構成する様になった。だが殖え過ぎた山椒魚達は、人間に対して…という内容。

戯曲「R.U.R.」で知られている著者の小説作品。「ロボット」の発案者だけあってか、本書に登場する山椒魚も人間に使役された後に反乱するという、同じ展開になっている。まあ戯曲形式と違うのは「語り」というか、不特定多数視点の証言や論文・雑誌記事を模したりと、多彩なナラティビティを駆使している辺り。

そのお陰か(ウェルズとも近い架空の歴史物なのに)大変に面白く読める。特に最終章で自問自答を経た上で導かれる結末は、作者自身の人間性が顕れており素晴らしい。まあどこか憎めない山椒魚が魅力的というのがまずあると思うけれど…ナチスドイツを重ねたものと聞くと、ちと微妙な気持ちにはなるかなあ?
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2022.07.18

「解放された世界」H・G・ウェルズ著、浜野輝訳

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読んでみた、イギリス人作家による長編SF小説。1914年発表。

1950年代、新エネルギーの実用化に反して政情が混迷。欧州での紛争が新兵器「原子爆弾」の投入により、世界戦争へと拡大する。本書は画期的な未来予測と、平和への警鐘を込めた、シミュレーション小説である…という内容。

ヴェルヌの「悪魔の発明」(1896年)も核兵器を予言したものと言われるけれど、本作はそのままズバリ「原爆」を言い当て、実現の切っ掛けにすらなったというすごい小説。…でも単にそれだけに留まらず、世界人権宣言や日本国憲法にも影響を与えた、ウェルズ思想の原点とも目されている歴史的に重要な作品。

という割に、宇宙戦争やタイムマシンといった代表作と違い殆ど読まれていないのは、正直ちっとも面白くないからだろうな。SFと言うより著者の考えを開陳した「思想小説」だし(架空の歴史書を模した体裁はユニークだけど、それも一貫してないし)。解説の方が興味深いのも確かだが…それでも必読と言っておこう。
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2022.07.16

その壁を砕け

観てみた。長門裕之主演、新藤兼人脚本、中平康監督映画。1959年公開。

東京から自動車に乗り、新潟の恋人を迎えに走る青年・渡辺。ところが道中の村で発生した殺人事件の容疑で、逮捕されてしまった。渡辺は被害者証言で犯人と断言され、同乗者の存在を訴えながらも被告として裁判を受ける事に。そんな折、初動捜査に貢献した警官・森山は、怪しい男を見付けて…という内容。

中平監督・新藤脚本に加えて音楽が伊福部昭という、メンツだけですごそうな映画。ジャンルとしては犯罪・法廷サスペンスと思うけど、「冤罪」というテーマを介して閉鎖的な日本気質の抑圧を描いた辺り、新藤脚本の真骨頂だろう。

ボンクラっぽい長門裕之の警官が、犯人に遭遇するのは都合よすぎだけれど、結局それが無くても決め手は最初から別にあったという。それを阻害したものこそがタイトルにある「壁」で…高らかに鳴り響くクラクションは、それを打ち砕いたという凱歌だ。新藤脚本が特別視された(「祭りの準備」だったか)のも判るね。
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2022.07.15

果しなき欲望

観てみた。長門裕之主演、今村昌平監督映画。1958年公開。

軍医が防空壕に隠匿した大量のモルヒネ、戦後それを回収する為に関係者が集まった。だが軍医は既に亡くなり、代わりに妹を名乗る女が現れたのに加え、本来は4名の筈が1名余計に増えていた。しかも防空壕は埋められその上に肉屋が建ち、彼らは空家を借りて地下を掘り進まざるを得なくなって…という内容。

原作は藤原審爾による同名小説で、本作は「盗まれた欲情」で監督デビューした今村が同年に手掛けた3本のうちの1本。話自体はホームズの「赤毛組合」が元になっていそうだけれど、本作はその犯人側視点でのブラックコメディとでも言うか。トラブルと疑心暗鬼に翻弄される犯罪者をユーモラスに描いている。

最終的に破滅する犯人たちは、むしろコーエン兄弟の「レディ・キラーズ」(2004年)みたいなんだけど…ひょっとしたら本作を参考にした?(リメイク元「マダムと泥棒」は地下を掘る手口じゃないし)。まあそんな事も考えたくなる面白さ。
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2022.07.14

「ビジュアル基本手技2 カラー写真でみる!骨折・脱臼・捻挫 / 画像診断の進め方と整復・固定のコツ 改訂版」内田淳正、加藤公著

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読んでみた、日本人著者による医学解説書。2010年発表。

「骨折・脱臼・捻挫」といった、骨関節の外傷に関する診断と治療を行う整形外科医。本書では豊富なカラー写真と図版による症例の紹介をもとに、問診や整復・固定といった、実際の方法を解説したビジュアル医学書…という内容。

まあカラー写真を売りにしていても、本書に載っているのはX線やMRIといった白黒の画像が殆どなんだけど。でも急に開放性骨折(骨が飛び出ている様な症例)のカラー写真が出て来て心臓に悪い。自分は素人なのでそういう写真の見方自体判らないのだが、本書は実際の医療従事者からの評判もよい様だ。

ただ素人が読んで面白いかと言われても、(どの専門書もそうだろうが)聞き覚えのない部位骨の名前や病名・術名等と、雲を掴む様な話に感じるのは仕方ない。それは健康で、怪我やお医者さんに縁遠い事に感謝するべきだな。…興味を持って見る分には色々得られる事も多いので、良い本ではないでしょうか。
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2022.07.11

「手術学入門 / 各科における手術手技の基本」草間悟編

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読んでみた、日本人著者による医学解説書。1989年発表。

「手術」を行う際に必要となる「手技」の知識。本書ではこれまで不正確だったり、曖昧に済まされて来た用語を整理し、各科の手術で用いる道具・器械や技術等を網羅的に紹介。手術入門者への解説書とするものである…という内容。

と言っても高っかい専門書なので、素人が読んだところでどうにかなるという類のものでもないな。でも手術で使うメスや縫合針、鑷子(せっし=ピンセット)に結紮(けっさつ)糸といった様々な道具。加えてメスの入れ方に、男結びや外科結びといった糸の結び方等…様々な「手技」を知る事が出来るのは興味深い。

こうやって本書を順に読んでいくと、パラパラと見ていた時は目をそむけたくなる実際の写真でも、多少知識を付けた上だとほうほうと興味を持って見られる様になっていたのだから我ながら単純だ。折角なので何か役に立てられないだろうか…と思ったけど、異世界にに飛ばされたところでうろ覚えだから無理ダナー。
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2022.07.09

狂熱の季節

観てみた。川地民夫主演、蔵原惟繕監督映画。1960年公開。

スリの現行犯で鑑別所送りになった明と勝。釈放された2人は自動車を盗み、パンパンのユキを連れて海へ向かった。そこで明は逮捕の件で恨みに思う新聞記者・柏を見付け、彼の婚約者・文子を誘拐した後に犯してしまう。しかも文子が明の子を身籠った為、彼らの関係はそれだけでは終わらず…という内容。

本作は日本ヌーベルバーグの知られざる傑作、という評価を受けている様だ。個人的には自動車窃盗後の連続したシークエンスが、「拳銃魔」(1949年)の長廻しを連想させてしびれるね。そういう意味ではフィルムノワールと言ってもいいいと思うけれど、主人公のやる事なす事、軒並み小悪党的なので違うかも。

黛敏郎によるジャズが、本作の疾走感を加速させて刺激的だが…車から降りちゃうとスピードダウンして、うーん。とは言え手持ちカメラによる白黒映像に加え、川地民夫のギャグ一歩手前のワル演技が、今見てもカッコイイのは確か。
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2022.07.08

「手術室の中へ / 麻酔科医からのレポート」弓削孟文著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2000年発表。

身体にメスを入れ麻酔が用いられる、侵襲(ダメージを与える)性の高い医療行為が「手術」。本書は麻酔医の立場から著者が、手術に関わる医療従事者、そして患者や家族へと向けて、その実情を紹介するものである…という内容。

手術中に限らず、その前後も含めて俯瞰的に治療に当たるのが「麻酔医」だとの事。本書で特に強調される「手術の侵襲性」も含め、言われると成程という感じだが…意外と知られていないので、一般に向けて書かれた本書は貴重。一般向けとは言っても手加減は一切ないので、突っ込んだ事情も知る事が出来る。

特に実際の治療例の話や、架空の手術シミュレーションなんかは理解しやすいので、自分が当事者になったら?、という辺りを考えつつ読むとより興味深い。まあ別に本書は麻酔医療の歴史を解説する本じゃないからだろうけど…笑気ガス開発者・ウェルズの名前は挙がっても、華岡青洲(の妻)の話はなかったな。
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2022.07.06

「病人の心理」金子仁郎著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/医学解説書。1986年発表。

病気の治療だけに留まらず、医療従事者にとって重視すべきものであるのが「病人の心理」。本書では病気と向き合う患者が抱える内面の問題に、寄り添う医師や看護師が認識しておくべき、各項目について解説する…という内容。

本書は労働福祉事業団(現労働者健康安全機構)の社内誌に連載されたコラムをまとめたもので、あまり専門的な内容ではなく薄手のハンドブックという感じ。とは言え医療従事者にとっての、アンチョコ的実用書なのは確かかも(…ただこういう本を読んでいると、自分まで病気になった気がして不安になって困る)。

患者との対応で持ち上がる問題を、上手に回避・対処するハウツー本とも言えそうで、正直病人側が読むべき本ではない気がしたのだが…著者の誠実さは感じられるので、悪い印象はないと思う。まあ逆に言うと患者としてお医者さんにかかった時、相手を困らせないよう事前に心に留め置くべき内容かもしれない。
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2022.07.05

最後の戦闘機

観てみた、アナトール・リトヴァク監督映画。1934年公開。

第一次世界大戦。フランス軍第37飛行隊に見習偵察士として配属されたジャンは、隊の鼻つまみ者の操縦士・モリーとコンビを組む事に。2人は見事な戦果を挙げ、その功績でジャンは休暇を得る。しかしモリーから託された手紙を持って面会した彼の妻は、何とジャンの恋人であるドゥニーズだった…という内容。

フランスの戦争映画。のはずなのに、中心になるのは三角関係の恋愛模様…フランス人って本当に不倫が好きなのな。嫁が前線に乗り込んできて引っ掻き回すのはひでえと思ったものの、物悲しい結末でのやり取りなどは悪くない。

なので空戦要素はむしろおまけなのに加え、空中シーンではほぼ「スクリーンプロセス」を用いており、正直なところ粗雑で見せ場に乏しい。まあ「地獄の天使」みたいに危険極まりない曲芸映画から、その後当たり前になる映像表現へと進歩したと言えば言えるか。とは言え、一度は見といてもいい映画じゃないかな。
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2022.07.03

「医学の歴史」小川鼎三著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1964年発表。

人類の誕生と共に、病との戦い=「医学」の歴史ははじまった。本書は古代における薬草の発見や呪術的な治療から始まり、現代の西洋医学の発展。と共に、それらを必死の思いで採り入れた日本医学の歴史を解説する…という内容。

さほど厚くもない新書本なのに、大変に濃密な一冊。それでも世界の医学史を語り尽くすには流石に足りない様で、日本の解剖学者でもある著者らしく、そうした辺り(シーボルトの略歴や解剖の受容史等)の重要性を中心にまとめられている。…そのお陰?か、「陽だまりの樹」の副読本でも読んでいる気がしてきた。

人名と業績の羅列みたいな内容なのは確かで、すんなり頭に入るかどうかは読む人次第だろうけど…案外自分は面白く読めた。とは言え前半はやっぱり他分野の科学史と同様にオカルトじみているので、そういう意味でも?興味深い(こんな本にもパラケルススの名前が出て来るのか)。いやこれは名著でしょう。
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2022.07.02

つばさ

観てみた、ウィリアム・A・ウェルマン監督映画。1927年公開。

第一次世界大戦の勃発により戦闘機パイロットとして出征した、アメリカ人青年・デビットとジャック。彼らはある女性を巡って複雑な関係にあったものの、ドイツ軍との激しい戦いの中、掛け替えのない友情を育んでいった。ところが空中戦で撃墜されたデビットを、戦死したものと思い込んだジャックは…という内容。

第1回米アカデミー賞で作品賞を獲得した、記念すべきサイレント映画。空戦映画としても最初期のものだと思うけれど…色恋のドラマが、やたらダラダラと長いのがちとな。友情ものに絞ってくれた方が、現在でも感動できた気がする。

空中戦も実機を用いた画面は勿論すごいのだが、「地獄の天使」の常軌を逸した映像を見た後ではな(むしろ観測気球撃墜シーンが良い)。本作はどちらかと言うと、地上軍の戦闘を交えた立体的な演出に目を見張る。そちらの大規模な群衆描写に加え、ルノーFT戦車が縦横に走り回る辺りが見せ場かもしれない。
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