2022.09.30

「零戦 / その誕生と栄光の記録」堀越二郎著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/自伝。1970年発表。

第二次大戦中。日本海軍の主戦力として、伝説的な存在とまで賞された「零式艦上戦闘機」。本書は主任設計士として零戦の開発に関わった著者が、数々の技術的困難とその克服をはじめ、同機の栄枯盛衰を綴っていく…という内容。

著者はもちろん、宮崎駿監督の「風立ちぬ」で描かれた堀越二郎。そちらの映画では零戦開発は直接描かれなかったので、ある意味続編みたいな内容かも。…と言うか映画では戦闘機設計の技術的側面はオミットしてしまったので、どちらかと言うと(沈頭鋲導入がメインだった)原作漫画の印象をより強く思い出す。

本人が語るプロジェクトX的な開発秘話は、当時の世界情勢の推移や個人的な感懐とも関連付けて、大変に興味深く読める。本書を現状の日本の「モノづくり」と絡めて、教訓的に読むことも可能だけれど…自分はただのミリオタだから、よく判らんね。それより「美」の追求と犠牲者への「悔恨」の念が、強く胸を打つ。
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2022.09.29

コントロール

観てみた。サム・ライリー主演、アントン・コービン監督映画。2007年公開。

イアン・カーティスは公務員として働く傍ら、ロックバンド「ジョイ・ディヴィジョン」のボーカルとして活動していた。若くして結婚した彼には妻・デビーがおり、バンドが有名になる中、一子も授かる。だがイアンはベルギー人女性・アニークと関係を持ち、しかも彼の身体は原因不明の発作をしばしば起こして…という内容。

筆者もJoy Divisionは、「Warsaw」の音源まで聴いたんだから、結構好きなんだろうけど…Curtisの死に関する詳細は今回初めて知った。ズルズル引きずった三角関係が原因の自殺ってのは、観ていてなんだか昼メロみたいだな。

とか言ったら悪いか。本作はとにかく精神的・肉体的に追い詰められるCurtisが延々描かれる、何の救いもない暗いばっかりの映画。…とは言えバンド活動の再現はいい感じで見応えある。特に彼の死後「New Order」と名前を変え世界的成功を収めたバンドが、音楽監修・楽曲提供しているのは感動的だなぁ。
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2022.09.27

「黒いトランク / 鬼貫警部事件簿」鮎川哲也著

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読んでみた、日本人作家による長編推理小説。1956年発表。

1949年12月、東京の汐留駅。「黒いトランク」の中から見つかったのは、男の腐乱した他殺体。更に九州からその荷物を発送した容疑者もまた、瀬戸内海で自殺体として発見された。鬼貫警部は捜査に乗り出したのだが…という内容。

時刻表トリックものの原点は、松本清張の「点と線」(1957年)…かと思っていたけれど、本書の方が早いんだな。まあ本書では「時刻表」はトリックの一要素でしかなく、最大の謎はクロフツの「樽」との関連で語られる様だ(自分は未読)。推理小説では「早い」事が絶対的に偉いものの(らしい)、本書は大変面白い。

ただ本書のアリバイトリックは複雑さを極めており、正直自分も判ったような判らないような(本書では1949年当時の時刻表や、図表による時系列解説が付いているのは親切)。その後の社会派としての展開を見ると、やはり松本清張と「本格」を貫いた著者とでは、目指してるものは違ったのだなあ、という事も判る。
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2022.09.26

「砂の器」松本清張著

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読んでみた、日本人作家による長編推理小説。1961年発表。

ある日国電蒲田操車場内で、男性の惨殺死体が発見された。今西刑事が目撃者証言にあった方言や、被害者の経歴という僅かな手掛かりから徐々に真相へと迫る一方、捜査線上に浮かぶ関係者に謎の不審死が続いて…という内容。

これまで何回となく映像化された本書で、特に有名なのは1974年版の映画。そちらではドラマチックな管弦楽曲に準えた「人生悲劇」という印象が強いけれど、原作である本書は少々テイストが違う。平凡な刑事が足で捜査する、いかにもな「社会派ミステリ」なのは勿論として…何だか「怪奇大作戦」みたいな感覚も。

戦争にまつわる因縁と疑似科学的な犯罪手口の融合は、これまさしく怪奇大作戦だなって(怪奇と清張作品との影響関係は、検討するべきテーマ)。まあ個人的にはやたら「ミュージック・コンクレート」って言葉が連呼されるのに軽い衝撃が。自分の知ってる同音楽と違う気もしたけど…それも計算のうちかもしれん。
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2022.09.25

SAD VACATION / ラストデイズ・オブ・シド&ナンシー

観てみた、ダニー・ガルシア監督によるドキュメンタリー映画。2016年公開。

1978年。元Sex Pistolsのベーシスト「シド・ヴィシャス」が、恋人の「ナンシー・スパンゲン」を刺殺したという容疑で逮捕された。しかも釈放されすぐ、シド自身彼女の後を追うかの様に、麻薬の過剰摂取で命を落とした。本作は当時彼らと関係の深かった人々の証言を元に、シドとナンシーの真実を探る…という内容。

なので音楽ドキュメンタリーではないな(関係バンドの曲は豊富に流れるけれど)。でも破滅的な恋人達の人生を検証する内容なのは当然として、ナンシーの死をシド以外に犯人がいた可能性として追及する辺り、歴史ミステリみたい。

本作を観ると直接の知人にとって、ナンシーの評判はすこぶる悪い。皆口を揃えてシドが純粋さから騙された被害者みたいに言う辺り、色々と察する事はできる。そのせいもあって犯人別人説をいまだに信じているんだろう…と考えると、気の毒な気も。映画「シド&ナンシー」と違うのは、そういう視点じゃないかな。
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2022.09.23

「亜愛一郎の狼狽(あ あいいちろうのろうばい)」泡坂妻夫著

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読んでみた、日本人作家による推理小説短編集。1978年発表。

雲や昆虫といった、風変わりな被写体専門のカメラマン「亜愛一郎」。長身で彫りの深いマスクの美男子である反面、臆病で挙動不審なところが玉に瑕。だがそんな彼が一旦事件に遭遇すると、超人的な推理を発揮して…という内容。

著者が雑誌「幻影城」新人賞に応募し、佳作入選した「DL2号機事件」を含む初の作品集。「日本のブラウン神父」とも評される、亜愛一郎の初登場作でもある。「ユニーク」が服を着て歩いている様な人物造形で、ライトな作風ともマッチして好感が持てるのだが…背景が一切判らないミステリアスなキャラでもある。

まあそういうところを、気にして読むような作品でないのも確か。日常的な空気の中に起きる謎や事件を、アッサリと解き明かす「探偵=神的存在」の権化という見方も出来るだろう(社会不適応と言うより、童子神的だ)。…とは言え本書には珠玉のアイデアが詰まっており、それ自体仲々に「神がかり」的じゃないか。
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2022.09.22

人類遺産(原題:Homo Sapiens)

観てみた、N・ゲイハルター監督によるドキュメンタリー映画。2017年公開。

世界各地に点在する70か所以上もの「廃墟」を、映し出したのが本作。人々がその地を去ってから自然の浸食に任せ、やがては無に帰すであろう過程にある「人類遺産」の姿を、あくまでも静かな定点撮影により追う…という内容。

しかもナレーション無しの上に音楽も無しなので、作品イメージとしては環境ビデオみたいな感じ。それに加えて画面は左右対称…というか、画面中央に消失点を置く「一点透視図法」の構図で徹底されている。これは人工物の整然とした構成・存在感を強調すると共に、廃墟としての「綻び」をより強く印象付ける。

まあそこからなにを感じるかは観た人次第だろうけど。個人的にはやはり、軍艦島や東北の立入禁止区域と思しき日本の風景には、はっとさせられる。「人類」そのものを言い表す原題からは、俯瞰的・客観的な視点が感じられるものの…後者に関してはまだ少々、そうした人類史的な総括を下すには生々し過ぎる。
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2022.09.20

最後にして最初の人類

観てみた。ヨハン・ヨハンソン音楽、脚本、監督映画。2021年公開。

遥か未来の「最後の人類」から、過去に向けてメッセージが発せられる。彼らは太陽の天体衝突による大崩壊から絶滅の危機的状況に瀕して、自らを変容させ海王星へと逃れるという、壮大な歴史を刻んでいたのだが…という内容。

オラフ・ステープルドンによる同名SF小説の映画化。ただ本作の映像は、白黒の16oフィルムで撮影された旧ユーゴスラビアのモニュメントを延々映したもの。それに小説の朗読と、作曲家である監督自身作の音楽が流れる環境ビデオみたいな感じ。大々的に公開された割に相当前衛的で、とても万人向けとは…

とは言え人類に向けた諦念といった語り(海野十三「遺言状放送」っぽい)に、かつての栄華を忍ばせる映像。更に世界の終焉に向けた鎮魂歌とも言うべき音楽は、混然一体となって本作の宇宙を形作る。…特に監督のヨハンソン自身が既にこの世の人でない辺り、ある意味完璧な作品として屹立しているとも思う。
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2022.09.19

「双頭の悪魔」有栖川有栖著

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読んでみた、日本人作家による長編推理小説。1992年発表。

英都大推理研所属のマリアが、四国山中の芸術家村から一向に帰宅する様子がない。現地に飛んだ同部メンバーの江神は、橋の崩壊で孤立した村で殺人事件に遭遇。更に別行動のアリスもまた、別の殺人を目撃して…という内容。

個人的な話をすると、叙述トリックもう飽きた。本書を読むとやっぱり「本格」っていいよねってなるな。…有栖川はエラリー・クイーンの薫陶を受けたとの事で、著者と同名の人物が登場する辺りお約束な訳だが、それ以上に論理と推理を純粋に/丁寧に積み上げ、「読者への挑戦」を提示する辺りはまさにクイーン譲り。

本書は著者の「学生アリス」シリーズ第3作で、大変に分厚い大長編。「四大奇書」を始めそういう本は脱線と余談で水増しされてるようなものだが、本書は明晰な文体であくまでもフェアに謎の提示や推理を行う為に、この分量が必要だったと思われる。では真っ向から謎を解明しよう…かと思ったけど無理でしたわ。
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2022.09.17

ウィンナー・ワルツ

観てみた、アルフレッド・ヒッチコック監督映画。1933年公開。

19世紀ウィーン。権威的な作曲家の父親とは犬猿の仲にある、シャニーことヨハン・シュトラウス2世は、恋人・レジとパトロンの伯爵夫人の間に挟まれつつも、新曲を完成させる。だが一旦は作曲家への道をあきらめてパティシエとしての生活を始めた為、彼の才能を惜しんだ伯爵夫人の計画により…という内容。

その新曲というのが「美しく青きドナウ」で、本作では4分30秒に渡って演奏を見せており感動的。要するに本作は全くサスペンスではないのだが…ヒッチコックは後の「知りすぎていた男」(1956年)で、オーケストラ演奏中に殺人を行うというアイデアを用いており、本作がその元になっていると考えてもいいのかも?

同曲が初演された時には、父シュトラウスは既に没していたので、本作の内容はまあフィクションもいいとこ(ただ対立関係にあったのは事実)。でも軽いロマンティックコメディとはいえ、同監督初期の力量の高さは成る程うかがえる。
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2022.09.16

「空飛ぶ馬」北村薫著

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読んでみた、日本人作家による推理小説短編集。1989年発表。

クリスマス会で幼稚園に設置された「木馬」。だがその夜忽然と姿を消して、翌朝には再び戻されていた。女子大生の主人公は、その奇妙な出来事を落語家の知人・円紫に相談したのだが…という表題作を含む5編が収録されている。

新本格の一角として登場し、現在では「日常の謎」というミステリ・ジャンルを形成するまでに至った本書。私・円紫コンビでシリーズ化された最初の作品であり、著者のデビュー作でもある。北村は当初覆面作家として執筆しており、本書を読んで「本物の女子大生」と思われていた(笑)…いや、自分もそう思ったわ。

内容は殺人の起きない、日常のミステリを解くというもの。魅力的な人物描写やほろ苦い…だけでないほろ甘い事件の結末等、並み居る作家・読者を唸らせただけあって本当に巧み。端々に忍ばせた文学や落語等、趣味的な蘊蓄もセンス良くて憎らしい限りだが、特に青春小説としての瑞々しさは新鮮だったろうな。
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2022.09.14

三十九夜

観てみた、アルフレッド・ヒッチコック監督映画。1935年公開。

記憶力を売物にする男の芸を見ていた青年・ハネイ。彼は騒動になった劇場から、諜報員と名乗る女性・アナベラと共に帰宅する。しかし彼女は何者かに殺害され、ハネイは殺人容疑で警察から追われる事に。彼は僅かな手掛かりから、スコットランドに住むジョーダン教授という名士を訪ねるのだが…という内容。

本作は同監督のイギリス時代の名作と言われている。原作はジョン・バカンの小説「三十九階段」だけど、ヒッチコックらしい鮮やかな手つきで換骨奪胎している辺りが見所。冒険小説の薫り高い原作を、男女の逃避行の「スクリューボール・コメディ」に仕立て上げてしまう辺りは、すごいと言うか目を疑ったと言うか。

実は本作の前年には「或る夜の出来事」が公開されているので、もうまさにその影響下という感じなのだが。…とは言え劇場を舞台に巧みな演出として採り入れ、原作読者でもあっと驚く真相を用意する辺り、流石ヒッチコックだなあって。
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2022.09.13

「ジョーカー / 旧約探偵神話」清涼院流水著

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読んでみた、日本人作家による長編推理小説。1997年発表。

幻影城に滞在する事になった、推理作家たち。だが作家の1人・濁暑院溜水が構想する「全ての推理小説の構成要素を内包する」という新作を模倣する様に、連続殺人が発生する。探偵集団・JDCはこの難事件に対し…という内容。

デビュー作で日本ミステリ界に激しい論争を引き起こした、著者による第2作。「コズミック」とは相補的な関係となっているが、前作の殺人シチュの箇条書きみたいな内容からしたら、だいぶ真っ当なストーリーになっているので安心(というか「Cosmic Jokers」が元ネタなのかな…なら正直好きだ、このセンス)。

とは言えネタの仕込み方の過剰さは相変わらずで(やはりの歴史ネタに吹き出した)、この「おふざけ感」には怒る人がいても仕方ない。まあ個人的には日本推理小説「四大奇書」への積極的な言及…いやむしろ「ファンブック」的な内容はアリだと思ったな。すごい変な本という意味で、本書も紛れもない「奇書」だ。
posted by ぬきやまがいせい at 23:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.09.11

「空軍大戦略」リチャード・コリヤー著、内藤一郎訳

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読んでみた、イギリス人著者によるノンフィクション。1966年発表。

第二次大戦中の1940年。独空軍航空機による侵攻と、それを迎え撃つ英国空軍戦闘機との間で発生した、一大航空決戦「バトル・オブ・ブリテン」。本書はその戦闘に関わった人々の証言を集め、事態の推移を再現する…という内容。

同じくBOBを題材にした「空軍大戦略」という映画があったけど、調べても関連が見つからないので、単に邦訳の際に便乗しただけっぽい。とは言え英独・軍人一般人を問わず、BOBに当事者として関わった人々の証言を膨大な量集めた、戦史というより「人間模様」の本。大変に優れた内容で一読の価値はある。

語られるのは僅か数行だが、無数の人々の人生がBOBという歴史的な瞬間の中に輻輳するのが圧倒的。でもそんな中でも比較的長めに扱われるのが…Me110のパイロットとして参加した、ヘルベルト・カミンスキ独大尉。この人の救助話が、まるで小林源文の漫画に出てくる上官と部下のコントみたいで笑うわ。
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2022.09.09

サボタージュ

観てみた、アルフレッド・ヒッチコック監督映画。1936年公開。

ロンドン中が「破壊活動=サボタージュ」で停電した。実行犯は映画館経営のヴァーロックだが、より大きな効果を得るために彼は、爆弾による破壊を指示される。そんな中隣の果物店の店員・スペンサーが潜入刑事だと判り、起爆時間が迫る中ヴァーロックは、妻の弟・スティーヴィーに爆弾を手渡して…という内容。

本作は子供が運ぶ爆弾が散々サスペンスを煽った末、結局本当に爆発するという身も蓋もない展開で批判を受け、後に監督自身も失敗を認めた。…という、ヒッチコック関連書籍になら大抵載っている、有名なエピソードの映画がこれ。

それを判った上で観ると、本作はサスペンスというより(パゾリーニ張りな)家庭崩壊の悲劇に思える。…でも結局なんやかんやご都合的な展開で終わってしまうので、それも違ったなあ。本作でも刑事が色恋に迷って犯罪を隠蔽しようとするのは、なんなんだろう。時代性なのかお国柄なのか、作家性なのか…?
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2022.09.08

「編隊飛行」J・E・ジョンソン著、小出英一訳

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読んでみた、イギリス人著者によるノンフィクション/自伝。1956年発表。

第二次大戦中。イギリス空軍で戦闘機・スピットファイアを駆り、38機を撃墜したトップ・エース「“ジョニー”・ジョンソン」。本書は彼が入隊から、大隊を率いての戦闘を経た後に終戦を迎える、自身の経歴を綴ったものである…という内容。

38機は英軍公認記録では最高数だそうだが(独軍の300機はおかしすぎ)、その撃墜スコアの全てが戦闘機なのに加えて、自身は被弾が1発だけという辺り異能生存体みたい。まあラグビーで鎖骨に怪我してるんだけど…その手術のお陰でバトル・オブ・ブリテンには未参加となったのだから、益々異能生存体だ。

本書は退役後に執筆した自伝で、淡々とした筆致で綴られる辺り迫真性がある。逆に言うと、おもしろエピソード満載といった類の本ではないなあ。むしろ上官の両足義足のエース、ダグラス・バーダーとの交友はそう言って構わない気はした。バーダーは本書でも序文を寄せており、一風変わった人物なのが窺える。
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2022.09.06

恐喝(ゆすり)

観てみた、アルフレッド・ヒッチコック監督映画。1929年公開。

ある夜、画家クルーのアトリエを訪れたアリスは、彼に襲われ咄嗟に刺し殺してしまう。翌日恋人である刑事・フランクが現場を訪れ、残された彼女の手袋から事情を察してしまう。2人がその事を議論している時、トレーシーという男が現れて真相を知っていると仄めかす。男は「ゆすり」を始めるのだが…という内容。

本作はヒッチコック作品では初となる「トーキー映画」。ただ当初は無声映画として製作された為、部分的な使用にとどまっているのも確か。でもそんな事言ったら、世界初のトーキーと言われる「ジャズシンガー」だってそうなんだしな。

内容面ではタイトルになった「ゆすり」よりも(何で朝飯食っただけで、あんなに嫌われてんだあの男)、殺人後の女性の心象風景描写や、大英博物館でのチェイスの方が個人的には興味深い。それより本作で一番悪い奴はゆすり男ではなく、事件を隠蔽しようとした恋人の刑事だ。あいつも厳罰くらったらいいねん。
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2022.09.05

「ドイツ夜間戦闘機」渡辺洋二著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1995年発表。

第二次大戦中。英国軍爆撃機に自国を「夜間」侵攻されるのに際し、独軍はレーダーを始めとする電子装置等、新技術や新戦術を盛り込んだ「夜間戦闘機」で対抗した。本書は欧州で行われた、夜空の激戦を紹介する…という内容。

リヒテンシュタインにシュゲーレムジーク(ななめの音楽)。要は八木アンテナレーダーと斜め銃の事だが、ドイツの夜間戦闘機にはロマンチックなイメージがある。本書はドイツ・連合国間で行われた爆撃機と夜間戦闘機との戦闘を、互いが互いを上回ろうとする、技術発展史的な切り口から解説している辺り面白い。

ドイツは地上と機載レーダーの連携運用や探照灯、対する英国はチャフ散布に指揮系統混乱を狙ったニセ放送。両軍で知力を尽くした戦いは大変興味深いが…その一方で、独軍夜戦パイロットの英雄的とも悲劇的とも言えそうなエピソードが胸を打つ。やっぱりロマンチックなイメージでも、別に間違いではないのか。
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2022.09.03

舞台恐怖症

観てみた、アルフレッド・ヒッチコック監督映画。1950年公開。

演劇学生のイヴは、警察から逃れてきたクーパーをかくまう。彼は愛人の大女優・シャーロットが夫を手に掛けたその身代わりに、追われているというのだ。イヴは父親の協力の下、真相を探るべくメイドとしてシャーロットの側に付く。事件解決の鍵は彼女が着ていたという、血染めのドレスなのだが…という内容。

既に渡米して活躍中の同監督が、故郷の英国に凱旋して製作したのが本作。…ところが冒頭の回想を巡ってアンフェアという批判が起き、自身も本作に失敗の烙印を押した。まあ確かに自分もおやと思ったので、これは仕方ないね。

それでも大女優役マレーネ・ディートリヒの起用や、アンフェアであるが故に出来たサプライズ(小説でならば、「信頼できない語り手」の範疇なんだろうけど)とか、決して見所がない訳ではない。まあそれより個人的には展開が回りくどくてじれったい辺り、同時期の作品の緊張感に及んでいない気がするんだよなあ。
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2022.09.02

大列車強盗

観てみた、エドウィン・S・ポーター監督によるサイレント映画。1903年公開。

西部開拓時代。バーンズ一味が、車掌に偽の指令を手渡して列車を停止させる。車内に乗り込んだ一味は金庫の金を強奪、更に乗客から金品を取り上げてまんまと逃走に成功した。だが事件の通報を受けた保安官が…という内容。

僅か12分の短編ながら、世界初の西部劇映画。まあ西部劇が途絶えてしまった現在では、そこはあまり重視する気にならないけど…本作はアメリカ映画では初めて「プロット」を持った作品だと言われる。本作以前に主流だった、まるで舞台の学芸会を撮影したホームビデオみたいな作品とは、一線を画した様だ。

加えて書割背景の平面的なセットから飛び出したロケーション撮影や、前後の奥行きを使った縦の画面演出といった技法を、初めて採り入れた画期的な作品としても知られている。お陰で当時は大変なヒットになったそうだが…今観て面白がるのは、やはり相当映画史に興味のある人だけだろうなあ。当たり前か。
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