観てみた、ジェームズ・アイヴォリー監督映画。1992年公開。
マーガレットを始めとする3人姉弟のシュレーゲル家の向いに、気まずい仲にあったウィルコックス家が引っ越して来た。その事で関係は修復し、同家夫人が亡くなる際にも、別荘「ハワーズ・エンド」を彼らに与えると遺言する程だった。そしてウィルコックス家の当主ヘンリーは、マーガレットに求婚をして…という内容。
原作はE・M・フォースターの小説。同監督は「眺めのいい部屋」「モーリス」に続き、3作目となる同作者の映画化だとの事。まあなので印象自体は、そちらとあまり変わらないけど…眺め〜はもっと、気分いい映画じゃなかったかなぁ?
とは言え20世紀初頭のイギリス上流階級の生活を再現した衣裳・美術やセットは、アカデミー賞を獲得しただけあって見事。上流階級家庭と進歩的な中産階級家庭が「ハワーズ・エンド」を巡り絡み合う、という内容は…ぶっちゃけ頭に入って来なかったけれど。別にまあそれでいいか、という気になってしまった。
2022.11.30
2022.11.29
「悪魔の紋章」江戸川乱歩著
読んでみた、日本人作家による長編推理小説。1938年発表。
川手庄太郎は何者かからの恨みを買い、2人の娘は無残にも殺され死体は衆人の目に晒された。「三重渦状紋」という独特の指紋を、犯行現場に残す犯人と対峙するのは、探偵として知られる宗像隆一郎博士なのだが…という内容。
本格推理の書き手として登場した乱歩だが、(まあ色々あって)「エログロ猟奇」を売りにする通俗作品を発表する様になった。元々出たとこ勝負で書き始める為に長編の構成は苦手な乱歩。加えて通俗作品ではバラバラ死体や消失トリック等、過去作からネタを流用する事も増えて…読者の心象はあまり良くない。
本書もネタの使い廻しや、犯人が割とすぐ判ってしまったりと、評価が高いとは言えない内容なのだけれど、その上であえて面白いと言いたい。本書には、本格推理小説としての「結構」が備わっているからじゃないかな。あと春陽堂文庫は、多賀新の表紙がいいよね…と言おうと思ったけど、本書はそうでもないか。
2022.11.27
オールウェイズ
観てみた、スティーヴン・スピルバーグ監督映画。1989年公開。
森林火災を空中消火する飛行士・ピートは、ある日の飛行中事故死してしまう。だが幽霊となった彼は天使・ハップに導かれ、消防パイロットの養成所に身を置く事に。そこで訓練中の新人・テッドの側で霊感を与えるのだが、彼が思いを寄せる女性はピートの生前の恋人で、航空管制官のドリンダだった…という内容。
「ゴースト ニューヨークの幻」みたいな話。…というのが素直な感想だけど、実は公開は本作の方が1年早い。スピルバーグの先見の明には驚いたものの、彼の作品にしては知名度が低い事からも判る通り、正直余り面白くはない。
なので本作で注目するべきは、恋愛どうこうより「空中消火隊」。養成所での訓練から、実地の作業風景まで見られるのは興味深いけれど…時代性もあってか、おふざけ的演出で通しているのは残念。あと天使役で登場するのがオードリー・ヘプバーンで、本作が彼女の遺作というのには、やはり注目しておかないと。
森林火災を空中消火する飛行士・ピートは、ある日の飛行中事故死してしまう。だが幽霊となった彼は天使・ハップに導かれ、消防パイロットの養成所に身を置く事に。そこで訓練中の新人・テッドの側で霊感を与えるのだが、彼が思いを寄せる女性はピートの生前の恋人で、航空管制官のドリンダだった…という内容。
「ゴースト ニューヨークの幻」みたいな話。…というのが素直な感想だけど、実は公開は本作の方が1年早い。スピルバーグの先見の明には驚いたものの、彼の作品にしては知名度が低い事からも判る通り、正直余り面白くはない。
なので本作で注目するべきは、恋愛どうこうより「空中消火隊」。養成所での訓練から、実地の作業風景まで見られるのは興味深いけれど…時代性もあってか、おふざけ的演出で通しているのは残念。あと天使役で登場するのがオードリー・ヘプバーンで、本作が彼女の遺作というのには、やはり注目しておかないと。
2022.11.26
「十字街」久生十蘭著
読んでみた、日本人作家による長編推理/歴史小説。1952年発表。
1933年パリ。日本人留学生・小田は地下鉄車内で死体を運ぶ不審な集団を目撃、命を狙われる様に。その背後にはスタヴィスキーによる一大疑獄事件があり、彼と親睦のあった女性・ユキ子もまた危険に見舞われて…という内容。
本書は前年に朝日新聞で連載された小説だが、その20年ほど前にフランスで起きた「スタヴィスキー事件」が題材。ただ当時の読者もピンと来なかった様で(自分は映画「薔薇のスタビスキー」なら以前観た)、著者が体験したパリ生活の描写を踏まえた上、4人の日本人を絡ませる事で、独自の魅力を加えている。
要するに当時まだまだ遠かった海外を、著者の力業で引き寄せた作品。ジャンルとして言えば、「近代フランスネタの歴史小説」「海外を舞台にした社会派ミステリ」という感じかな。…とは言え「大逆事件」との関連が指摘される事からも判る通り、スッキリした気分で読み終えられる訳ではないので、まあそこは注意。
2022.11.24
「夢野久作全集10」夢野久作著
読んでみた、日本人作家による短編集/全集。1992年発表。
1889年福岡県で誕生した「夢野久作」は、僧侶や新聞記者といった経験を経て作家となる。特に雑誌「新青年」での活動は注目を集め、完成まで10年かけた長編「ドグラ・マグラ」は現在でも有名。1936年、47歳の若さで急逝した。
本書はそのドグラ・マグラ完成後・逝去までの、晩年に執筆された作品を中心に集めているとの事。で本書の解説や編者も書いている通り、余り出来が良くなかったりする。…久作と言えば猟奇や奇想の「変格」推理作家というイメージなので、本書での「本格風」なタッチの作品は興味深いと言えば興味深いけれど。
それより本書には、久作が殆ど手掛けなかったという「時代小説」が3編入っており、これが仲々面白い。探偵要素やエログロも関係ない内容ばかりだけれど…中でも「白くれない」という短編は、ある寺の花にまつわる「縁起」を模した擬古文体のもので、彼の僧侶としての経験が反映しているのかもしれないなと。
2022.11.23
陽のあたる場所
観てみた、ジョージ・スティーヴンス監督映画。1951年公開。
田舎出の青年・ジョージは、裕福な伯父の工場で働く事に。職場の同僚であるアリスと交際する中、彼は上流階級の女性・アンジェラと出逢った。彼女との仲が急速に深まると共に、アリスとの関係は疎ましくなっていく。しかもアリスの妊娠を伝えられたジョージは、彼女と人気のない湖でボートに乗り…という内容。
原作はセオドア・ドライサーの小説「アメリカの悲劇」。米アカデミー賞では6部門で受賞した、名作中の名作だけど…自分の中でどう位置付けたらよいか、正直判らない。お話的には庶民の青年が上昇志向で破滅する「赤と黒」みたいな話とも、優柔不断さから三角関係が破局するメロドラマとも言えないでもないし。
でもやはり牧師が諭した裁きの理由からも伺える、「罪と罰」の問題なのかも。そうした辺りが法廷サスペンス的に盛り上がりはするので、意外と面白くは観られたけれど…やはり個人的には「やり場のない想い」を刻まれた映画、かなあ。
田舎出の青年・ジョージは、裕福な伯父の工場で働く事に。職場の同僚であるアリスと交際する中、彼は上流階級の女性・アンジェラと出逢った。彼女との仲が急速に深まると共に、アリスとの関係は疎ましくなっていく。しかもアリスの妊娠を伝えられたジョージは、彼女と人気のない湖でボートに乗り…という内容。
原作はセオドア・ドライサーの小説「アメリカの悲劇」。米アカデミー賞では6部門で受賞した、名作中の名作だけど…自分の中でどう位置付けたらよいか、正直判らない。お話的には庶民の青年が上昇志向で破滅する「赤と黒」みたいな話とも、優柔不断さから三角関係が破局するメロドラマとも言えないでもないし。
でもやはり牧師が諭した裁きの理由からも伺える、「罪と罰」の問題なのかも。そうした辺りが法廷サスペンス的に盛り上がりはするので、意外と面白くは観られたけれど…やはり個人的には「やり場のない想い」を刻まれた映画、かなあ。
2022.11.22
「ドクター・ホフマンのサナトリウム / カフカ第4の長編」
TV放映を見た。ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出による舞台劇。
フランツ・カフカが生前書き遺した長編小説は3作。だがここに新たな「第4の長編」が発見された。祖母の遺品の中からカフカの遺稿ノートを入手した主人公は、その出版を目論むものの、彼の身に意想外な事が起こり…という内容。
演劇畑でのケラと言えば「劇団健康」主催…かと思ったら、既に解散済みらしい(因みに有頂天やナゴム・レコードは現在でも存続中)。なので当公演では主演に(仮面ライダーキバでお馴染み)瀬戸康史等が参加している。その瀬戸の風貌が結構カフカを思わせ、ドキッとした。カフカが日本語で喋る訳ないのに。
内容は架空の「第4の長編」を中心に、カフカの伝記要素や彼と出会う現代青年といった、虚構的な多重構造を採り入れているのが興味深い。ケラと言えば早熟な喜劇少年というイメージだったので、カフカ好きというのは意外だったけど…「有頂天の」ではなく、演劇人としての彼の側面として見ると納得できるかも。
フランツ・カフカが生前書き遺した長編小説は3作。だがここに新たな「第4の長編」が発見された。祖母の遺品の中からカフカの遺稿ノートを入手した主人公は、その出版を目論むものの、彼の身に意想外な事が起こり…という内容。
演劇畑でのケラと言えば「劇団健康」主催…かと思ったら、既に解散済みらしい(因みに有頂天やナゴム・レコードは現在でも存続中)。なので当公演では主演に(仮面ライダーキバでお馴染み)瀬戸康史等が参加している。その瀬戸の風貌が結構カフカを思わせ、ドキッとした。カフカが日本語で喋る訳ないのに。
内容は架空の「第4の長編」を中心に、カフカの伝記要素や彼と出会う現代青年といった、虚構的な多重構造を採り入れているのが興味深い。ケラと言えば早熟な喜劇少年というイメージだったので、カフカ好きというのは意外だったけど…「有頂天の」ではなく、演劇人としての彼の側面として見ると納得できるかも。
2022.11.20
夜叉ヶ池
観てみた。坂東玉三郎主演、篠田正浩監督映画。1979年公開。
琴弾谷を訪れた山沢学円。龍が棲むという「夜叉ヶ池」が上流にありながら、その村は渇水に苦しんでいた。学円は百合という女性と暮す、失踪していた親友・萩原晃と再会。彼は龍を鎮める鐘を撞く為に、同地に留まっていたのだ。一方夜叉ヶ池の龍神・白雪は、自身が動くと村が洪水になる為に煩悶し…という内容。
原作は泉鏡花による同名戯曲。内容的にはかなり忠実に映像化されているのだが、権利関係の問題から長年視聴の難しい「幻の映画」となっていた。最近その障害もようやく取り除かれた様で、こうして観られるのは有難い限りだ。
本作の特徴は百合と白雪の2役を、歌舞伎の女形で有名な五代目・坂東玉三郎が演じているところ。非現実的とも言いたくなる玉三郎が表現した「幽玄の美」と共に、クライマックスの映像が大変見事に「水特撮の美」を捉えている。まあショボいところは、どストレートにショボいけれど…素晴らしい作品じゃないかな。
琴弾谷を訪れた山沢学円。龍が棲むという「夜叉ヶ池」が上流にありながら、その村は渇水に苦しんでいた。学円は百合という女性と暮す、失踪していた親友・萩原晃と再会。彼は龍を鎮める鐘を撞く為に、同地に留まっていたのだ。一方夜叉ヶ池の龍神・白雪は、自身が動くと村が洪水になる為に煩悶し…という内容。
原作は泉鏡花による同名戯曲。内容的にはかなり忠実に映像化されているのだが、権利関係の問題から長年視聴の難しい「幻の映画」となっていた。最近その障害もようやく取り除かれた様で、こうして観られるのは有難い限りだ。
本作の特徴は百合と白雪の2役を、歌舞伎の女形で有名な五代目・坂東玉三郎が演じているところ。非現実的とも言いたくなる玉三郎が表現した「幽玄の美」と共に、クライマックスの映像が大変見事に「水特撮の美」を捉えている。まあショボいところは、どストレートにショボいけれど…素晴らしい作品じゃないかな。
2022.11.19
かぐや姫
観てみた。北澤かず子主演、田中喜次監督映画。1935年公開。
流星に乗って地球に落ち、竹の中から生まれた少女は「かぐや姫」と名付けられた。その美しさから貴族達の求婚を受けた彼女。造麻呂と恋仲にあるかぐやは彼らに、秘宝を手に入れた者と結婚すると約束したのだが…という内容。
若き日の円谷英二が撮影で参加した本作。長年フィルムの所在は不明だったものの、近年英国で短縮版が発見され日本でも観る事が出来る様になった。実に素晴らしい話であるな。本格的に特撮に取り組む前の作品だが、ミニチュア撮影やスクリーンプロセス等の特殊効果を既に採り入れている辺り興味深い。
興味深いと言えば本作は「竹取物語」を原作としているけど、かぐや姫には恋人がおり、最終的には駆け落ちしてしまう内容に変更されている。…恋愛物に改変した竹取物語と言えば、市川崑監督による1987年公開の映画を思い出す人は多い筈。無粋極まりないと思ったアレンジにも、実は歴史があったのだなあ。
流星に乗って地球に落ち、竹の中から生まれた少女は「かぐや姫」と名付けられた。その美しさから貴族達の求婚を受けた彼女。造麻呂と恋仲にあるかぐやは彼らに、秘宝を手に入れた者と結婚すると約束したのだが…という内容。
若き日の円谷英二が撮影で参加した本作。長年フィルムの所在は不明だったものの、近年英国で短縮版が発見され日本でも観る事が出来る様になった。実に素晴らしい話であるな。本格的に特撮に取り組む前の作品だが、ミニチュア撮影やスクリーンプロセス等の特殊効果を既に採り入れている辺り興味深い。
興味深いと言えば本作は「竹取物語」を原作としているけど、かぐや姫には恋人がおり、最終的には駆け落ちしてしまう内容に変更されている。…恋愛物に改変した竹取物語と言えば、市川崑監督による1987年公開の映画を思い出す人は多い筈。無粋極まりないと思ったアレンジにも、実は歴史があったのだなあ。
2022.11.17
カトマンズの男(原題:Les Tribulations d'un Chinois en Chine)
観てみた、フィリップ・ド・ブロカ監督映画。1965年公開。
日常に飽いて自殺未遂を繰り返す大富豪・アルチュール。ところが彼は一夜にして破産、どうせ死ぬならと中国の友人・ゴウを受取人とする生命保険に入る。自殺では支払われない為、彼は殺し屋から命を狙われる事に。しかし俄かに生へ未練を覚えたアルチュールは、暗殺を撤回するべく逃走を続け…という内容。
同じくJ・P・ベルモンド主演の「リオの男」(1963年)の姉妹編と目される本作、実は原作はジュール・ヴェルヌの「必死の逃亡者」。そちらは中国人主人公・中国を舞台にした小説で、本作でも主に撮影は香港で行われた様なのだが…邦題は何故か「カトマンズ」。ベルモンド主演の現代劇としてアレンジされている。
しかも話半ばで原作の(教訓っぽい)結末に辿り着いてしまってアレ?、と思ったら…残りはずっとドタバタの追いかけっこ。それがジャッキー・チェン映画の様に、ベルモンドが体を張ったアクションを見せて捧腹絶倒もの。いいねえ。
日常に飽いて自殺未遂を繰り返す大富豪・アルチュール。ところが彼は一夜にして破産、どうせ死ぬならと中国の友人・ゴウを受取人とする生命保険に入る。自殺では支払われない為、彼は殺し屋から命を狙われる事に。しかし俄かに生へ未練を覚えたアルチュールは、暗殺を撤回するべく逃走を続け…という内容。
同じくJ・P・ベルモンド主演の「リオの男」(1963年)の姉妹編と目される本作、実は原作はジュール・ヴェルヌの「必死の逃亡者」。そちらは中国人主人公・中国を舞台にした小説で、本作でも主に撮影は香港で行われた様なのだが…邦題は何故か「カトマンズ」。ベルモンド主演の現代劇としてアレンジされている。
しかも話半ばで原作の(教訓っぽい)結末に辿り着いてしまってアレ?、と思ったら…残りはずっとドタバタの追いかけっこ。それがジャッキー・チェン映画の様に、ベルモンドが体を張ったアクションを見せて捧腹絶倒もの。いいねえ。
2022.11.16
ある画家の数奇な運命
観てみた、F・H・V・ドナースマルク監督映画。2018年公開。
クルトはナチス時代前後のドイツで、親類の多くを喪った。戦後分割された東独で出逢ったエリーと彼は交際するものの、彼女の父親である医師・ゼーバント教授との仲は思わしいものではなかった。その後結婚し西独に逃れたクルトは、デュッセルドルフの美術学校で前衛絵画の制作に打ち込むのだが…という内容。
実在の画家ゲルハルト・リヒターをモデルに描いた本作。リヒターは実名を使わない条件で取材を受けたそうだが、本作の予告編を見て激怒した。まあ実際映画の内容は本当に「数奇な運命」すぎて、創作まじりなのはよく判るけれど…
例えば恩師のフェルデンは、ヨーゼフ・ボイスがモデルと判ってニヤリとする(実際には交流は無かったらしい)。そういう辺りがフィクションのいい所だし…対する退廃芸術展から断種政策、ドレスデン爆撃等の挿話で、ドイツ「歴史の闇」と「芸術の光」というテーマとして昇華出来ているのは、評価したっていいのにな。
クルトはナチス時代前後のドイツで、親類の多くを喪った。戦後分割された東独で出逢ったエリーと彼は交際するものの、彼女の父親である医師・ゼーバント教授との仲は思わしいものではなかった。その後結婚し西独に逃れたクルトは、デュッセルドルフの美術学校で前衛絵画の制作に打ち込むのだが…という内容。
実在の画家ゲルハルト・リヒターをモデルに描いた本作。リヒターは実名を使わない条件で取材を受けたそうだが、本作の予告編を見て激怒した。まあ実際映画の内容は本当に「数奇な運命」すぎて、創作まじりなのはよく判るけれど…
例えば恩師のフェルデンは、ヨーゼフ・ボイスがモデルと判ってニヤリとする(実際には交流は無かったらしい)。そういう辺りがフィクションのいい所だし…対する退廃芸術展から断種政策、ドレスデン爆撃等の挿話で、ドイツ「歴史の闇」と「芸術の光」というテーマとして昇華出来ているのは、評価したっていいのにな。
2022.11.14
コッホ先生と僕らの革命
観てみた、セバスチャン・グロブラー監督映画。2011年公開。
19世紀ドイツ。ギムナジウムに赴任した英語教師のコッホは、彼の授業を仲々受け入れない生徒達に「サッカー」の手ほどきを始める。当初は戸惑いを見せていた彼らも、すっかりサッカーに夢中。ところがコッホのそうした行いが問題化し、サッカーは禁止されてしまう。そこで生徒達は自ら一計を案じ…という内容。
独「サッカーの父」と呼ばれる、コンラート・コッホを描いた実話映画。ただ実話と言ってもかなり脚色されている様で、嘘とは言えないまでもかなり美化されている模様。…まあ児童教育用映画みたいな感じなので、それでいいいのかな。
反抗的な生徒達にスポーツの楽しさを教え、最終的には世間をギャフンと言わせる…ああ、これ「スクールウォーズ」だな(なんかイソップみたいな子もいるし)。そういや本作で描かれているサッカーの風景が、初期だけあっていわゆる「お団子サッカー」なのは、ブルーロックで言ってた通りだわとちょっと感心したり。
19世紀ドイツ。ギムナジウムに赴任した英語教師のコッホは、彼の授業を仲々受け入れない生徒達に「サッカー」の手ほどきを始める。当初は戸惑いを見せていた彼らも、すっかりサッカーに夢中。ところがコッホのそうした行いが問題化し、サッカーは禁止されてしまう。そこで生徒達は自ら一計を案じ…という内容。
独「サッカーの父」と呼ばれる、コンラート・コッホを描いた実話映画。ただ実話と言ってもかなり脚色されている様で、嘘とは言えないまでもかなり美化されている模様。…まあ児童教育用映画みたいな感じなので、それでいいいのかな。
反抗的な生徒達にスポーツの楽しさを教え、最終的には世間をギャフンと言わせる…ああ、これ「スクールウォーズ」だな(なんかイソップみたいな子もいるし)。そういや本作で描かれているサッカーの風景が、初期だけあっていわゆる「お団子サッカー」なのは、ブルーロックで言ってた通りだわとちょっと感心したり。
2022.11.13
テスラ / エジソンが恐れた天才
観てみた。マイケル・アルメレイダ脚本、監督映画。2020年公開。
19世紀末。発明王トーマス・エジソンの下で働いていた「二コラ・テスラ」は、彼と対立し僅かな期間で職を辞す。その後テスラもまた独自に発明に打ち込み、交流による送電方式の開発に至る。ところがそれはエジソンの推す直流とは相容れないもので、彼らは再び発明の分野で対決する事となって…という内容。
実在の発明家、二コラ・テスラの伝記映画。現在家庭で使われる電気は交流方式なので、テスラの勝利に終わったのはご存じの通り。ところが知名度的には(近年創作等でネタにされる様になったものの)エジソンの圧勝な事からも判る様に、彼は生涯金策に追われた上に、なかなか実らないという不遇に終わった。
本作はそのせいで全体的にどんよりしたムードが続くので、正直楽しくない。まあそれは作り手も判っているからか、現代からのメタ的な視点を織り込んだり、イーサン・ホーク演じるテスラがマイクを握って歌ったりする。…なんだこれ。
19世紀末。発明王トーマス・エジソンの下で働いていた「二コラ・テスラ」は、彼と対立し僅かな期間で職を辞す。その後テスラもまた独自に発明に打ち込み、交流による送電方式の開発に至る。ところがそれはエジソンの推す直流とは相容れないもので、彼らは再び発明の分野で対決する事となって…という内容。
実在の発明家、二コラ・テスラの伝記映画。現在家庭で使われる電気は交流方式なので、テスラの勝利に終わったのはご存じの通り。ところが知名度的には(近年創作等でネタにされる様になったものの)エジソンの圧勝な事からも判る様に、彼は生涯金策に追われた上に、なかなか実らないという不遇に終わった。
本作はそのせいで全体的にどんよりしたムードが続くので、正直楽しくない。まあそれは作り手も判っているからか、現代からのメタ的な視点を織り込んだり、イーサン・ホーク演じるテスラがマイクを握って歌ったりする。…なんだこれ。
2022.11.11
「日本探偵小説全集7 / 木々高太郎集」木々高太郎著
読んでみた、日本人作家による推理小説アンソロジー。1985年発表。
1897年に山梨県で誕生した「木々高太郎」は、大脳生理学者として活動する一方、作家として「推理小説」を執筆した。本書は長編「わが女学生時代の罪」や短編「文学少女」等の、代表作の数々を集めるものである…という内容。
でその「推理小説」という用語を発案したのが、著者と言われている。学者としてはパブロフに師事、作家活動では直木賞の受賞に加え、乱歩らと「探偵小説文学論争」を繰り広げた。更に松本清張の方向性に示唆を与え…と逸話に事欠かない人物だけど、残念ながら作家・作品としては近年すっかり忘却されている。
でも本書は大変に面白い。日本で初めてフロイト精神分析を採り入れたデビュー作「網膜脈視症」を始め、科学的・文学的な手際を加えた著述が画期的。今読んでも現代的な視点に驚くが…当時風に「エログロ猟奇」全開な夢野や乱歩が、文学として評価されているのは皮肉な気も。もっと広く読まれるべきだな。
2022.11.10
ドリーム(原題:Hidden Figures)
観てみた、セオドア・メルフィ監督映画。2016年公開。
1961年、米ソが宇宙開発競争を繰り広げていた頃。NASAではキャサリン、ドロシー、メアリーという黒人女性3人が計算手として働いていた。中でもキャサリンは本部での仕事が与えられるものの、黒人への差別から難しい立場に。そんな中有人軌道飛行を目指す、マーキュリー計画が実行に移され…という内容。
原作はマーゴット・リー・シェッタリーの実話小説。本作で採り上げられた3人の黒人女性は、アメリカ本国でも原題通り「知られざる人々」だった様で、そういう意味でも興味深い。ただ宇宙開発に対する興味だけで観ると、本作はちと。
黒人差別の問題や主人公女性達の内面を中心に描いている上、「天使にラブ・ソングを…」を思わせるコメディ演出なので、どうも乗り切れない。実際の出来事を踏まえながらも、過剰に話を盛っているなというのが判ってしまうのも少々興覚め。とは言え、勿論感動的な逸話ではあるので、概要を知る為に観てもいい。
1961年、米ソが宇宙開発競争を繰り広げていた頃。NASAではキャサリン、ドロシー、メアリーという黒人女性3人が計算手として働いていた。中でもキャサリンは本部での仕事が与えられるものの、黒人への差別から難しい立場に。そんな中有人軌道飛行を目指す、マーキュリー計画が実行に移され…という内容。
原作はマーゴット・リー・シェッタリーの実話小説。本作で採り上げられた3人の黒人女性は、アメリカ本国でも原題通り「知られざる人々」だった様で、そういう意味でも興味深い。ただ宇宙開発に対する興味だけで観ると、本作はちと。
黒人差別の問題や主人公女性達の内面を中心に描いている上、「天使にラブ・ソングを…」を思わせるコメディ演出なので、どうも乗り切れない。実際の出来事を踏まえながらも、過剰に話を盛っているなというのが判ってしまうのも少々興覚め。とは言え、勿論感動的な逸話ではあるので、概要を知る為に観てもいい。
2022.11.08
ボブという名の猫 / 幸せのハイタッチ
観てみた、ロジャー・スポティスウッド監督映画。2016年公開。
ストリートミュージシャンのジェームズは、長年の薬物依存に加えてホームレス生活。困窮の中ソーシャルワーカーから住居を与えられるのだが、そこに1匹の野良猫が転がり込む。「ボブ」と名付けられたその猫は、路上で歌うジェームズの側に寄り添い評判になる。だが彼は次々トラブルに見舞われ…という内容。
原作はジェームズ・ボーエンの自伝「ボブという名のストリート・キャット」。そちらの本の大ヒットで現在では路上演奏から足を洗い、違う職に就いたとの事。でボーエンは本作中でカメオ出演しており、発した台詞にニヤリとさせられる。
感じとしてはハッピーエンド版「ウンベルト・D」とでも言うか(そっちは犬だが)、かなり悲惨な状況ながら成功が約束されているので安心。それより本作には本人ならぬ本猫の「ボブ」が出演し、その愛くるしい姿が映っているだけで幸せになれる事請け合い。…まあ自分は飼った事ないけれど、猫もいいもんだなと。
ストリートミュージシャンのジェームズは、長年の薬物依存に加えてホームレス生活。困窮の中ソーシャルワーカーから住居を与えられるのだが、そこに1匹の野良猫が転がり込む。「ボブ」と名付けられたその猫は、路上で歌うジェームズの側に寄り添い評判になる。だが彼は次々トラブルに見舞われ…という内容。
原作はジェームズ・ボーエンの自伝「ボブという名のストリート・キャット」。そちらの本の大ヒットで現在では路上演奏から足を洗い、違う職に就いたとの事。でボーエンは本作中でカメオ出演しており、発した台詞にニヤリとさせられる。
感じとしてはハッピーエンド版「ウンベルト・D」とでも言うか(そっちは犬だが)、かなり悲惨な状況ながら成功が約束されているので安心。それより本作には本人ならぬ本猫の「ボブ」が出演し、その愛くるしい姿が映っているだけで幸せになれる事請け合い。…まあ自分は飼った事ないけれど、猫もいいもんだなと。
2022.11.07
「幻の新鋭機 / 逆転を賭けた傑作機」小川利彦著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2003年発表。
第二次大戦中。日本軍により戦局逆転を目指して計画されるも、完成を目前に開発途中で放棄された数々の「幻の新鋭機」。本書はそれらの戦闘機や爆撃機といった未完の機体を、貴重な写真やイラストと共に紹介する…という内容。
先尾翼・推進式プロペラを持つ戦闘機「震電」や、6発式エンジンで太平洋横断を目指した巨人爆撃機「富嶽」。有名な機体は勿論、輸送機やグライダー等も網羅されていて有難い。ただそのお陰で死屍累々というか水子供養というか…他国の未完機と違ってロマンを感じるどころか、空しくなって来て参ってしまう。
エンジン技術の未熟さや軍部の横槍といった問題がお約束の様に語られる為、著者も「残念」という単語を連発しているし。…なお本書は1977年に刊行された本の文庫版。各機の紹介文自体はあくまで簡潔で、上記した有名機とマイナー機を差別してないのは好印象。カタログ的に眺めるのがいい本じゃないかな。
2022.11.05
「あゝ疾風戦闘隊 / 大空に生きた強者の半生記録」新藤常右衛門著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/自伝。1971年発表。
第二次大戦中。日本陸軍第16飛行団の団長として、フィリピン島で指揮を行ったのが著者。また41歳当時、B-29爆撃機を撃墜した現役パイロットでもあった。本書では彼の入隊から、飛行学校への転出までを回想する…という内容。
で同部隊が運用したのが、四式戦闘機「疾風」。この機は戦中よりむしろ、戦後米軍が高オクタン燃料を用いてテストした際、素晴らしい性能を発揮した事の方が有名かも。なので本書で疾風について色々語られているかと思ったら…著者は指揮官の立場で部隊の思い出を綴っており、機体には殆ど触れてなかった。
まあ本書中にある無線機の低性能による不利という述懐は、これ疾風に限られないしな。…とは言え、入隊当初所属した気球部隊や(風船爆弾は著者の発案?)初期の戦闘機での逸話は興味深く、日本航空史の一端が感じられてよい。映画「加藤隼戦闘隊」への協力や天皇拝謁なんか、著者ならではでしょう。
2022.11.04
エクス・マキナ
観てみた。アレックス・ガーランド脚本、監督映画。2015年公開。
有名検索エンジンの会社で働くケイレブは、広大な敷地に建つ社長宅で過ごす権利を得た。だが彼は先端技術の詰まった邸内で、新型人工知能の試験を求められる。その女性型AI・エヴァは非人間的ながら美しい姿を持ち、ケイレブは好意を抱く。だが何故かエヴァは彼へ、社長の思惑に警告を発し…という内容。
イプセンの「人形の家」かな。…まあ本作は人工知能が真の意識を持ちうるか?、という割と間近に迫った課題を扱ったSFであり、チューリング・テストを介して真意を測り合うサスペンスでもある。でも結末を見ても判る通り、本作は女性の社会的独立というフェミニズム的な意図を、感じ取ってもおかしくはないと思う。
美術の美しさは特筆すべきだが内容は淡々としたもので、正直アート映画風にデコレートした程度では退屈なのはごまかせてない。…それでもシンギュラリティ危機を「男女関係に準える」着想は、ちょっと笑えていいんじゃないかな。
有名検索エンジンの会社で働くケイレブは、広大な敷地に建つ社長宅で過ごす権利を得た。だが彼は先端技術の詰まった邸内で、新型人工知能の試験を求められる。その女性型AI・エヴァは非人間的ながら美しい姿を持ち、ケイレブは好意を抱く。だが何故かエヴァは彼へ、社長の思惑に警告を発し…という内容。
イプセンの「人形の家」かな。…まあ本作は人工知能が真の意識を持ちうるか?、という割と間近に迫った課題を扱ったSFであり、チューリング・テストを介して真意を測り合うサスペンスでもある。でも結末を見ても判る通り、本作は女性の社会的独立というフェミニズム的な意図を、感じ取ってもおかしくはないと思う。
美術の美しさは特筆すべきだが内容は淡々としたもので、正直アート映画風にデコレートした程度では退屈なのはごまかせてない。…それでもシンギュラリティ危機を「男女関係に準える」着想は、ちょっと笑えていいんじゃないかな。
2022.11.02
JUNK HEAD
観てみた、堀貴秀監督によるモデル・アニメーション映画。2021年公開。
肉体を無機物に置き換える事で、不老不死を実現した人類。だがウイルスの蔓延により滅亡の危機に。彼らはかつて人類が作り出した人工生命体・マリガンが支配する地下世界へと、調査員・バートンを派遣する。使命は生殖能力復活の手掛かりを探る事だが、彼は事故で「頭部」だけになってしまい…という内容。
CG全盛のこの時代になんと、全編ストップモーション・アニメ。しかも監督の堀自身がほとんどの作業を単独で、数年をかけて行ったという大変な力作。…本作は3部作予定の第1作で、今後も引き続いて公開が予定されているとの事。
感じとしてはドロヘドロ辺りに近い、猥雑空間での(地下だけに眼が退化している)奇妙生物との闘いを描いたSFだが…感覚的にはチェコのモデル・アニメーション作品に近いのが面白い。日本語ではなく、謎言語に字幕を付ける趣向のせいもあるかな。突飛なくせに泣かせる展開を用意してる辺り、意外や懐が深い。
肉体を無機物に置き換える事で、不老不死を実現した人類。だがウイルスの蔓延により滅亡の危機に。彼らはかつて人類が作り出した人工生命体・マリガンが支配する地下世界へと、調査員・バートンを派遣する。使命は生殖能力復活の手掛かりを探る事だが、彼は事故で「頭部」だけになってしまい…という内容。
CG全盛のこの時代になんと、全編ストップモーション・アニメ。しかも監督の堀自身がほとんどの作業を単独で、数年をかけて行ったという大変な力作。…本作は3部作予定の第1作で、今後も引き続いて公開が予定されているとの事。
感じとしてはドロヘドロ辺りに近い、猥雑空間での(地下だけに眼が退化している)奇妙生物との闘いを描いたSFだが…感覚的にはチェコのモデル・アニメーション作品に近いのが面白い。日本語ではなく、謎言語に字幕を付ける趣向のせいもあるかな。突飛なくせに泣かせる展開を用意してる辺り、意外や懐が深い。