2023.03.31
「大統領閣下・グアテマラ伝説集」アストリアス著、内田吉彦、牛島信明訳
読んでみた、グアテマラ人作家による長編/短編小説集。1984年発表。
中米の某国では「大統領」が秘密警察を用いて、独裁政権を敷いていた。彼は意に沿わない将軍に殺人の容疑をかけて放逐し、更にその娘や協力者に対して…という長編小説「大統領閣下」(1946年)に加え、短編6作を収録している。
著者も南米「マジックリアリズム」の先駆者と呼ばれる作家だが、やはり留学先のフランスでシュルレアリスムとの邂逅があった。なので表題長編にもそうした表現が見られるものの…内容自体は社会派小説と言うか、独裁者による暴虐を受けた人々を描いた鬱小説。夜と霧ばりの迫真性と、露文学の重厚さがある。
でも同作が書かれたのは、モデルになったカブレーラ政権が倒れた後なので、それを踏まえるとまた少々違うニュアンスを感じるな。(ある人物の悲惨な獄死は、その大統領の実際の最期を想起させたりと)一段高い視点からの、文学的含意を見て取るべきかもしれない。まあでも正直キッツイので、そこは覚悟して。
2023.03.29
ヤン・シュヴァンクマイエル ファウスト
観てみた、ヤン・シュヴァンクマイエル監督映画。1994年公開。
ある男が手に入れた、奇妙な地図。男はその地図上に記された場所に足を運び、劇場を備えた古びた屋敷へ辿り着く。舞台の裏には錬金術の工房があり、男はそこで悪魔・メフィストフェレスとある契約を結ぶ事となって…という内容。
ゲーテの小説で有名な「ファウスト」伝説がモチーフ。でも原典そのままではなく、現代を舞台にしているのに加え、「ファウスト劇」に主人公が巻き込まれるという形のメタ表現が特徴。同監督はストップモーション・アニメで知られるけれど、本作では人形劇…というか、暗黒スーパーマリオネーションとでも言った趣き。
シュールとも不気味とも言える作風はいつも通りなので、多分好きな人は好きだろう。個人的には単調な上に少々長いために、だらけてしまったものの…ラストシーンでハッとした。と言うのも(ネタバレだけど)ハッピーエンドなゲーテ・ファウストと違い、気味の悪い残酷な結末は、やはり安心のシュヴァンクマイエル。
ある男が手に入れた、奇妙な地図。男はその地図上に記された場所に足を運び、劇場を備えた古びた屋敷へ辿り着く。舞台の裏には錬金術の工房があり、男はそこで悪魔・メフィストフェレスとある契約を結ぶ事となって…という内容。
ゲーテの小説で有名な「ファウスト」伝説がモチーフ。でも原典そのままではなく、現代を舞台にしているのに加え、「ファウスト劇」に主人公が巻き込まれるという形のメタ表現が特徴。同監督はストップモーション・アニメで知られるけれど、本作では人形劇…というか、暗黒スーパーマリオネーションとでも言った趣き。
シュールとも不気味とも言える作風はいつも通りなので、多分好きな人は好きだろう。個人的には単調な上に少々長いために、だらけてしまったものの…ラストシーンでハッとした。と言うのも(ネタバレだけど)ハッピーエンドなゲーテ・ファウストと違い、気味の悪い残酷な結末は、やはり安心のシュヴァンクマイエル。
2023.03.28
ユーリー・ノルシュテイン傑作選
観てみた、ソ連のアニメーション作家の作品集。2017年発表。
戦時中の1941年、疎開先の村で生まれた「ユーリー・ノルシュテイン」。家具職人を経てアニメーターとしての教育を受けた後、作品を発表する様になる。本作は「25日・最初の日」、「ケルジェネツの戦い」、「キツネとウサギ」、「アオサギとツル」、「霧につつまれたハリネズミ」、「話の話」…の6作を収録している。
こちら2016年に日本人スタッフの手で修復された6作品を、アマプラ見放題で配信したというものだが、先にソフトとしてリリースされている(その際のタイトルは〜作品集)。素晴らしい画質で観られる様になったのは、実にありがたい。
と言うか「話の話」は、自分も久々に観た。シュールと言うか難解という印象は変わらないものの、何だかタルコフスキー作品に近い感じがした。その辺同時代・同国人作家だけあるのかな…と思ったら、話の話はノルシュテイン自身の断片的記憶がモチーフらしい。それって要するに「鏡」と同じだな、成る程納得した。
戦時中の1941年、疎開先の村で生まれた「ユーリー・ノルシュテイン」。家具職人を経てアニメーターとしての教育を受けた後、作品を発表する様になる。本作は「25日・最初の日」、「ケルジェネツの戦い」、「キツネとウサギ」、「アオサギとツル」、「霧につつまれたハリネズミ」、「話の話」…の6作を収録している。
こちら2016年に日本人スタッフの手で修復された6作品を、アマプラ見放題で配信したというものだが、先にソフトとしてリリースされている(その際のタイトルは〜作品集)。素晴らしい画質で観られる様になったのは、実にありがたい。
と言うか「話の話」は、自分も久々に観た。シュールと言うか難解という印象は変わらないものの、何だかタルコフスキー作品に近い感じがした。その辺同時代・同国人作家だけあるのかな…と思ったら、話の話はノルシュテイン自身の断片的記憶がモチーフらしい。それって要するに「鏡」と同じだな、成る程納得した。
2023.03.26
「失われた足跡」カルペンティエル著、牛島信明訳
読んでみた、キューバ人作家による長編小説。1953年発表。
音楽家の主人公は自らの理論を実証できる楽曲が、未開部族により演奏されていると知る。彼は妻以外の女を連れ河を遡行した後、遂に密林の奥に隠されたその地へと至る。再び作曲に情熱を燃やす彼だったのだが…という内容。
ラテンアメリカ文学における、「マジックリアリズム」の先駆者として知られる著者。カルペンティエルは政治犯として母国より亡命中、フランスでシュルレアリスト達と交遊を持ったそうで…成程そういうルーツなのか。本作でも文明から未開の密林へと遡る旅が、現実離れした異空間を現出しており、まさに「魔術的」。
加えて音楽評論家でもある著者だけに音楽用語をふんだんに採り入れて、主人公の内面が幻惑的な文章として綴られていく。何か解説にあった通りの事を書いてしまいそうになるけど…加えて本書では、表紙に使われたルソーの絵画(シュルレアリスムの先駆者だ)が、内容を的確に表現していて膝を打ったね。
2023.03.25
キューブリックに魅せられた男
観てみた、トニー・ジエラ監督によるドキュメンタリー映画。2017年公開。
役者として活動する「レオン・ヴィターリ」は、憧れのスタンリー・キューブリック監督の映画「バリー・リンドン」に出演。ところが彼は将来を期待されながらも俳優業を引退し、同監督の助手として長年映画製作のあらゆる面に関わる様になる。本作で彼はキューブリックの側で過ごした日々を回想する…という内容。
先日紹介した「〜愛された男」とは姉妹編の様な内容だが、たまたま偶然似通った人物がキューブリックの周囲にいただけらしい。そう考えるとやはりカリスマ的な存在とはこうした、自らを捧げ尽くす様な人々を惹き付けるのだろうな。
本作ではキューブリックの、映画制作に関するエピソードが多く聞けて楽しい。と同時に(まるで信長の草履を懐で温めた秀吉の様なのに)、ヴィターリ自身は同監督の死後も自ら立つ事はなく、彼の影として生涯を終えた(2022年没)のに考えさせられる。いや本作こそ、彼が浴びた最大のスポットライトなのかも。
役者として活動する「レオン・ヴィターリ」は、憧れのスタンリー・キューブリック監督の映画「バリー・リンドン」に出演。ところが彼は将来を期待されながらも俳優業を引退し、同監督の助手として長年映画製作のあらゆる面に関わる様になる。本作で彼はキューブリックの側で過ごした日々を回想する…という内容。
先日紹介した「〜愛された男」とは姉妹編の様な内容だが、たまたま偶然似通った人物がキューブリックの周囲にいただけらしい。そう考えるとやはりカリスマ的な存在とはこうした、自らを捧げ尽くす様な人々を惹き付けるのだろうな。
本作ではキューブリックの、映画制作に関するエピソードが多く聞けて楽しい。と同時に(まるで信長の草履を懐で温めた秀吉の様なのに)、ヴィターリ自身は同監督の死後も自ら立つ事はなく、彼の影として生涯を終えた(2022年没)のに考えさせられる。いや本作こそ、彼が浴びた最大のスポットライトなのかも。
2023.03.23
「ブロディーの報告書」J・L・ボルヘス著、鼓直訳
読んでみた、アルゼンチン人作家による短編小説集。1970年発表。
語り手が入手した、ある未発表の手稿。それはスコットランド人の宣教師・ブロディーが政府宛てにしたためた、ムルク(ヤフー)という未開種族の奇妙な生態に関する報告書だった。…という表題作を含んだ、全11編が収録されている。
上記作はガリバー旅行記を踏まえたものなので、著者の作風を言い表す「バベルの図書館」という印象にも合致していると思う。でも本書はならず者や争いを題材に、主に自国の風土に根差したリアリティスティックな作品が中心となっている。…マジックリアリズムからマジックを引いた感じ、とでも言えばいいのか。
なので賛否両論というのも仕方ないけれど…そこはボルヘス、どこか「奇譚」とも言えそうな独特の味わいが残っている。ナイフがもたらす因縁話なんか顕著で、何だかんだ面白いんじゃないかな。個人的にはやはり表題作で「悲しき熱帯」っぽいかな?、と思ったらそれどころでなく、まるでSFなヘンテコさが良い。
2023.03.22
キューブリックに愛された男
観てみた、A・インファセリ監督によるドキュメンタリー映画。2015年公開。
レーシングドライバー志望のミリオ・ダレッサンドロは、「ある物」を運んだ事をきっかけに、映画監督「スタンリー・キューブリック」の専属運転手となった。自動車関連に留まらず、公私に渡ってキューブリックを支える様になるダレッサンドロ。本作では彼が長年見つめた、キューブリックの姿を回想する…という内容。
「ある物」とは「時計じかけのオレンジ」で使用された、ペニスのオブジェ。…なので「2001年宇宙の旅」を始め、それ以前の話は出てこない。主に語られるのはキューブリックの私生活だから、作品内容との関連は期待しない方がいい。
とは言えキューブリックが彼に宛てた、仕事や買い物等を指示するメモ書きが大量に紹介されるのが楽しい。しかし物持ちのいい人だな(…今やその1枚1枚がお宝なんだけど)。気難しいイメージのキューブリックが、気難しい中に見せるチャーミングな一面を知る事が出来た、その物持ちのよさに対して感謝しよう。
レーシングドライバー志望のミリオ・ダレッサンドロは、「ある物」を運んだ事をきっかけに、映画監督「スタンリー・キューブリック」の専属運転手となった。自動車関連に留まらず、公私に渡ってキューブリックを支える様になるダレッサンドロ。本作では彼が長年見つめた、キューブリックの姿を回想する…という内容。
「ある物」とは「時計じかけのオレンジ」で使用された、ペニスのオブジェ。…なので「2001年宇宙の旅」を始め、それ以前の話は出てこない。主に語られるのはキューブリックの私生活だから、作品内容との関連は期待しない方がいい。
とは言えキューブリックが彼に宛てた、仕事や買い物等を指示するメモ書きが大量に紹介されるのが楽しい。しかし物持ちのいい人だな(…今やその1枚1枚がお宝なんだけど)。気難しいイメージのキューブリックが、気難しい中に見せるチャーミングな一面を知る事が出来た、その物持ちのよさに対して感謝しよう。
2023.03.20
「ガンシップ」ヘンリー・ジーベル著、江畑謙介訳
読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1987年発表。
ベトナム戦争当時。米空軍が地上の軽車輛破壊の為に、輸送機の機体に重武装させた「ガンシップ」。本書は同機で低光量TV担当の航法士だった著者が、戦闘や破壊に加え仲間との友情等、かつての日々を振り返る…という内容。
現在でも改良型が運用中のAC-130、本書中だと最大火力は40o砲。その為成果判定が「完全破壊」かどうかで、揉めているのが興味深い。要するに簡単に修理可能では不十分という事だが(その後導入された105o砲のお陰で、現在でも通用している様だ)…そんな話を延々されても余り面白くはないのにな。
本書は孤独な戦闘機パイロットと違い大人数の人間模様が中心で、陽気な青春群像はいかにも米軍戦記という感じ。なので戦闘狂としか思えない一方、著者の苦悩も描かれており意外に奥行きのある内容。個人的にははミサイルの追撃を、回避機動だけ(チャフ/フレアは未装備)でしのいだのには驚かされた。
2023.03.18
「戦闘機の航空管制 / 航空戦術の一環として兵力の残存と再戦力化に貢献する」園山耕司著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2018年発表。
航空機が安全に離発着する為、その支援・誘導をするのが「航空管制」の役割。本書は自衛隊元航空管制官の著者がその豊富な体験を踏まえ、知られざる軍事における航空管制を、豊富な写真や図版と共に解説する…という内容。
副題の仰々しさからすると防衛・軍事関係の論文みたいだが、実は普通の新書本(まあ「サイエンス・アイ新書」はカラー写真が目を引くシリーズではある)。でも内容はビックリするほど専門的で、これに近い内容を読んだのは多分雑誌「ザ・マーチ」や「軍事研究」とかそんな辺りしかないと思う。かなり貴重なのでは。
ただ書評を見ると(この手の本の常だが)疑いつつ読む必要はありそう。とは言え最新鋭のF-35での航空管制の変化や空中待機誘導の方式等、仲々他では読めない話は多い。でも流石にそういうのばかりではつらいからか…本書後半では普通に(多分著者も専門じゃない)戦闘機の種類の紹介なんかしてた。
2023.03.17
「ドッグファイトの科学 / 知られざる空中戦闘機動の秘密」赤塚聡著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2012年発表。
戦闘機同士が行う空中戦。特に互いの立場を入れ換え、敵機の後方から射撃機会を伺う「ドッグファイト」は、操縦者の高い技術や力量を必要とする。本書は現代におけるドッグファイトを、機動や装備の面から解説する…という内容。
ハイ/ローヨーヨーやシザーズ運動等、空戦機動を一通り紹介しており、図版と共に判りやすい本。自分は一応知識としてはあったけど…エースコンバットをやっても、旋回だけしてれば大体どうにかなるから(インメルマンすら)使った事ないな。ゲームはTV画面しか視界がないので、機体の平行すらよく判らんし。
とは言え本書では機体の持つ位置エネルギー・運動エネルギー等の概念面を、基本から説明してくれるのに加えて、アクロバット機動やミサイル等が一通り載っているので、楽しく読めるんじゃないかな。特にHOTAS概念による操縦桿・スロットルレバーの操作ボタン類の解説は、結構類書にはないかもしれない。
2023.03.15
「ファイター・パイロット」フランク・J・オブライエン著、土屋哲朗、光藤亘訳
読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1986年発表。
ミサイルや機関砲で武装し、強力なジェットエンジンで音速を超えて大空を駆ける戦闘機。本書は「ファイター・パイロット」である著者のベトナム戦争での体験を軸に、戦闘機の運用から将来への展望までを解説していく…という内容。
著者は空軍の所属で、乗機はやはり「F-4ファントム」。装備で20oバルカン砲を挙げているので、型式はおそらくE。…本書でもやはり爆撃に関する解説が中心だが、戦術航法装置=TACAN等の誘導設備。特に前線航空管制=FACの重要性を特記している辺りなど、専門的ながら説得力があって大変興味深い。
一応空中戦に関する解説もあるのだけれど…どうした事かあまり文章に熱を感じない。内容が空中機動どうのじゃなく、AWACSによる誘導を踏まえた空戦だからかという気も。古い本ではあるが実体験部分が素晴らしいのに対して、そうじゃない辺りは単に「古い本」になっちゃってるのは(仕方ないけど)少々残念。
2023.03.14
「ベトナム空戦史(原題:Phantom over Vietnam)」J・トロッティ著、井上寿郎訳
読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1984年発表。
1966年、米軍が参戦中のベトナム。著者は海兵隊航空群の戦闘・攻撃隊に所属するパイロットとして、日夜現地上空を飛行していた。主な任務は地上への爆撃だが、その遂行には高度な技術と多大な困難が必要とされ…という内容。
邦題には「空戦史」とあるけれど、包括的な内容ではなく体験談なのに加え、戦闘機同士の空戦の様な話は出てこない。いい加減なもんだが…原題にある通り、著者が乗るのは「F-4ファントム」戦闘爆撃機。本書は同機をまるで尼のカスタマーレビューの様に、実際に用いる人の視点で詳細に解説してるのが見所。
だから世傑等の本では知りえない、「使い勝手」まで綿密に語っているのはすごい。全ファントム好き必読。…ただ逆に機体解説面では判らない点も多い(海兵隊所属で時期的なところからすると、多分B型?)。加えて著者がインテリなので、戦争とは少々違う方面の苦悩を述懐してる辺り、共感面で可否はありそう。
2023.03.12
バリバリ伝説
観てみた、鳥海永行監督によるアニメーション映画。1987年公開。
バイクで峠を攻める高校生・グンは、ある日同年代のライダーとの競走で手痛い敗北を喫する。その相手の名はヒデヨシ、なんとグンの高校への転入生だったのだ。常にいがみ合う2人だったが、同級生・美由紀が運営するチームのメンバーとして、鈴鹿4時間耐久バイクレースに参加する事となって…という内容。
原作はしげの秀一の漫画。前年に前後編で発売されたOVAを、再編集した劇場版となっている。荻野目洋子が歩惟役で出演し、主題歌も担当しているけど…ある意味原作初期のノリには合っているかもしれん(いいとは言っていない)。
で盛大にネタバレしとくと、本作で描かれるのは秀吉の死まで。原作自体それ以降何やってるか知ってる人少なそうだし、妥当な所か(自分の場合はWGP編の内容に印象が上書きされてた)。それよりネタバレすると、峠バトル中に「かめっ!」って叫んでない! …うーん、ギャグっぽくなりそうだし仕方ないのかな。
バイクで峠を攻める高校生・グンは、ある日同年代のライダーとの競走で手痛い敗北を喫する。その相手の名はヒデヨシ、なんとグンの高校への転入生だったのだ。常にいがみ合う2人だったが、同級生・美由紀が運営するチームのメンバーとして、鈴鹿4時間耐久バイクレースに参加する事となって…という内容。
原作はしげの秀一の漫画。前年に前後編で発売されたOVAを、再編集した劇場版となっている。荻野目洋子が歩惟役で出演し、主題歌も担当しているけど…ある意味原作初期のノリには合っているかもしれん(いいとは言っていない)。
で盛大にネタバレしとくと、本作で描かれるのは秀吉の死まで。原作自体それ以降何やってるか知ってる人少なそうだし、妥当な所か(自分の場合はWGP編の内容に印象が上書きされてた)。それよりネタバレすると、峠バトル中に「かめっ!」って叫んでない! …うーん、ギャグっぽくなりそうだし仕方ないのかな。
2023.03.11
「日本探偵小説全集1 / 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎集」黒岩涙香、小酒井不木、甲賀三郎著
読んでみた、日本人作家による推理小説アンソロジー。1984年発表。
日本で初の探偵小説となる「無残」(1889年)を執筆した「黒岩涙香」をはじめとして、医学者ならではの専門的知見を最初に採り入れた「小酒井不木」。本格・変格という日本独自の概念を提唱した「甲賀三郎」と、日本推理小説初期の作家による画期的な代表作を数々集めた、シリーズの第1巻が本書…という内容。
最近気付いたのだけれど、自分の場合推理小説は古ければ古いだけ好きだな。じゃあ世界最高のミステリは「モルグ街の殺人」や「無残」か…と言ってしまっても、そう的外れではない気が。本書に収録された作品はどれも面白いね。
涙香は翻案中心で独自作は「無残」がほぼ唯一なのは残念だけど、小酒井も甲賀も現在の推理小説と遜色無い作品なのはすごい。ただ本書は殆ど短編で、長編は甲賀の「支倉事件」だけ。これがミステリと言うよりはむしろ実録犯罪小説なのだが…何だか大正のロス疑惑みたいな話で、それはそれでビックリ。
2023.03.09
FUTURE WAR 198X年
観てみた。舛田利雄、勝間田具治監督によるアニメ映画。1982年公開。
198X年。アメリカ合衆国は軌道上のレーザー衛星により、大陸間弾道ミサイルの迎撃実験に成功する。ところがその為にソビエト連邦との緊張が高まり、衛星計画責任者の誘拐を手始めに、東西間の軍事衝突は急速にエスカレート。遂には核ミサイルによる、全面戦争の火蓋が切られてしまい…という内容。
東映動画制作によるアニメ映画だが、社内で「好戦的な内容」とされた事から反対運動が起き、当時大激論となった問題作。まあ様々な意見は当然あるだろうけれど…40年以上過ぎた今、そう目くじらを立てる事もあるまい。個人的には監督に起用された舛田利雄が、例によってキワモノ映画をまた任されたんだなと。
と言うか舛田のせい?か、本作はやけに「ヤマト」っぽい。カッコよさげな兵器描写や、主人公の特攻を見ると致し方ないか。…とは思ったものの、核被害の惨状などは「ザ・デイ・アフター」に1年先駆けた辺りにも着目してよいのでは。
198X年。アメリカ合衆国は軌道上のレーザー衛星により、大陸間弾道ミサイルの迎撃実験に成功する。ところがその為にソビエト連邦との緊張が高まり、衛星計画責任者の誘拐を手始めに、東西間の軍事衝突は急速にエスカレート。遂には核ミサイルによる、全面戦争の火蓋が切られてしまい…という内容。
東映動画制作によるアニメ映画だが、社内で「好戦的な内容」とされた事から反対運動が起き、当時大激論となった問題作。まあ様々な意見は当然あるだろうけれど…40年以上過ぎた今、そう目くじらを立てる事もあるまい。個人的には監督に起用された舛田利雄が、例によってキワモノ映画をまた任されたんだなと。
と言うか舛田のせい?か、本作はやけに「ヤマト」っぽい。カッコよさげな兵器描写や、主人公の特攻を見ると致し方ないか。…とは思ったものの、核被害の惨状などは「ザ・デイ・アフター」に1年先駆けた辺りにも着目してよいのでは。
2023.03.08
BIG WARS / 神撃つ朱き荒野に
観てみた、 滝沢敏文監督によるオリジナル・ビデオ・アニメ。1993年発表。
西暦2416年の火星。人類と「神」を名乗る勢力との戦争が始まっておよそ40年。神々は人間を操り、軍内部にスパイとして潜入させていた。隠密巡洋艦「青葉」の艦長である亜空歓喜もまた、恋人を神々の手先にされて喪ってしまう。だが彼女から託されたのは、敵の不沈空母「地獄」攻略の情報で…という内容。
原作は荒巻義雄のSF小説シリーズで、本書はその「枝篇」となる一冊(原作版のタイトルは「朱い〜」)。まあ自分も全くの未読だが、本作を見る分にはだいたい判ると思う。ストーリーは置いといても、メカ描写だけでもかなりの力作。
本作でもメカを担当したのは横山宏。横山は「マシーネンクリーガー=SF3D」で知られるだけあって、本作でもパワードスーツをデザインしている。多分「SAFS」が有名だと思うけど、(装着者の顔が見えないのは、よろしくないからか)今回は「AFS」風。他にも雪風っぽい?戦闘機もいるし…好事家なら必見だ。
西暦2416年の火星。人類と「神」を名乗る勢力との戦争が始まっておよそ40年。神々は人間を操り、軍内部にスパイとして潜入させていた。隠密巡洋艦「青葉」の艦長である亜空歓喜もまた、恋人を神々の手先にされて喪ってしまう。だが彼女から託されたのは、敵の不沈空母「地獄」攻略の情報で…という内容。
原作は荒巻義雄のSF小説シリーズで、本書はその「枝篇」となる一冊(原作版のタイトルは「朱い〜」)。まあ自分も全くの未読だが、本作を見る分にはだいたい判ると思う。ストーリーは置いといても、メカ描写だけでもかなりの力作。
本作でもメカを担当したのは横山宏。横山は「マシーネンクリーガー=SF3D」で知られるだけあって、本作でもパワードスーツをデザインしている。多分「SAFS」が有名だと思うけど、(装着者の顔が見えないのは、よろしくないからか)今回は「AFS」風。他にも雪風っぽい?戦闘機もいるし…好事家なら必見だ。
2023.03.06
ヴイナス戦記
観てみた、安彦良和監督によるアニメーション映画。1989年公開。
地球からの移民が行われてより72年が過ぎた金星。その地では2国間の戦争が繰り広げられていた。バイクゲームのライダーである「アフロディア」の少年・ヒロは、彼の街を蹂躙した「イシュタル」の戦車に戦いを挑む。その際自国の軍隊に助けられたヒロ達は、彼らと行動を共にする事になるのだが…という内容。
原作は安彦自身による同名漫画。アニメと漫画との2足の草鞋だった同監督だが、本作の興行的失敗から漫画専業に。その為本作は一時期観るのが難しい状態だったものの、安彦のアニメ復帰と共に配信・ソフト販売も実現した。
まあ実際内容的にはパッとしないのも確かなのだが…メカ描写は本当に見応えがある(実写映像による場面は置いといて)。本作でメカデザインを担当したのが、小林誠・横山宏のトゥーファクトリー・コンビ。一輪バイクをはじめ癖のあるデザインだとは思うけれど…当時の模型誌誌面を想起してニヤニヤしてしまう。
地球からの移民が行われてより72年が過ぎた金星。その地では2国間の戦争が繰り広げられていた。バイクゲームのライダーである「アフロディア」の少年・ヒロは、彼の街を蹂躙した「イシュタル」の戦車に戦いを挑む。その際自国の軍隊に助けられたヒロ達は、彼らと行動を共にする事になるのだが…という内容。
原作は安彦自身による同名漫画。アニメと漫画との2足の草鞋だった同監督だが、本作の興行的失敗から漫画専業に。その為本作は一時期観るのが難しい状態だったものの、安彦のアニメ復帰と共に配信・ソフト販売も実現した。
まあ実際内容的にはパッとしないのも確かなのだが…メカ描写は本当に見応えがある(実写映像による場面は置いといて)。本作でメカデザインを担当したのが、小林誠・横山宏のトゥーファクトリー・コンビ。一輪バイクをはじめ癖のあるデザインだとは思うけれど…当時の模型誌誌面を想起してニヤニヤしてしまう。
2023.03.05
UFO学園の秘密
観てみた、今掛勇監督によるアニメーション映画。2015年公開。
レイを始めとする5名の「ナスカ学園」生徒は、課題としてUFO・宇宙人研究をテーマに選ぶ。ところが発表直前に何者かの妨害を受け、しかも突然UFOの機内にアブダクションされてしまう。そこで宇宙人がレイに語るには地球では善悪二大勢力が争っており、彼らの学園にも悪の手先が潜伏していて…という内容。
大川隆法製作総指揮による、「幸福の科学」劇場アニメ第7作。今掛監督としては3作目に当たり、その後の作品でもキャラデザ・総作監を兼ねる力の入れ様。その教祖様がいなくなってしまって、今後アニメ製作はどうなるのだろう…
別にいいけど。本作はUFOをネタに採り上げ、案外普通のアニメっぽいのだが…チャネリングして宇宙に飛んでからは胡散臭さ全開。大川先生の教えを延々聞かされて眠いのなんの。でも主人公が超サイヤ人4みたいに変身したりと、デタラメ…いやサービス満点。監督のキャラは地味可愛いくて結構好きだな。
レイを始めとする5名の「ナスカ学園」生徒は、課題としてUFO・宇宙人研究をテーマに選ぶ。ところが発表直前に何者かの妨害を受け、しかも突然UFOの機内にアブダクションされてしまう。そこで宇宙人がレイに語るには地球では善悪二大勢力が争っており、彼らの学園にも悪の手先が潜伏していて…という内容。
大川隆法製作総指揮による、「幸福の科学」劇場アニメ第7作。今掛監督としては3作目に当たり、その後の作品でもキャラデザ・総作監を兼ねる力の入れ様。その教祖様がいなくなってしまって、今後アニメ製作はどうなるのだろう…
別にいいけど。本作はUFOをネタに採り上げ、案外普通のアニメっぽいのだが…チャネリングして宇宙に飛んでからは胡散臭さ全開。大川先生の教えを延々聞かされて眠いのなんの。でも主人公が超サイヤ人4みたいに変身したりと、デタラメ…いやサービス満点。監督のキャラは地味可愛いくて結構好きだな。
2023.03.03
空の青さを知る人よ
観てみた、長井龍雪監督によるアニメーション映画。2019年公開。
両親を事故で亡くして以来、姉・あかねと2人秩父で暮らす妹のあおい。あかねは高校時代同級生の慎之介から上京を誘われたものの、それを断った為に2人の関係も終わっていた。そして13年経ったあおいの前に、高校生の慎之介が時を超えて現れる。しかも現在の慎之介まで久々に帰郷してきて…という内容。
「あの花」制作チームによる第3作。シリーズと銘打つ程でもないけれど、秩父を舞台にしている事とファンタジー描写、ヒロイン少女にとって恋愛がビターに終わる点などは共通している。ただ前2作にあった、屈折した要素(女装だのラブホだの)が見られない辺り、取っつきやすい代わりに少々フックが足りない気が。
どちらかと言うと「焼けぼっくいに火が付いた」姉の恋愛の方が主軸なので、(結局バンド演奏云々は脇道だったりと)あおいはあくまでもそのストーリーの語り手にすぎない。…そういう意味では「妹の存在自体が」屈折しているのかも。
両親を事故で亡くして以来、姉・あかねと2人秩父で暮らす妹のあおい。あかねは高校時代同級生の慎之介から上京を誘われたものの、それを断った為に2人の関係も終わっていた。そして13年経ったあおいの前に、高校生の慎之介が時を超えて現れる。しかも現在の慎之介まで久々に帰郷してきて…という内容。
「あの花」制作チームによる第3作。シリーズと銘打つ程でもないけれど、秩父を舞台にしている事とファンタジー描写、ヒロイン少女にとって恋愛がビターに終わる点などは共通している。ただ前2作にあった、屈折した要素(女装だのラブホだの)が見られない辺り、取っつきやすい代わりに少々フックが足りない気が。
どちらかと言うと「焼けぼっくいに火が付いた」姉の恋愛の方が主軸なので、(結局バンド演奏云々は脇道だったりと)あおいはあくまでもそのストーリーの語り手にすぎない。…そういう意味では「妹の存在自体が」屈折しているのかも。
2023.03.02
青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない
観てみた、増井壮一監督によるアニメーション映画。2019年公開。
「思春期症候群」と呼ばれる奇妙な現象が、周囲で起こる高校生・咲太。ある日彼の知り合いである中学生・翔子が、突然大学生の姿になって現れた。それは病弱で先行きを不安に思う彼女の内心が、願望として叶ったものと推測された。だが咲太の恋人である麻衣と、ひと悶着を引き起こす事になって…という内容。
原作は鴨志田一の小説「青春ブタ野郎」シリーズ。本作は先立って放送されたTVシリーズの続編となる映画。(麻衣先輩という決まった相手がありながら)各巻でメインとなる少女が交代するスタイルで、本作では牧之原翔子がヒロイン。
一言でいえば「化物語」を連想させる本作。そちらがドライな作風のお陰で、ガハラさんがいても大して気にならないのに対して、本作ではウェットな表現を採る為に、麻衣の存在が甚だしくノイズ(=恋愛関係としての圧)になっているのは大分違うな。…まあ要するに、泣かせたいかどうかの違いって事なのかも。
「思春期症候群」と呼ばれる奇妙な現象が、周囲で起こる高校生・咲太。ある日彼の知り合いである中学生・翔子が、突然大学生の姿になって現れた。それは病弱で先行きを不安に思う彼女の内心が、願望として叶ったものと推測された。だが咲太の恋人である麻衣と、ひと悶着を引き起こす事になって…という内容。
原作は鴨志田一の小説「青春ブタ野郎」シリーズ。本作は先立って放送されたTVシリーズの続編となる映画。(麻衣先輩という決まった相手がありながら)各巻でメインとなる少女が交代するスタイルで、本作では牧之原翔子がヒロイン。
一言でいえば「化物語」を連想させる本作。そちらがドライな作風のお陰で、ガハラさんがいても大して気にならないのに対して、本作ではウェットな表現を採る為に、麻衣の存在が甚だしくノイズ(=恋愛関係としての圧)になっているのは大分違うな。…まあ要するに、泣かせたいかどうかの違いって事なのかも。