2023.03.23
「ブロディーの報告書」J・L・ボルヘス著、鼓直訳
読んでみた、アルゼンチン人作家による短編小説集。1970年発表。
語り手が入手した、ある未発表の手稿。それはスコットランド人の宣教師・ブロディーが政府宛てにしたためた、ムルク(ヤフー)という未開種族の奇妙な生態に関する報告書だった。…という表題作を含んだ、全11編が収録されている。
上記作はガリバー旅行記を踏まえたものなので、著者の作風を言い表す「バベルの図書館」という印象にも合致していると思う。でも本書はならず者や争いを題材に、主に自国の風土に根差したリアリティスティックな作品が中心となっている。…マジックリアリズムからマジックを引いた感じ、とでも言えばいいのか。
なので賛否両論というのも仕方ないけれど…そこはボルヘス、どこか「奇譚」とも言えそうな独特の味わいが残っている。ナイフがもたらす因縁話なんか顕著で、何だかんだ面白いんじゃないかな。個人的にはやはり表題作で「悲しき熱帯」っぽいかな?、と思ったらそれどころでなく、まるでSFなヘンテコさが良い。