2023.03.26
「失われた足跡」カルペンティエル著、牛島信明訳
読んでみた、キューバ人作家による長編小説。1953年発表。
音楽家の主人公は自らの理論を実証できる楽曲が、未開部族により演奏されていると知る。彼は妻以外の女を連れ河を遡行した後、遂に密林の奥に隠されたその地へと至る。再び作曲に情熱を燃やす彼だったのだが…という内容。
ラテンアメリカ文学における、「マジックリアリズム」の先駆者として知られる著者。カルペンティエルは政治犯として母国より亡命中、フランスでシュルレアリスト達と交遊を持ったそうで…成程そういうルーツなのか。本作でも文明から未開の密林へと遡る旅が、現実離れした異空間を現出しており、まさに「魔術的」。
加えて音楽評論家でもある著者だけに音楽用語をふんだんに採り入れて、主人公の内面が幻惑的な文章として綴られていく。何か解説にあった通りの事を書いてしまいそうになるけど…加えて本書では、表紙に使われたルソーの絵画(シュルレアリスムの先駆者だ)が、内容を的確に表現していて膝を打ったね。