2023.03.31

「大統領閣下・グアテマラ伝説集」アストリアス著、内田吉彦、牛島信明訳

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読んでみた、グアテマラ人作家による長編/短編小説集。1984年発表。

中米の某国では「大統領」が秘密警察を用いて、独裁政権を敷いていた。彼は意に沿わない将軍に殺人の容疑をかけて放逐し、更にその娘や協力者に対して…という長編小説「大統領閣下」(1946年)に加え、短編6作を収録している。

著者も南米「マジックリアリズム」の先駆者と呼ばれる作家だが、やはり留学先のフランスでシュルレアリスムとの邂逅があった。なので表題長編にもそうした表現が見られるものの…内容自体は社会派小説と言うか、独裁者による暴虐を受けた人々を描いた鬱小説。夜と霧ばりの迫真性と、露文学の重厚さがある。

でも同作が書かれたのは、モデルになったカブレーラ政権が倒れた後なので、それを踏まえるとまた少々違うニュアンスを感じるな。(ある人物の悲惨な獄死は、その大統領の実際の最期を想起させたりと)一段高い視点からの、文学的含意を見て取るべきかもしれない。まあでも正直キッツイので、そこは覚悟して。
posted by ぬきやまがいせい at 19:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書