2023.04.30

「なにもない空間」ピーター・ブルック著、高橋康也、喜志哲雄訳

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読んでみた、イギリス人著者によるノンフィクション/論考集。1968年発表。

1925年、ロンドンで誕生した「ピーター・ブルック」。世界的な舞台演出家であり映画監督でもある彼が、自身の演劇論に関して「退廃演劇」「神聖演劇」「野生演劇」「直接演劇」といった、4章に渡って綴ったのが本書である…という内容。

「なにもない空間」とは「舞台」を言い表した言葉なので、内容は主に演劇に関するものだが、著者は「蠅の王」や「雨のしのび逢い」といった映画も手掛けている。本書でも幾つかの舞台劇を例に挙げて論を進めてはいるけれど、(勿論)観ていないから今一つピンとこない。上記映画の話をしてくれてもよかったかも。

だからか?60年代にして既に、演劇は衰退に向かう表現分野だとする前提にはドキッとさせられる。その上で自らの理想を説く本書は、現在でも示唆に満ちているだろう。まあ自分は素人なので、個人的には観念的な本書は理解が難しかったけど…単に悲観的でない姿勢は、色々な分野での支えになりそうだね。
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2023.04.29

「サンフォード・マイズナー・オン・アクティング」サンフォード・マイズナー、デニス・ロングウェル著、仲井真嘉子、吉岡富夫訳

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読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1987年発表。

1905年にニューヨークで誕生した「サンフォード・マイズナー」は、演技者としてメソッド技法に触れ、その後は俳優を育成する教育者となった。「マイズナー・テクニック」とも呼ばれる彼の指導を、紹介するのが本書である…という内容。

体裁としては授業風景を再現する形で、マイズナーと生徒の対話篇と言うべきものだが…著者の演技論が(本書中でも名前が挙がる)スタニスラフスキーを源流に持つスタイルだからか、上記の体裁自体「俳優修業」に倣ったものではないかと。結構判りやすいとは思うけど、演技素人にはピンと来ない面も多々。

「感情準備」という考えには成る程と思ったものの、他の演技論と何がそう違うのかなあ? …なので素人読者としては白熱教室みたいというか、ドキュメンタリー的な臨場感が興味深い。有名同業者に対する辛辣な見解を始め、授業の最中にクビを宣告される生徒等、読んでいるだけで緊張感にピリピリしてしまう。
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2023.04.27

「演技と演出」平田オリザ著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2004年発表。

「演技とは何か?、演出とは何か?」。本書では日本演劇界で長年活動する演出家の著者が、自身が若い学生や役者建に向けて指導に当たったワークショップでの体験談を中心に、演技と演出に関する思いを綴っていく…という内容。

その際用いた台本や舞台上の人物配置等を記した図版も掲載されており、かなり具体的な内容の伴った入門書ではあるのだが…実際素人が読んでも、演技のレッスンにはならないと言うか(そういう用途なら鴻上尚史の本がよい)。本書は著者の現場における実体験を傾聴する、エピソード集として読むべきかも。

実際著者自身、演技や演出に関して「言語化」する事の難しさを語っている。…でも本書ではそれだけではなく、スタニスラフスキーやブレヒトの業績に関して判りやすく解説しており、幅広い内容が入門によいのは確か。特に「ガラスの仮面」の荒唐無稽さに突っ込みつつ解説する辺りは、結構納得してしまったし。
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2023.04.26

「演技指導論草案」伊丹万作著

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読んでみた、日本人著者によるエッセイ集。1940年発表。

1900年に愛媛県で誕生した「伊丹万作」は、挿絵画家を経て映画界入りし、脚本や監督作を手掛ける事となった。本書はそうした立場の彼が、演技を指導するべき俳優に向き合う際の、覚え書として執筆した一文である…という内容。

本稿は同年刊行された「映画演出学読本」という本に寄稿されたもので、演技論ではなく演技を指導する心構えや実践的な姿勢といった事について、箇条書きで綴っている。拍子抜けするくらい簡潔な短文だが、研究書も出ている通り、日本の映画界では「演技」を語る上での古典として、長らく読まれて来たとの事。

なので、過去現在の日本映画で見られる演技はどうしてこういうのなの?…という疑問に対する、答えがある気がする。まあ日本映画は明治期から、旧来の歌舞伎等とは異なる西洋劇「新劇」の導入と、密接な相互関係を持ちながら発展した特殊事情があるから、そう単純ではないんだろうけど(…この話長くなるな)。
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2023.04.24

「演技について」ローレンス・オリヴィエ著、倉橋健、甲斐万里江訳

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読んでみた、イギリス人著者によるノンフィクション。1986年発表。

「ローレンス・オリヴィエ」は1907年、サリー州で誕生。舞台俳優として活躍する一方で映画にも出演・監督し、1970年には叙勲を果たす。本書はオリヴィエが「演技について」語ったもので、彼の俳優哲学が窺える…という内容。

著者は以前「一俳優の告白」という自伝(元妻ヴィヴィアン・リーとの生活を、赤裸々に描いているらしい)を出版しており、本書はそちらから洩れた「俳優」としての自身を綴ったもの。…だから演技論や指南書ではなく、「自伝・俳優編」といった感じの自分語りの本だった。期待したものとは違うが、これはこれで。

特にシェイクスピア作品の舞台で、ハムレットやリア王といった錚々たる役を演じた話は、流石に読み応えがある。逆にそれ以外の演劇界交遊録?や、よく知らん映画の話になると途端に取り止めがなくなるのは、仕方ないかなあ。まあこの本を読んで参考に出来るのは一流俳優だけだと思うけど、面白いは面白い。
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2023.04.23

「映画の演技 / 映画を作る時の俳優の役割」マイケル・ケイン著、矢崎滋訳

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読んでみた、イギリス人著者によるエッセイ集。1990年発表。

1933年ロンドンで誕生した「マイケル・ケイン」は、英国で舞台俳優としてキャリアを積んだ後、ハリウッド映画の世界へと進出する。本書では彼が自身の体験を踏まえ、映画俳優としての心構えやエピソードを綴っていく…という内容。

自分が読んだ印象では、彼が有名俳優や監督との交流について書いた、映画界の面白エピソード集なんだけど。…映画に出演する俳優として、実際演技に携わる人が読めば、相当実践的な職業指南書だと思う。朝起きてから眠りに就くまで、俳優としていかに振舞うべきかという、徹底した矜持・思想が窺える。

とは言え映画俳優が舞台俳優と異なるのは、「カメラ」の存在を意識して「スタッフ」と関わる事だという指摘には納得。これは「演技論」と言われているものとも違っているので、そういう話を期待したら多分当てが外れてしまうけど…第一線の俳優としての職業意識や理念が判り、成る程一流とはこういうものかと。
posted by ぬきやまがいせい at 13:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2023.04.21

「ロスト・シティ・レディオ」ダニエル・アラルコン著、藤井光訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編小説。2007年発表。

戦争の爪痕の残る中南米のある国で、ノーマは行方不明人を捜すラジオ番組のパーソナリティをしていた。ある日彼女を訪ねた少年・ビクトルは、村人から託された人名リストを持っていた。ノーマの夫もまた失踪しており…という内容。

著者は米国在住だが、ペルー出身という自身のルーツから、架空の中南米国を舞台にした本作を書き上げた。…なのでラテンアメリカ作家とは言えないものの、(マルケスやボルヘス等から影響を受けたという事もあって?)多視点で複数時制の文章が混在する、かなり先鋭的な表現を採り入れているのが特徴。

また南米文学の先人達と同じく、独裁体制や戦争に苦しむ人々を描いているけれど…マジックリアリズムによる「緩衝」が無い本作は、読んでいて本当にしんどくなる。まあ大まかな筋立てはメロドラマみたいだし、交錯した語り口はミステリっぽくもあり。その上で何より、「爽やかさ」があるのは、いいんじゃないかな。
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2023.04.20

1917 / 命をかけた伝令

観てみた。ジョージ・マッケイ主演、サム・メンデス監督映画。2019年公開。

1917年、第一次大戦中の西部戦線。イギリス軍兵士のスコフィールドとブレイクは、前線部隊に攻撃中止を「伝令」する命令を受ける。それは撤退に見せかけたドイツ軍の罠から友軍を救う為、特にブレイクは実の兄が現地で危機に瀕しているのだ。2人は敵兵の潜む戦場へと、歩みを進めるのだが…という内容。

本作は全編を「ワンカット風」に連続した映像で描いた事で話題になり、米アカデミー賞では撮影賞を含む3部門を獲得した。相当に高度な技術が用いられており、受賞も納得だが…映画として見ると、いい面も悪い面もある感じかなあ。

無人の戦場での臨場感などは成程効果的だが、次第に非現実的な感じになってしまう(ワンカットではあるけど、時間経過は圧縮しているので)と、普通に撮った方がよいのでは?って気も。手法的な制約から淡白な印象を受ける反面、それ故に得られる情感もある。「やってよかった」作品ではあるんじゃないかな。
posted by ぬきやまがいせい at 22:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2023.04.18

「リタ・ヘイワースの背信」マヌエル・プイグ著、内田吉彦訳

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読んでみた、アルゼンチン人作家による長編小説。1968年発表。

1933年。ブエノスアイレスの比較的豊かな家庭に誕生した、トートという少年。映画を観るのを何よりも楽しみにし、その煌びやかな世界に浸る一方、次第に周囲の人々の無理解に対し、苛立ちを募らせていく様になって…という内容。

本書はプイグによる初の小説だが、元々映画界に身を置いていた著者が脚本として書き始めたもの。人物による語りや、日記文章といった様々な体裁を借りた、一人称の主観的文体で構成されているのが特徴。…その為説明に乏しい上に、殆どストーリーらしいストーリーが無いと言う、実験的な作風となっている。

なので南米文学と言っても「マジックリアリズム」云々とはちょっと違うかな。とは言えプイグが本書執筆で、叔母の話す言葉の様なスペイン語を採り入れればいいのか!…という「発見」は、マルケスが「百年の孤独」の際に見出した有名な逸話を思い起こさせる。そう考えると、成程本書も同じ表現の上にあるのかも。
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2023.04.17

アンダー・ウォー / 史上最大の地下爆破作戦

観てみた、J・P・ワッツ監督映画。2021年公開。

第一次大戦中の1915年。欧州戦線では、イギリス・ドイツ両軍による激しい戦いが行われていた。この窮状を打破すべるく英軍のジャック大佐は、地下を掘り進んで爆薬を仕掛け、敵陣地を爆破する作戦を立案。その為にホーキンスを始め、民間の鉱山労働者を前線に送り込む事となったのだが…という内容。

「パッシェンデールの戦い」として知られる戦闘を描いた実話映画。その際の爆破で出来た巨大な穴は「ロッホナガー・クレーター」と呼ばれ、現在では観光地になっているらしい。本作ではその模様をイギリス側視点から描いている。

核以外では最大規模と言われる歴史的な爆破だが、残念ながら本作での描写は地味。と言うかひたすらオッサン達がトンネルを掘ってるだけの映画なので、(話自体は結構盛ってる風なのに)あまり盛り上がらない。とは言え知る人ぞ知る戦闘だけに、実際に携わった人々はもっと労われてもいいよね、とは思った。
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2023.04.15

脱獄の用心棒

観てみた、パオロ・ビアンキ監督映画。1968年公開。

南北戦争の当時。ガトリングにより発明された、弾丸を連発で撃ち出す新兵器の「機関銃」を、無法者・タルパス一味が強奪。しかも北軍・南軍双方に、法外な取引を要求して来た。そんな中投獄されていた北軍のタナー大尉は、上官からの命を受け、機関銃の奪還という困難な任務へと赴いたのだが…という内容。

マカロニ西部劇で機関銃と言えば、続・用心棒でジャンゴの棺桶の中に入っていた奴。それは多銃身ながら仕組みがよく判らん架空銃だったけれど、本作は実在の「ガトリング砲」を踏まえたと思しき、機関銃による乱射シーンが見所。

まあマカロニ・ウエスタンと言う割に、期待する程にははっちゃけていないというのは正直な印象。でも本作は勿論フィクションだけど、上記の通り着眼点のよさは仲々。上官として登場した「ピンカートン」が、後に探偵社を設立するピンカートンだったりと(多分)、マカロニなのに案外史実を踏まえているのは面白い。
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2023.04.14

「精霊たちの家」アジェンデ著、木村榮一訳

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読んでみた、チリ人作家による長編小説。1982年発表。

「角の邸宅」に生まれたクラーラは予言の力を持ち、その家で精霊と交流した。やがて彼女は自らの予言通りにエステバーンを夫に迎え、娘・ブランカに、孫娘のアルバも誕生する。だが彼女達を、歴史の渦が呑み込んで…という内容。

大統領だった叔父が暗殺され、同国から亡命したという著者。本書には自らの体験が色濃く反映している様だが…周囲からは、「百年の孤独」との共通点を指摘されてウンザリ、らしい。成程神話の世界から現代へと移り行く語り口は、似ているけれど…個人的な印象は、マジックリアリズム版風と共に去りぬ、かな。

百年〜と較べたら相当判りやすく、グイグイ読ませる上に面白い。まあ後続世代なのは間違いないので、先駆的作家(マルケスに限らず)からの影響が窺えるのも確か。とは言え女性からの視点というのは南米文学では新鮮で、NHKの朝ドラというか女の一代(三代)記的な本書には、これ結構感動してしまった。
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2023.04.12

TOVE / トーベ

観てみた、ザイダ・バリルート監督映画。2020年公開。

1944年、ソ連と戦争中のフィンランド。廃墟となった首都のヘルシンキで「トーベ・ヤンソン」は、彫刻家として成功した父・ヴィクトルと対立しつつ、心に浮かぶ数々のキャラクターを描き留めていた。やがて戦後になって彼女は、同性の舞台演出家ヴィヴィカ・バンドラーと出逢い、愛し合うようになって…という内容。

「ムーミン」の作者を題材にした伝記映画。著者本人の事は殆ど知らなかったけれど、思ったよりも破天荒な人物だった。破天荒と言うか、同性愛者とはなあ(MOEのムーミン特集には書いてなかったぞ…当たり前か)。別に差別意識はないつもりだが、児童向け作品の作者の下半身事情とか、正直知りたくもないわ。

継続戦争下に加えてレズの痴話喧嘩、これちっとも美談じゃないぞというエピソードばかり。ムーミンにおける作風の薄暗さ、その原点を探るという見方も出来るとは思うし、納得もしたものの…個人的にはぶっちゃけ、そういうのいいんで。
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2023.04.11

「遊戯の終わり」コルタサル著、木村榮一訳

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読んでみた、アルゼンチン人作家による短編小説集。1956年発表。

線路脇の家で少女達は、列車の客に見せる為「活人画」を演じていた。やがて列車の窓から彼女達に、手紙が投げ込まれる様になる。そして手紙の主の少年が訪ねて来たのだが…という表題作を含む、全18編が収録されている。

著者の第2短編集、初期作だからか少々印象が違った。幻想的な描写は勿論、比較的写実に基づいた内容も含まれており、そういう意味では仲々興味深かったのだが…ノワール小説みたいなのは、ちょっと。解説ではボルヘスの同傾向作を引き合いに出していたけど、あれはあれで「奇譚」的な要素はあったし。

やはりコルタサルと言えば、構成の粋を尽くした超現実的な作風が良い。本書だと「夜、あおむけにされて」は、自分が衝撃を受けた「すべての火は火」の原型と言えるかも。構成という意味で、代表作の長編「石蹴り遊び」を超える小説なんてこの世にそうそう無いだろうけど…まあ著者はやはり短編だなと再確認した。
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2023.04.09

アナーキー

観てみた、太田達也監督によるドキュメンタリー映画。2008年公開。

1978年。埼玉県出身のメンバー5人により結成された、ロックバンド「アナーキー(=亜無亜危異)」。日本では珍しかったパンク的演奏に、率直な意見を乗せた歌詞で、彼らは若者の熱烈な支持を集めた。本作ではメンバーや関係者の証言と共に、演奏やバックステージ映像により彼らの歴史を綴る…という内容。

日本のパンクはなぜか東京ロッカーズを始め、いきなりポストパンク的だった(そして直ぐハードコアがやって来てしまうという、結構不思議な展開をしている)。ロンドンで起きたムーブメントとの距離差・時間差等、色々あったんだろうけど…その中で初期パンクへのダイレクトな反応が、アナーキーと言ってよいだろう。

本作ではバンドヒストリー的な映画としては手堅い作りなので、ほぼ門外漢の筆者でも楽しめた。上記の様にメジャーな存在ながら、それ故に本流からは外れているアナーキーなので、本作も仲々興味深く観られるんじゃないかな。
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2023.04.08

ジェームス・ブラウン / 最高の魂を持つ男(じぇーむす ぶらうん さいこうのそうるをもつおとこ)

観てみた、テイト・テイラー監督映画。2014年公開。

両親に捨てられ、貧困の少年時代を送った「ジェームス・ブラウン」。彼はつまらない盗みで収監された際、刑務所で出会ったボビー・バードと共に、音楽の世界を目指す事に。並外れた歌唱とパフォーマンス力を持ったブラウンは、黒人ながらアメリカの音楽界で成功していく。だが我の強い彼は、次第に…という内容。

ミソンパ!…じゃなくて「ゲロッパ」でお馴染み、James Brown。本作は彼の生涯を描いた伝記作品で、Mic Jaggerが製作に名を連ねているだけあって本格的な音楽映画でもある。まあ自分は大して知らなかったので興味深かった。

俳優さんによる再現(主演はチャドウィック・ボーズマン)なのに、ステージの臨場感は大したもんで結構圧倒される。ただ時系列が前後する結構複雑な構成の為、殆ど知識の無い筆者は面食らってしまったな。…あと今回観たのは日本語吹替版なんだけど、高木渉の声は本当にJBが日本語を喋ってるみたいじゃん。
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2023.04.06

ブラザーズ・クエイ短編集 V

観てみた、アメリカのアニメーション作家の作品集。2016年発表。

「ブラザーズ・クエイ」こと、一卵性双生児であるスティーブンとティモシーのクエイ兄弟。2人は1947年にペンシルベニア州で誕生し、英米の大学で芸術を学んだ後に、モデル・アニメーションの制作を始める。1986年発表の「ストリート・オブ・クロコダイル」では世界的な注目を集め、現在でも活動を続けている。

こちらもアマプラ見放題で配信している作品だけど、元々2016年に「〜短編作品集」として販売された日本版ソフトを、3分割したものの様だ。…代表作である〜クロコダイルはUに収録。LD時代に見たきりなので、自分も久々だな。

内容自体はどれも病的で陰鬱、廃墟・廃物趣味のダークな映像で、夜になると人形が動き出すという…グロテスク版おもちゃのチャチャチャみたいな作品ばかり。でもVに収録している「人為的な透視図法、またはアナモルフォーシス(歪像) 」は、なぜかドキュメンタリーと言うか、美術紹介番組みたいで面白い。
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2023.04.05

The Emperor's Nightingale(邦題:皇帝の鶯)

観てみた、イジー・トルンカ監督によるアニメーション映画。1948年公開。

少年は病の床で夢を見る、それは昔の中国に暮らす若き「皇帝」の夢。彼は西洋人から見せられた本に載っていた「鶯(=ナイチンゲール)」に興味を持ち、女給の助けを借りて捕まえる。その歌声に、涙を流す程感動した皇帝。しかし機械仕掛けの鳥を手に入れた途端、その鶯には見向きもしなくなって…という内容。

導入部こそ俳優を使っているものの、皇帝の話になってからは同監督お得意のモデル・アニメーションにて表現されている。…今回観たアマプラでは字幕無しだったのだが、ボリス・カーロフの語りもあって大体判った。しかしフランケンの時は「フンガー」しか言ってなかったけど(言ってない)、こんな声だったんだな。

内容自体は素朴な人形アニメだし、話の方も有名なアンデルセン童話「小夜啼鳥」なので、自分が付け加える事はない。…けれどこの話、ここ最近のAI絵師関連のあれこれを思い浮かべると、色々と考えさせられる。かもしれない。
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2023.04.03

「誕生日」カルロス・フエンテス著、八重樫克彦、八重樫由貴子訳

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読んでみた、メキシコ人作家による中編小説。1969年発表。

建築家のジョージが目覚めた場所は、煉瓦壁に閉ざされた窓もない空間。そこには少年とヌンシアという女がいたものの、何故か彼女にはジョージの姿が見えない。やがて彼は時間と空間が混沌を成している事に気付き…という内容。

ビックリするほど難解。でも取り敢えず最後まで読めば、驚きと共に謎解きはしてくれているので、案外大丈夫じゃないかな。更に本書では訳者による解説に加えて、オクタビオ・パスやボルヘスといった影響関係のある作家や、関連文献からの引用をかなりの紙幅を割いて載せているので、相当親切な本だと思う。

なので自分が付け加えられる事もないのだけれど…仮にこの作品を時間SFとして見たら、すごく「お約束な展開」をやっているのは興味深い。(具体的に言ったらネタバレになるから伏せるけど)ラテンアメリカ文学だのマジックリアリズムだの言うより、そういう方面をたしなんでいた方が、アッサリ飲み込める話かも?
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2023.04.02

「野性の蜜 / キローガ短編集成」オラシオ・キローガ著、甕由己夫訳

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読んでみた、ウルグアイ人作家による短編小説集。2012年発表。

ある男が密林の中で、野生の蜂が集めた「蜜」溜まりを発見して食する。すると次第に身体の痺れを覚え、やがて身動きが取れなくなってしまう。その密林にはある危険が…という表題作(1911年)を含んだ、全29編が収録されている。

キローガも「マジックリアリズム」の先駆者と呼ばれる作家で、やはりフランス留学体験がある。でも彼が最も影響を受けたのは、ポオと言うだけあって、短編の名作を数多く残した。作風は結構多岐に渡るのだが…何だか「ウィアード・テールズ」の作家を思わせるB級ホラー等を読むと、成程確かにポオの後輩だわと。

それ以上にキローガは、肉親の自殺が重なると言う数奇な人生を歩んでおり、更に自身も服毒の果てにこの世を去った。加えて何故かボルヘスから痛烈な批判を受けたという逸話も含めて、まさに「魔術」じみた南米文学の一端に触れる様で、興味深く読めるのではないかと。…ちなみに本書の表紙もルソーだな。
posted by ぬきやまがいせい at 22:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書