2023.05.31
「青春彷徨 / ペーター・カーメンチント」ヘルマン・ヘッセ著、関泰祐訳
読んでみた、ドイツ人作家による長編小説。1904年発表。
アルプス山中で農業を営む両親のもとに生まれたペーターは、学業を修める為に都会へと出る。母の死後は故郷と決別し、歴史研究の傍ら文筆業で身を立てる。彼は様々な人々と出逢い、様々な別れを体験するのだが…という内容。
著者の長編第2作で、ヘッセの名前を世に広めた出世作でもある。翌々年に執筆された代表作「車輪の下」と時期が近いだけあって、ヘッセの自伝的な要素が強いものとなっている様だが…(鬱小説として受験生にトラウマを植え付け続けている)車輪とは違って、本書は青春小説・教養小説として読後感は悪くない。
まあ自分も正直、ドキドキしつつ読んだのは確かだ。…別にずっと旅をしている訳でもないのに、本書には「旅小説」という印象があるのは興味深い。「放蕩息子の帰還」という聖書のモチーフを連想したけれど(主人公の父親の態度はちょっと違うが)、「車輪と比較したら」赦された放蕩息子そのものって気がするな。
2023.05.30
「RALLY CARS Vol.15 / NISSAN 240RS」三栄刊
読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2017年発表。
「ラリーの日産」として名を馳せた同社により、WRCグループB出走の為開発されたラリー車両が「240RS」。ところが4WD化が進む同カテゴリーで、ノンターボ・フロントエンジン・後輪駆動という趨勢に反したものとなった。結果優勝をすることなく、グループB消滅と共に表舞台を去った…という同車を紹介していく。
最高位は2位なので、そのレースを結構紙幅を割いて採り上げているのが涙を誘う。まあグループB車両ってだけで、今や注目度は高いとは思うけれど…200台のホモロゲ・モデル自体、ラリー仕様となっていたのは結構ユニークだ。
それより本書で一番興味深いのは、アフリカの片隅で発見されたワークスカーのレストア記事。まるで「名車再生」みたいだな…と言いそうになるが、もっと数奇でドラマチック。240RSもプライベーターにより各地のレースで戦ったそうだけど、華やかな舞台以外でも愛されていたという話には、ちょっとホッとするね。
2023.05.28
「RALLY CARS Vol.19 / RENAULT 5 TURBO」三栄刊
読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2018年発表。
ルノーがWRCのラリー車両として開発、1980年にグループ4で出走したのが「5(サンク)ターボ」。そして同車をグループBへの移行に合わせて進化させた「マキシ5ターボ」。フロントエンジンの市販車をミッドシップに改めターボを積んだものの、後輪駆動の為に4WD勢に対して苦しい戦いを続けた…という内容。
とは言えターマック(舗装路)でのレースでは、かなり健闘したらしい。それよりルノーのラリーチームは、同社のF1参戦の割を食って予算が削られて辛酸を舐めたとの事。敵は他メーカーチームだけ、じゃなかったというのがおつらい…
でもルノーは後にエンジン供給で最強を誇っただけあって、ラリー車のマキシにもF1の技術が流用されているというのは興味深い。しかしただでさえWRCはラリー開催者側の事情が複雑なのに、ルノーはアルピーヌ等のメーカーとの統廃合までが複雑に絡み合って、本書で説明されてもなんだかよくわからんなあ。
2023.05.27
「RALLY CARS Vol.02 / TOYOTA CELICA TWINCAM TURBO」三栄刊
読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2013年発表。
オイルショックの影響でレース活動を縮小していたトヨタが、WRCグループB出走の為に開発したラリー車両「セリカ・ツインカムターボ」。フロントエンジン・後輪駆動ながら強力なターボを搭載する事により、先鋭的なライバル車とも渡り合った。サファリで3年連続の栄冠に輝いた、同車を解説していく…という内容。
グループBではマイナーな部類なのかな。まあラリーセリカの後の活躍から見たら地味だけれど…当車がサファリで見せた強さは、長い直線を壊れずに走る耐久性あってのもので、2WD・FRでも比較的ハンデにならなかったらしい。
というような開発話が、当時の関係者によって語られるのだが、それがまた(日本車だからか)なんだか「プロジェクトX」みたい。代わりに前身である「RA63」参戦に関するドタバタは、指揮を執ったのが米国人?だからか、まるで「スティング」を思わせるコンゲーム。思わず吹き出してしまった…面白いから読んで。
2023.05.25
「RALLY CARS Vol.03 / PEUGEOT 205 TURBO 16」三栄刊
読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2014年発表。
WRCのグループB出走の為に、開発されたラリー車両が「プジョー205 T16」。外観こそ市販車に似せられているが、中身は完全に別物である純正のレーシングマシン。ターボ・4WD・ミッドシップエンジンという最新技術を盛り込み、グループBで2年連続のチャンピオンとなった、傑作車を紹介していく…という内容。
グループBの短い歴史の中で、革新のアウディでも狂気のランチアでもなく、最強なのはプジョーだった。最初から完成度の高いマシンに仕上がったのは、指揮を執ったのがFIAの名誉会長で有名なジャン・トッド(!)だからだろうか。ただ86年サンレモでの規定違反疑惑による失格は、記事を読んでも奇妙すぎる。
マシンの外見が上記した様に(他のグループBマシンと違い)市販車ソックリになっているのは、売上アップの為だとか。実際プジョーを立て直したそうで…日本でのランチア偏重がおかしいだけで、人気があって当然だよな。強いし。
2023.05.24
「RALLY CARS Vol.32 / MG METRO 6R4」三栄刊
読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2023年発表。
WRCのグループB出走の為に、ローバー・メトロをベースに開発されたラリー車両が「MG メトロ6R4」。4WD・ミッドシップエンジンだが、非力な「自然吸気エンジン」を搭載。1985年に初出走するも、翌年のグループB廃止に伴い、短期間の活動に終わった。本書はそうした同車について紹介していく…という内容。
ラリーのマイナー車両が見たければこのシリーズ、メトロ6R4で一冊本が出るなんて驚きだ。まあデアゴのラリーカーコレクションのミニカーに解説冊子があった訳だが…自分はオクで中古を手に入れたから、付いてなかったのだわ。
グループB廃止後もラリーではプライベーターの手で活躍しており、日本でマイナーでも英国での人気は高いらしい(カーSOSで修理依頼されたのも、そういう1台なのだろう)。ミニの再来…とは物は言いようなデザインに加えて、開発にはF1のウィリアムズが関わっていたりと、本書では色々興味深い話が読める。
2023.05.22
「Racing on No.520 / WRC グループBのテクノロジー」三栄刊
読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2022年発表。
「世界ラリー選手権=WRC」で、1983年〜1986年にかけて開催されたのが、トップカテゴリーである「グループB」。レギュレーション緩和により用いられたのは、高性能だが危険極まりないモンスターマシンだった。本書はそれらの車両に用いられた、当時最先端の自動車テクノロジーを紹介する…という内容。
自分は当時を知らないので完全に後追いだけど、グループBはラリー好きの間では神格化していると思う。技術面では「ターボ」「4WD」「ミッドシップエンジン」の採用が、ラリー競技車そのものを変革したと言われる。成程。ところが反面、軽量の車体に対して大馬力エンジンを持て余し、事故が多発する事となって…
1986年、ランチア・デルタS4でのトイボネンの事故死を受けて、カテゴリー廃止が決定された。本書はその辺の事情も簡潔に説明しており、各マシンの写真と共に興味深い。…まあ個人的には、もっとマイナー車両も見たかったな。
2023.05.21
「夜の果てへの旅」セリーヌ著、生田耕作訳
読んでみた、フランス人作家による長編小説。1932年発表。
志願兵として一次大戦へと赴いた、医学生のバルダミュ。彼は負傷除隊後もアフリカの植民地やアメリカを遍歴した末に、パリに戻って開業する。その際戦場で出逢い奇縁を持った、ロバンソンという男と再会したのだが…という内容。
セリーヌの自伝的初長編で、発表時熱狂的に受け入れられた。でもその後、親ナチ・反ユダヤで評価は真っ逆様、貧窮の中この世を去る。近年はある程度タブー視も解け、研究も進んだ様だが…世界の裏面を抉り出すかの様な筆致は、いつ読んでも刺激的なのは変わらないだろう。阿部薫が耽読したのもわかる。
当時まず画期的だったのは、口語表現を用いた文体にあったそうだけれど…邦訳で読んだ自分には、その辺今一つ伝わらないな(生田訳はとても良いけど)。でもイメージとしては、ランボーやボードレールが小説を書いた感じと言うか。逆に米国のビートニクや、ノワール小説に先駆ける表現として見ても斬新だな。
2023.05.19
ノマドランド
観てみた。F・マクドーマンド主演、クロエ・ジャオ監督映画。2020年公開。
リーマンショックの起きた2008年。60代のファーンもまた職を失い、彼女は自家用車に家財一式を積み込んで旅に出た。行く先々で季節労働に従事する中、同様の生活を送る人々=「ノマド」達と交流を結ぶ事となって…という内容。
ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション、「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作とする本作。米アカデミー賞では作品賞・監督賞に加えて、マクドーマンドが主演女優賞を獲得した。ただ本作を調べようとすると、「ノマドランド つまらない」と検索候補に出てきてあらら。まあそれも正直、わからんでもないのだけど…
まるでケルアックの小説「路上」の映像版だなと。活動的イメージとは正反対に、空虚で単調な「旅=移動」という、米国の違う一面を捉えている。いわば(国家ではなく)「空間=世界」としてのアメリカで… 皆老いたノマド達だが、そこにアメリカらしい自由を感じるのは、他国よりの視線だからってだけでもないだろう。
リーマンショックの起きた2008年。60代のファーンもまた職を失い、彼女は自家用車に家財一式を積み込んで旅に出た。行く先々で季節労働に従事する中、同様の生活を送る人々=「ノマド」達と交流を結ぶ事となって…という内容。
ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション、「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作とする本作。米アカデミー賞では作品賞・監督賞に加えて、マクドーマンドが主演女優賞を獲得した。ただ本作を調べようとすると、「ノマドランド つまらない」と検索候補に出てきてあらら。まあそれも正直、わからんでもないのだけど…
まるでケルアックの小説「路上」の映像版だなと。活動的イメージとは正反対に、空虚で単調な「旅=移動」という、米国の違う一面を捉えている。いわば(国家ではなく)「空間=世界」としてのアメリカで… 皆老いたノマド達だが、そこにアメリカらしい自由を感じるのは、他国よりの視線だからってだけでもないだろう。
2023.05.18
RIKI-OH / 力王
観てみた。ルイス・ファン主演、ラン・ナイチョイ監督映画。1991年公開。
強靭な肉体を持ち、胸に受けた銃弾を摘出しないままにする男「雑賀力王」。彼は恋人を殺された事による復讐殺人で、民営刑務所に投獄されたのだ。正義の心を失わない力王は怪力に加え、かつて師より伝授された拳法の使い手。所内では極悪な囚人と共に、暴虐を振るう所長達と対峙する事となり…という内容。
香港映画だが、原作は鷹匠政彦&猿渡哲也による日本の漫画。ちゃんと香港らしくカンフー映画になっている…と言っていいのかなこれ。感じとしては千葉真一の「殺人拳」を連想させられ、そのバイオレンス要素を極端に進めた印象。
ただのパンチで人体をブチ抜いたりバラバラにしたりする、強烈なゴア描写で語り草となっている(特典映像での、主演のファンのコメントが面白い)。流石にやり過ぎだろこれと思ったら、原作漫画の描写をほぼそのまま踏襲しているらしい。スゴイなと言うか、ヒドイなと言うか…(貴様ーッ、猿先生を愚弄する気かぁッ)
強靭な肉体を持ち、胸に受けた銃弾を摘出しないままにする男「雑賀力王」。彼は恋人を殺された事による復讐殺人で、民営刑務所に投獄されたのだ。正義の心を失わない力王は怪力に加え、かつて師より伝授された拳法の使い手。所内では極悪な囚人と共に、暴虐を振るう所長達と対峙する事となり…という内容。
香港映画だが、原作は鷹匠政彦&猿渡哲也による日本の漫画。ちゃんと香港らしくカンフー映画になっている…と言っていいのかなこれ。感じとしては千葉真一の「殺人拳」を連想させられ、そのバイオレンス要素を極端に進めた印象。
ただのパンチで人体をブチ抜いたりバラバラにしたりする、強烈なゴア描写で語り草となっている(特典映像での、主演のファンのコメントが面白い)。流石にやり過ぎだろこれと思ったら、原作漫画の描写をほぼそのまま踏襲しているらしい。スゴイなと言うか、ヒドイなと言うか…(貴様ーッ、猿先生を愚弄する気かぁッ)
2023.05.15
今日もわれ大空にあり
観てみた。三橋達也主演、古澤憲吾監督映画。1964年公開。
航空自衛隊の浜松基地。戦闘機部隊「タイガー小隊」の隊長として着任した山崎二佐は、訓練飛行中の怪我が元でパイロットとしての任を解かれようとしていた。その事を受けて彼は、新型機への機種転換を控える部下達に試練を与えるべく、悪天候の中北海道・千歳基地へ飛行を敢行するのだが…という内容。
本作で主役を張るのが「F-86F」で、新型戦闘機というのが「F-104」。そういう頃の映画なんだな、と少々感慨に耽ってしまうが…地上場面に留まらず空中撮影でも実機を用いており、説得力を感じると共にすごい迫力に目を見張る。
内容の方もちょっと無理しちゃった「ベスト〇イ」等と違い、結構自然体の青春映画という感じもあって、現在でも充分視聴に耐える。まあ普段の訓練中に高難度アクロバット飛行をしたり(本物ブルーインパルス操縦士の担当)等と、ツッコみどころもあるけれど…映像の貴重さだけで、必見と言っておかねばならんね。
航空自衛隊の浜松基地。戦闘機部隊「タイガー小隊」の隊長として着任した山崎二佐は、訓練飛行中の怪我が元でパイロットとしての任を解かれようとしていた。その事を受けて彼は、新型機への機種転換を控える部下達に試練を与えるべく、悪天候の中北海道・千歳基地へ飛行を敢行するのだが…という内容。
本作で主役を張るのが「F-86F」で、新型戦闘機というのが「F-104」。そういう頃の映画なんだな、と少々感慨に耽ってしまうが…地上場面に留まらず空中撮影でも実機を用いており、説得力を感じると共にすごい迫力に目を見張る。
内容の方もちょっと無理しちゃった「ベスト〇イ」等と違い、結構自然体の青春映画という感じもあって、現在でも充分視聴に耐える。まあ普段の訓練中に高難度アクロバット飛行をしたり(本物ブルーインパルス操縦士の担当)等と、ツッコみどころもあるけれど…映像の貴重さだけで、必見と言っておかねばならんね。
2023.05.14
「高慢と偏見」ジェーン・オースティン著、富田彬訳
読んでみた、イギリス人作家による長編小説。1813年発表。
田舎の社交界に都会の青年資産家・ダーシーが現れ、その「高慢」な態度が人々の反感を買う。ベネット家の5人姉妹の次女・エリザベスも彼に「偏見」を抱いた1人だが、やがて起きる波乱と共に真実を知る事となって…という内容。
ゾンビが出ない方の「高慢と偏見」。勿論有名な英国文学の代表作だが、その売り文句と少々厳めしい題名のせいで、難しげなイメージがあった。けれど、実際読むと軽妙な恋愛小説。自分の印象だとモンゴメリの特に短編に多く見られる、誤解とすれ違いを経て結ばれるカップルを描いた、ラブコメって感じなのな。
オースティンとモンゴメリの影響関係は、殆ど語られている所を見ないけど…同じく女性で英語作家なので、後者はまず読んでいる筈。奇しくも丁度1世紀を隔てて誕生しているという辺り、深い関係を見てしまうな。本書は少々邦訳の文章も堅いので、何だったら村岡花子に翻訳してもらった方がいいかもしれない。
2023.05.12
サンダーバード55/GoGo
観てみた、ジャスティン・T・リー他監督による人形劇映画。2022年公開。
ペネロープが紹介された、国際救助隊のメカとは…(サンダーバード登場)。各地に現れた、謎の雪男の正体とは…(雪男の恐怖)。イギリスの豪邸で宝石が盗難、爆破される事件が相次ぎ…(大豪邸、襲撃)、という3話のオムニバス。
ジェリー・アンダーソン製作による「サンダーバード」を、当時の人形操演・撮影技術を用いて再現した「50周年記念エピソード」。本作はそちらを再編集した日本公開版である。内容は音声ドラマとして制作されたストーリーを元に映像化したもので、徹底したオリジナルへのこだわりが感じられる、まさに驚きの作品。
ただその元の音声ドラマが地味というか渋すぎる内容なので、原作重視も結構だがもうちょっとどうにか…という気も。作中にはオリジナル版から特撮場面が挿入されており、比較してしまうとどうしたって原典の偉大さが際立ってしまうし。とは言え酔狂者が作って、酔狂者が喜ぶための作品だから、これでいいんだな。
ペネロープが紹介された、国際救助隊のメカとは…(サンダーバード登場)。各地に現れた、謎の雪男の正体とは…(雪男の恐怖)。イギリスの豪邸で宝石が盗難、爆破される事件が相次ぎ…(大豪邸、襲撃)、という3話のオムニバス。
ジェリー・アンダーソン製作による「サンダーバード」を、当時の人形操演・撮影技術を用いて再現した「50周年記念エピソード」。本作はそちらを再編集した日本公開版である。内容は音声ドラマとして制作されたストーリーを元に映像化したもので、徹底したオリジナルへのこだわりが感じられる、まさに驚きの作品。
ただその元の音声ドラマが地味というか渋すぎる内容なので、原作重視も結構だがもうちょっとどうにか…という気も。作中にはオリジナル版から特撮場面が挿入されており、比較してしまうとどうしたって原典の偉大さが際立ってしまうし。とは言え酔狂者が作って、酔狂者が喜ぶための作品だから、これでいいんだな。
2023.05.11
キャッツ
観てみた、トム・フーパー監督映画。2019年公開。
大都会ロンドンの路地裏では「猫たち」が歌い踊り、奔放に生活していた。白猫のヴィクトリアはそうした猫集団が行っている、月夜の舞踏会の存在を知る。そこで勝ち残った者は、天上へと昇る権利を得るというのだが…という内容。
有名なミュージカルを映画化した本作。CGによる特殊効果を大々的に採り入れた映像が売り物だが…様々な方面から酷評を受け、ラジー賞4部門獲得という不名誉な結果に終わった。一つは俳優を猫に擬人化させたデザインがあるのだけど、それが不気味な上に卑猥だと、観客に生理的嫌悪を催させたらしい。
実際観ると本作の猫は何だか、サンリオSF文庫「猫城記」の表紙イラストそのまんま。それがクネクネと性的に挑発する様に踊りまくるのだから、ケモナー向けポルノと言われても仕方ない。しかも切れ間なくダンスシーンばかりで話がほぼ無い為に、不愉快で退屈な無間猫地獄。いやケモナーなら天国なのかも?
大都会ロンドンの路地裏では「猫たち」が歌い踊り、奔放に生活していた。白猫のヴィクトリアはそうした猫集団が行っている、月夜の舞踏会の存在を知る。そこで勝ち残った者は、天上へと昇る権利を得るというのだが…という内容。
有名なミュージカルを映画化した本作。CGによる特殊効果を大々的に採り入れた映像が売り物だが…様々な方面から酷評を受け、ラジー賞4部門獲得という不名誉な結果に終わった。一つは俳優を猫に擬人化させたデザインがあるのだけど、それが不気味な上に卑猥だと、観客に生理的嫌悪を催させたらしい。
実際観ると本作の猫は何だか、サンリオSF文庫「猫城記」の表紙イラストそのまんま。それがクネクネと性的に挑発する様に踊りまくるのだから、ケモナー向けポルノと言われても仕方ない。しかも切れ間なくダンスシーンばかりで話がほぼ無い為に、不愉快で退屈な無間猫地獄。いやケモナーなら天国なのかも?
2023.05.09
ハケンアニメ!
観てみた。吉岡里帆主演、吉野耕平監督映画。2022年公開。
新人女性監督・斎藤瞳の初作品「サウンドバック 奏の石」と、天才監督・王子千晴の復帰作「運命戦線リデルライト」という、奇しくも全く同じ時間帯に放映される事になったTVアニメ。その2本の作品を巡って、アニメーション制作の現場における「ハケン=覇権」を掛けた、熱い戦いが繰り広げられていく…という内容。
原作は辻村深月の小説。アニメのバックステージ物として、「SHIROBAKO」実写版というイメージはまあ持ってしまうけれど…そちらと比較すると対立の図式があるのに加えて、案外生真面目な分(タイトルこそふざけているが、SHIROBAKOの方が余程茶化してるなって)、正直結構トゲトゲしい印象はあるかも。
多分現実に即してる部分…特に現場を困らせる天才監督の描写は、NHKで庵野監督のドキュメンタリーを見た後だけに説得力がありすぎて困る。いや荒唐無稽な点も勿論あるので、シリアスに受け止め過ぎずに観るのがいいだろう。
新人女性監督・斎藤瞳の初作品「サウンドバック 奏の石」と、天才監督・王子千晴の復帰作「運命戦線リデルライト」という、奇しくも全く同じ時間帯に放映される事になったTVアニメ。その2本の作品を巡って、アニメーション制作の現場における「ハケン=覇権」を掛けた、熱い戦いが繰り広げられていく…という内容。
原作は辻村深月の小説。アニメのバックステージ物として、「SHIROBAKO」実写版というイメージはまあ持ってしまうけれど…そちらと比較すると対立の図式があるのに加えて、案外生真面目な分(タイトルこそふざけているが、SHIROBAKOの方が余程茶化してるなって)、正直結構トゲトゲしい印象はあるかも。
多分現実に即してる部分…特に現場を困らせる天才監督の描写は、NHKで庵野監督のドキュメンタリーを見た後だけに説得力がありすぎて困る。いや荒唐無稽な点も勿論あるので、シリアスに受け止め過ぎずに観るのがいいだろう。
2023.05.08
「危険な関係(原題:Les Liaisons dangereuses)」ラクロ著、伊吹武彦訳
読んでみた、フランス人作家による長編小説。1782年発表。
メルトイユ侯爵夫人は自分を裏切った愛人への復讐の為、ヴァルモン子爵に協力を求める。プレイボーイとして浮名を流す彼に、愛人の婚約相手を寝取らせる算段だ。事態は彼らの望んだ方へ、動くかに見えたのだが…という内容。
原題を見てDAF関連?、と思った人はノイエ・ドイチェ・ヴェレに詳しい人。まあそちらは勿論、本書から採ったグループ名だけれど…自分が最初に知ったのは独NW方面からではなく、多分澁澤龍彦の著書じゃなかったかな。当時フランスで大変流行ったそうだが、実際読むとサドを思わせるピカレスクもので成程。
本書は風俗/流行小説という以上に、知識人から高く評価された。心理の裏表を使い分け戦略的に事を進める(軍人である著者らしい)天才たちの恋愛頭脳戦を、「書簡」を模した文体だけで構成している。まあサドを思い浮かべてしまうと、少々ぬるい気もするけど…背徳的で虚無的な感覚は、やはり斯界向けだ。
2023.05.06
屍人荘の殺人(しじんそうのさつじん)
観てみた。神木隆之介主演、木村ひさし監督映画。2019年公開。
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と自称名探偵の会長・明智恭介は、同じく少女探偵として知られる剣崎比留子から誘われて、同大フェス研究会の合宿に参加する事に。だが彼らが投宿した「紫湛荘」側のロックフェス会場でバイオテロが発生。その脅威と共に同荘では、連続殺人事件までが起きて…という内容。
原作は今村昌弘の同名推理小説。映画版である本作は、内容・展開に関してはそちらを割とそのまま映像化しており、既読者である自分はへえと思ったものの…コメディ寄りの演出が多く用いられている為、賛否両論(?)という感じ。
なのでテロ犯の放置等、原作由来の問題点は言っても仕方ない。個人的には映像化されると〇〇〇ものとしての印象がより強くなって、原作以上に推理が頭から抜け落ちてしまうなと。でもまあこんなもんじゃね?…という感想ではあるけれど、Bruce Springsteenじゃなく、デスメタルでお茶を濁したのだけはダメ。
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と自称名探偵の会長・明智恭介は、同じく少女探偵として知られる剣崎比留子から誘われて、同大フェス研究会の合宿に参加する事に。だが彼らが投宿した「紫湛荘」側のロックフェス会場でバイオテロが発生。その脅威と共に同荘では、連続殺人事件までが起きて…という内容。
原作は今村昌弘の同名推理小説。映画版である本作は、内容・展開に関してはそちらを割とそのまま映像化しており、既読者である自分はへえと思ったものの…コメディ寄りの演出が多く用いられている為、賛否両論(?)という感じ。
なのでテロ犯の放置等、原作由来の問題点は言っても仕方ない。個人的には映像化されると〇〇〇ものとしての印象がより強くなって、原作以上に推理が頭から抜け落ちてしまうなと。でもまあこんなもんじゃね?…という感想ではあるけれど、Bruce Springsteenじゃなく、デスメタルでお茶を濁したのだけはダメ。
2023.05.05
「アブサロム、アブサロム!」フォークナー著、藤平育子訳
読んでみた、アメリカ人作家による長編小説。1936年発表。
南北戦争前後のアメリカ南部で、貧しい生まれから大農場主へと成り上がった男、トマス・サトペン。彼の生涯と彼の周囲に起こった悲劇が、様々な人々の口から語られる。クエンティンがそこから読み取った真実とは…という内容。
著者が架空の郡を舞台に執筆した、連作小説の一つにして代表作。マルケスが影響を受けた作家としてフォークナーを挙げている辺り、成程という感じだが…本書は複数の語り手による複雑な構成を用いている為に、読み通すだけでも大変。文章自体は驚くほど平易なのに、正直誰が誰やら何が何やらとなる。
これどう考えても理解を促す為に書いてると思えない訳で。なら何が・誰の身に起こった事かは、あまり気にしないでいいのかも。米南部の不特定の人々が体験したであろう困難や悲哀を、巨視的・巨時的なスケールで捉えた作品だし。多数の視点や証言が交錯する、言語の宇宙として追体験すべき書物では。
2023.05.03
「嵐が丘」エミリー・ブロンテ著、河島弘美訳
読んでみた、イギリス人作家による長編小説。1847年発表。
荒地に建つ屋敷「嵐が丘」に引き取られて来た、孤児の少年・ヒースクリフ。彼はそこで奔放な令嬢・キャサリンと宿命的な出逢いをした。だが運命は彼の前に立ちはだかり、そして奪う。彼はこの世の全てに復讐を誓って…という内容。
著者唯一の長編小説にして、世界文学史上に屹立する大名作。なので知らぬ者とてない、と言いたいところだが、自分は内容を今回初めて知った。自分の認識では「ガラスの仮面」で、北島マヤが少女時代のキャサリンを演じた作品だけど…その少女時代って、本書ではほんの触り程度なのな。そら知らん訳だ。
情熱的な恋愛メロドラマの古典、でもいいし、荒野に取り囲まれた神話的世界での心理劇、でもいいけれど…すごく怒りっぽい人達が、ずっと口喧嘩してる話、というのが正直な印象ではあるかも。でも単純に読んでおもしろく、(語りの入れ子構造を用いて)多層的に描かれた作品の「厚み」は、これ圧倒的だな。
2023.05.02
「声優魂」大塚明夫著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/エッセイ集。2015年発表。
大塚明夫は1959年、父親である声優・大塚周夫の長男として誕生。他業種での経験を経た後、父と同じく声優になった。本書は彼が若い声優志望者に向けて書いたもので、そのメッセージは「声優だけはやめておけ。」…という内容。
その一言だけの、出オチみたいな本。一応声優業界で成功する難しさを滾々と説いてはくれるけれど、ある程度は部外者の自分でも想像出来る範囲。その後は自身の経験談や声優としての持論を開陳するもので、声優ならではの「演技論」を期待した自分は、正直当てが外れた(まあこれはこれで面白く読めた)。
どうも声優演技というものは、理論的に体系化されていない感じが。自分が知る範囲で興味深かったのは「ガンダムセンチュリー」に永井一郎が寄稿した論考で、声優のスタジオ内での演技を力学的な概念として説明するもの。そんな事考えてるの永井氏だけだろうし、多分本書の様な精神論が一般的なんだろうな。