観てみた。デニス・ホッパー主演、監督映画。1971年公開。
ペルーのある村で西部劇映画のロケが行なわれていた。カンザスはそこでスタントを担当していたのだが、撮影中に死亡事故が発生。カンザスは映画から足を洗ったものの、現地住民から奇妙な依頼を受ける事になり…という内容。
ホッパーが「イージー・ライダー」に続いて監督した第2作。名作として高く評価されるそちらと違って本作は、ドラッグで酩酊状態の中編集した為に内容が支離滅裂。興行的に大失敗してしまう。結果ホッパーはハリウッドを長年月放逐されたという、呪われた作品なのだが…現在ではカルトムービーとなっている。
ただ本作は、ペキンパーを思わせるウエスタンにニューシネマの空気感を加え、ホドロフスキーやフェリーニ的な祝祭空間。更にカサヴェテスの様な濃密な人物描写…という、まるであらゆる映画を綜合してしまうかという野心的な作品。成る程「最後の映画=ラスト・ムービー」と言うだけの意気込み様ではあるな。
2023.06.30
2023.06.29
「地獄変・邪宗門・好色・藪の中 他七篇」芥川竜之介著

読んでみた、日本人作家による短編小説集。1980年発表。
地獄図を描く事になった絵師は、牛車の燃える様を前に…(地獄変)。京の都に、怪しげな邪宗を崇める沙門が現れて…(邪宗門)。好色な平安貴族が、侍従に懸想したのだが…(好色)。男が殺され下手人も捕まったものの、各人の証言は食い違い…(藪の中)。という表題作を含んだ、全11編が収録されている。
古典を題材にした「王朝物」を集めた短編集で、1917年から1923年の間に執筆されたもの。黒澤明が「羅生門」の題で映画化した「藪の中」や、「地獄変」は芥川自身の代表作と言っていいいだろう。多くの作品が怪異譚・幻想譚な辺り個人的には好きだけど、(実は地獄変の続編である)「邪宗門」にはビックリ。
これがまるで夢枕獏みたいな、サイキックバトル物だという。しかも著者は長編として構想していた様なのに完全に未完、ジャンプの打ち切り漫画かよという俺たたエンドでちょ待てよ。…そちらに限らず、面白い短編が揃っている本だ。
2023.06.27
「RALLY CARS Vol.01 / LANCIA STRATOS HF」三栄刊

読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2013年発表。
WRCのグループ4出走の為に、開発されたのが「ランチア ストラトスHF」。市販車改造ではなく純正レーシングマシンとしてのラリーカー、というランチア・ワークスチームの着想と、ベルトーネのデザイン。更にフェラーリV6エンジンをミッドシップに搭載するという、画期的な戦略で勝利を積み重ねた…という内容。
言わずと知れた伝説中の伝説、本車の登場でラリー車両自体が変革されたと言われる。でもその強さの為に、ランチアが所属するグループ親会社・フィアットの反感を買い、短命に終わったのも悲劇そのものでドラマチックだ。…でも乗ってみたい、って気にはならないんだよなあ。話を聞くだけで運転しにくそう。
「ラリーカーズ」の創刊号に、本車が選ばれたのも納得だ。本書はチームスタッフやドライバーといった、関係者インタビューが貴重。まあ割と既に知っていたりもしたけど、発言者それぞれで多少ニュアンスが異なっているのも面白い。
2023.06.25
「倫敦塔・幻影の盾(ろんどんとう・まぼろしのたて) 他五篇」夏目漱石著

読んでみた、日本人作家による短編小説集。1990年発表。
留学中の「余」は「ロンドン塔」を訪れ、そこで行われたであろう歴史的な情景を幻視する…(倫敦塔)。騎士のウィリアムは敵城の姫君を、盾の放つ幻影の中に見るのだが…(幻影の盾)。という表題作を含んだ、全7編が収録されている。
本書は漱石の初期作を集めたもので、いずれも初短編集「漾虚集」(1906年)として刊行された。体験記がいつのまにか夢想へと足を踏み入れたり、中世騎士物語を空想譚へと展開させたりと、「幻想小説」的な作風が目立っている。漱石はポオも高く評価していたとの事で、成る程そうした影響が窺えて興味深い。
でも代表作「吾輩は猫である」と同時期なのに、かなり文章が硬くて取っつきにくい。まあ西洋小説風を頑張って目指したせいかな…という気もしたけれど、収録作「趣味の遺伝」だと割と吾輩猫に近い印象。ただ内容的にあの不謹慎な暴言を、猫ではなく人間主人公に言わせると、これひどい奴だな!となるという…
2023.06.24
「スクランブル・アーカイブ / ランチア」ネコ・パブリッシング刊

読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2023年発表。
1906年にイタリアのトレノで、ヴィンチェンツォ・ランチアにより創業された自動車メーカー「ランチア」。ラリーを始めとするレース活動で華々しい活躍を見せ、世界中にファンを持つ同社の歴史を、多方面から紹介していく…という内容。
同シリーズでは先に「デルタ」で1冊刊行しているので、本書はランチア全体に視野を広げた感じ。表紙の「フトゥリスタ」や「ビアシオン・エヴォ」、既存のデルタをレストモッド(兵器で言う近代化改修…かな?)したという車両を再度掲載しているけど、まあ各20台と9台という希少さだし、確かに気になるところではある。
本書は創業者記念館の探訪記やフルヴィアより前の、まさにクラシックカーまでが載っており、「ランチア」好きなら興味深く読める筈。…特に自分の世代では伝説中の伝説、「ストラトス」の試乗レポートには仰天。プロトタイプ(!)なんか走るのかよ、と思ったらGr.5ターボの方が故障で乗れなかった模様。あらら。
2023.06.22
「スクランブル・アーカイブ / ランチア・デルタ」ネコ・パブリッシング刊

読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2021年発表。
近年のヒストリック・カー人気の中で、再び注目を集めている「ランチア デルタ」。本書は日本のオーナー達の手で維持されて来た各型のデルタ試乗記事を始め、過去のラリーヒストリーと共に近年の動向を紹介していく…という内容。
基本的には雑誌「カー・マガジン」に掲載されたデルタ関連記事をまとめたムックだが、そちらに新規ページを加えた内容となっている。面白いのは同誌の「長期レポート車」として、編集部員に代々乗り継がれて来た「8V」。デルタ(というかイタリア車)らしく、故障や修理にまつわる激闘の記録が、何とも泣けてくる。
本書では特に、S4はS4でも「ストラダーレ」(ホモロゲーション規定で生産された市販モデル)、デルタはデルタでも「2代目」「3代目」に関しても採り上げていているのが面白い。S4ストラダーレが希少なのは当然ながら、2,3代目デルタは正規輸入されなかった為に、殆ど日本に無いというのは意外な話ではある。
2023.06.21
世にも怪奇な物語
観てみた、エドガー・アラン・ポオ原作によるオムニバス映画。1968年公開。
傲慢な令嬢がある男性の気を惹く為に、馬小屋に火を点ける。ところがその男性が焼死してしまい…(黒馬の哭く館)。ウィリアム・ウィルソンは寄宿学校時代から、同姓同名の男を煩わしく思っており…(影を殺した男)。落ち目でアル中の俳優は、フェラーリが報酬だという仕事を受けて…(悪魔の首飾り)、という3作。
本作を監督したのは順番に、 ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニという顔触れ。本作は3本ともE・A・ポオの短編小説を原作としており、それぞれ「メッツェンガーシュタイン」「ウィリアム・ウィルソン」「悪魔に首をかけるな」。…自分も大分前に読んでる筈だけど、正直〜ウィルソンしか覚えてなかったな。
どれも映像美を追求している様だが、逆に言うと30分程の尺をどれも持て余してる感じが。ずっと馬で走ってたりフェラーリで走ってたり…短編なのにダラダラと。それでも技巧で押し切ったフェリーニは、やはりすごいんじゃないかな。
傲慢な令嬢がある男性の気を惹く為に、馬小屋に火を点ける。ところがその男性が焼死してしまい…(黒馬の哭く館)。ウィリアム・ウィルソンは寄宿学校時代から、同姓同名の男を煩わしく思っており…(影を殺した男)。落ち目でアル中の俳優は、フェラーリが報酬だという仕事を受けて…(悪魔の首飾り)、という3作。
本作を監督したのは順番に、 ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニという顔触れ。本作は3本ともE・A・ポオの短編小説を原作としており、それぞれ「メッツェンガーシュタイン」「ウィリアム・ウィルソン」「悪魔に首をかけるな」。…自分も大分前に読んでる筈だけど、正直〜ウィルソンしか覚えてなかったな。
どれも映像美を追求している様だが、逆に言うと30分程の尺をどれも持て余してる感じが。ずっと馬で走ってたりフェラーリで走ってたり…短編なのにダラダラと。それでも技巧で押し切ったフェリーニは、やはりすごいんじゃないかな。
2023.06.19
「CG NEO CLASSIC」カーグラフィック刊

読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2019年発表。
1980年〜1990年代にかけて生産された内外の自動車を指す言葉が、「ネオ・クラシック(カー)」。その専門誌の創刊号として刊行された当ムックは「ランチア デルタ」(ラリー出走車両、市販車両共に)を特集している…という内容。
目玉は「デルタS4」「デルトーナ=’92スーパーデルタ」の試乗レポート。S4はやはり想像通りの暴れん坊の様で、デルトーナの方が完全に陰に隠れてしまっているという。他にも関係者インタビュー…特にジウジアーロ(喋り好きのオッサンらしい)が、「HF 4WD」市販車にまでは関わっているというのは興味深い。
しかし「ネオ・クラシック」というカテゴリの本で、デルタが真っ先に採り上げられるのは嬉しいね。日本での人気爆発を、当時ランチアの代理店だったガレーヂ伊太利屋の人が振り返っており、カーグラTVでデルタのWRC勝利が伝えられると、飛ぶ様に売れたとか。ははあ「カーグラフィック」とは、そういう縁なのか。
2023.06.18
バンパイアの惑星
観てみた。B・サリヴァン主演、マリオ・バーヴァ監督映画。1965年公開。
未踏の惑星・アルファ9から発せられた救難信号を受けて、調査に向かった宇宙船・アルゴのクルー達。ところが先遣隊が遭難、アルゴも機体不調で惑星に不時着する事態に。更にクルー達が突然凶暴化して殺し合い、その上死亡した隊員が墓から甦って彷徨い歩くという、理解不能の状態に陥って…という内容。
イタリア製のSFホラー映画。でもイタリアなのにパチモンではなく、かの有名な「エイリアン」(1979年)に影響を与えたとも言われる斬新な一作。まあ映像自体は何だかキャプテンウルトラみたいで、お世辞にも先進的ではないけれど…
ホラーの巨匠として名高いバーヴァらしく、恐怖演出で案外その辺は気にならない。しかも巨大宇宙人の放置された骨格なんていう、(スペース・ジョッキーの元ネタっぽい?)着想には目を見張る。…感じとしてはミステリー・ゾーンやアウター・リミッツ系の、ちょっとひねったSF感がとても良いのではないでしょうか。
未踏の惑星・アルファ9から発せられた救難信号を受けて、調査に向かった宇宙船・アルゴのクルー達。ところが先遣隊が遭難、アルゴも機体不調で惑星に不時着する事態に。更にクルー達が突然凶暴化して殺し合い、その上死亡した隊員が墓から甦って彷徨い歩くという、理解不能の状態に陥って…という内容。
イタリア製のSFホラー映画。でもイタリアなのにパチモンではなく、かの有名な「エイリアン」(1979年)に影響を与えたとも言われる斬新な一作。まあ映像自体は何だかキャプテンウルトラみたいで、お世辞にも先進的ではないけれど…
ホラーの巨匠として名高いバーヴァらしく、恐怖演出で案外その辺は気にならない。しかも巨大宇宙人の放置された骨格なんていう、(スペース・ジョッキーの元ネタっぽい?)着想には目を見張る。…感じとしてはミステリー・ゾーンやアウター・リミッツ系の、ちょっとひねったSF感がとても良いのではないでしょうか。
2023.06.16
死神の骨をしゃぶれ
観てみた、エンツォ・G・カステラッリ監督映画。1973年公開。
マルセイユからジェノヴァへと大量の麻薬を持ち込む犯罪組織を、断固たる態度で追うベッリ警部。ところが捕まえた売人は無残にも口封じに爆殺されてしまい、必死の捜査にも関わらず麻薬ルート解明は遅々として進まない。更に警察関係者やベッリ警部自身も命を狙われる事となり、果てには…という内容。
本作を観たら「フレンチ・コネクション」(1971年)を連想するんじゃないか。同じく麻薬犯罪を追った刑事物で、カーチェイスが売りなのも、スッキリしない結末なのも同じ(でも続編は無い)。とは言え単なるイタリア的パチモンでもなく…
やたらと残酷な暴力描写は、さすがマカロニウエスタンとジャッロの国ならでは。まあ要するにタランティーノとか好きそうな感じ?…と思ったら、本作のGuido & Maurizio De Angelis兄弟による「Gangster Story」という曲は、「デス・プルーフ in グラインドハウス」でも使われたとの事。ははあ、なるほどねえ。
マルセイユからジェノヴァへと大量の麻薬を持ち込む犯罪組織を、断固たる態度で追うベッリ警部。ところが捕まえた売人は無残にも口封じに爆殺されてしまい、必死の捜査にも関わらず麻薬ルート解明は遅々として進まない。更に警察関係者やベッリ警部自身も命を狙われる事となり、果てには…という内容。
本作を観たら「フレンチ・コネクション」(1971年)を連想するんじゃないか。同じく麻薬犯罪を追った刑事物で、カーチェイスが売りなのも、スッキリしない結末なのも同じ(でも続編は無い)。とは言え単なるイタリア的パチモンでもなく…
やたらと残酷な暴力描写は、さすがマカロニウエスタンとジャッロの国ならでは。まあ要するにタランティーノとか好きそうな感じ?…と思ったら、本作のGuido & Maurizio De Angelis兄弟による「Gangster Story」という曲は、「デス・プルーフ in グラインドハウス」でも使われたとの事。ははあ、なるほどねえ。
2023.06.15
「RALLY CARS Vol.28 / LANCIA DELTA part.1」三栄刊

読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2021年発表。
WRCのグループA出走の為に、開発されたラリー車両が「ランチア デルタ」。既にターボ・4WD化されていた市販車をチューン、1987年に初参加の「HF 4WD」。その車両を進化させた「HFインテグラーレ」、更にエンジンを16バルブ化した「同16V」と、圧倒的な強さを見せて連続での優勝を果たした…という内容。
本書では1987年から1991年まで続けて、ランチアがマニュファクチャラー優勝していた頃の車両を紹介している。単純に元のデルタの仕様が、上手くグループAの競技内容に合致していた偶然もあった感じだが、当時のチーム監督(F1でよく聞いた名前)チェーザレ・フィオリオの、手腕によるところが大きい様だ。
フィオリオのインタビューは特に読み応えがあって面白い。でランチアの強さは当時、やっぱり疑問視されたらしく…消火器騒動やドライバー同士のイザコザ等。スキャンダラスな面にも触れていてるのが、むしろファンとして楽しめる。
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2023.06.13
「Racing on No. 507 / WRC グループA の時代」三栄刊

読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2020年発表。
「世界ラリー選手権=WRC」で1987年〜1996年にかけて、トップカテゴリーとして開催された「グループA」。グループBでの反省から、より市販車に近い車両を用いたレースとなり、技術的に先行していたランチアが強さを見せた。その後トヨタ・三菱・スバルといった、日本勢が上位を占める事となる…という内容。
なので本書は日本メーカーに関する記事が中心なのだが…グループAが10年開催された中で、連続6勝したランチアの扱いが少なすぎるのはどういう事?、と。まあランチアはランチアで、他に色々本も出ているから仕方ないのかな。
とは言え自分はこの時期のラリーは全然詳しくないので、大変面白く読めた。グループBから引き続きAでもやはり、ターボ+4WDありきでないと勝負にならなかったそうで。「ハイパワーターボプラス4WD、この条件にあらずんばクルマにあらずだ」…というイニDのラーメン屋の名言は、こういう歴史があったんだな。
2023.06.12
「完訳 緋文字(ひもんじ)」ホーソーン著、八木敏雄訳

読んでみた、アメリカ人作家による長編小説。1850年発表。
17世紀。夫がありながら不貞の子をもうけたヘスターは、その罰に姦婦を意味する「A」の緋文字を身に着ける事に。数年の後その娘・パールも健やかに成長し、徐々に彼女へ向けられる周囲の目も変わっていくのだが…という内容。
アーカム…じゃなくて米国の町、セイラムを舞台にした世界的名著。本書の内容も例の魔女裁判を連想させるけれど、直接の言及がない代わりに著者の先祖は、その際判事を務めた人物だというのが驚き。なので本書で罪と罰の意識に、悔恨や改悛の情が描かれるのは、その裁判と決して無関係でもないだろう。
ただ実際読んで自分には、どうもキリスト教の教義的な方面に立ち入られると、難しくて伝わりにくいなというのが正直な感想(著者が用いる曖昧論法のせいもあるかも?)。代わりに本書は、罪を犯した女性がその「烙印」を受け入れ、再び人生を歩み直すという…「女の一代記」ものとして、感動して仕方なかった。
2023.06.10
男の敵
観てみた。V・マクラグレン主演、ジョン・フォード監督映画。1935年公開。
1922年アイルランド。イギリス軍統治下のダブリンで、反英組織から追放されたジポという男が金欠に喘いでいた。ジポは指名手配されている旧友を懸賞金目当てに密告、彼は射殺されてしまう。20ポンド手に入れたジポだったが、金は酒代や諸々ですぐに消え、しかもその入手先を組織に疑われて…という内容。
リーアム・オフラハティの小説を原作に、米アカデミー賞では4部門で受賞した名作。アイルランド移民の子であるフォードが自身のルーツを描いた一本ではあるが、後の「静かなる男」(1952年)と較べたら陰鬱な上、主人公にイライラし通しで、仲々に観るのがしんどい。聖書のユダがモチーフなのだけれど…
当時米は(自国の歴史と同じく英国相手に戦った)アイルランド独立運動に対し、同情的だったと見ていいのかな。聖書をなぞった本作の内容は普遍的だが、アイルランドの真逆の結果を見たら、そう表明しても不思議ではないしな。
1922年アイルランド。イギリス軍統治下のダブリンで、反英組織から追放されたジポという男が金欠に喘いでいた。ジポは指名手配されている旧友を懸賞金目当てに密告、彼は射殺されてしまう。20ポンド手に入れたジポだったが、金は酒代や諸々ですぐに消え、しかもその入手先を組織に疑われて…という内容。
リーアム・オフラハティの小説を原作に、米アカデミー賞では4部門で受賞した名作。アイルランド移民の子であるフォードが自身のルーツを描いた一本ではあるが、後の「静かなる男」(1952年)と較べたら陰鬱な上、主人公にイライラし通しで、仲々に観るのがしんどい。聖書のユダがモチーフなのだけれど…
当時米は(自国の歴史と同じく英国相手に戦った)アイルランド独立運動に対し、同情的だったと見ていいのかな。聖書をなぞった本作の内容は普遍的だが、アイルランドの真逆の結果を見たら、そう表明しても不思議ではないしな。
2023.06.09
ビューティフル・マインド
観てみた。ラッセル・クロウ主演、ロン・ハワード監督映画。2001年公開。
数学科の学生であるジョン・ナッシュは、奇矯な振舞で周囲を困惑させつつも、画期的な論文を物にする。数年後彼は米国政府からの極秘指令を受け、ソ連が発する暗号を解読するという諜報任務に就く事に。教え子であるアリシアと結婚したナッシュ、ところが次第に彼に敵からの魔の手が迫って…という内容。
実在のノーベル賞学者を採り上げた実話映画の本作、米アカデミー賞では4部門に渡って受賞した。なので本作は、感動実話という辺りが評価されたんだと思うけれど…予備知識が無かった筆者には、結構なサプライズ展開が待っていた。えっ、これ実は、シャッターアイランドとかファイトクラブ系だったの?、と。
まあ感動実話なんだから、ネタバレ云々は別にいいでしょ。ただ2015年には、本人のナッシュが他界したのだけど…受賞直後の帰路に奥さんと一緒に交通事故死したという。なんだか映画と違って世の無常さを感じてしまったなあ。
数学科の学生であるジョン・ナッシュは、奇矯な振舞で周囲を困惑させつつも、画期的な論文を物にする。数年後彼は米国政府からの極秘指令を受け、ソ連が発する暗号を解読するという諜報任務に就く事に。教え子であるアリシアと結婚したナッシュ、ところが次第に彼に敵からの魔の手が迫って…という内容。
実在のノーベル賞学者を採り上げた実話映画の本作、米アカデミー賞では4部門に渡って受賞した。なので本作は、感動実話という辺りが評価されたんだと思うけれど…予備知識が無かった筆者には、結構なサプライズ展開が待っていた。えっ、これ実は、シャッターアイランドとかファイトクラブ系だったの?、と。
まあ感動実話なんだから、ネタバレ云々は別にいいでしょ。ただ2015年には、本人のナッシュが他界したのだけど…受賞直後の帰路に奥さんと一緒に交通事故死したという。なんだか映画と違って世の無常さを感じてしまったなあ。
2023.06.07
「狭き門」ジッド著、山内義雄訳

読んでみた、フランス人作家による長編小説。1909年発表。
ジェロームは幼い頃より、2歳年長のアリサに恋愛感情を抱いていた。しかし彼女もまたジェロームを愛しながらも、彼を受け入れる事を頑なに拒み続ける。アリサは強い信仰心から、地上的な愛情に対して抵抗があって…という内容。
ノーベル文学賞を獲得した著者の代表作であり、自身の半生が強く反映した内容とも言われる。プロテスタントとしての生活や妻との非肉体的な関係等、信仰と恋愛との対立を描いた本書を読むと成る程という感じ。でも本書は神と男女の三角関係を描いた、一大恋愛悲劇=メロドラマとして読んでもよいのかも?
キリスト教の考えに関しては、ちょっと日本人(いや俺がだな)には判らない点も多いし。とは言え恋愛の破綻や失望ではなく、最終的には自己犠牲で終わるので、読後感自体は悪くない(そういう意味では、「田園交響楽」はガックリ来た)。…強く否定するのではなく、「美しい物語」として呑み込みたい書物ではある。
2023.06.06
長江哀歌(ちょうこうえれじー)
観てみた。ジャ・ジャンクー脚本、監督映画。2006年公開。
長江流域に三峡ダムが建設され、水底に沈んでしまった地を男が訪れる。ハン・サンミンは16年も会わずにいた妻子を捜しているのだが、その甲斐も無く建物を解体する仕事に就いた。また夫を捜すシェン・ホンという女性も現れて、姿を変えつつある長江周辺の時間は、緩やかに過ぎてゆくのだが…という内容。
長江の哀しい歌…と言えば、ドキュメンタリー映画を作って35億円も借金を背負ったさだまさしの事かと。まあ違うんだけど。その当時から25年以上が過ぎ、ダムで周辺の風景が一変した長江に、思いを馳せるにはいいかもしれない。
作品自体はセミドキュメンタリー調で、タンクトップ姿のオッサンがフラフラしてるばかりの印象なのだが…時折建物がロケット噴射で打ち上がったり、遠くのビルが急に崩壊したりとシュールな描写も採り入れている。まあ「長江」という存在の雄大さに打たれた事が原点なのは、本作もさだの映画も同じではあるのかな。
長江流域に三峡ダムが建設され、水底に沈んでしまった地を男が訪れる。ハン・サンミンは16年も会わずにいた妻子を捜しているのだが、その甲斐も無く建物を解体する仕事に就いた。また夫を捜すシェン・ホンという女性も現れて、姿を変えつつある長江周辺の時間は、緩やかに過ぎてゆくのだが…という内容。
長江の哀しい歌…と言えば、ドキュメンタリー映画を作って35億円も借金を背負ったさだまさしの事かと。まあ違うんだけど。その当時から25年以上が過ぎ、ダムで周辺の風景が一変した長江に、思いを馳せるにはいいかもしれない。
作品自体はセミドキュメンタリー調で、タンクトップ姿のオッサンがフラフラしてるばかりの印象なのだが…時折建物がロケット噴射で打ち上がったり、遠くのビルが急に崩壊したりとシュールな描写も採り入れている。まあ「長江」という存在の雄大さに打たれた事が原点なのは、本作もさだの映画も同じではあるのかな。
2023.06.05
「ペスト」カミュ著、宮崎嶺雄訳

読んでみた、フランス人作家による長編小説。1947年発表。
アルジェリアのオラン市で医師のリウーは、鼠の大量死を目撃する。果たしてそれは死の伝染病「ペスト」によるものと判明。人間も次々に斃れ、同市は世界から隔離・封鎖される。鎖された土地で、人々は死に向き合って…という内容。
著者による第2長編小説の本書。伝染病蔓延を描いた内容からコロナ禍の人々に読まれ、ベストセラーになった。ただ別に著者は予言書や、警告の書として書いた訳ではなく…カミュの作風を言い表す「不条理」という言葉通り、現代世界にペストが蔓延する状況自体(太陽が眩しかった殺人と同じく)不条理だった筈。
不条理を描いた小説が、不条理でなくなった事こそが不条理だよな。なので自分もそこは外して、実際ここ数年経験した日々と引き較べて読んだ訳だが。本書の「ペスト=現実的脅威」に向き合う人々の感動的な姿と比較したら、この数年俺はなにやって来たんだろ?と。…まあ健康が一番ですな(何だその結論)。
2023.06.03
「ヴェニスに死す」トオマス・マン著、実吉捷郎訳

読んでみた、ドイツ人作家による中編小説。1912年発表。
20世紀の初頭。高名な作家であるアッシェンバッハは、孤独な旅の中避暑地へと足を向け、「ヴェニス」に立ち寄る。そこで彼はポーランド人一家と滞在していた「タジオ」と呼ばれる、美貌の少年に魅入られてしまうのだが…という内容。
本書はマンの実体験に基づいており、その際に出逢った美少年が後に、自ら名乗り出ているというのだから驚き。それより何より本書は1971年、ヴィスコンティ監督により殆ど完璧とも言える映画化がされている事に、触れない訳にはいかないだろう。画面に出てくるタジオが美しすぎて、そら著者の気も迷うわと。
まあ実体験とは言っても実際だと、(題名通りには)著者は死んでいない訳だが。ただヴェニスでコレラが流行ったのは事実…かどうかはちょっと調べがつかなかったけれど、同じくマンの「マリオと魔術師」でも避暑地での伝染病蔓延に触れている。病気が好きな作家(ひどい言い様だ)も、美少年はお好きなんだな。
2023.06.02
「RALLY CARS Vol.05 / PORSCHE 911」三栄刊

読んでみた、日本の出版社による自動車雑誌/ムック。2014年発表。
ポルシェが開発した、後輪駆動・リア配置・空冷エンジンのスポーツカー「911」。名車と言われる911は1965年よりラリーにも参加しており、RRという一見ハンデに思える方式に反して強さを見せていた。1984年からはWRCのグループBに、「911 SC/RS」で出走。本書では911のラリー戦歴を紹介していく。
この時期ポルシェは(同グループであるアウディとの住み分けで)サーキットレース中心の活動をしていた。シルエットフォーミュラ「935」!とか言ったら、自分の同世代なら身を乗り出してしまう筈。SC/RSがグループBだというのに、実はワークスではなくプライベーターでの参加というのは、その辺の関係かも。
なので自分も殆ど意識してこなかった車種なのだけど…RRに自然吸気空冷エンジンという、911らしさを貫いたままグループBで戦った(4WDも開発されたものの、パリダカのみ)というのは、これはこれで胸が熱くなるかもしれん。