2023.07.31

「Normal never was Revelations The remix compilation」CRASS

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聴いてみた、英パンクバンドのリミックス・コンピレーション盤。2022年発表。

「クラス」は2019年に慈善団体へ寄付を行う為、自身のアルバム「The Feeding Of The 5000」収録の16曲をフリーダウンロード化し、リミックス参加アーティストを募った。本作はその際に集まった全40曲を収録した、コンピレーション・アルバムとなっている。販売は2枚組CD及び、ネット配信等で行われた。

という経緯を知った上だと、大変に立派な行いと納得して聴けるけれど…もし知らないままだったら、やっぱり原曲の方が絶対いいよ、としか思わなかったろうな。リミックスって、大抵はそんなもんだし(…自分が無知なだけだろうけど)。

そうした事情からか、リミックスアーティストの名前は全然知らなかった。でも本作に先立ちCrass Recordsでは「Normal Never Was」シリーズの12’’を6枚程リリースしており、その「W」では「Anarchy In The UK」をPaul Jamrozyって人が担当してるんだけど…何とTest Deptメンバー(!)こっち聴きたい。
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2023.07.30

「ダル・ニエンテ、temA他」ラッヘンマン

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聴いてみた、ドイツの現代音楽作曲家。2008年発表。

「Helmut Lachenmann」は1935年に誕生し、故郷のシュトゥットガルト音楽演劇大学で学んだ。その後Luigi NonoやStockhausenへの師事を経て、徐々に音楽界で頭角を現す。存命中の人物としてはヨーロッパで最も影響力のある現代作曲家で、ピアニストの菅原幸子を妻に持ち、日本との関わりも深い。

その影響から日本文化的な「間(ま)」を作曲に採り入れたそうで、本作においてもそれは顕著。クラリネットやチェロによる隙間の多い独奏曲などは、まともに音を出さない極小の音量で演奏されている。これはもう殆ど珍盤の域だな。

ただ今回購入したのは、WERGOの輸入盤に国内帯が付いたものだが、そこに書かれた解説?が「ヒョロヒョロかっぽん」だの「お化け屋敷」だのと、何だかフザケてるのは如何なものか。まあまともに音楽として評価するのが、難しいのも確かではあるので…正直気持ちはわかる。難解だ難解だと投げ出すよりはいいし。
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2023.07.28

「ピアノ協奏曲第1番、対話五題初演 他」諸井誠

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聴いてみた、日本の現代音楽作曲家。2011年発表。

「諸井誠」は1930年に東京で誕生し、1952年には東京音楽学校本科を卒業。1957年には黛敏郎らと共に、前衛音楽集団「二十世紀音楽研究所」を結成した。十二音技法や電子楽器を日本国内では最も早く採り入れた作品を発表する一方、TVの歌謡番組の審査員としてお茶の間ではお馴染みでもあった。

本作はNHKのラジオ番組「現代の音楽」用に、収録した音源を集めたシリーズの1枚。特に「第1室内カンタータ」(1959年放送)では、電子楽器「オンド・マルトノ」と共に男声による「語り」を採り入れており…それが何だか、すごくラジオ番組っぽい(加えて本盤には作曲者の、番組への出演場面も収録されている)。

まあ本作にはライナーに作曲者自身の楽曲解説が載っているので、自分が付け加えられる事は余りないな。現代音楽と言えば、紛れもない現代音楽だけれど…何となく取っつきやすい感じがするのは、ラジオ番組だからなのかも?
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2023.07.27

「沈黙の起源 / 中川俊郎 管弦楽作品選集」中川俊郎

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聴いてみた、日本の現代音楽作曲家。2017年発表。

「中川俊郎(なかがわとしお)」は、 1958年に東京の中野区で誕生。桐朋学園大学音楽学部を卒業した後に、三善晃に師事して作曲を学んだ。現代音楽の分野で高く評価される一方で、CM曲等のポピュラー方面でも活躍している。

本作はフォンテックの「現代日本の作曲家」シリーズとして発売されたアルバムで、東京交響楽団の演奏による管弦楽作品(中川自身ピアノを担当)が収録されている。内容は…まあバリバリの現代音楽。ライナーで「こんな人に喜ばれる訳でないものを、苦しみながら書いている」とぶっちゃけているのに微苦笑。

聴いた感じは武満徹っぽい?…と思ったら、中川の活動初期の経歴として、武満企画のコンクールで第1位となったとあって成程なと。隙間の多い音から構成された、難解な感覚がそんな印象だが…東洋的な宇宙を思わせる音空間は、日本人的な感性かもしれない。「いかにも」という感じを楽しんだらよいのでは。
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2023.07.25

サウンド・イン・リマ

観てみた、ダナ・ボニージャ& ヒメナ・バルディビア監督。ペルーの首都のリマにおける、音楽シーンを採り上げたドキュメンタリー映画。2018年公開。

その音楽というのがオルタナティヴと言うかアヴァンギャルドと言うかアンダーグラウンドなもので、ペルーにそういう音楽の「シーン」と言えるものがあるという事自体がまず驚き。加えて本作は説明的な要素を限りなく排しており、ミュージックビデオ的に綴っていく感じ(なので同地音楽に詳しくなれる訳ではないな)。

しかもフリーフォームと言うかアドリブ中心の単調な演奏がひたすら続いていく感じではあるので、(個人的には好きなジャンルとは言え)正直眠くなってしまうなあ。…でもまあ、仲々知りがたい国の音楽だけに大変に貴重ではある。

ペルー音楽に関しては正直「辺境」という先入観を持っていたのだけれど、どの曲も驚くほど洗練された普遍性があるのは確か。それは前衛的な表現であるが故に…(逆に?)、そうした印象を与えることが出来たのかも。興味深いね。
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2023.07.24

「産業廃棄物」高杉晋吾著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1991年発表。

人間の産業活動に伴って排出されるのが「産業廃棄物」。経済活動と環境保全との兼ね合い等、長年議論・対処されてきた廃棄物に関して、著者が処理場や周辺住民等現地へ赴いて取材を行い、実相について報告する…という内容。

本書は産業廃棄物についてのコンパクトなルポルタージュで、一通りの話は簡潔に知る事が出来るんじゃないかな。ただネックは30年以上前の本だという事。…既に改善が見られる分野から、軽く調べただけでは何らかの変化があるのか、よく判らない分野まで。複雑すぎる課題を抱えているのだから仕方ない。

例えば本書で指摘された「廃掃法」の不備は、その後何度も改正されて現在に至る訳で、実際現況ではどんなか?というのまでは今一つねえ(まあ完全に解決出来るって事はまずありえないのだから、そこは推して知るべしか)。取り敢えず本書で「問題」と「課題」という、事の根本から知るのは悪くないのでは。
posted by ぬきやまがいせい at 21:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2023.07.22

君たちはどう生きるか

観てみた、宮崎駿監督によるアニメーション映画。2023年公開。

第二次大戦中。母を火事で亡くした少年・眞人は、父親の再婚相手であるナツコの邸宅に疎開する事に。そこで彼は奇妙なアオサギに導かれ、現世から姿を消したナツコを取り戻すべく、「下の世界」へと旅立ったのだが…という内容。

宮崎監督の引退撤回作、ほぼ完全に事前宣伝無しで公開された事でむしろ話題に。内容的にはいわゆる異世界ファンタジーで、タイトルが引用された吉野源三郎の同名小説とは関係がない。…かと言うと案外そんな事もなく、最終的に「友達=友情」を着地点にしている辺り、そちらを踏まえているんじゃないかな。

「黄泉平坂」モチーフは同監督が何度も描いた展開だが、今回は「少年が母親を」というエディプス的な描写となっている。なのでインモラルから急に教訓的になった印象もあるのだけれど…本作はいちいち挙げたらキリ無い位「死」の象徴に溢れており、そこから観客の意識も「現世」へ引き戻す必要があったのかも。
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2023.07.21

「日輪・春は馬車に乗って 他八篇」横光利一著

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読んでみた、日本人作家による短編小説集。1981年発表。

古代の日本。不弥国の姫・卑弥呼は奴国の王子・長羅に国を滅ぼされた末、邪馬台国に行き着き…(日輪)。重い病で死の床に就いた妻。夫は彼女に対して…(春は馬車に乗って)。という表題作を含んだ、全10編が収録されている。

著者は川端康成らと共に「新感覚派」として活動した…そうだけれど、その新感覚派というのが正直よく判らない。本書は主に初期の短編を集めたもので、代表作と呼ばれるものは大体入っている様だが、案外文体や内容に幅があるし。

二作同時デビュー(1923年)の「日輪」「蠅」は、どちらも「映画的」という指摘があって成程とは思うものの、ドラマチックな古代戦争劇の前者と文章によるモンタージュ技法の実験作の後者とでは、だいぶ意味合いが違うし。実験的と言えば「機械」のリズミカルで、ざらついたユーモアを感じさせる肌触りは今読んでも斬新だ。「新感覚」として今なお通ずる、その「感触」を感じ取れればいのかも。
posted by ぬきやまがいせい at 03:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2023.07.19

宇宙のデッドライン

観てみた、エドガー・G・ウルマー監督映画。1960年公開。

1960年。米空軍パイロットのアリソン中佐が挑んだのは、新型速度実験機での飛行試験。ところが地上に帰還すると、なぜか基地は廃墟と化していた。彼は偶然時空を飛び越え、遥か未来の2024年にやって来たのだ。その世界で人類は疫病の為に、不妊と突然変異で絶滅目前となっており…という内容。

タイムスリップの方法が「猿の惑星」(1968年)を連想させるSF映画。出来自体はB級もいいところだけど…未来世界の建物内部が、「三角形」モチーフのデザインで徹底されている(場面転換のアイリスまで三角形)のは結構すごい。

しかも主人公が搭乗するX-80という架空機は、デルタ・ダガーこと「F-102」なので、こちらも「デルタ翼=三角形」(プロップだと何故か主翼から更に、三角形の安定翼が生える)。ただその▽が内容の方と、どう関係するのかと訊かれても…正直よくわからない。でも案外シリアスで、オチも悪くない拾い物ではある。
posted by ぬきやまがいせい at 22:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2023.07.18

「色彩心理学入門 / ニュートンとゲーテの流れを追って」大山正著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/科学解説書。1994年発表。

人間が視覚を元に、「色彩」を感じるとはどういう事か。本書はニュートンの「光学」と、ゲーテによる「色彩論」という二大潮流から始めて、その後の重要な研究から得られた、生理学や心理学分野での成果を紹介していく…という内容。

ニュートンが「物理現象」、ゲーテが「感覚」としての色彩を、代表していると考えていいと思う。本書は「心理学」と題されているので、ゲーテ寄りかな、と思ったらそんな事もなく。基本的には色彩科学における研究史の解説書で、生物学的側面や動物実験、更に数式あれこれと…これブルーバックス?となる感じ。

なので勿論(この手の本ではお馴染み)「マンセル色相環」等についても触れられているけれど、その成立を順を追って説明している辺り、あまり他では読んだ事ない印象。…ただかなり専門的と言うか、「色彩」と聞いて想像する様な、実感的なものは得にくい様な。やはり「科学史」に興味のある人向けじゃないかな。
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2023.07.16

ヘドロ人間(原題:The Slime People)

観てみた、ロバート・ハットン監督映画。1963年公開。

小型飛行機でロサンゼルスに飛来したトム・グレゴリーは、街の周囲が「固まった霧」で封鎖されてしまったと知る。それは地底から出現した「スライム人間」による仕業。街からの避難が指示され、今では少数名が取り残されるのみ。グレゴリーはそうした人々と協力し、外部への脱出を目指すのだが…という内容。

あまりの低予算から9日間で資金が尽き、完成まで関係者は無給で奉仕したという(公開後も結局ノーギャラ)。予算の半分は「スライム人間」のスーツ制作に充てられた様で、数体同時に画面に映るのには結構ほおと。英語版Wikipediaには「8体」とあるけど…画面が噴霧器で真っ白なので、正直よく判らない。

そんな努力の賜物だというのに、本作は退屈でどうしようもない。観ていて途中、完全に意識が飛んでしまった(だからと言って見返す気にもならん)。「アンダー・ザ・ドーム」や「首都消失」にも先駆ける、秀逸なSFネタなのになあ…
posted by ぬきやまがいせい at 23:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2023.07.15

魔の谷

観てみた、モンテ・ヘルマン監督映画。1959年公開。

アレクサンダー・ウォードを首領とする犯罪者集団が、金庫を襲撃する計画を進めていた。まんまと金塊を奪取した一味の、雪山からの逃走を案内する事になったのが、ギル・ジャクソンという青年。知らずに犯罪者の手助けをしてしまったギルは、彼らと共に正体不明の怪物から襲われる事になって…という内容。

「断絶」(1971年)や「コックファイター」 (1974年)で知られるヘルマンの、監督としてのデビュー作。プロデュースはロジャー・コーマンの弟であるジーンだが、ロジャーも関わっている模様。特筆すべきは「拳銃魔」を彷彿とさせる、冒頭からの流れる様な連続シークエンス。ヘルマンの名前と共に、期待をさせるが…

でも目を引くのはいいいとこ開始から数分間で、あとはもうグッダグダ。撮影期間の殆どで、極寒の為に機材が使えず大変な苦労をしたらしい。ヌーベルバーグ風の演出を早々に放棄したのも致し方ない。でもかなりの珍品ではある。
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2023.07.12

2889 原子怪人の復讐(原題:In the Year 2889)

観てみた、ラリー・ブキャナン監督によるTV映画。1969年放映。

全世界を核戦争の炎が包み、人類が築き上げた文明は崩壊した。渓谷内の敷地で難を逃れたスティーブと娘のジェイダ、彼らの屋敷に次々と生存者達が集まって来る。だが外界は放射能に汚染され、奇形化した怪物が跋扈する地獄となっていた。更に生存者の間でも、人間関係に危機が高まって…という内容。

本作はロジャー・コーマン監督「原子怪獣と裸女」(1956年)のリメイク。タイトルはJ・ヴェルヌの小説から採ったものだが、内容は一切関係がない(リメイクに際して同じ題を使うと余計な出費が必要と言う、ケチ臭い理由かららしい)。

内容はブキャナン作品を観た事があるならご承知の通り、いつも通りのヒドイ出来。低予算なのは監督のせいではないものの、投げ槍で乱暴なのに加えて、やる気の無さっぷりはどうしようもない。ただそれでもストーリー自体は原作があるお陰で案外まとも。あと俳優陣の熱演は、評価しとかないと気の毒だな…
posted by ぬきやまがいせい at 23:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2023.07.11

「無関係な死・時の崖」安部公房著

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読んでみた、日本人作家による短編小説集。1974年発表。

アパートの自室で、見ず知らずの死体を発見した男。彼はこの苦境から逃れる為…(無関係な死)。試合へと臨むプロボクサー、彼の進んでいく一歩先は「崖」であって…(時の崖)。という表題作を含んだ、全10編が収録されている。

本書は1957年から1964年にかけて執筆された短編を集めたもの。個人的に著者には「日本のカフカ」というイメージがあるかな。まあ実際シュールで不可解な状況設定などには近い感覚がある(「砂の女」と「城」って似てるよね)けど、本書で読めるのはもっと幅広いと言うか…ジャンル横断的な作風となっている。

現代文学作家らしく観念的すぎて「?」となるのから、ミステリやSFといった通俗的な題材を援用したものまで。特に「家」や「人魚伝」といったホラー系作品は、あれこんなに娯楽小説寄りいいのかな?、という位(韜晦や肩透かしも無く)ジャンル的な作法に対して誠実。…勿論カフカ調に脱臼的な、「賭」も面白いね。
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2023.07.09

燃える惑星 大宇宙基地

観てみた、ロジャー・コーマンプロデュースによるSF映画。1962年公開。

核戦争後、南北2大勢力間で争いの絶えない地球。両国は初の火星着陸を目指して、有人ロケットを打ち上げた。ところが南半球国のロケットが遭難し、乗員を北半球国機に乗り移らせる事態に。彼らは燃料不足で火星への着陸を断念、代わりに衛星で地球帰還の為の救助を、待つ事になったのだが…という内容。

本作は元々ソ連で製作された映画「Небо зовёт」(1959年公開)だが、権利を得たコーマンが米国での上映に合わせて内容を改変した。ソ連を感じさせる要素は削除や変更し、加えて何と「宇宙怪獣」を新たに登場させてしまった。

コーマンの指示で「性器」をモチーフにした卑猥な怪獣(コーマンだけに)を撮影したのは、当時学生だったフランシス・F・コッポラ(!)。まあB級映画好きならある意味有名な作品。元々が至って真面目な本格SFなので、少々いじったところで真面目なままなんだけど…多少愛嬌が出たので、案外悪くない改変かも。
posted by ぬきやまがいせい at 22:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2023.07.08

「伊豆の踊子・温泉宿 他四篇」川端康成著

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読んでみた、日本人作家による短編小説集。1952年発表。

伊豆で一人旅をする学生の「私」は、旅芸人一座の「踊子」に惹かれ、道連れとして同行する事になり…(伊豆の踊子)。温泉宿に暮らす、様々ないきさつを持った娘達は…(温泉宿)。という表題作を含んだ、全6編が収録されている。

「伊豆の踊子」は以前紹介した田中絹代の映画を始め、美空ひばりや山口百恵といったその時々のスターにより演じられて来た。でも実際原作を読むと実にアッサリとした短編で、あまりロマンスといった感じはないのだな(別れの船で一人泣く主人公の方が印象的)。とは言え地方情緒から来る「情感」は、流石名作。

情感が「幻想」にまで高まっている諸作は、個人的には特に興味深い。祖父の介護記録だという「16歳の日記」は、その生々しさが反転して非現実的な境地に至り、二通の遺書として綴られた「青い海 黒い海」では彼岸の風景を幻視する。…まあ伊豆の踊子の、「失われた時代の情感」自体が、幻想そのものかも。
posted by ぬきやまがいせい at 10:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2023.07.06

地獄へつづく部屋(公開時タイトル:地獄へつゞく部屋)

観てみた、ウィリアム・キャッスル監督映画。1959年公開。

大富豪・ローレンの呼び掛けで、7人の男女がある屋敷に集められた。そこには幽霊が出没するという噂があり、一晩を過ごした者には彼から大金を与えるというのだ。やがて真夜中が訪れると、ローレンの妻が絞殺死体として発見された。更に奇妙な現象が立て続けに起きる中、彼らは疑心暗鬼となって…という内容。

本作も主演のヴィンセント・プライスが、古びた屋敷の主人役。その建物というのが実はF・L・ライト設計のバリバリ現代建築で、それを幽霊屋敷に使おうというのは変わってる。…それ以上に変わってるのが本作では、映画館で上映中に作り物の「骸骨」を客席の頭上に飛ばすという、アトラク的な催しを行った事。

まあある種伝説的な作品なのだが、今回観ても上記の趣向が無いと…正直面白くはないなあ。でもそれこそ「お化け屋敷」映画なだけあって、突然ビックリさせる演出が頻出。ただの管理人のババアの顔が、なんでか一番こわいという。
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2023.07.05

怪奇 アッシャー家の惨劇

観てみた。V・プライス主演、ロジャー・コーマン監督映画。1960年公開。

草すら生えない荒野に建つアッシャー家の邸宅。ウィンスロップは婚約者・マデリンに逢う為同家を訪れたのだが、兄のロデリックは妹との面会を拒む。同家は犯罪者や病弱ばかりの呪われた血統で、マデリンも近くこの世を去るというのだ。そしてロデリックの言った通り、彼女は絶命してしまうのだが…という内容。

原作はエドガー・アラン・ポオの短編小説、「アッシャー家の崩壊」。AIPが打ち出したポオ映画シリーズの第1弾となる本作だが、粗製乱造プロデューサーとして主に知られるコーマンの、映画監督としての代表作と言っていいのかな。

ただ緊密な構成により短編として圧倒的な完成度を誇る原作を、長編映画にしたらダラダラしてしまうのは(同著者の「早すぎた埋葬」の要素を採り入れてはいるものの)当たり前だろう。というか今回観たアマプラ配信での映像が、アナログ地上波を3倍モードでビデオ録画した、かの様な画質なのはなんなんだ…
posted by ぬきやまがいせい at 23:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2023.07.03

「海神別荘 他二篇」泉鏡花著

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読んでみた、日本人作家による戯曲集。1994年発表。

海神の世継ぎである公子が妻を迎える事となり、海中の別荘は準備に忙しい。妻となるのは人間の娘で、地上との別れを惜しむ彼女は、故郷の家族の前に姿を見せる事を望むのだが…という表題作を含む、全3編が収録されている。

表題作は「夜叉ヶ池」「天守物語」と共に3部作と呼ばれ、鏡花の戯曲では代表的なもの。でも雑誌発表は1914年だが、実際に舞台で初演されたのは40年以上も経った1955年。加えて映画化された「夜叉ヶ池」や、TVアニメ化された「天守」(考えたらこれすごいよな)とは違い映像化もまだ…かと思いきや、実はアニメ映画「サクラ大戦 活動写真」(2001年)の劇中劇として上演されている。

要するに「太正」の世界にも鏡花先生がいて、日々消毒活動してたって事なんだな。まあサクラ大戦の映画は当時観たきりなので、どのキャラがどの役を演じたか等は覚えていないのだけれど…なかなかに面白い趣向だと思った。
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2023.07.02

モデル連続殺人!

観てみた、マリオ・バーヴァ監督映画。1964年公開。

ファッションモデルの女性が、白覆面を付けた何者かの手で惨殺されてしまった。警察により尋問が行われたものの、周辺人物にはアリバイが成立。だが被害者の日記帳が発見され、中の記録は誰もが殺人動機となりうるものだった。その日記を預かったモデルの元に、再び白覆面の怪人が現れて…という内容。

「バンパイアの惑星」のバーヴァが手掛けたジャッロ映画。赤や青といった照明を駆使し、鮮やかな色彩感覚で描かれる残酷描写に、個性的で印象に残る音楽(本作だとモンド系?)の使用等。後にダリオ・アルジェント監督が世界に衝撃を与える事になる映像表現の、先駆けとなる存在と言っても差し支えないのでは。

また本作をホラーとして見ると、(S・キング登場を嚆矢とする)「モダン・ホラー」では驚くほど早い。まあ今観たらそう怖くはないのだが、古い作品なのに笑われる感じになってもいないのは、内容の陰惨さ・表現の斬新さによるものだろう。
posted by ぬきやまがいせい at 22:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画