2023.09.30

恋山彦

観てみた。阪東妻三郎主演、マキノ正博監督映画。1937年公開。

江戸時代、徳川綱吉による治世の頃。平家の末裔である伊那一族の小源太は、江戸から来たお品という娘と出逢う。彼女は由緒ある三味線「恋山彦」を、幕府の大老・柳沢吉保に所望されたのを断った為に、命を狙われていたのだ。小源太はお品を助けると共に、一族の怨敵と対立する事になって…という内容。

吉川英治原作による、日活製作の戦前時代劇。マキノ監督の日活入社1作目の本作は、前後編として公開されたものだが…現存しているのは、それらをまとめた104分の総集編のみ。そのせいか話が飛んでよく判らない上、音質も相当悪く台詞が聴き取れない。とは言え、阪妻による派手な立ち回りで楽しめる。

江戸城登りや能舞台でのチャンバラは、まるで歌舞伎の演目みたいに様式的なのだが…その後作られた時代劇映画でも見られない様な、躍動感ある映像に驚かされる。三味線殆ど関係ないな…と思いつつも、圧倒されてしまった。
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2023.09.29

出世太閤記

観てみた。嵐寛寿郎主演、稲垣浩監督映画。1938年公開。

小猿と呼ばれる少年は、戦場から戻らない父親を追う様に、武士として立身出世の道を目指す。心残りは故郷で貧しい暮らしを続ける、優しい母親の存在。やがて彼は木下藤吉郎と名乗り、家来となった主君・織田信長からも目を掛けられる様になる。そんな時遂に彼は、築城の大任を仰せつかって…という内容。

豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃だが、金目教という怪しい宗教は出てこない。本作も日活製作による戦前時代劇で、一夜城築城までの秀吉有名エピソードが綴られる内容。まあそういう意味では、実に定番的な映画なのだが…

稲垣監督らしい多重露光を用いた、心象風景描写の映像が美しい。合戦描写も白黒映像が不利になるどころか、荒れたフィルムの質感によるリアリティで、本当の戦場を撮影したかの様。まあ歴史考証面では、今となっては甘い所もあるのだろうけど…月形龍之介演じる信長のいい上司感は、現代的じゃないか。
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2023.09.27

鞍馬天狗 江戸日記

観てみた。嵐寛寿郎主演、松田定次監督映画。1939年公開。

「鞍馬天狗」とは黒覆面に回転拳銃を携え、騒然たる幕末の巷に颯爽と現れる勤皇の志士である。その頃の江戸では幕府の権威を笠に着た、根岸丹後守率いる黒頭巾の一党が、悪逆の限りを尽くしていた。その現場にたまたま立ち会い怒りを覚えた鞍馬天狗は、根岸一党の正体に迫っていくのだが…という内容。

日活の製作による戦前時代劇。大佛次郎による小説から映画化された有名な時代劇ヒーローだが、黒覆面に拳銃というスタイルは本作主演のアラカンにより創案されたものだとの事(その為原作者はお冠)。本作も保存状態はあまり良くはない上に、現存しているのが63分とかなりの部分が失われてしまった模様。

しかも思いっきり続編に引いてるクリフハンガーエンド。…とは言えクライマックスのチャンバラシーンは見応えがあり、アラカンの存在感に加えて、「縦(前後方向)の移動」を大胆に採り入れた、ダイナミックな立ち回りには唸らされる。
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2023.09.26

宮本武蔵 / 草分の人々・栄達の門

観てみた。片岡千恵蔵主演、稲垣浩監督映画。1940年公開。

関ヶ原の合戦より後。剣の道を志す宮本武蔵はその腕前で評判になるものの、彼を慕うお通という女性への未練に悩む。そんな時武蔵と並び立つ剣豪・佐々木小次郎と出逢い、やがて二人は決闘の場に臨む事となって…という内容。

日活製作による戦前時代劇。本作もトーキーだけど、音質や画質は時代なりかなあ。とは言え不鮮明な白黒撮影がまるで墨絵の様で、「無法松の一生」で知られる稲垣監督が見せる、神秘的とも言える画面が素晴らしい。3部作ながらその殆どが失われた総集編の本作、断片的な映像だけでも観る価値がある。

ただあまりにもダイジェストで。原作は吉川英治の小説なので婆も出てくるのだけれど、何か事情説明もなしにいきなり恨んでる。しかも武蔵のまともな立ち合いは巌流島だけで、婆やお通の出番の方が多いじゃん。それでもその巌流島場面における緊張感や映像美が素晴らしすぎて、これは名作としか言えないな。
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2023.09.24

春秋一刀流

観てみた。片岡千恵蔵主演、丸根賛太郎脚本、監督映画。1939年公開。

千葉道場を破門となり、用心棒稼業を続ける平手造酒。彼はある日只木巌流と再会、更に身投げを止めていた多聞重兵衛と出逢った。意気投合した3人は笹川繁蔵親分に用心棒として雇われ、侠客同士の抗争で活躍する。だが道場の開設を夢見るも造酒は大病で床に臥せり、更に巌流と重兵衛は…という内容。

日活製作による戦前時代劇。本作もトーキーだが保存状態が悪く、音質はザラザラ画質はボロボロ。しかし内容は大変に素晴らしく、本作の脚本を主演の片岡に見初められた丸根は、戦没した山中貞雄の再来と絶賛されたとの事。

厭世的な上に悲愴、まるで戦争末期の惨状を予見したかの様な内容で、反戦的な空気感に驚くが…(対米開戦前だから許されたんだろうけど)これがもう少し後だったら、上映も難しかったかも。ラストシーンでの千恵蔵を捉えた長廻しも衝撃的で、本作の知名度が殆ど無なのは保存状態一つのせいじゃないかと。
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2023.09.23

「A‐10奪還チーム 出動せよ」スティーヴン・L・トンプスン著、高見浩訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編冒険小説。1980年発表。

画期的な新式装備を搭載した米軍の攻撃機「A-10」が、欧州での演習に参加する情報を掴んだソ連軍。同機を東独領内に強制着陸させる作戦を実行する。だが同地には、アメリカ軍の「奪還チーム」が存在しており…といいう内容。

アメリカ空軍出身の著者による、処女作品となるのが本書。そのA-10の新式装備というのが「思考操縦装置」で、ファイアフォックスやドリームスター(戦闘機チーターの追撃)と同じやつ。A-10なのになぜかAAMスパローまで搭載して、MiG-25を撃墜するというすごい活躍。でも実は、本書での主役ではない。

主役は奪還チームが乗る改造マシンで、フォード・フェアモント。後半はこの車両と東独・ソ連軍が激しいカーチェイスを繰り広げ、景山民夫を始めとする読者から高く評価された。ただどうも登場人物が人間的魅力に欠け、加えて何でかベンツ等の西独車両に乗っている。トラバントじゃカッコつかないからかなあ…
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2023.09.21

江戸の春 遠山櫻

観てみた。尾上菊太郎主演、荒井良平監督映画。1936年公開。

遊び人の金さんこと遠山金四郎は、博打三昧でやくざ者とも付き合いのある自堕落振り。だが彼は実は北町奉行遠山金左衛門の長男で、家督を継ぐ身にあったのだが、肌に入れた桜吹雪の刺青の為に家へ戻る事を躊躇う。そんな頃足を洗った筈の仲間が、止むに止まれず再び犯罪に手を染めて…という内容。

お馴染み「遠山の金さん」を描いた戦前の時代劇映画。製作は日活で、やはりトーキー。こちらも割と音質的に悪くはないが、人物が後ろを向いて喋る台詞の音が籠ったり、歌の音量を下げずに台詞にかぶせたりと未熟な点はある。

内容は金さんが北町奉行になるまでを描いた話で、よく観たTVドラマとは少々印象が違う。派手な立ち回りもないし、お裁きでのすごんで片肌脱ぐ例のシーンすらない(袖をちょっとまくるだけ)。まあコメディ調の人情噺という辺りの戦前感がよいと言えばよいので、パターン化していない金さん像を楽しむ映画では。
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2023.09.20

元禄快挙余譚 土屋主税 雪解篇

観てみた。林長二郎主演、犬塚稔監督映画。1937年公開。

主君・浅野内匠頭の仇である吉良上野介邸へ討入りし、見事復讐を果たした四十七士の赤穂浪士。その際隣の屋敷の主人で、明かりを灯し彼らを助けたとされるのが「土屋主税」。本作はそのエピソードを題材にしている…という内容。

まあぶっちゃけ今回初めて聞いた話なのだが、その土屋主税を(後の長谷川 一夫である)林長二郎が演じている。…本作公開は日中戦争開始と同じ昭和12年なので、当時は今考えるよりももっとポピュラーな題材だったんだろうな。加えて本作は初期のトーキー映画として製作されており、それも仲々興味深い。

自分が知っている日本の初期トーキーだと、同年公開の「人情紙風船」辺りを思い浮かべるのだが…そちらと較べると、本当に録音が良く台詞も聴き取りやすくて驚いた。人情〜の製作はPCL(後の東宝)で本作は松竹。当時の映画界事情は正直全く知らないけれど、そうした技術的な差というのはあったのかも。
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2023.09.18

ザリガニの鳴くところ

観てみた、オリヴィア・ニューマン監督映画。2022年公開。

ノースカロライナ州の湿地帯で、チェイスという男性の死体が発見された。容疑者として捕えられたのは、同地で長年孤独に暮らし「湿地の娘」と呼ばれるカイアだった。彼女の家庭は暴力的な父親の為に離散し、恋人であるテイトも彼女を捨てて去った。そんな時に彼女が出会ったのが、チェイスで…という内容。

ザリガニの鳴く頃に…じゃなく「ところ」。本作の原作は、ディーリア・オーウェンズの同名小説。自身生物学者との事で、原作では湿地帯の生物相を魅力的に描いているとの事(未読)。ただ本作映画版の場合、自然描写として撮りたい絵はお手軽にCGで再現してしまっているので、あまりすごいとは感じないかな。

著者が密猟者への厳しい対応で知られているというのは、本作との関連から考えると結構興味深いかも。まあミステリというかサスペンスというか…それらを踏まえた著者自身の思想が反映した、「女の一代記」作品なんじゃないかな。
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2023.09.17

ANIARA / アニアーラ

観てみた、ペラ・コーゲルマン監督映画。2019年公開。

近未来の地球。環境の激変により住処を失った人類は、宇宙船「アニアーラ」に乗って火星移住へと旅立った。ところが事故により燃料を喪失し操縦不能となった同船は、八千名もの人々と共に宇宙の迷子となってしまい…という内容。

スウェーデンのノーベル賞作家、ハリー・マーティンソンの原作を映像化したSF映画。面白いのは原作は小説ではなく、「詩」だとの事。そう言われるとSF的なガジェットやアイデアより、過酷な環境に置かれた人々の心理状態やカルト宗教的な混沌を中心に描いている。そのせいか、正直退屈だったのだけれど…

とは言えSF作品として、本作が近いのは多分「タウ・ゼロ」。同じく宇宙で迷子になった宇宙船の行く末を描いたそちらと較べたら、本作は展開の規模も描写もこじんまりしたものだが(むしろ第三宇宙速度は出てたのかよと)…本作で見られる物語の着地は、これはしっかり「SF」を感じさせてくれたので、よかった。
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2023.09.15

エスター

観てみた、ジャウム・コレット=セラ監督映画。2009年公開。

流産したばかりのケイトと夫のジョンは孤児院を訪れて、エスターという9歳の少女を養子として迎える事にする。少々奇矯な点こそあるものの、年齢に似合わない利発さを見せるエスター。だが彼女は何故か、周囲には上手く溶け込めないでいた。そんな時孤児院のシスターが、彼女を訪ねてきて…という内容。

少女版「オーメン」といった趣向のサスペンス/ホラーだが(池の氷の件りはリスペクト?)、ある設定の「一点」を以てして、本作を傑作たらしめていると言ってよいだろう。ところが自分は、その肝心な設定をどこかで聞いていたらしく、エスターの顔が画面に映った瞬間、「ああ、〇〇〇〇なヤツか」と。…うへえ、台無し。

なので結局、驚きもなんにもなしに最後まで観てしまった訳で…まあ、有名作なので仕方ないな(ここでは一応黙っておく)。ただ設定だけで言うなら、日本のアニメだとそんなに珍しくもないな。こんだけ凶暴なのは、あまりいないけど。
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2023.09.14

「摩天楼の身代金」リチャード・ジェサップ著、平尾圭吾訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編冒険小説。1981年発表。

ある日トニオは、自殺しかけたエリノアを救う。そんな彼はベトナムで囚われた双子の弟を取り戻す為、一つの計画を進めていた。それはNYに建設された巨大ビルに爆弾を仕掛け、「身代金」を手に入れるというもので…という内容。

映画化もされた「シンシナティ・キッド」の著者による、もう一つの代表作だが…ジェサップ本人は、本書刊行の翌年にこの世を去っている。そう聞くと、自身の痕跡を綺麗に消し去って姿を隠す主人公の姿とも重なって、少々センチな気持ちになったり。とは言え本書は手に汗握る、ドライブ感に溢れた痛快エンタメ作。

本書で特筆されるのは「身代金」の入手方法で、著者独自のアイデアが大変にお見事。そのやり口があまりにもスマートなので、なんか犯罪者なのにクリーン・義賊的な印象まであるけれど…余計な殺しを一杯してるので、まあ気のせいだと思う。しかしあの英王女はなんの為に出てきたのか、よくわかんないな。
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2023.09.12

マリグナント / 狂暴な悪夢

観てみた。A・ウォーリス主演、ジェームズ・ワン監督映画。2021年公開。

何度も流産を繰り返していたマディソン。ある夜、彼女の夫が何者かに惨殺されてしまう。それ以降彼女は、恐ろしい殺人現場のビジョンを目撃する事に。犯人はどうやら過去にどこかの研究所に囚われていた際、怨みを覚えた人々を手に掛けているらしい。しかも犯人は、マディソンとは旧知である様で…という内容。

なんだこのリボーンズガンダム。途中までは正直、ダリオ・アルジェントみたいな感じか…としか思わなかったんだけど。鮮烈な色彩を駆使したイタリアンホラー風から一転、アクションホラーと化してからは本当に面白くて仕方なかった。

馬鹿馬鹿しさが天元突破してるもんで、呆れながらも感心してしまう。ホラーとしては過去に見た様なアイデアの集合体ながら、それをセンスよく独自の世界にまとめ上げる手腕は大したもんだ。あまりにも素っ頓狂すぎて、本作で怖がる人はいなさそうだけれど…でもアルジェントなら、デモンズ辺りには近いかも?
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2023.09.11

NOPE / ノープ

観てみた。ジョーダン・ピール脚本、監督映画。2022年公開。

父親が上空からの落下物に直撃されて死亡して、牧場を継いだのが息子であるOJ。ところが経営は上手くいかず、妹のエメラルドと共に先行きを模索する中、牧場の周囲で不可思議な現象が起きている事に気付いて…という内容。

予測不能な展開で話題になった本作。一応SF/ホラー映画として紹介されるものの…アマプラのジャンル分けにある、「知性に訴える」というのは買いかぶり過ぎではなかろうか。まあ作り手は本作に象徴的・隠喩的な描写を張り巡らせたとの事らしいけど、自分には単に勿体ぶってるだけにしか見えなかったもんで。

観終わってみれば、要するに「あの映画」に似ているな…という感じだったが、ここでは意外性を尊重してネタバレは控えておく。まあ個人的には妹ちゃんの着ていたJesus LizardのTシャツと、手回しのフィルムカメラはちょっと好き。ただ出すだけ出しておいて、結局現像した映像として見せなかったのは減点だな。
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2023.09.09

「スリーパーにシグナルを送れ」R・リテル著、北村太郎訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編スパイ/冒険小説。1986年発表。

ソ連の潜入スパイ=スリーパーを育成する教官、通称・陶工は窮地に立っていた。そんな彼に、海外脱出の手助けをする何者かが現れる。その目的は陶工が育て米に潜伏させた、スリーパーに指令を与える事で…という内容。

その指令というのが実際の歴史的な大事件を思わせるものなのだが、本書はある意味「ジャッカルの日」(1971年)におけるドキュメンタルな手法を、その事件(後書では平気でネタバレしてるけど、まあ一応伏せる)に当て嵌めた作品と言えるかもしれない。ただ本書はそちらと違い、シリアス一辺倒という訳でなく…

シニカルなユーモアと、ユニークなキャラクター描写(コーエン兄弟の映画っぽいかも)が特徴として挙げられる事が多い。基本的には陰惨なスパイ合戦なので、少々おふざけ感すらある筆致は賛否ありそうなのだが。…とは言え、単なるジャッカル・フォロワーとはいいがたい印象を、本書に与えているのは確か。
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2023.09.08

「伝説のプラモ屋 / 田宮模型をつくった人々」田宮俊作著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/自伝。2007年発表。

戦後の静岡で木材業として出発し、プラスチック・モデルの販売で世界的な企業となった「タミヤ」。本書では二代目社長である著者が、多くの人々と協力して歩んできたプラモデルの道を、様々なエピソードと共に振り返る…という内容。

本書は2004年に刊行された、「田宮模型をつくった人々」の改訂文庫版。同著者はその前に「田宮模型の仕事」(1997年)という本も執筆しているけれど…そちらが一応同社の沿革に基づく時系列に沿った本なのに対して、本書はタミヤに関わった人々を気の赴くままに紹介した、人物伝・紳士録とでも言った趣き。

「日本プラモデル50年史」を先に読んでいると、オヤ?と思う記述もあって仲々興味深い(初期はタミヤだって結構イリーガルだったって事かも)。勿論基本的には心温まるエピソード中心なので、気軽に読めるとは思うものの…楽器おじさんことカルロス・ゴーンに対しては、今どんな風に思ってらっしゃるのかなあ?
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2023.09.06

「ガンプラ・ジェネレーション」五十嵐浩司編

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読んでみた、日本の出版社によるムック/バラエティ書籍。1999年発表。

1980年。バンダイより発売された、アニメ「機動戦士ガンダム」に登場するロボットのプラモデル、通称「ガンプラ」が熱狂的なブームを巻き起こした。本書はガンプラの発売20周年を記念して、その歴史を振り返っていく…という内容。

本書からも更に20年が過ぎて、益々「一大産業」という存在感を呈する様になったガンプラ。本書は商品誕生から、当時のプラモデル業界を振り返り、加えてアニメ作品からも離れた「MSV」シリーズへと発展する端緒となった、コミックボンボン〜漫画「プラモ狂四郎」を、特に力点を置いて紹介しているのが特徴。

個人的には当時その辺の雑誌展開は、ほぼノータッチで過ごしてしまったので、仲々に興味深い。特に幻の企画となった「MS-X」(アニメUCに登場したギガンの元ネタ)等、本書で読める記事はやはり貴重。まあ仮に当時その「重要度」を知っていても、やっぱりボンボンは読まなかったろうな…とも思ったけれど。
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2023.09.05

「'80sリアルロボット プラスチックモデル回顧録」あさのまさひこ、五十嵐浩司著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/対談集。2022年発表。

「ガンプラ」の大ブームをきっかけに、日本のプラモデルメーカー各社が争う様に「リアルロボット」のプラモデルを発売した1980年代前半。本書ではブームをリアルタイムで体験した著者が、当時の栄枯盛衰を回顧する…という内容。

前掲書の「20世紀のプラモデル物語」は、自分の年代よりもだいぶ前の話だったので、知らない事ばかり。逆に本書はリアルタイム世代ながら、自分は(どちらかと言うと)モリナガ本に親近感を覚える人な筈なので、あまり知らなそう…と思ったら、書いてある事ほぼ全部判った。判ってしまう自分に驚いてしまった。

と言うのも多分MSVにしろダグラムにしろ、モデグラ誌が特集の際に当時の再検証や関係者の取材記事を載せており、それを読んでいたからだな。本書もブームの総括という意味では画期的な切り口の本だが、モデグラのは一月で店頭から消えるには勿体ない内容(アーカイヴスは作例がメインだし)なんだよな。
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2023.09.03

「20世紀のプラモデル物語」平野克巳著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/エッセイ集。2008年発表。

戦艦大和や零戦に、サンダーバード等々と…日本の初期「プラスチックモデル」の歴史を、少年の目でリアルタイムに追って来た著者が、その時々で愛好した様々なプラモデルを、思い出とともに紹介していくエッセイ集…という内容。

2000年よりモデグラ誌で連載された記事をまとめたのが本書。刊行は「日本プラモデル50年史」と同じく50周年に合わせたものの様だが、(業界史的な前掲書と違い、個人的な回想録ながら)先行した内容となっている。本書で紹介された数々のキットは「50年史」でも、主に口絵ページで紹介されていて、ほおと。

本書で扱っているのは「珍キット」に類する物が多いので、業界の公式見解として正面切って採り上げるべき対象からは、外れている様に思う。でもピンポイントで「いい所を突いた」チョイスなのは、上記書での扱いを見ても判る訳で。そういう意味で少年時代の著者は、鋭い着眼点といい選別眼を持ってたのだな。
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2023.09.02

「小説 不如帰(しょうせつ ほととぎす)」徳冨蘆花著

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読んでみた、日本人作家による長編小説。1900年発表。

浪子は、川島武男海軍少尉の許に嫁ぐ。幼い頃に実母を亡くし、義母の為に侘しい生活を続けた彼女は、姑との不和にも耐えられた。ところが彼女は肺病を患った事で、夫からは愛されながらも実家に戻されてしまい…という内容。

明治期の大ベストセラーとなった作品。一言でいえばメロドラマだけど…最近アニメで見ている「わた婚」から、異能バトルを抜いた感じとでも言うか。お家の事情に翻弄される日本女性の悲劇を描いた辺り、当時の読者の心を掴んだのだろう。その後の日本の作品における、心情的な根幹が備わっている様に思う。

これまるで「泣きゲー」だなという(今でならクリシェとも言うべき)展開は、やはり日本人の内的感情に強く訴えかけるものがある。…その反面、急に日清戦争における「黄海海戦」が始まったのにはビックリ(後に日本の戦利艦となる清国戦艦「鎮遠」も登場)。こういう辺りも、わた婚に先駆けていると言えば言えるか。
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