観てみた。J・フーティアイネン主演、A・カウリスマキ監督映画。2006年公開。
夜間警備員のコイスティネンは、職場にも身近にも友人を持たず孤独な生活を送る。一旗揚げるべく起業を目指すそんな彼の前に、ミルヤという魅力的な女性が現れた。彼女に惹かれるコイスティネンは自分の夜間警備に同行させてしまう。その為に宝石泥棒が発生、共犯を疑われた彼は投獄され…という内容。
「浮き雲」「過去のない男」と共に、いわゆるフィンランド三部作を成すのが本作。何度も書くのもあれではあるが、まあいつも通りのカウリスマキ。その三作は「敗者三部作」とも呼ばれており、本作の主人公もひどい目に遭い続ける話。
ただ本作の大筋自体はフィルムノワールとも言えるもので、やせがまんする主人公像はハードボイルド的。それが毎度お馴染みの映像や演出を経ると、「いつも通りの」作品になってしまうのだがら、カウリスマキの引力はジャンルよりも強い。楽しい映画とは毛ほども思わないけれど…そういう意味でもユニークだ。
2023.10.31
2023.10.30
「真夜中のデッド・リミット」スティーヴン・ハンター著、染田屋茂訳
読んでみた、米人作家による軍事テクノスリラー/冒険小説。1989年発表。
ある日米国山中の核ミサイル発射施設が、謎の武装集団により占拠された。彼らが強固な防壁を溶解させ、ミサイルを発射させる刻限が翌日0時。デルタフォースや開発者が集まり、この困難な状況に立ち向かうのだが…という内容。
「極大射程」等のスワガー・シリーズで知られる、著者による初期作。「レッド・オクトーバーを追え」が1984年の発表なので、そのフォロワー的作品として後書でも紹介されてはいるけれど…それ以前の冒険小説・スパイ小説・戦争小説の、合わせ技みたいな印象がした。特に人物描写の辺りで、顕著に感じたかも。
本書では主役っぽく登場した軍人が案外パッとせず、「英雄らしからぬ人々が見せる英雄的行為」のドラマ(自己犠牲と言ってしまうと悲劇的だが)に熱くなる。本書で扱う軍事情報は流石に古びた感もあるものの、当初は「何のために出てるのこの人?」という人物への脚光の当て方は、名人芸的じゃなかろうか。
2023.10.28
マッチ工場の少女
観てみた。K・オウティネン主演、A・カウリスマキ監督映画。1990年公開。
マッチ工場で働くイリスは収入の乏しい中、同居する母と継父の生活の面倒まで見ていた。そんな中彼女は、衝動買いしたドレスを両親に見とがめられて、家から飛び出る。アールネという裕福な男と一夜を共にしたイリスは、彼との交際を望んだものの拒絶を受ける。しかも、彼女の妊娠が発覚して…という内容。
例によって主人公に不幸ばかり降りかかる話ではあるので、本作もカウリスマキらしい…と言うか、案外サスペンス的だったりする。殺人や交通事故が起きるのに、肝心の映像を見せない手法は同監督のおはこだが、本作だと普段通りのユーモア的演出にはならず、緊張感を高める作用をしている様にも思う。
加えて結末もバッドエンドと言えばまあバッドエンドなのだけれど…それでもカウリスマキらしい、「やさしさ」があるんじゃないかな。ひどい話なのに、ヒロインの容貌は後半に行くに従って、明らかに「綺麗」に見える様に撮ってもいるし。
マッチ工場で働くイリスは収入の乏しい中、同居する母と継父の生活の面倒まで見ていた。そんな中彼女は、衝動買いしたドレスを両親に見とがめられて、家から飛び出る。アールネという裕福な男と一夜を共にしたイリスは、彼との交際を望んだものの拒絶を受ける。しかも、彼女の妊娠が発覚して…という内容。
例によって主人公に不幸ばかり降りかかる話ではあるので、本作もカウリスマキらしい…と言うか、案外サスペンス的だったりする。殺人や交通事故が起きるのに、肝心の映像を見せない手法は同監督のおはこだが、本作だと普段通りのユーモア的演出にはならず、緊張感を高める作用をしている様にも思う。
加えて結末もバッドエンドと言えばまあバッドエンドなのだけれど…それでもカウリスマキらしい、「やさしさ」があるんじゃないかな。ひどい話なのに、ヒロインの容貌は後半に行くに従って、明らかに「綺麗」に見える様に撮ってもいるし。
2023.10.27
浮き雲
観てみた。K・オウティネン主演、A・カウリスマキ監督映画。1996年公開。
給仕長として働くイロナと、市電の運転士である夫・ラウリ。つましく暮らす2人は、勤め先のレストラン買収と市電運行の整理で、夫婦同時に働き口を失う。イロナは小さな食堂に職を見つけたのだが、経営者とのゴタゴタで暴力沙汰に。加えて新たに店を開く計画を立てたものの、資金集めに難航して…という内容。
ソ連崩壊等でフィンランド通貨「マルッカ」が打撃を受けたという、同国の通貨価値下落による不況を背景に描いた作品。…らしいんだけど、同監督作品としては特別違ってる感じもなく、やっぱり主人公夫婦が色々とつらい目に遭う話。
とは言え持ち前のユーモアは健在で、「駄目だこりゃ」という事態が発生するたび逆にクスリとしてしまうのは、自分もだいぶカウリスマキ作品を観る要領が判ったからだろうか。…とは言え最終的には何だかんだハッピーエンドだし、「かもめ食堂」を連想させるレストランは、日本的な琴線に触れるんじゃないか。
給仕長として働くイロナと、市電の運転士である夫・ラウリ。つましく暮らす2人は、勤め先のレストラン買収と市電運行の整理で、夫婦同時に働き口を失う。イロナは小さな食堂に職を見つけたのだが、経営者とのゴタゴタで暴力沙汰に。加えて新たに店を開く計画を立てたものの、資金集めに難航して…という内容。
ソ連崩壊等でフィンランド通貨「マルッカ」が打撃を受けたという、同国の通貨価値下落による不況を背景に描いた作品。…らしいんだけど、同監督作品としては特別違ってる感じもなく、やっぱり主人公夫婦が色々とつらい目に遭う話。
とは言え持ち前のユーモアは健在で、「駄目だこりゃ」という事態が発生するたび逆にクスリとしてしまうのは、自分もだいぶカウリスマキ作品を観る要領が判ったからだろうか。…とは言え最終的には何だかんだハッピーエンドだし、「かもめ食堂」を連想させるレストランは、日本的な琴線に触れるんじゃないか。
2023.10.25
パラダイスの夕暮れ
観てみた。M・ペロンパー主演、A・カウリスマキ監督映画。1986年公開。
ゴミ収集車の運転手を仕事にするニカンデル。彼はめかしこんでスーパー従業員の女性・イロナとデートに出るものの、呆気なく振られてしまった。ところがイロナは勤め先から解雇され、行く宛を失った彼女はニカンデルと同棲する成り行きに。これで一件落着と思いきや、2人の関係は順風ではなく…という内容。
カウリスマキによる第3作。常連出演者のマッティ・ペロンパーとカティ・オウティネンが、初めて(多分)主役としてカップルを演じている。本作は後に「労働者三部作」と呼ばれる様になるのだが…設定が労働者なだけで、一応はストレートな恋愛映画(真夜中の虹みたいに、犯罪映画になったりはしないし)ではある。
人物は殆ど内心を台詞で語らないので、すれ違い傷つけあう関係がむしろ(ゴミ収集の単調さの一方、突然の暴力や死が挿入されたりも)シュールですらある。そういう意味では、「ストレート」でない気もするけど…まあカウリスマキだし。
ゴミ収集車の運転手を仕事にするニカンデル。彼はめかしこんでスーパー従業員の女性・イロナとデートに出るものの、呆気なく振られてしまった。ところがイロナは勤め先から解雇され、行く宛を失った彼女はニカンデルと同棲する成り行きに。これで一件落着と思いきや、2人の関係は順風ではなく…という内容。
カウリスマキによる第3作。常連出演者のマッティ・ペロンパーとカティ・オウティネンが、初めて(多分)主役としてカップルを演じている。本作は後に「労働者三部作」と呼ばれる様になるのだが…設定が労働者なだけで、一応はストレートな恋愛映画(真夜中の虹みたいに、犯罪映画になったりはしないし)ではある。
人物は殆ど内心を台詞で語らないので、すれ違い傷つけあう関係がむしろ(ゴミ収集の単調さの一方、突然の暴力や死が挿入されたりも)シュールですらある。そういう意味では、「ストレート」でない気もするけど…まあカウリスマキだし。
2023.10.24
愛しのタチアナ
観てみた。M・ヴァルトネン主演、A・カウリスマキ監督映画。1994年公開。
仕立て屋である母親の仕事を手伝う中年男・ヴァルト。彼は自動車修理工のレイノと共に、愛車に乗ってあてのないドライブに出発する。そんな時出会ったのが、ロシア人のクラウディアとエストニア人・タチアナという外国人旅行者。帰国の船に乗りたいと言う彼女達を、港まで送る事になったのだが…という内容。
これもまあ、いつものカウリスマキ映画としか言いようがないものの、本作は特に(白黒映像という事もあって?)「ジャームッシュっぽい」という意見が見られる感じかな。…加えて主人公コンビの「ロックン・ローラー気取り」は、リンチ監督の「ワイルド・アット・ハート」(1990年)辺りとの同時代性が見て取れるかも。
とは言え騒々しいリンチ映画とは違い、こちらは結局「人生の苦み」みたいな辺りに着地するのがカウリスマキ流か。ただ「真夜中の虹」の持つファンタジー性すらないから、面白くはないな正直。それでもなんか「いい映画」感はある。
仕立て屋である母親の仕事を手伝う中年男・ヴァルト。彼は自動車修理工のレイノと共に、愛車に乗ってあてのないドライブに出発する。そんな時出会ったのが、ロシア人のクラウディアとエストニア人・タチアナという外国人旅行者。帰国の船に乗りたいと言う彼女達を、港まで送る事になったのだが…という内容。
これもまあ、いつものカウリスマキ映画としか言いようがないものの、本作は特に(白黒映像という事もあって?)「ジャームッシュっぽい」という意見が見られる感じかな。…加えて主人公コンビの「ロックン・ローラー気取り」は、リンチ監督の「ワイルド・アット・ハート」(1990年)辺りとの同時代性が見て取れるかも。
とは言え騒々しいリンチ映画とは違い、こちらは結局「人生の苦み」みたいな辺りに着地するのがカウリスマキ流か。ただ「真夜中の虹」の持つファンタジー性すらないから、面白くはないな正直。それでもなんか「いい映画」感はある。
2023.10.22
真夜中の虹
観てみた。トゥロ・パヤラ主演、アキ・カウリスマキ監督映画。1988年公開。
炭鉱が閉山して職を失ったタイスト・カスリネンは、自殺した父のキャデラックに乗って南の町へと走る。彼はそこでイルメリと息子のリキと出逢い、交流を持つ。ところがカスリネンは彼が以前金を奪われた悪党と、格闘している所を捕まって投獄。彼は刑務所で、ミッコネンという男と同室になったのだが…という内容。
本作は同監督では5本目で、(日本だと翌年のレニングラード〜で注目された記憶だし)比較的初期の作品。作風としては既に完成しているけれど、オフビートな感覚は同時期のヴェンダースや、ジャームッシュとの共通点が窺える。
主人公がひたすら不幸になってどんどん社会の暗黒面に堕ちるという、下手したら社会派にでもなりそうな題材ではあるものの…まあカウリスマキだし。常に飄々とした時間が過ぎていく。とは言え後のもっと枯れた作品を知ってると、むしろ若者らしい(本作当時31歳)感性で作られた映画かもしれない。これでも。
炭鉱が閉山して職を失ったタイスト・カスリネンは、自殺した父のキャデラックに乗って南の町へと走る。彼はそこでイルメリと息子のリキと出逢い、交流を持つ。ところがカスリネンは彼が以前金を奪われた悪党と、格闘している所を捕まって投獄。彼は刑務所で、ミッコネンという男と同室になったのだが…という内容。
本作は同監督では5本目で、(日本だと翌年のレニングラード〜で注目された記憶だし)比較的初期の作品。作風としては既に完成しているけれど、オフビートな感覚は同時期のヴェンダースや、ジャームッシュとの共通点が窺える。
主人公がひたすら不幸になってどんどん社会の暗黒面に堕ちるという、下手したら社会派にでもなりそうな題材ではあるものの…まあカウリスマキだし。常に飄々とした時間が過ぎていく。とは言え後のもっと枯れた作品を知ってると、むしろ若者らしい(本作当時31歳)感性で作られた映画かもしれない。これでも。
2023.10.21
仕掛人・藤枝梅安
観てみた。豊川悦司主演、河毛俊作監督映画。2023年公開。
「仕掛人」として、密かに人を殺める稼業の男・藤枝梅安。彼の今回の標的は、おせきという料理屋の女主人だった。彼女と出逢った梅安は、嘗て生き別れになった妹の面影を見て取る。一方彼は凄腕の侍が大勢の追っ手を斬り倒す現場に出くわす。再び遭遇したその侍は、梅安の後を付けて来て…という内容。
池波正太郎の同名シリーズを原作とする本作は、「おんなごろし」と「梅安晦日蕎麦」という2本の短編がベース。そちらを134分の映画にしている訳で…これ流石にちょっと、長々やりすぎでは。「必殺」みたいな過度の味付けは無い代わりに、耽美色が強まっており、原作での淡々として簡素な味わいとは違う感が。
特に音楽が川井憲次なので、例の毎度同じ引き出しだから、独特と言えば独特な梅安ではある。加えて長々やった後に(アメコミ映画みたいに)続編の前振りまでやるのには参った。70年一気にジャンプしたら、時代劇も変わるわな…
「仕掛人」として、密かに人を殺める稼業の男・藤枝梅安。彼の今回の標的は、おせきという料理屋の女主人だった。彼女と出逢った梅安は、嘗て生き別れになった妹の面影を見て取る。一方彼は凄腕の侍が大勢の追っ手を斬り倒す現場に出くわす。再び遭遇したその侍は、梅安の後を付けて来て…という内容。
池波正太郎の同名シリーズを原作とする本作は、「おんなごろし」と「梅安晦日蕎麦」という2本の短編がベース。そちらを134分の映画にしている訳で…これ流石にちょっと、長々やりすぎでは。「必殺」みたいな過度の味付けは無い代わりに、耽美色が強まっており、原作での淡々として簡素な味わいとは違う感が。
特に音楽が川井憲次なので、例の毎度同じ引き出しだから、独特と言えば独特な梅安ではある。加えて長々やった後に(アメコミ映画みたいに)続編の前振りまでやるのには参った。70年一気にジャンプしたら、時代劇も変わるわな…
2023.10.19
「暗闇の丑松」より 初姿丑松格子
観てみた。島田正吾主演、滝沢英輔監督映画。1954年公開。
岡っ引き・常吉の追う殺しの下手人、料理人の丑松。彼は惚れ込んだ女中・お米と祝言を挙げたのだが、彼女に懸想する男を手に掛けてしまったのだ。丑松は田舎へと逃げ延びてほとぼりを冷ましたものの、お米の行く末が気に掛かり江戸へと足を向ける。そんな彼が、投宿した先で出逢ったのは…という内容。
原作は長谷川伸による「暗闇の丑松」だが、これは彼が唯一手掛けた歌舞伎。そちらを橋本忍が、映画作品として脚色している。…本作の主人公は料理人なので派手なチャンバラこそないものの、凄絶な復讐劇にして虚無感を催させる不条理劇でもあるので、GHQ検閲下では映画化は難しかったかもしれない。
個人的にクライマックスでの丑松の姿から、「灰とダイヤモンド」(1958年)を連想させられる辺り、(原作の歌舞伎は戦前の執筆だけれど)同時代的な感性と感情で通底しているように思う。「瞼の母」とは、違う意味で泣かされるなあ。
岡っ引き・常吉の追う殺しの下手人、料理人の丑松。彼は惚れ込んだ女中・お米と祝言を挙げたのだが、彼女に懸想する男を手に掛けてしまったのだ。丑松は田舎へと逃げ延びてほとぼりを冷ましたものの、お米の行く末が気に掛かり江戸へと足を向ける。そんな彼が、投宿した先で出逢ったのは…という内容。
原作は長谷川伸による「暗闇の丑松」だが、これは彼が唯一手掛けた歌舞伎。そちらを橋本忍が、映画作品として脚色している。…本作の主人公は料理人なので派手なチャンバラこそないものの、凄絶な復讐劇にして虚無感を催させる不条理劇でもあるので、GHQ検閲下では映画化は難しかったかもしれない。
個人的にクライマックスでの丑松の姿から、「灰とダイヤモンド」(1958年)を連想させられる辺り、(原作の歌舞伎は戦前の執筆だけれど)同時代的な感性と感情で通底しているように思う。「瞼の母」とは、違う意味で泣かされるなあ。
2023.10.18
すっ飛び駕
観てみた。大河内傳次郎主演、マキノ雅弘監督映画。1952年公開。
数寄屋坊主は表の顔、実は強請り集りを生業とする河内山宗俊。彼はある日、奥州棚倉藩の金子市之丞と言う青年を救った。彼は藩で行われていた不正を糾弾するも、逆に身を危うくしていたのだ。様々な人々の思惑が交錯する中、事態を打開する為宗俊は身分を偽り、棚倉藩へと乗り込むのだが…という内容。
タイトルから駕籠屋の話かと思ったら、主人公は河内山宗俊。まあ大抵の人はこの名前から山中貞雄の映画を思い出すだろうけれど、実は講談「天保六花撰」に登場する人物。本作に関しては子母沢寛の同名小説を原作としている。
しかし本作は音声の状態が悪くて…まあただでさえ大河内傳次郎の台詞は、何言ってるか判らないし。でもその大河内がすごい形相で啖呵を斬る迫力があれば、そんなのもう関係なくなって来る。加えて本作ではセットの広さ、空間の贅沢な使い方に驚いた。雌伏の時を経た時代劇の更なる飛躍を感じさせるね。
数寄屋坊主は表の顔、実は強請り集りを生業とする河内山宗俊。彼はある日、奥州棚倉藩の金子市之丞と言う青年を救った。彼は藩で行われていた不正を糾弾するも、逆に身を危うくしていたのだ。様々な人々の思惑が交錯する中、事態を打開する為宗俊は身分を偽り、棚倉藩へと乗り込むのだが…という内容。
タイトルから駕籠屋の話かと思ったら、主人公は河内山宗俊。まあ大抵の人はこの名前から山中貞雄の映画を思い出すだろうけれど、実は講談「天保六花撰」に登場する人物。本作に関しては子母沢寛の同名小説を原作としている。
しかし本作は音声の状態が悪くて…まあただでさえ大河内傳次郎の台詞は、何言ってるか判らないし。でもその大河内がすごい形相で啖呵を斬る迫力があれば、そんなのもう関係なくなって来る。加えて本作ではセットの広さ、空間の贅沢な使い方に驚いた。雌伏の時を経た時代劇の更なる飛躍を感じさせるね。
2023.10.16
三万両五十三次
観てみた。大河内傳次郎主演、木村恵吾監督映画。1952年公開。
幕末の世。家老・堀田備中守は、開国反対派である公家達へ袖の下を握らせる為の「三万両」を、京都へと運ぶ人選をしていた。彼が選んだのは「ひょうたん」と侮られる浪人・馬場蔵人。京都へと立った蔵人を追うのは、討幕派の浪士達は言うに及ばず、盗賊や家老の娘、更に彼の命を狙う者まで…という内容。
本作は1952年の公開なのでGHQの検閲はもう無かった筈だが、それを想定の上で製作されたからか、まだ名残がある。集団対集団による規模の大きなチャンバラが採り入れられる様になったのに、成る程状況の変化を感じるものの…そうしたシーンでもユーモラスな音楽を流し、印象を緩和している節があるし。
それより本作では、先の戦争に対する「悔恨」や「反省」の念がにじみ出ているのには、ハッとさせられる。これをGHQ受けの為…と考えてしまうのはちと穿ち過ぎなので、これもまた検閲廃止後の自主性・独立性ゆえと見たいところ。
幕末の世。家老・堀田備中守は、開国反対派である公家達へ袖の下を握らせる為の「三万両」を、京都へと運ぶ人選をしていた。彼が選んだのは「ひょうたん」と侮られる浪人・馬場蔵人。京都へと立った蔵人を追うのは、討幕派の浪士達は言うに及ばず、盗賊や家老の娘、更に彼の命を狙う者まで…という内容。
本作は1952年の公開なのでGHQの検閲はもう無かった筈だが、それを想定の上で製作されたからか、まだ名残がある。集団対集団による規模の大きなチャンバラが採り入れられる様になったのに、成る程状況の変化を感じるものの…そうしたシーンでもユーモラスな音楽を流し、印象を緩和している節があるし。
それより本作では、先の戦争に対する「悔恨」や「反省」の念がにじみ出ているのには、ハッとさせられる。これをGHQ受けの為…と考えてしまうのはちと穿ち過ぎなので、これもまた検閲廃止後の自主性・独立性ゆえと見たいところ。
2023.10.15
十六文からす堂 千人悲願
観てみた。黒川弥太郎主演、萩原章監督映画。1951年公開。
「からす堂」と称して辻占いをする、浪人者の易者。彼がお柳という娘を狼藉者の手から救った事から、彼女が父である安五郎親分を殺した下手人を捜している事を知る。からす堂が捜査を進める中、安五郎を使って南部藩の重宝を盗み出した覆面武士が現れる。実はある密命を帯びた、からす堂は…という内容。
本作は大手ではなく「宝プロダクション」という京都の映画会社による製作。1950年に設立され、僅か3年間の作品製作を行った後、1958年には倒産した。独特な雰囲気があるな…と思ったら、多分「上方」時代劇って事なのだろう。
「トンコ節」を始めとする歌も豊富で、明朗な雰囲気はGHQの受けもよかった(?)かも。でもそれなりにチャンバラシーンは入れられているし、拳銃による撃ち合いもあったりする。面白いのは敵の武士と言うのが黒覆面、拳銃を構える姿が悪役なのに鞍馬天狗みたいなところ。まあ、鞍馬山というのは京都だしな。
「からす堂」と称して辻占いをする、浪人者の易者。彼がお柳という娘を狼藉者の手から救った事から、彼女が父である安五郎親分を殺した下手人を捜している事を知る。からす堂が捜査を進める中、安五郎を使って南部藩の重宝を盗み出した覆面武士が現れる。実はある密命を帯びた、からす堂は…という内容。
本作は大手ではなく「宝プロダクション」という京都の映画会社による製作。1950年に設立され、僅か3年間の作品製作を行った後、1958年には倒産した。独特な雰囲気があるな…と思ったら、多分「上方」時代劇って事なのだろう。
「トンコ節」を始めとする歌も豊富で、明朗な雰囲気はGHQの受けもよかった(?)かも。でもそれなりにチャンバラシーンは入れられているし、拳銃による撃ち合いもあったりする。面白いのは敵の武士と言うのが黒覆面、拳銃を構える姿が悪役なのに鞍馬天狗みたいなところ。まあ、鞍馬山というのは京都だしな。
2023.10.13
上州鴉
観てみた。大河内傳次郎主演、冬島泰三監督映画。1951年公開。
関所破りでお尋ね者となっていた、星越の瀧蔵。彼は思うところあって、信州路の旅籠屋・信濃屋で薬売りに扮し投宿していた。そこで瀧蔵は、娘のお光を山形屋藤蔵に身売りした、百姓の佐兵衛と出会う。彼が折角受け取った五十両を、山形屋の子分に巻き上げられるのを、見るに見かねた瀧蔵は…という内容。
前回書いた通りGHQの検閲は1951年に廃止された訳だが、同年公開の本作はまだその影響下にある模様。内容的には股旅物・人情物に入り、意外と派手な雨中の斬り合いもあるものの、死人は出ていないという描写がされている。
それより本作で驚きなのは、旅籠屋を舞台にした所謂「グランドホテル形式」なところ。時代劇として、大変にスマートな構成が採られているけれど…脚本担当は新藤兼人。流石の腕前だが、こんな頃から活動していたんだな。…群像劇なのに、主演の大河内傳次郎の独特な存在感は、やはりすごいものがあるが。
関所破りでお尋ね者となっていた、星越の瀧蔵。彼は思うところあって、信州路の旅籠屋・信濃屋で薬売りに扮し投宿していた。そこで瀧蔵は、娘のお光を山形屋藤蔵に身売りした、百姓の佐兵衛と出会う。彼が折角受け取った五十両を、山形屋の子分に巻き上げられるのを、見るに見かねた瀧蔵は…という内容。
前回書いた通りGHQの検閲は1951年に廃止された訳だが、同年公開の本作はまだその影響下にある模様。内容的には股旅物・人情物に入り、意外と派手な雨中の斬り合いもあるものの、死人は出ていないという描写がされている。
それより本作で驚きなのは、旅籠屋を舞台にした所謂「グランドホテル形式」なところ。時代劇として、大変にスマートな構成が採られているけれど…脚本担当は新藤兼人。流石の腕前だが、こんな頃から活動していたんだな。…群像劇なのに、主演の大河内傳次郎の独特な存在感は、やはりすごいものがあるが。
2023.10.12
天狗飛脚
観てみた。市川右太衛門主演、丸根賛太郎監督映画。1949年公開。
落ち目となった飛脚の天狗屋。そこに長太という風来坊が現れて、蘭学医が必要とする薬を取りに、江戸から大阪まで僅か6日で往復して見せた。彼の「天狗」の如き韋駄天振りは大評判となり、天狗屋に再び活気が戻る。ところがその異能から、彼は同心の桝屋が追っていた俊足の怪盗と疑われ…という内容。
本作も同じく、GHQの検閲のもとに製作された時代劇映画。なのでチャンバラ要素はごく控えめながら、「飛脚」を中心に描いているのは(時代劇映画全体を眺めても)独自性があってよいと思う。不自由が工夫を生んだ、好例だろう。
もちろん右太衛門の存在感は本作の白眉だが…躍動感のある走行場面の演出は、(とっくにトーキー時代ながら)まるでサイレント映画の映像的楽しさに、立ち返ったかの様でもある。1951年にGHQによる検閲は廃止され、時代劇は第二の黄金期を迎える訳だが…本作からは、それと違う可能性を感じてしまうな。
落ち目となった飛脚の天狗屋。そこに長太という風来坊が現れて、蘭学医が必要とする薬を取りに、江戸から大阪まで僅か6日で往復して見せた。彼の「天狗」の如き韋駄天振りは大評判となり、天狗屋に再び活気が戻る。ところがその異能から、彼は同心の桝屋が追っていた俊足の怪盗と疑われ…という内容。
本作も同じく、GHQの検閲のもとに製作された時代劇映画。なのでチャンバラ要素はごく控えめながら、「飛脚」を中心に描いているのは(時代劇映画全体を眺めても)独自性があってよいと思う。不自由が工夫を生んだ、好例だろう。
もちろん右太衛門の存在感は本作の白眉だが…躍動感のある走行場面の演出は、(とっくにトーキー時代ながら)まるでサイレント映画の映像的楽しさに、立ち返ったかの様でもある。1951年にGHQによる検閲は廃止され、時代劇は第二の黄金期を迎える訳だが…本作からは、それと違う可能性を感じてしまうな。
2023.10.10
エノケンの豪傑一代男
観てみた。榎本健一主演、荒井良平監督映画。1950年公開。
戦国時代。戦に敗れた主君・徳川家康を、戦場から逃げ延びさせたのが家臣の弥九郎太。その手柄から褒美を得たものの、文盲の彼はその書状が読めない。一方親友の伊織が松平家の娘と恋仲にあると知って一肌脱ぐも、行き違いから大混乱。更に弥九郎太は、織田信長への使者として遣わされ…という内容。
エノケン主演らしい喜劇作品だが、戦後とは言え時代劇映画がまだGHQの検閲下にあった頃でもあるので、軍国主義を連想させる?好戦的なチャンバラは採り入れられていない(首を撥ねたりはあるものの、あくまでもユーモラス)。
ただ戦前の作品と比較すると、コメディ的なドタバタ(B・キートンを思わせる)も控えめなので、それもGHQのせいかと思ったら…同時期に舞台で足を負傷していたらしい。後に両足切断という大事に至る怪我だが、本作への影響まではちょっと判らない。まあまだまだ元気な頃の、エノケンの姿を楽しめばよいのでは。
戦国時代。戦に敗れた主君・徳川家康を、戦場から逃げ延びさせたのが家臣の弥九郎太。その手柄から褒美を得たものの、文盲の彼はその書状が読めない。一方親友の伊織が松平家の娘と恋仲にあると知って一肌脱ぐも、行き違いから大混乱。更に弥九郎太は、織田信長への使者として遣わされ…という内容。
エノケン主演らしい喜劇作品だが、戦後とは言え時代劇映画がまだGHQの検閲下にあった頃でもあるので、軍国主義を連想させる?好戦的なチャンバラは採り入れられていない(首を撥ねたりはあるものの、あくまでもユーモラス)。
ただ戦前の作品と比較すると、コメディ的なドタバタ(B・キートンを思わせる)も控えめなので、それもGHQのせいかと思ったら…同時期に舞台で足を負傷していたらしい。後に両足切断という大事に至る怪我だが、本作への影響まではちょっと判らない。まあまだまだ元気な頃の、エノケンの姿を楽しめばよいのでは。
2023.10.09
乞食大将
観てみた。市川右太衛門主演、松田定次監督映画。1952年公開。
黒田長政に仕える豪傑・後藤又兵衛は、宇都宮鎮房との戦での大敗の後に仕掛けた夜討で形勢を逆転。その後和睦の席で、彼を討ち取った。鎮房の子・花若が彼に怨みを抱く一方、又兵衛は黒田を出奔。多くの家臣に慕われた彼は、決まった居城を持たぬ「乞食」と揶揄される生活を送ったのだが…という内容。
大佛次郎の小説が原作。公開は事情により戦後だが、完成は戦中の1944年だとの事。内容は「後藤又兵衛」こと基次を題材にしたもので、上記した夜討や大阪冬の陣等の合戦は綺麗にすっ飛ばした、戦国美談とでもいった作品。
流石にそういう映像を撮る国力がすでに無かったからかどうか、その辺の事情は知らないけれど…代わりに又兵衛を演じる、市川右太衛門の存在感で持っている様な映画ではある。とにかく「目力」がすごいのなんの。普段の写真を見ると、息子さんの北大路欣也を思わせるけど、本作だともっとなんか豪快だな。
黒田長政に仕える豪傑・後藤又兵衛は、宇都宮鎮房との戦での大敗の後に仕掛けた夜討で形勢を逆転。その後和睦の席で、彼を討ち取った。鎮房の子・花若が彼に怨みを抱く一方、又兵衛は黒田を出奔。多くの家臣に慕われた彼は、決まった居城を持たぬ「乞食」と揶揄される生活を送ったのだが…という内容。
大佛次郎の小説が原作。公開は事情により戦後だが、完成は戦中の1944年だとの事。内容は「後藤又兵衛」こと基次を題材にしたもので、上記した夜討や大阪冬の陣等の合戦は綺麗にすっ飛ばした、戦国美談とでもいった作品。
流石にそういう映像を撮る国力がすでに無かったからかどうか、その辺の事情は知らないけれど…代わりに又兵衛を演じる、市川右太衛門の存在感で持っている様な映画ではある。とにかく「目力」がすごいのなんの。普段の写真を見ると、息子さんの北大路欣也を思わせるけど、本作だともっとなんか豪快だな。
2023.10.07
剣雲三十六騎
観てみた。阪東妻三郎主演、池田富保監督映画。1953年公開。
寛永年間。岡山藩士・渡辺靭負が、詐欺を糾弾され逆上した河合又五郎に斬殺された。又五郎は逐電し江戸の旗本・阿部邸に匿われた事で、各勢力の対立を招く事態となった。靭負を義父に持つ剣の達人・荒木又右衛門は、義弟の渡辺数馬より仇討の助太刀を依頼されたものの、当初はそれを断り…という内容。
本作は1942年に「伊賀の水月」として公開された戦中時代劇を、戦後に再編集して改題したもの。内容は有名な「鍵屋の辻の決闘」を描いたものだが、以前紹介した黒澤明脚本による「荒木又右衛門 決闘鍵屋の辻」(1952年)とは違って、36人斬りの伝説そのままの内容。…でも、これはこれで、充分におもしろい。
阪妻が大人数を斬り倒す話なので、又右衛門なのか堀部安兵衛なのか判らなくなってしまうけれど。仇討へと至るまでの心情的な推移を、丁寧に描いており見応えある。これを戦時下の空気と結びつけるのは…ちと、無理があるか。
寛永年間。岡山藩士・渡辺靭負が、詐欺を糾弾され逆上した河合又五郎に斬殺された。又五郎は逐電し江戸の旗本・阿部邸に匿われた事で、各勢力の対立を招く事態となった。靭負を義父に持つ剣の達人・荒木又右衛門は、義弟の渡辺数馬より仇討の助太刀を依頼されたものの、当初はそれを断り…という内容。
本作は1942年に「伊賀の水月」として公開された戦中時代劇を、戦後に再編集して改題したもの。内容は有名な「鍵屋の辻の決闘」を描いたものだが、以前紹介した黒澤明脚本による「荒木又右衛門 決闘鍵屋の辻」(1952年)とは違って、36人斬りの伝説そのままの内容。…でも、これはこれで、充分におもしろい。
阪妻が大人数を斬り倒す話なので、又右衛門なのか堀部安兵衛なのか判らなくなってしまうけれど。仇討へと至るまでの心情的な推移を、丁寧に描いており見応えある。これを戦時下の空気と結びつけるのは…ちと、無理があるか。
2023.10.06
清水港代参夢道中
観てみた。片岡千恵蔵主演、マキノ正博監督映画。1957年公開。
「森の石松」の劇に取り組む演出家・石田は、思うに任せぬ現状に業を煮やし周囲と対立する。そんな石田が不貞寝すると、何故か彼は石松本人となり、次郎長一家の暮らす時代の清水港にいた。正気を疑われた彼だが、金毘羅参りへと旅立つに当たり、史実とは異なり許婚のおふみを伴う事にして…という内容。
1940年に「続清水港」として公開された戦前時代劇だが、こちらは戦後改題された再編集版。千恵蔵が神経質なイケメン役なのが面白いけれど、実は本作に出演している子役の澤村アキヲとは長門裕之で、これが彼のデビュー作。
内容的にはタイトル通り、夢の話ではあるのだが…過去の有名人に転生して死亡フラグを回避しようとするという、何だか近年よく見た気がする作品を先取っているのがすごい。…例の「江戸っ子だってね」もたっぷりやっており、喜劇から一転凄惨な斬り合いへと展開して侮れない。モダンさと本格派の融合は見事。
「森の石松」の劇に取り組む演出家・石田は、思うに任せぬ現状に業を煮やし周囲と対立する。そんな石田が不貞寝すると、何故か彼は石松本人となり、次郎長一家の暮らす時代の清水港にいた。正気を疑われた彼だが、金毘羅参りへと旅立つに当たり、史実とは異なり許婚のおふみを伴う事にして…という内容。
1940年に「続清水港」として公開された戦前時代劇だが、こちらは戦後改題された再編集版。千恵蔵が神経質なイケメン役なのが面白いけれど、実は本作に出演している子役の澤村アキヲとは長門裕之で、これが彼のデビュー作。
内容的にはタイトル通り、夢の話ではあるのだが…過去の有名人に転生して死亡フラグを回避しようとするという、何だか近年よく見た気がする作品を先取っているのがすごい。…例の「江戸っ子だってね」もたっぷりやっており、喜劇から一転凄惨な斬り合いへと展開して侮れない。モダンさと本格派の融合は見事。
2023.10.04
堀部安兵衛
観てみた。黒川彌太郎主演、益川晴夫監督映画。1936年公開。
高田馬場の決闘で18人を斬り捨て、名を馳せた中山安兵衛。浪人者で飲んだくれの彼が見込まれ、醜態を晒して尚堀部家に婿養子として迎え入れられた。その後堀部姓を名乗る様になった安兵衛は、赤穂藩に仕官する事となったものの、主君の浅野内匠頭が吉良上野介に斬り付ける事件が起きて…という内容。
「堀部安兵衛」こと、堀部武庸の視点から描いた忠臣蔵。あの手この手、色々と違う切り口で忠臣蔵は描かれており、いかに人気の高い題材だったか判る。本作の安兵衛の場合(伊藤大輔監督の名作を始め)高田馬場決闘という見せ場もあるので、前半と後半で空気の違う2本の映画が合体してしまった様な趣き。
まあその分、1本の映画としては少々貫禄不足という感もあるが…まあこれはこれで。討ち入りシーンでの俯瞰構図を大胆に用いた幾何学的な画面などは、戦後の同じく日活で活躍した鈴木清順監督の演出を思わせる辺り、興味深い。
高田馬場の決闘で18人を斬り捨て、名を馳せた中山安兵衛。浪人者で飲んだくれの彼が見込まれ、醜態を晒して尚堀部家に婿養子として迎え入れられた。その後堀部姓を名乗る様になった安兵衛は、赤穂藩に仕官する事となったものの、主君の浅野内匠頭が吉良上野介に斬り付ける事件が起きて…という内容。
「堀部安兵衛」こと、堀部武庸の視点から描いた忠臣蔵。あの手この手、色々と違う切り口で忠臣蔵は描かれており、いかに人気の高い題材だったか判る。本作の安兵衛の場合(伊藤大輔監督の名作を始め)高田馬場決闘という見せ場もあるので、前半と後半で空気の違う2本の映画が合体してしまった様な趣き。
まあその分、1本の映画としては少々貫禄不足という感もあるが…まあこれはこれで。討ち入りシーンでの俯瞰構図を大胆に用いた幾何学的な画面などは、戦後の同じく日活で活躍した鈴木清順監督の演出を思わせる辺り、興味深い。
2023.10.03
鴛鴦歌合戦(おしどりうたがっせん)
観てみた。片岡千恵蔵主演、マキノ正博監督映画。1939年公開。
長屋で浪人暮らしをする浅井禮三郎。隣人として骨董狂いの志村狂斎と娘のお春が、傘張りの内職をして生活していた。ある日同じく骨董好きの殿様・峯澤丹波守からお春を妾に求められた狂斎は、断る代わりに五十両もの大金を用立てる羽目に。それは禮三郎に思いを寄せる、娘の為だったのだが…という内容。
本作も日活による戦前映画だが、ミュージカル仕立てというか「オペレッタ」時代劇となっている。お話こそ他愛ないものの、垢抜けたモダン時代劇としての出来栄えは、戦後の作品でもこの域にはなかなか達せていないんじゃないか。
(同時期の他作を観たから尚更感じるけど)本作で幸運なのは大変に保存状態がよい事で、音楽自体や歌詞をストレスなく聴く事ができるって点は大きい。驚いたのは、志村喬の歌が相当にうまい事。共演のディック・ミネから賞賛され、後の「ゴンドラの歌」にもつながったというのは、日本映画史的にも重要作だな。
長屋で浪人暮らしをする浅井禮三郎。隣人として骨董狂いの志村狂斎と娘のお春が、傘張りの内職をして生活していた。ある日同じく骨董好きの殿様・峯澤丹波守からお春を妾に求められた狂斎は、断る代わりに五十両もの大金を用立てる羽目に。それは禮三郎に思いを寄せる、娘の為だったのだが…という内容。
本作も日活による戦前映画だが、ミュージカル仕立てというか「オペレッタ」時代劇となっている。お話こそ他愛ないものの、垢抜けたモダン時代劇としての出来栄えは、戦後の作品でもこの域にはなかなか達せていないんじゃないか。
(同時期の他作を観たから尚更感じるけど)本作で幸運なのは大変に保存状態がよい事で、音楽自体や歌詞をストレスなく聴く事ができるって点は大きい。驚いたのは、志村喬の歌が相当にうまい事。共演のディック・ミネから賞賛され、後の「ゴンドラの歌」にもつながったというのは、日本映画史的にも重要作だな。