2023.11.30

ロビンソン漂流記

観てみた。D・オハーリヒー主演、L・ブニュエル監督映画。1954年公開。

18世紀。英国生まれの血気にはやる若者、ロビンソン・クルーソーは航海へと出た先で嵐に遭い、遭難してしまう。彼は無人と思しき島に漂着、動物を友として孤独なサバイバル生活を送る事になった。10数年が過ぎて現れたのは近隣の島の住民達で、助けた捕虜の1人を彼はフライデーと名付け…という内容。

原作は勿論ダニエル・デフォーの有名な小説だが、本作の監督は驚いた事にブニュエル。メキシコでのブニュエルは、低予算で多種多様な映画を制作している事が知られており、本作もその一つ(まあハリウッド時代にも、リーフェンシュタールの「意思の勝利」を改変上映しようとしてたりで、一筋縄ではない)。

なので本作は、かなり正攻法で映像化しているのだけれど…悪夢として登場する父親の場面や、孤独に苛まれて狂気と紙一重になる心理描写などは、成程ブニュエルっぽいんじゃないかな。まあ単純に冒険ものとしておもしろいよ。
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2023.11.29

ル・ミリオン

観てみた。ルネ・クレール脚本、監督映画。1931年公開。

パリに暮らす貧しい画家ミシェルは借金漬け。今日もその払いの催促で大勢の人々から追い立てられる。そんな時彫刻家のプロスペールから、宝くじで大金が当選したという報せが。ところがそのくじ券を入れた上着は、婚約者のベアトリスがチューリップじいさんと名乗る、不審な男に譲ってしまい…という内容。

原作はジョルジュ・ベールと、マルセル・ギユモーによる戯曲。本作では歌もドタバタも豊富な、ミュージカル・コメディとして映画化されている。ボロボロの上着に必死になって争奪戦を繰り広げる辺り報復絶倒だが…ミシェルってその上着以外なら、結構小奇麗な服を着ている気がするんだけど?(白黒だからか)。

特にオペラ上演中の舞台上での丁々発止が、馬鹿馬鹿しい上に面白い。リズミカルな人物の動作そのままに、冒頭の輪舞へと戻ってくる構成にも反映しているのが気が利いている。そういう構造も多分「音楽的」を意識したものだな。
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2023.11.27

肉体の冠

観てみた。S・シニョレ主演、ジャック・ベッケル監督映画。1952年公開。

娼婦のマリーは、大工なのを侮られても屈しない、マンダという男と恋に落ちる。だがそれに嫉妬したマリーの前の情夫と決闘する事になり、マンダは彼を刺殺してしまった。パリに居られなくなった2人は田舎へと逃れるのだが、マンダの友人が無実の罪で逮捕。それはギャングのボス・ルカの差し金で…という内容。

ベッケルは「モンパルナスの灯」(1958年)や「現金に手を出すな」(1954年)の人。自分はそれ以外は観ていないので、迂闊な事も言えないけれど…ノワール調の雰囲気と、破滅的な結末が共通している様に思う。本作も途中までの甘いロマンスが一転、残酷なラストへと一気に突き進んでいく展開で息を呑む。

でも当時三島由紀夫が途中までは賞賛しながらも、打って変わって終盤は批判している。気難しい評価を下す人(破滅主義者のくせに)だなとは思ったものの、理解できないでもない。…それでもやっぱり、これでいいんじゃないかな。
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2023.11.26

宇宙快速船

観てみた。千葉真一主演、太田浩児監督映画。1961年公開。

少年宇宙研究会の子供達はある日、謎の宇宙人に襲われる。その時彼らを救ったのが、「宇宙快速船」を駆る覆面の青年だった。子供達は彼の事を「アイアン・シャープ」と名付けるのだが、宇宙人=海王星人の侵略は益々激しさを増す。宇宙科学者・立花真一を始め、人類は対策に追われるのだが…という内容。

サニー千葉の主演による特撮ヒーローもので、「ニュー東映」という映画会社の製作。…東映という名が示す通り、東映の二番線を受け持つ存在だった様だが、ごく短期間で消滅した(ここにも大蔵貢の名前が出て来るのが興味深い)。

子供向けなので他愛ないものの、案外真面目に宇宙人の侵略(海王星人は一切台詞がない)とその対抗を描いている。それより何より本作は特撮がすごい。宇宙人のUFOが行う地上攻撃で壊されるコンビナートやビル群の緻密な爆発に、群衆の合成が違和感なく決まっている。二線級とは決して馬鹿にできない。
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2023.11.24

狂熱の果て

観てみた。星輝美主演、山際永三監督映画。1961年公開。

レスリング部の健次やトランペッターの陽二、六本木には無軌道な青春を送る若者達が集っていった。戦犯だった父を持つミチもその仲間に加わるが、死刑になった戦犯の子・茂から執拗に迫られていた。そんな時別荘へ向かう自動車が、老婆をひき殺してしまう。そこから彼らの関係は崩壊が始まり…という内容。

原作は秋本まさみの小説で、この人自身が六本木野獣会のリーダーだったとの事。政治運動に向かう時代の若者を描いているけれど、印象はまるでボリス・ヴィアンみたいなノワール。「死」のエグい直接描写にはギョッとさせられる。

監督は帰マンのレオゴンやプリズ魔等を担当した山際永三で、これが唯一の劇場映画監督作。本作を製作した「大宝」は、新東宝倒産後に同社の配給部門が独立した映画会社なのだが、僅か6本のみを残してこちらも消滅した。刹那的な若者を描いた会社の、存在自体が刹那的だったという…冗談みたいなお話。
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2023.11.23

天守物語

観てみた。坂東玉三郎主演、監督映画。1995年公開。

白鷺城の「天守」では、この世のものならざる住人達が下々を睥睨していた。そんな時天守の女主人・富姫は、下で行われる鷹狩りの様子にうんざりして、人間達から鷹を奪い取ってしまう。その為に立場を悪くした鷹匠の図書之助が、天守を上がって来る。富姫はその若侍と、恋に落ちてしまうのだが…という内容。

原作は泉鏡花の戯曲。以前も書いた通り「怪 ayakashi」というオムニバスの1本として、アニメ化もされた。本作で主演と監督を務めるのが五代目坂東玉三郎だが、彼は以前にも鏡花の原作で「外科室」(1991年)を監督している。

まあ比較するのなら、自身が主演した「夜叉ヶ池」(1979年)だろうな。作中で存在が言及されているし。本作は特撮推しのそちらとは違い、舞台をそのまま撮影してしまった感じ。原典重視の姿勢は、舞台人である監督らしいと言うべきなんだろうけど…映像が文章のイメージ喚起力を、上回ったとは言えないなあ。
posted by ぬきやまがいせい at 22:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2023.11.21

瀧の白糸

観てみた。入江たか子主演、溝口健二監督映画。1933年公開。

「瀧の白糸」の名で知られる水芸の太夫は、乗合馬車の御者として出逢った青年・村越欣弥と再会をする。職を失った彼に白糸は、東京で勉学する為の出資を申し出た。彼女は折を見て送金するのだが、欣弥の卒業を前に金回りが思わしくなくなり、しかも何とか入手した大金を悪漢に奪われてしまい…という内容。

原作は泉鏡花の短編小説「義血侠血」。大筋としては本作も一緒だけど…犯罪サスペンスだったりアイロニカルな結末だったりする原作を、本作では大時代的なお涙頂戴の悲恋に改変している感じ。まあ本作自体は無声映画なので、後年加えられた音楽や活弁がやけに、そっち方面で盛り上げてしまっている印象。

とは言え流石に溝口、本作でも女性の憂いの刻まれた表情を、陰影のある映像で捉えている。加えて小説で読んだだけじゃ今一つ判りにくい「水芸」を、実際見せてくれていたし。本作も「情緒」という意味では、決して外してはいないな。
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2023.11.20

駅前旅館

観てみた。森繁久彌主演、豊田四郎監督映画。1958年公開。

上野駅前の柊元旅館。連日修学旅行の学生や女工の慰安等、団体客が押し寄せベテラン番頭の生野次平も大忙し。他の身分になりきる他旅館番頭の高沢や、客から求められロカビリーを披露する旅行社添乗員・小山と、一癖ある人々がひしめいている。だが強引な客引きで揉めた界隈で生野は…という内容。

森繁久彌、伴淳三郎、フランキー堺を主役に、24本も作られた「駅前シリーズ」第1作。でも本作は実は井伏鱒二の同名小説の映画化で、森繁主演の「夫婦善哉」から引き継ぐ文芸路線だったとの事。そのせいかしんみりした結末を迎える辺り納得した訳だが…同時に面白さという意味では今一つなのも納得したかな。

笑いが時代を超えない、というのはまあ仕方ないかとは思ったものの…本作の場合ユーモアやウィットとは違う、空騒ぎばかりだからじゃないか。とは言えロカビリーブームの空気を始めとして、当時の「時代性」自体は実際興味深い。
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2023.11.18

陽のあたる坂道

観てみた。石原裕次郎主演、田坂具隆監督映画。1958年公開。

倉本たか子は、脚に障害のある社長令嬢・田代くみ子の家庭教師になる。その際出逢ったのが同家次男の信次だが、裕福な家庭にありながら腹違いの生まれの彼は、母の顔を知らなかった。そんな時たか子に思い当たったのは、彼女のアパートに住む元芸者の高木トミ子と一人息子・民夫の存在で…という内容。

原作は石坂洋次郎の小説で、本作を含めて3度映画化されている。本作は若き裕次郎と、北原三枝ことまき子夫人のカップルが主演。「ブラックシープ」青年の屈折した悩みに、ジャズや喧嘩を交えた爽やかな青春映画となっている。

そうした内容からか本作はすごく(原作は未読だけど)ロストジェネレーション文学や、同時代のアメリカ映画っぽい。問題設定の方向性が、日本的に陰湿なのと違って垢抜けてるんだよな。…加えて裕次郎の存在感自体がやっぱり今見ても素敵で、劣等感に悩み泥をかぶる姿からして、カッコいいのだからずるい。
posted by ぬきやまがいせい at 23:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2023.11.17

「Drone and melody」JOSÉ MACEDA

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聴いてみた、フィリピンの現代音楽作曲家。2007年発表。

「ホセ・マセダ」は1917年にマニラで誕生し、フランスのエコール・ノルマル音楽院で作曲を学んだ。ミュジーク・コンクレート作品をパリのスタジオで制作する一方で、フィールドワークを行いフィリピンの民俗音楽を収集する。西洋現代音楽と東南アジアの民族楽器の融合を実践した後、 2004年この世を去った。

John ZornのTzadikレーベルよりリリースされた本作も、まさにそういう音楽性の作品。タイトルが「ドローンとメロディ」と名付けられてはいるけれど、え?そこが重要なの?…という気がしてしまう。…確かにメロディは日本の童謡を崩した?様な感じでもあるので、そういう辺りがアジアンテイストなのかもしれない。

それより収録曲「Strata」でカチカチと聴こえる「木」の響き(Stickとクレジットにあるのがこれ?)がジャケットの写真と共に、フィリピンの自然や気候、空気まで伝えて来るかの様だ。…難解さからは程遠いので、広く知られてよい音楽。
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2023.11.15

「Orchestral works」MAURICIO KAGEL

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聴いてみた、アルゼンチンの現代音楽作曲家。2000年発表。

「マウリシオ・カーゲル」はアルゼンチン生まれで、移住先のドイツで主に活動した現代作曲家。…この人は以前にも紹介したので、ご本人に関してはもう書き様がないから説明は略。本作は彼のオーケストラ作品を集めたアルバム。

ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団に、Christoph Delz,、Kristi Becker,、Peter Dicke,、Wilhelm Neuhausという4人のピアノを加え、自身が指揮を執っている。以前紹介した作品は…忘れたけど、記事を読むと取っつき悪かった様だが、本作は結構聴きやすい。

それより本作を検索してみたら、海外尼での唯一のレビューがフランスの人の☆1つだけで、えぇーっ?と。どういうこっちゃと翻訳すると、その人の買った版のCDにはノイズが入っているらしい。幸い自分のは違うレーベルのなので、問題なかった。…カッコいい音楽なのだから、いきなりの低評価は困惑したのだわ。
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2023.11.14

「La métamorphose」MICHAËL LÉVINAS

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聴いてみた、フランスの現代音楽作曲家。2012年発表。

「ミカエル・レヴィナス」は1949年のパリで、高名な倫理学者である父の息子として誕生。音楽教育を受けたパリ国立高等音楽院では、Olivier Messiaenの元で学んだ。現代音楽作品の作曲家として活動する一方で、演奏家・ピアニストとしてもバッハから近・現代音楽まで、多数の作品をリリースしているとの事。

本作はなんと、フランツ・カフカの「変身」をオペラ化したもの(!)。まあCDのライナーを見ても、フランス語で書かれているのでサッパリ判らないのだけれど…多分そう。言われてみると「グレゴール、グレゴール」歌ってる。でも歌詞は多分チェコ語ではなく仏語。まあどっちでも、判らない事には変わらない訳だが。

聴いていて不安定な気分になる辺り、上手くカフカの世界を再現している様に思う。…んだけどユラユラする奇妙なメロディーや、台詞に掛けられるボイス・エフェクトの感覚が、むしろThe Residentsを思い起こさせるのは面白い。
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2023.11.12

「Romance of the black pain otherwise fallin' love with」LES RALLIZES DÉNUDÉS

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聴いてみた、日本のサイケデリックロック・バンドの12”。2022年発表。

「裸のラリーズ」は1967年の京都で、水谷孝(vo,g)を中心に誕生。メンバーによど号ハイジャック犯の若林盛亮(b)や、後に村八分を結成する山口富士夫(g)も一時在籍。轟音のノイズギターは伝説化し、活動休止した90年代以降も世界中で聴かれる事となる。その後水谷は2019年に逝去したと発表された。

水谷存命時に(単独作として)公式リリースされたCDは、「'67-'69 Studio et Live」 「Mizutani」「'77 Live 」のみ。でその3作がレコード化された際の、同時購入特典が本作。と言っても音源自体は全部、再発CDの方には収録されているので、特典…と言われても、そこまで有難味のある物ではないかもな。

なので本作単体の感想は書き様がない。とは言え代表作的な「77」だけでなく他2作も同時リリースしたのは、頭脳警察やジャックス、Amon Düül等の影響が窺える楽曲から、「例のアレ」だけと思われても困るって事かもなあって。
posted by ぬきやまがいせい at 21:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽

2023.11.11

「NGU」V.A.

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聴いてみた、日本の自主レーベルによるオムニバス盤。1987年発表。

「トランスレコード」は1980年代、雑誌FOOL'S MATEの初代編集長である北村昌士によって設立。ニューウェーブやプログレ、アヴァンギャルド系ロックの発表を行い、当時のインディーズブームを牽引した。現在でも故人である北村のグループ・YBO2のライブ作や、リイシュー等のリリースで存続している模様。

本作は当時、Transrecordsに所属したバンドによるオムニバス。「U」なんだから当然「T」もある訳だが…そちらはYBO2も含め、同レーベルの主力グループが揃っているのに対して、本作は余り知らない名前の方が多い感じかなあ。

でもElvis Dustというのは山塚EYEのユニット(ギョッとする様なDeep Purpleの引用をしてる)だし、Ruinsの演奏などは当時の触ったら怪我しそうな狂気が感じられて良い。…Ruinsは一時期熱心に音源を集めていたのに本作を買わなかったのは、多分どれかのCDに入ってたからだろうな。聴いたことあったし。
posted by ぬきやまがいせい at 19:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽

2023.11.10

「No life 'til leather」METALLICA

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聴いてみた、アメリカのヘヴィメタル・バンド。2023年発表。

「メタリカ」はデビュー前の1982年に、7曲入りのデモテープを自主製作でリリースした。その録音時点での編成は、現メンバーであるJames Hetfield(vo.g)、Lars Ulrich(dr)に、後にMegadethを結成するDave Mustainen(vo,g)。加えてRon McGovneyが、ノンクレジットでベース演奏を担当している。

そちらの音源は2015年の「レコードストアデイ」用に、1万本の限定で再発売された。更にCDやレコードとしてもリリースする事が発表されたものの頓挫。どうやらMustainenの持つ曲権利を、自分達の物にしようとして失敗したらしい。このバンド、ビッグなのに(Jasonの件とか)ケツの穴のちっちゃい事をするよな…

で、今回なぜかLPとしてリリースされると知って買ってみたら…何の事はないリプロ盤だった。とは言え何種類も色の違うカラーレコードが出たり(自分が持ってるのはグレーマーブル)音も良かったりしたので、もうこれでいいかなと。
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2023.11.08

かがみの孤城

観てみた、原恵一監督によるアニメーション映画。2022年公開。

安西こころは、学校でのいじめから不登校の状態。そんな時彼女は「鏡」を通り抜け、孤島に建つ「城」へと辿り着く。集められたのは似た境遇の中学生男女7人。その場所には安らぎや自由があり、そして友情が芽生えた。また彼女達には、何でも願いが叶う鍵を探すという目的も与えられたのだが…という内容。

原作は辻村深月の小説。デスゲーム的な枠組みを用いているのにデスゲームではないという。モチーフや設定等で色々伏せている要素があるのだが、小説と違って映像化してしまうと、結構そのまんま見せてる感が出てしまうかも。

代わりに少年少女の繊細な感情表現で綴られており、そういう辺りのリアリズムや描写力は(「カラフル」を手掛けた)原監督ならでは。と言うか個人的には、同監督にしてはこれでも相当、取っつきやすい作品を作ってくれたと思うよ。ワンダーエッグプライオリティが萌えアニメなら、これだって萌えアニメでいいだろう。
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2023.11.07

犬王

観てみた、湯浅政明監督によるアニメーション映画。2022年公開。

室町時代。平家が滅びた壇ノ浦から引き揚げられた神剣の為、盲目になった友魚は成長し琵琶法師となった。彼が出逢ったのが、猿楽の家の出ながら、異形の体に生まれついた名もなき少年。自らを「犬王」と名付けた彼は巧みな舞を踊り、友魚改め友有の琵琶と共に、世間の注目を集めるのだが…という内容。

原作は古川日出男の小説だそうだが…アニメ映画化された本作は何故だか、どろろ meets ファントム・オブ・パラダイス、みたいな感じになってる。犬王という室町時代に実在した能楽師を題材にしているのに、なんと「ロックミュージカル」「ロックオペラ」の手法を採り入れて、大胆な解釈で映像化してしまっている。

豪華作画陣や音楽担当に大友良英の起用と、驚く程に酔狂で水準の高い内容だけれど…ジャンル的なコンセンサスも無しに、いきなりやってしまっているので、困惑した人の方が多かったのでは。まあでも本当よく作ったなこんなの。
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2023.11.05

ぼくらのよあけ

観てみた、黒川智之監督によるアニメーション映画。2022年公開。

2049年。阿佐ヶ谷団地に住む少年・沢渡悠真は、人口知能ロボのナナコが機能不全を起こすのに遭遇。それは何と27年前に異星から飛来した、宇宙船のAIに乗っ取られたからだった。彼と小学生の友人達は、故障した宇宙船「2月の黎明号」が宇宙へと帰還するのを、助ける決意をしたのだが…という内容。

原作は今井哲也の漫画。ジュヴナイルSFといった風情のアニメだが、連載はアフタヌーンだったらしい。同誌らしいサブカル的要素は無い代わりに、意外とあなどれないSF感を持った作品となっている。…ただ雰囲気がどう見ても単なる子供向けなので、アフタ読者と近い層にも、殆ど興味を持たれなかった様な。

決して嫌いではないけれど…話自体は要するにETみたいなものなのに、親や同級生間でのいさかい。加えてAIに対するわだかまりといった、何かモヤモヤする要素をど真ん中に据えている辺り、やはりアフタだからなのだろうか。
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2023.11.03

ぼくらの7日間戦争

観てみた、村野佑太監督によるアニメーション映画。2019年公開。

高校生・鈴原守は密かに想いを寄せる千代野綾が、政治家の父の意向で転居すると知る。そこで彼らは同級生の男女6名で、廃墟となった炭鉱に7日間だけの家出をする事に。だがそこに不法滞在者の子供・マレットが住み着いていた為、彼らと入管職員や警察、更に綾の父親との「戦争」が始まって…という内容。

原作は宗田理の小説「ぼくらの七日間戦争」(1985年)だが、本作は現代を舞台にしたアニメ映画として再構成されている。なので原典での校則ではなく今風な学生の問題、SNSでの情報拡散といった現代的な味付けがされている。

とは言え割とリアリティライン自体は低く見積もられているので(普通死ぬだろこれ、という無茶な描写も多々あるし)、そこはまあ重く受け止める様な作品でもないだろう。それより本作には、ちょっとした仕掛けがあって…その辺は伏せておくべきだと思ったのに、予告編だと結構思いっきり見せてしまっているのな。
posted by ぬきやまがいせい at 22:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | アニメ

2023.11.02

夏へのトンネル、さよならの出口

観てみた、田口智久監督によるアニメーション映画。2022年公開。

そこに入った者は、何でも願いが叶うと噂される「ウラシマトンネル」。高校生・塔野カオルは転校生の花城あんずと協力関係を結び、お互いが望むものを手に入れる為にトンネルの検証を始める。ところがトンネルでは違う時間が流れており、その内部だと僅か一瞬でも、外では何日もが経過してしまい…という内容。

原作は八目迷のライトノベル。同書は賞応募時のタイトルが「僕がウラシマトンネルを抜ける時」だったそうで、これは珍しく編集者・出版社に変えられた方が良くなっている例かも。ハインラインの小説への目配せと思しき「夏への」の通り、タイムパラドクス的すれ違いの恋愛模様を描いているだけに、より適切だな。

ただSFと言うにはフワフワしているのだが、繊細な関係性(おねショタカップル誕生?)は魅力的。特にガラケーメールでの気持ちの交感というシチュには、ぐっと来てしまう…ケータイ小説の持つ訴求力というのも、ちょっと判るなあ。
posted by ぬきやまがいせい at 22:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | アニメ