観てみた、スティーヴン・スピルバーグ監督映画。2021年公開。
NYのウエストサイドでは米国人非行少年の「ジェッツ」と、プエルトリコ系集団「シャークス」とが激しく対立していた。そんな中ジェッツ元リーダーのトニーは、あるパーティーでマリアという少女と出逢う。ところが彼女はシャークスのリーダーの妹で、2人は惹かれ合いながらも争いに巻き込まれて…という内容。
1961年の映画「ウエスト・サイド物語」のリメイクである本作。脚本や音楽等、原典を相当に尊重…というかほぼそのまま。なので数々の名曲やダンスも、そのままに感動してしまう。ならば本作ならではの持ち味は?、となるけれど…そこはやはり2021年の映画らしい、映像や音響としての「質感」にあると思う。
でも本作が「ロミオとジュリエット」の翻案と知らない人まで観て、批判めいた事を言っているのがな。…こういう構図前にも見たと思ったら、同監督の「宇宙戦争」だわ。そういう層まで呼び寄せるのは、スピルバーグも罪な男だなって。
2024.04.30
2024.04.29
「時間封鎖」ロバート・チャールズ・ウィルスン著、茂木健訳
読んでみた、カナダ人作家による長編SF小説。2005年発表。
ある日を境に、夜空から星が消えた。地球全体を「スピン」と呼ばれる膜が取り囲み、しかもその現象の外では時間が1億倍の速度で流れていた。人類は火星環境を地球化し、そこに移民を送る計画を実行するのだが…という内容。
ヒューゴー賞獲得の本作は、続編「無限記憶」「連環宇宙」へと続く3部作の最初の本。気宇壮大で意表を突くSF的アイデアと共に、等身大の人物達が未曾有の苦境に立ち向かう、一般小説的な内容となっている(父親的存在との軋轢/対立は最近「グリンプス」でも読んだので、余計に一般小説的印象を持った)。
そのせいで本書前半は(時系列が前後する構成もあってか)正直乗り切れなかったけれど、事の真相が判明してディザスター展開になってからは、ちょっとグレッグ・ベアを思わせ、相当面白く読めた。成程ヒューゴー賞だけの事はある。…でも個人的にはこれで納得してしまって、それ程続編は気にならないかも。
2024.04.28
「I.A.B.F.」LES THUGS
聴いてみた、フランスのパンク・バンド。1991年発表。
「レ・サグス」は1983年、Eric(g)とChristophe(dr)のSourice兄弟を中心に結成されたグループが、改名した事で誕生。1986年に1stミニアルバム「Radical Hystery」をリリースした後は、Sub Popレーベルとも契約し活動の幅を広げた。1999年に解散したものの、2008年には一時的ながら再結成もした。
本作はフルアルバムとしては4枚目で、Alternative Tentaclesから発売された。…自分がこのバンドを知ったのは、同レーベルのオムニバス「Virus100」に収録された、Dead Kennedysの「Moon Over Marin」カバーを聴いて。その音源を聴いたのは相当前な筈なのに…余程印象に残っていたって事かも。
当バンドの特徴は、シューゲイザーとハードコアの折衷的な音楽性という辺り。本作でもいそうで案外いない感じのスタンスがいいと思う。…いいはいいのだけれど、Moon Over〜で受けた印象には一押し足りない感じ。ちょっと惜しい。
2024.04.26
エルヴィス
観てみた。A・バトラー主演、バズ・ラーマン監督映画。2022年公開。
アメリカが生み出した稀代のロックンロール・キング、「エルヴィス・プレスリー」。だがその地位へと至るのには、彼の人生には「大佐」と呼ばれる人物が大きく関わって来た。マネージャーである大佐は、エルヴィスがスターとして成功する為に手腕を発揮する一方で、彼との間には確執の絶える事がなく…という内容。
近年色々作られた、ロック系アーティストを題材にした伝記映画の1本。エルヴィスは歌に映画に活躍したので、彼の人生を再現したらそのまま映画になるはず。主演の人はあんまり似てないかなあ…と思ったら、ステージ上では結構雰囲気が出ており(本人同様肥えてくると余計に)、音楽映画として見応えある。
でも本作では(トム・ハンクス演じる)大佐を副主人公として描いているので、エルヴィスの主体的物語というより「翻弄された生涯」いう印象。…そういや「エルヴィスサンド」を食ってるシーンはなかったな、160分近い尺があったのに。
アメリカが生み出した稀代のロックンロール・キング、「エルヴィス・プレスリー」。だがその地位へと至るのには、彼の人生には「大佐」と呼ばれる人物が大きく関わって来た。マネージャーである大佐は、エルヴィスがスターとして成功する為に手腕を発揮する一方で、彼との間には確執の絶える事がなく…という内容。
近年色々作られた、ロック系アーティストを題材にした伝記映画の1本。エルヴィスは歌に映画に活躍したので、彼の人生を再現したらそのまま映画になるはず。主演の人はあんまり似てないかなあ…と思ったら、ステージ上では結構雰囲気が出ており(本人同様肥えてくると余計に)、音楽映画として見応えある。
でも本作では(トム・ハンクス演じる)大佐を副主人公として描いているので、エルヴィスの主体的物語というより「翻弄された生涯」いう印象。…そういや「エルヴィスサンド」を食ってるシーンはなかったな、160分近い尺があったのに。
2024.04.24
「故郷から10000光年」ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア著、伊藤典夫訳
読んでみた、アメリカ人作家によるSF短編小説集。1973年発表。
本書は著者が「ティプトリー・ジュニア」名義でSFを発表する様になった、初期の短編を集めた作品集である。ハリイ・ハリスンが「彼女」を見い出した経緯を、回想した序文を寄せている。本書タイトルの由来となった短編、「マザー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」を始めとする、全15編を収録…という内容。
本書の白眉は「故郷へ歩いた男」。異様な状況設定と抒情的で感傷的な作風が、見事な時間SFとして結晶している。ただその代わりに他は、「起」もなしに「承」が始まって「転」も「結」もなしに「承」だけで終わる印象の作品ばかり。これは未熟だからなのか?…まあ「たったひとつ〜」では、そんな印象なかったしな。
でも本書は著者自身の体験が反映しているという述懐を元に、「悲劇的な最期」から振り返ると、案外すんなりと納得できてしまう感じはある。…ただ常に追い詰められているかの様な切迫感は、作家本来の持ち味でもあるんだろうけど。
2024.04.23
「Afrique victime」MDOU MOCTAR
聴いてみた、ニジェールのサイケデリック・ギタリスト。2021年発表。
「エムドゥ・モクター」は1980年代、ニジェールの遊牧民であるトゥアレグ族の子として誕生。同地の音楽家の影響から(周囲から反対されつつも)ギタリストを目指し、2008年には最初の作品「Anar」を制作した。その後はリリースを重ねるごとに広い聴衆を獲得し、現在はワールドワイドの演奏活動を行っている。
トゥアレグ族の民族サイケは以前にも紹介したけど、要するにあんな感じ。ただ本作はSublime Frequenciesの実況録音作と違って、スタジオでの収録。それから打楽器にドラムを使っており、かなり西洋音楽的というか普通っぽいので…北アフリカサイケを最初に聴いた時の衝撃というのは、流石に感じられない。
逆に言えば、それだけ取っつきやすいんじゃないかな。興味深いのは本作をリリースしたのがMatador Records…Sonic YouthやPavement等を擁した、オルタナ系インディーロックの総本山から出ているのは、実際面白いと思う。
2024.04.21
「グリンプス」ルイス・シャイナー著、小川隆訳
読んでみた、アメリカ人作家による長編SF/ファンタジー小説。1993年発表。
長年の不和の後に父親を事故で亡くした、ステレオ修理業を営むレイ。彼はある日、敬愛するロックバンドの存在しない楽曲を再現する能力に気付く。そして彼は「幻のアルバム」を世に出す為に、苦闘を始めたのだが…という内容。
そのアルバムというのが、Beach BoysやDoorsにJimi Hendrixの作品だというのだから、まさにロックファンの夢が叶う作品だろう…刊行当時は。今やSmileもFirst Rays〜も、オフィシャルリリースされているのだから時は無常に流れた。それでも本作の着想の見事さは、いささかも損なわれていないのでは。
それより問題なのは…本作が途中から、精神科のカウンセリングみたいになっちゃう辺り。主人公と周囲との軋轢・葛藤が大きく採り上げられており、別に辛気臭い方のウディ・アレン作品みたいなのが読みたい訳じゃないんだがって。元々別個に構想していた2冊の本を、合体させたそうで…どうしたもんだろ、これ。
2024.04.20
「Millions of dead cops」M.D.C.
聴いてみた、アメリカのハードコアパンク・バンド。1982年発表。
「MDC」は1979年のテキサス州で、The Stainsの名前で結成。その後拠点をサンフランシスコに移し、バンド名も現在のものに改められた。1982年には、本作である1stアルバムを自主制作。初期の米国ハードコアを先導する存在として活動するも、一時解散。2000年には再結成され、現在も活動中だとの事。
1982年にこの音は相当すごい。彼らが影響を受けた存在として、Black FlagとDOAを挙げていて成程。先日見たドキュメンタリーで、その両バンドの全国ツアーでジャンルの裾野が広がった、という話の証明みたいな存在なんだな。
加えて野太いボーカルを始め、(UKと違う)USならではのハードコアの方向性が明確に示されている。一方でカントリーっぽい曲も収録されているのがユニーク…Jello BiafraのレーベルAlternative Tentaclesが、再発の際協力していると聞いて納得。歌詞も社会派だそうだけど…その辺は残念ながら判らんね。
2024.04.19
「Fuck religion, fuck politics, fuck the lot of you!」CHAOTIC DISCHORD
聴いてみた、イギリスのハードコアパンク・バンド。1983年発表。
「ケイオティック・ディスコード」はDave Bateman、Shane Baldwin、Ampex、Aphrodite、Ransidというメンバーで1982年に結成された。のだが、実はほぼVice Squadのメンバー(Ransidは同バンドのローディ)で、ちょっとした冗談として誕生したとの事。その為長年、正体不明の存在と考えられていた。
Riot City Recordsよりの1stアルバムが本作。日本でも「失望」という邦題でリリースされ、当時最先端だったChaos U.K.やDisorderとも同格のノイズコア・グループとして人気を集めた。…今回入手したのは、Westworld Recordingsより2016年に再発されたもので、15曲もボーナストラックが加えられた。
何しろ冗談からコマという存在だからか、初期パンク的なユーモアというか「ナゲヤリ感」があってカッコいい。そういう辺り、Gai〜Swankey'sのルーツ的な感じもあるけれど、どうなのかな(…映画だと、名前は挙がってなかったな)。
2024.04.17
「人類と病 / 国際政治から見る感染症と健康格差」詫摩佳代著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2020年発表。
人類すべてが乗り越えるべき大きな課題が、あらゆる「病」の克服である。本書では新型コロナを始め、ペストやエイズ等の感染症。更に近年先進国で問題となった生活習慣病等、国際的な取り組みの歴史を解説する…という内容。
本書の執筆を始めたのは2015年からとの事だが、実際に刊行されたのは「コロナ禍」が社会問題と化した2020年4月。実に象徴的なタイミングながら、本書は目先のトピックばかりに囚われている訳ではなく、人類と病との戦いをこれまでの歴史から振り返り、今後の課題を提示する包括的内容となっている。
興味深いのは劇的とも言える天然痘の撲滅等だけではなく、身近な生活習慣病が同列な問題として並置される辺り。国際間・企業間の利害や、個人的嗜好の尊重にその逆の貧困等…一筋縄ではいかない困難からは、コロナが一段落した様に見える今であっても、戦いにはまだ終わりが見えないのだなあ、と。
2024.04.16
「アヴァン 1958-1967」ヴェルヴェット・アンダーグラウンド
聴いてみた、アメリカのロックバンドのレア音源集。2019年発表。
2002年。ニューヨークの露天市で発見されたアセテート盤の内容とは、「The Velvet Underground」1stアルバムの別バージョンを収録したものだった。本作は1966年に制作された「Scepter Sessions」を中心に、同バンドの初期デモや関連セッション等、レア音源を集めたコンピレーション…という内容。
NYの露店すごいな!…というアルバム。曲自体はこの時点で、ほぼ完成している(Europian Sonのガシャーン!とか)のが興味深い。まあ本作を聴くのは余程のマニアだと思うから、多少?の音質の悪さ位大して気にならないのでは。
個人的にはそれより、初期ジャムセッションというのに惹かれたんだけど…アヴァンギャルドな感じ(ESPオムニバスみたいな)を期待したら、全然違った。とは言えルーが仕事で手掛けたR&R曲とか、わざわざ聴かない様なのも入っていて面白い。特にNicoの初期シングルは、前々から聴きたかったので嬉しい。
2024.04.15
「戦後世界経済史 / 自由と平等の視点から」猪木武徳著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2009年発表。
第二次大戦後の復興から始まって、石油危機にソ連崩壊、グローバリゼーションといった激動の時代を過ごした「世界経済」。本書では、主要先進国に留まらず周辺諸国の動向も含めて、包括的に戦後経済を解説する…という内容。
とにかく幅広く、包括的な話題を採り上げているのが特長。相応に分厚い新書本ながら、よくここまで簡潔にまとめ上げたものだと。まあ読んだ感じは解説されたと言うより「並べられた」という印象だが…著者も冒頭のはしがきで「粗い地図」を描いたと記しているので、概観した「眺め」そのものが肝要なのだろう。
とは言え、自分も同時代を過ごした様なトピック(日米経済摩擦とか)など、今となってはあれって何だったんだろうな、という気分になった。そうした個人史的な感懐に触れる一方で、殆ど馴染みのない国々の経済動向もまた存在する訳で。そうした本だからか、世界の「多様性」に思いを馳せたり、馳せなかったり…
2024.04.13
津軽のカマリ
観てみた、大西功一監督によるドキュメンタリー映画。2018年公開。
1910年の青森で誕生した「高橋竹山」。幼くして視力を失い、盲目の彼は生きる為に三味線を手にした。やがてその活動は全国的に知られる事となり、彼は津軽三味線の第一人者として評価されるまでに至った。本作はインタビューや演奏風景、彼の親族や弟子たちの証言から、竹山の生涯を追う…という内容。
ハンディキャップに加えて、貧困と差別を耐え抜く事で得られたのが竹山の芸。さらに東北の厳しい風土に、戦争や災害と言った時代の困難を超えた、彼の言葉や演奏には重みがある。…ただ初代竹山だけではなくそうした幅広い話題を(説明として以上に)扱っており、話があっちこっちするのが映画としてはちと。
演奏自体を見るのなら、初代よりも二代目竹山の方が印象的だったくらいかも。とは言え自分にも津軽三味線の魅力の、一端程度はわかった様な…個人的に三味線なら浄瑠璃がアヴァンギャルドで好きだけど、こちらもいいもんだね。
1910年の青森で誕生した「高橋竹山」。幼くして視力を失い、盲目の彼は生きる為に三味線を手にした。やがてその活動は全国的に知られる事となり、彼は津軽三味線の第一人者として評価されるまでに至った。本作はインタビューや演奏風景、彼の親族や弟子たちの証言から、竹山の生涯を追う…という内容。
ハンディキャップに加えて、貧困と差別を耐え抜く事で得られたのが竹山の芸。さらに東北の厳しい風土に、戦争や災害と言った時代の困難を超えた、彼の言葉や演奏には重みがある。…ただ初代竹山だけではなくそうした幅広い話題を(説明として以上に)扱っており、話があっちこっちするのが映画としてはちと。
演奏自体を見るのなら、初代よりも二代目竹山の方が印象的だったくらいかも。とは言え自分にも津軽三味線の魅力の、一端程度はわかった様な…個人的に三味線なら浄瑠璃がアヴァンギャルドで好きだけど、こちらもいいもんだね。
2024.04.12
BLUE GIANT
観てみた、立川譲監督によるアニメーション映画。2023年公開。
仙台で独りサックスの練習に打ち込んで来た高校生、宮本大。彼は卒業を機に、世界一のプレイヤーを目指し東京へとやって来た。そして華麗な演奏をするピアニスト・沢辺雪祈と、全くの素人であるドラマー・玉田俊二と共に、バンド「JASS」を結成。名門ジャズクラブ出演を目標に、奮闘するのだが…という内容。
原作は石塚真一と、NUMBER8(本作で脚本も担当)による漫画。現在でも連載中の作品だが、導入部の仙台編をダイジェストとし、東京編を中心にした構成となっている。その為2時間の映画としては、少々強引な面もある様だが…
その代わりか尺は演奏シーンに割いており、それが大変に見応えある。音楽の出来に確信がないとこんな構成は取れないだろうけど、映像も負けていない。大胆なカメラアングルや移動に、様々な手描き技術等を駆使し千変万化するアニメジャズ空間は夢幻の心地(CGの違和感だってその一部ではないかと)。
仙台で独りサックスの練習に打ち込んで来た高校生、宮本大。彼は卒業を機に、世界一のプレイヤーを目指し東京へとやって来た。そして華麗な演奏をするピアニスト・沢辺雪祈と、全くの素人であるドラマー・玉田俊二と共に、バンド「JASS」を結成。名門ジャズクラブ出演を目標に、奮闘するのだが…という内容。
原作は石塚真一と、NUMBER8(本作で脚本も担当)による漫画。現在でも連載中の作品だが、導入部の仙台編をダイジェストとし、東京編を中心にした構成となっている。その為2時間の映画としては、少々強引な面もある様だが…
その代わりか尺は演奏シーンに割いており、それが大変に見応えある。音楽の出来に確信がないとこんな構成は取れないだろうけど、映像も負けていない。大胆なカメラアングルや移動に、様々な手描き技術等を駆使し千変万化するアニメジャズ空間は夢幻の心地(CGの違和感だってその一部ではないかと)。
2024.04.11
ディンゴ
観てみた。C・フリールズ主演、ロルフ・デ・ヘール監督映画。1991年公開。
1969年。豪州の田舎町に飛行機が緊急着陸した。機内から現れたのはビリー・クロスというジャズ演奏家で、その場に居合わせた少年は演奏に魅せられトランペッターを目指す事に。そして青年となった「ディンゴ」は荒野で野犬と格闘する生活の中、彼もクロスとステージで共演する夢を見るのだが…という内容。
ジャズの帝王ことMiles Davisが、唯一本格的に演技をした劇映画。逝去は公開と同年だが演奏シーンは勿論、案外しっかり演じている。眠りに就いたまま彼の出番が終わるのが、死を暗示している様でしんみりしてしまうが…本作は割とベタなシンデレラストーリー。帝王と共演できるなんて、夢みたいすぎるだろ。
まあマイルスの出番はそう多い訳ではないので、満足度は人それぞれだと思うけれど…本作は彼の自伝的な内容だとの事で、そういう意味でも悪くはないんじゃないかな。帝王が主人公に向ける眼差しが、優し気だったのにも頷けた。
1969年。豪州の田舎町に飛行機が緊急着陸した。機内から現れたのはビリー・クロスというジャズ演奏家で、その場に居合わせた少年は演奏に魅せられトランペッターを目指す事に。そして青年となった「ディンゴ」は荒野で野犬と格闘する生活の中、彼もクロスとステージで共演する夢を見るのだが…という内容。
ジャズの帝王ことMiles Davisが、唯一本格的に演技をした劇映画。逝去は公開と同年だが演奏シーンは勿論、案外しっかり演じている。眠りに就いたまま彼の出番が終わるのが、死を暗示している様でしんみりしてしまうが…本作は割とベタなシンデレラストーリー。帝王と共演できるなんて、夢みたいすぎるだろ。
まあマイルスの出番はそう多い訳ではないので、満足度は人それぞれだと思うけれど…本作は彼の自伝的な内容だとの事で、そういう意味でも悪くはないんじゃないかな。帝王が主人公に向ける眼差しが、優し気だったのにも頷けた。
2024.04.08
ザ・バンド / かつて僕らは兄弟だった
観てみた、ダニエル・ロアー監督によるドキュメンタリー映画。2019年公開。
カナダ出身のメンバーを中心としたグループが、Bob Dylanのバックで演奏する様になり名乗った名前が「The Band」。その後独立し画期的な作品を発表したものの音楽性の違いから解散する事となり、最後のコンサートを撮影した映画が「ラスト・ワルツ」。本作はそこに至る、彼らの歴史を振り返る…という内容。
親分のディランやラスト・ワルツを監督したスコセッシも、ちゃんと顔を見せてくれているのが嬉しい。…本作はRobbie Robertson(g)の回想録を元に、製作されたもの。実はThe Bandは度々再結成をしているのだが、Robertsonが参加していないので、本作の様に「映画」が終着点として描かれているのだろう。
ラスト・ワルツは以前観たけれど、本作で経緯を知った上だと同じ映像でもより感動…いや感傷的な気分になった。その感傷は恐らく、Robertson自身が感じていたものだったのではないかと。そして彼もまたこの世を去った…切ない。
カナダ出身のメンバーを中心としたグループが、Bob Dylanのバックで演奏する様になり名乗った名前が「The Band」。その後独立し画期的な作品を発表したものの音楽性の違いから解散する事となり、最後のコンサートを撮影した映画が「ラスト・ワルツ」。本作はそこに至る、彼らの歴史を振り返る…という内容。
親分のディランやラスト・ワルツを監督したスコセッシも、ちゃんと顔を見せてくれているのが嬉しい。…本作はRobbie Robertson(g)の回想録を元に、製作されたもの。実はThe Bandは度々再結成をしているのだが、Robertsonが参加していないので、本作の様に「映画」が終着点として描かれているのだろう。
ラスト・ワルツは以前観たけれど、本作で経緯を知った上だと同じ映像でもより感動…いや感傷的な気分になった。その感傷は恐らく、Robertson自身が感じていたものだったのではないかと。そして彼もまたこの世を去った…切ない。
2024.04.06
「歴代天皇総覧 / 皇位はどう継承されたか」笠原英彦著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2001年発表。
神話の時代から現代まで、時代の趨勢と共に連綿と続いてきた「天皇」。本書では初代神武天皇から第124代昭和天皇、5代の北朝天皇を含む歴代の天皇を、その系譜や事績と共に日本の歴史そのものを俯瞰していく…という内容。
本書は2021年に、第125代の平成天皇までを含む増補版が刊行されている。各天皇の紹介が初代から順番に載っており、各項目で記述に多少重複がある所を見ると、事典的な使い方をする本とも言えるけど…個人的には通読した方が面白いと思う。古事記・日本書紀から現代まで、地続きなのはやはり壮観。
実在すら怪しい存在と、自分もTV等で拝見した実在の人物が、同じ調子で書かれているのは実に不思議な感覚。また天皇を中心にしたコンパクトな日本史の本として読み、あれはああいう経緯だったのかという、新たな知見も得られた様にも思う。是非はまあ置いといて、ユニークな存在だというのを再確認した。
2024.04.05
バカ共相手のボランティアさ
観てみた、瀬下黄太監督によるドキュメンタリー映画。2024年公開。
1981年に福岡で結成されたパンクバンド、「The Swanky’s」。一時「Gai」の名前でハードコア化していたものの、オリジナルパンク・ロック的演奏に回帰し、九州や日本国内に留まらず世界中に愛好者を生み出した。本作では中心メンバー4人による証言や、貴重なライブ映像から彼らの歴史を追う…という内容。
まあ驚きの映画と言っておいていいのでしょうな。活動は80年代の上に九州中心、しかも音源が入手困難なのに加え高い海外人気という謎めいた状況から、実際伝説化していたので。…逆に言うとその謎めいた存在感を抜きにしたら、ごく平凡な歩みをした一ローカルバンドだったのだなと(悪口ではないです)。
その伝説を形に残す意味で、大変価値があるのも確か。エピソードの数々は楽しいし、同郷のバンドに対する印象が聞けたのもよかった。個人的にはGaiの方が好きなので、ゲストの芸人連中にはあまり共感できなかったかもね?
1981年に福岡で結成されたパンクバンド、「The Swanky’s」。一時「Gai」の名前でハードコア化していたものの、オリジナルパンク・ロック的演奏に回帰し、九州や日本国内に留まらず世界中に愛好者を生み出した。本作では中心メンバー4人による証言や、貴重なライブ映像から彼らの歴史を追う…という内容。
まあ驚きの映画と言っておいていいのでしょうな。活動は80年代の上に九州中心、しかも音源が入手困難なのに加え高い海外人気という謎めいた状況から、実際伝説化していたので。…逆に言うとその謎めいた存在感を抜きにしたら、ごく平凡な歩みをした一ローカルバンドだったのだなと(悪口ではないです)。
その伝説を形に残す意味で、大変価値があるのも確か。エピソードの数々は楽しいし、同郷のバンドに対する印象が聞けたのもよかった。個人的にはGaiの方が好きなので、ゲストの芸人連中にはあまり共感できなかったかもね?
2024.04.03
約束の地、メンフィス / テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー
観てみた、マーティン・ショア監督によるドキュメンタリー映画。2014年公開。
ソウル・ミュージック発祥の地として、世界中の音楽家達から尊敬の念を集めて来たテネシー州「メンフィス」。本作では現地で活動して来た伝説的なベテランと、若い世代のミュージシャンによるレコーディング・セッションを通して、メンフィスという街が辿った音楽の歴史と、託された未来への希望を描く…という内容。
多分関係はないだろうけど、先日紹介した「アイ・アム・ザ・ブルース」とは姉妹編みたいな印象。ソウルとブルースとの違いはあっても、黒人発祥の音楽だけあって近い歴史を持ち…更に全盛期世代は次々にこの世を去っていっている辺り、似てしまう。ただそちらと比較すると本作は、そこまで悲壮感は感じない。
何が違うのかと言うと、新世代のミュージシャンがセッションで旧世代をリスペクトし、実際の音楽として新たに生み落とされる現場を見せてくれるからだろうな。…苦難の歴史と将来への不安だけが、米黒人音楽の先行きではないよね。
ソウル・ミュージック発祥の地として、世界中の音楽家達から尊敬の念を集めて来たテネシー州「メンフィス」。本作では現地で活動して来た伝説的なベテランと、若い世代のミュージシャンによるレコーディング・セッションを通して、メンフィスという街が辿った音楽の歴史と、託された未来への希望を描く…という内容。
多分関係はないだろうけど、先日紹介した「アイ・アム・ザ・ブルース」とは姉妹編みたいな印象。ソウルとブルースとの違いはあっても、黒人発祥の音楽だけあって近い歴史を持ち…更に全盛期世代は次々にこの世を去っていっている辺り、似てしまう。ただそちらと比較すると本作は、そこまで悲壮感は感じない。
何が違うのかと言うと、新世代のミュージシャンがセッションで旧世代をリスペクトし、実際の音楽として新たに生み落とされる現場を見せてくれるからだろうな。…苦難の歴史と将来への不安だけが、米黒人音楽の先行きではないよね。
2024.04.02
「日本近代史」坂野潤治著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2012年発表。
明治維新を発端として、日本は「近代」への道を歩み始めた。本書では太平洋戦争へと至る80年の歴史を、「改革」「革命」「建設」「運用」「再編」「危機」といった概念区分に分けて、日本のl近代史を再考するものである…という内容。
450頁もある分厚い新書だが、日本近代史をまとめるのは著者にとっても一苦労で、1年がかりの執筆だったとの事。でも読者としては日本が維新から戦争へと、あれよあれよという間に転がり落ちる様を目撃する事になる。江戸から昭和はそれぞれ個別の印象だったけれど、通史として興味を維持したまま読めた。
多分エッセイ的に著者自身の、(歴史や執筆に関する)「個人的な述懐」が差し挟まれているからかも。…本書は東日本大震災直後という事もあって、その大事件から来る社会変動や歴史観への影響を感じるのはた易い。そういう意味で近代史の本だが、歴史は個人の感情に基づくものという印象も得られたかも。