2024.09.30
「町山智浩のシネマトーク / 怖い映画」町山智浩著
読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2020年発表。
人々が惹かれてやまない「怖い映画」。その背景にあるのは歴史的事件や、作り手の個人的事情。本書では「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」「カリガリ博士」「アメリカン・サイコ」「ヘレディタリー」「ポゼッション」「テナント」「血を吸うカメラ」「たたり」「狩人の夜」という、9本の映画を採り上げ徹底解説する…という内容。
まあだいたい聖書からの引用の話になる辺り、いつもの著者のアプローチ。でも本書は「トーク」というコンセプトからか、ですます調で綴られており…それが蓮實重彦の映画講義をまとめた本と、案外印象が似ているのが成る程と。
他作からの引用・影響関係を、横断的に指摘する辺りがそれっぽく、納得するものがある。本書で採り上げた映画を全部観た訳ではないけど、(自分の感想と)近い解説・解釈をしているのを読むとホッとする辺り、やはり自分は凡人。「怖さ」自体の論証ではないものの…それは観た人個々の皮膚感覚だろうしな。
2024.09.29
「暗い森の少女」ジョン・ソール著、山本俊子訳
読んでみた、アメリカ人作家による長編ホラー小説。1977年発表。
100年前その家の娘が殺害されたコンジャー家では、85年後の今その事件は忘れ去られている。だがそんな時、同家周囲で子供が失踪するといういう事件が発生。コンジャー家の2人の娘は、それぞれの問題を抱え…という内容。
モダンホラー初期の名作として知られる本書ながら、物語に準えたかの様に現在では忘れられかけている。例によって陰惨この上ない内容で、体調の悪い時に無理して読む本ではないし。まあ今回は合間合間に「少女がハッピーになる都合のいい世界」が描かれた漫画を読みつつだったので、何とか乗り切れた。
とは言え質の高さに関しては紛れもないものなので、このまま埋もれるのは結構惜しい。少女期の精神面での残酷さ・不安定さをグロテスクに描き、「不思議の国のアリス」というか、陰鬱版マッドティーパーティー等(読むのもキッツいけど)雰囲気作りにも長けている。…なのでこれも、健康な方にならオススメです。
2024.09.27
「狗神」坂東眞砂子著
読んでみた、日本人作家による長編ホラー小説。1996年発表。
四国の「狗神」伝承が伝わる山村に暮らす女性・坊之宮美希には、かつてそれと知らず実兄と関係を持った末、子供も死産するという過去があった。そんな人生を諦めた彼女の前に、年下の新任教師・奴田原晃が現れて…という内容。
著者の作風的な特徴(出身地である高知が舞台だったり、女性的な妊娠や出産等を題材にしたり)を取り除いたら、本作は所謂「民俗学ホラー」かな。古典的な怪談からは結構近い筈だけど…日本ではSF始め「伝奇」として発展した分野でもあるので、どういう経過で誕生したジャンルか自分には説明出来ないな。
本作は怖いと言うか、陰惨すぎて参った。体調が悪い時(しばらくインフルエンザで寝込んでいたもんで…まだ完調には戻らんのです)に読むのはキツイっすわ。逆に言うと、こういう話を楽しめるなら健康の証でしょう。陰鬱的な民俗学モチーフに近親姦や愛憎等、普段ならフーンで流せてたと思いますのにねえ。
2024.09.25
MOONRIDERS THE MOVIE / PASSION MANIACS マニアの受難
観てみた、白井康彦監督によるドキュメンタリー映画。2006年公開。
1975年に「はちみつぱい」を母体に結成された、日本のロックバンド「ムーンライダーズ」。活動30周年を記念した日比谷野外音楽堂でのライブ映像を中心に、ムーンライダーズのメンバーは勿論周辺ミュージシャンのコメントを加えて、国内でも独特の存在感を示す同バンドの、歴史を紐解いていく…という内容。
そして本作公開後、更に十数年過ぎて今なお活動中の同バンド。自分が知った当時から「無冠の帝王」「最後の大物」と呼ばれ続けて、令和の今でもやっぱりその辺は変わらないという。もしシングルヒットの可能性があったとしたら、「青空百景」の頃だったんじゃないかな…と本作での2曲を聴くと思ったりする訳で。
とは言えやはりこのバンドは、こうだったからこそよかったんだろうしなあ。他にどうなったかなんて可能性を想像する事も出来ない。…本作で登場するゲストにも既に故人が多いし、ずっと活動を続けてくれるだけでありがたいという話。
1975年に「はちみつぱい」を母体に結成された、日本のロックバンド「ムーンライダーズ」。活動30周年を記念した日比谷野外音楽堂でのライブ映像を中心に、ムーンライダーズのメンバーは勿論周辺ミュージシャンのコメントを加えて、国内でも独特の存在感を示す同バンドの、歴史を紐解いていく…という内容。
そして本作公開後、更に十数年過ぎて今なお活動中の同バンド。自分が知った当時から「無冠の帝王」「最後の大物」と呼ばれ続けて、令和の今でもやっぱりその辺は変わらないという。もしシングルヒットの可能性があったとしたら、「青空百景」の頃だったんじゃないかな…と本作での2曲を聴くと思ったりする訳で。
とは言えやはりこのバンドは、こうだったからこそよかったんだろうしなあ。他にどうなったかなんて可能性を想像する事も出来ない。…本作で登場するゲストにも既に故人が多いし、ずっと活動を続けてくれるだけでありがたいという話。
2024.09.23
「墓地を見おろす家」小池真理子著
読んでみた、日本人作家による長編ホラー小説。1988年発表。
加納哲平と美沙緒夫妻は、1人娘の玉緒と共に格安のマンションを購入して移り住む。だがその物件は墓地や火葬場の近くで、初日より怪奇現象が頻発していた。堪り兼ねた夫妻は結局、再度移転を決めたのだが…という内容。
日本における「モダンホラー」小説初期の作品として、評価の高い本書。日本を舞台にしたホラーならではの感覚としては、身近な物件を題材にした「実話怪談」風の雰囲気に加え、因縁話を脱した小中理論的「J・ホラー」に先駆ける、脱構築性が挙げられるだろう。単なるキングの物真似とは最初からかなり違う。
まあ段々話の規模が大きくなるに従って、描写がシュールコント(ブニュエルの「皆殺しの天使」を連想したり…?)みたいになっていくのは、好みから外れるという人がいても正直仕方ないな。とは言え「J・ホラー」的な映像感覚面で先駆ける演出(新耳袋かな?)などは、これは今読んでも大したものであるなあ。
2024.09.21
「アッシャー家の弔鐘」ロバート・R・マキャモン著、大瀧啓裕訳
読んでみた、アメリカ人作家による長編ホラー小説。1984年発表。
ポオが小説にも書いた呪われた名家「アッシャー」は実在し、米国の軍事産業を長年牛耳って来た。そうした同家を嫌って現在作家業を営むリックスは、当主である父親・ウォーレンが危篤と知り、久々に帰郷したのだが…という内容。
キングの「シャイニング」(1977年)が、ポオ「赤死病の仮面」のオマージュだという事は大して注目されない。でもモダンホラー第3の男と呼ばれた著者が、そのアイデアを本書で発展させたというのは納得する。本書はポオの小ネタを色々拾ったパスティーシュ作だが、いかにもなモダンホラー的要素も散見される。
シャイニングをポオの要素で、装飾した感じだよなこれ。なのに「パンプキンマン」なんてネーミングはキング感丸出しで、ポオのポの字も無いのが何か。…なので個人的には「ポオ」をネタにした小説なら、ルーディ・ラッカーの「空洞地球」(1990年)の方が好きだな。あんまり気真面目過ぎても、面白くならないよね。
2024.09.06
「ファントム」ディーン・R・クーンツ著
読んでみた、アメリカ人作家による長編ホラー小説。1983年発表。
アメリカのとある田舎町で、住民全てが謎の大量死を遂げるという事件が発生。たまたま難を逃れた女医・ジェニーと妹のリサは、その異常な状況と原因不明の事態に恐怖する。そのの背後には、ある邪悪な存在がいて…という内容。
キングとも並び評される、モダンホラーの大家による代表作。元々の出身がそうだからか、かなりSF的なテイストが強い。その事もあってか、瀬名秀明の「パラサイト・イヴ」(1995年)が、日本のクーンツと呼ばれたというのにも成る程納得。…バイオホラー要素や、太古からの異常存在等、そうも言われるわなって。
本書はジェットコースター展開の連続で、手に汗握るけれど…超巨大な風呂敷を広げた割には、ちっちゃく畳み過ぎではなかろうか。エンタメってそういうものよ?、と言われたら仕方ないが…なんかよく判らんやつが、なんかよく判らんまま存在し続けてコワイ。というラヴ先生的なオチでも、よかったんじゃないかな。
2024.09.05
「ゾンビ」ジョージ・A・ロメロ 、スザンナ・スパロウ著、藤沢良寛訳
読んでみた、アメリカ人作家による長編ホラー小説。1978年発表。
「死者=ゾンビ」が大量に発生し、社会は大混乱を来たしていた。TV局員・フランは恋人やSWAT隊員2名と共に、市街地からヘリで脱出。ショッピングモールで一時の安全を得た。だがゾンビ、更にはそれ以外の危機が…という内容。
同年に公開された映画、「ゾンビ」のノベライズである本書。ロメロ監督自身が共著者にいる通り、内容自体は映画のストーリーそのままと言っていい。そちらに人物の心理描写等を補った感じだけれど…映画なら数秒で済むアクションシーンを、馬鹿丁寧に文章で描写していくもんで、だいぶモタモタしてしまってる。
先に映画を観て内容を知っているから、これ正直つらいな。仮に本書を先に読んでいたら、結構楽しめそうではあるものの、それならやはり映画を観るべきだし。…とは言え結構貴重な本なので、ファンならば手に取ってもいい。モールを「資本主義の象徴である」なんて、真正面から書いているのには驚いたかも。
2024.09.03
ローレル・キャニオン / 夢のウェストコースト・ロック
観てみた、A・エルウッド監督によるドキュメンタリー映画。2020年公開。
ウェストコースト・ロックにおける聖地と呼ばれるのが、カリフォルニア州LAの「ローレル・キャニオン」。The ByrdsからEaglesまで、1960年代のアメリカで勃興し、その地で革新的なロックサウンドを発展させた人々。本作では当時の写真や映像に加え、当事者自身の証言からロックの時代を追う…という内容。
変に欲張らずに焦点を絞ってはいるものの、60年〜70年代にかけての米ロック、メインストリームがここにあると言ってよいだろう。…焦点と言えば本作は映像を当時の素材に限り、インタビュー音声は(近年のものっぽいけれど)数秒と間を開けずに証言や歌詞を繋げて、連続させるという構成・編集を行っている。
成る程、オーラルヒストリー。お陰でその時代への没入感や地続き感が高く、この手のドキュメンタリーは結構見てきた自分でも、斬新に感じた。…この時代の米ロックへの興味は個人的にはそこそこながら、素晴らしい作品だと思う。
ウェストコースト・ロックにおける聖地と呼ばれるのが、カリフォルニア州LAの「ローレル・キャニオン」。The ByrdsからEaglesまで、1960年代のアメリカで勃興し、その地で革新的なロックサウンドを発展させた人々。本作では当時の写真や映像に加え、当事者自身の証言からロックの時代を追う…という内容。
変に欲張らずに焦点を絞ってはいるものの、60年〜70年代にかけての米ロック、メインストリームがここにあると言ってよいだろう。…焦点と言えば本作は映像を当時の素材に限り、インタビュー音声は(近年のものっぽいけれど)数秒と間を開けずに証言や歌詞を繋げて、連続させるという構成・編集を行っている。
成る程、オーラルヒストリー。お陰でその時代への没入感や地続き感が高く、この手のドキュメンタリーは結構見てきた自分でも、斬新に感じた。…この時代の米ロックへの興味は個人的にはそこそこながら、素晴らしい作品だと思う。
2024.09.02
スティーヴ・ベイター / ロックにすべてを捧げた男 その短すぎる生涯
観てみた、D・ガルシア監督によるドキュメンタリー映画。2019年公開。
NYパンクを代表する「Dead Boys」や、「The Lords of the New Church」のボーカリストとして活動し、1990年に40歳の若さでこの世を去った「スティーヴ・ベイター」。本作は彼の激しくも短い生涯を、バンドメンバーを始めとする関係者のインタビューや、貴重なライブ映像により振り返っていく…という内容。
筆者はDead Boysなら以前聴いたけれど、The Lords of〜と同じ人だったとは知らなかった。本作では、そちら以外にもBatorが関わった多くのグループを紹介しており興味深い。「知る人ぞ知る」と言うのが、最も合っているのでは。
いかにもパンクロッカー的な奇行エピソードをに留まらず、当時の音楽界の有名人達との関わりも併せて語られて楽しい。ただいかにもパンクロッカー的に衝撃的な死に様とは違って、緩やかな衰弱死みたいに感じられる(交通事故死なのに)のが哀しい。…とは言え本作で、「知る人ぞ知る」彼を知るのもよいと思う。
NYパンクを代表する「Dead Boys」や、「The Lords of the New Church」のボーカリストとして活動し、1990年に40歳の若さでこの世を去った「スティーヴ・ベイター」。本作は彼の激しくも短い生涯を、バンドメンバーを始めとする関係者のインタビューや、貴重なライブ映像により振り返っていく…という内容。
筆者はDead Boysなら以前聴いたけれど、The Lords of〜と同じ人だったとは知らなかった。本作では、そちら以外にもBatorが関わった多くのグループを紹介しており興味深い。「知る人ぞ知る」と言うのが、最も合っているのでは。
いかにもパンクロッカー的な奇行エピソードをに留まらず、当時の音楽界の有名人達との関わりも併せて語られて楽しい。ただいかにもパンクロッカー的に衝撃的な死に様とは違って、緩やかな衰弱死みたいに感じられる(交通事故死なのに)のが哀しい。…とは言え本作で、「知る人ぞ知る」彼を知るのもよいと思う。