2024.11.30

愛欲の港

観てみた、イングマール・ベルイマン監督映画。1948年公開。

長かった8年間もの航海から帰港し、港で落ち着く事にした元船員のヨスタ。彼はある少女が投身自殺を図ったところを未然に助ける。やがてその娘・ベリトとの交際が始まるのだが、彼女には家庭問題や施設での生活といった暗い過去があった。しかも再会した施設の仲間から、堕胎費用をせがまれ…という内容。

公開は5年程前だが、本作は出世作「不良少女モニカ」(1953年)と大体同傾向の作品と言っていいだろう。(スウェーデン自体は参加していないものの)第二次大戦後の暗い社会情勢を背景に、当時の危機意識を採り上げている。

印象としては「松竹ヌーベルバーグ」辺りを思い起こさせられたのだから、これはかなり先行している(〜モニカがヌーベルバーグの作家に影響を与えているのだから、内容面で同様な本作もだ)。…ただヌーベルバーグの様にスタイリッシュではなく、どちらかと言うと説教くさい辺りは、やはりベルイマンだからか。
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2024.11.29

渇望

観てみた、イングマール・ベルイマン監督映画。1949年公開。

元バレリーナのルートは、かつて不倫相手との間の子を中絶しながらも、捨てられた過去を持つ。現在は夫・バッティルと、戦後間もないドイツ国内を列車で新婚旅行中だが、不妊となりバレリーナとしての夢も失った彼女は、夫につらく当たってしまう。一方ルートのバレエ仲間だったヴィオラもまた…という内容。

本作もベルイマンでは比較的初期の作品。内容的には夫婦の愛憎劇という感じだが…その前に登場俳優が似ているせいで、観ていて混乱してしまった。不倫相手は軍人だった筈が後に登場したら医者になってて、あれ軍医だったのか?、と思ったら別人だった(あと他にも)。無駄に難解な印象になってしまった。

一種の心理サスペンスという感じ(結末だけは唐突にメロドラマ)、宗教方面への言及がないと今一つベルイマンという感じがして来ない。時代背景も知らなかったせいで、これまた無駄に混乱してしまったものの…まあ、これはこれで。
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2024.11.27

歓喜に向かって

観てみた。イングマール・ベルイマン脚本、監督映画。1950年公開。

バイオリン奏者のスティグが受けたのは、妻・マルタと娘が事故死したとの報。やがて彼はマルタとオーケストラ団員として出逢った頃を回想する。いつしか恋に落ち結ばれる2人だが、スティグの演奏家としての困難に加え、夫婦生活は決して平穏なばかりではなかった。一旦は別れる事になる2人だが…という内容。

ベルイマンの比較的初期の作品だが、後にモーツァルトのオペラ「魔笛」を映像化するだけに、音楽的な嗜好が窺える辺り興味深い。ただ本作は音楽映画と言うよりは、むしろ夫婦の愛憎劇という感じ。まだベルイマン独自の感性が花開いたとは言えず、個人的にはルネ・クレール辺りが作りそうな…という印象かな。

興味深いと言えば本作で老指揮者を演じるのは、ベルイマンの師匠であるヴィクトル・シェストレム。「野いちご」(1957年)の老教授役も、この人だと今回知ったけれど…「霊魂の不滅」の監督(!)かあ。演技の方も達者なものですな。
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2024.11.26

道化師の夜

観てみた。イングマール・ベルイマン脚本、監督映画。1953年公開。

馬車を連ねて進む、巡業サーカス団。座長のアルベルトは曲馬師・アンを愛人として興行を続けたものの、一座は経済的に追い詰められていた。ある町で地元の劇団に助力を乞うたものの、侮辱を受ける。その町はアルベルトが、妻と2人の子供を置き去りにした場所。彼はサーカスの廃業も考えており…という内容。

ベルイマンとしては比較的初期の作品で、「不良少女モニカ」の翌年の作。サーカスを題材にしている為か、フェリーニ作品っぽいと言うか…それだけではなく(同時代的な影響から?)「ネオレアリズモ」を思わせる作風なのは興味深い。

サーカスの映画で、こんな陰鬱な気持ちにさせられるのも珍しい(「地上最大のショウ」なんて本作に較べたら、楽しいばっかりだな)。クマちゃんかわいそう。…とは言え冒頭の幻想的なシーンなどは、フェリーニがまだ「青春群像」(1953年)を撮っている頃なのに、そちらに先駆けてフェリーニっぽいという逆転現象。
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2024.11.24

第七の封印

観てみた。イングマール・ベルイマン脚本、監督映画。1957年公開。

黒死病が蔓延する中世のスウェーデン。十字軍遠征から帰還した騎士・アントニウスは、彼の死を宣告する死神にその猶予を求める為、チェスの勝負を挑む。対戦は幾日にも渡り、その間に騎士は様々な人々、その生と死の様相を目撃する。そして彼は自身の居城へと帰還し、妻と再会するのだが…という内容。

「鏡の中にある如く」「沈黙」と共に「神の不在」三部作を成す、ベルイマンの代表作。という通り宗教的な内容だが、「死神」がいるのなら不在じゃないし。…とは思ったものの、英語なら単なるDeathで「神」は付かないからいいのか。

かなり重厚で難解な映画だけれど…旅芸人や鍛冶屋の存在からは、そこはかとないユーモアが感じられる。そうした点からか(時代設定だけでなく)本作は、シェイクスピア作品と近い印象がある。そもそも何で死神とチェスしてるのかって辺りで、悲劇とも喜劇ともつかない…それすなわち生と死の境界なのかも。
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2024.11.23

「まぼろし小学校 / 昭和B級文化の記録」串間努著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1996年発表。

「昭和時代の小学校生活ってどんなだっけ?」という疑問を抱いた著者が、アンケートや取材を元に当時の子供文化をまとめた1冊。文房具に給食、掃除や遠足等々という、小学生に欠かせなかったあれこれを回顧する…という内容。

大変な労作。案外類書が存在しないという意味でも、貴重な記録となっている。…ただ個人的には9割の内容はピンと来なかった。昭和と一口で言っても長いし、自分は結局そのうちの6年間しか(しかも狭い範囲での)体験しかしてない訳で。懐かしいよりもむしろ、自分と違うんだなあ、という印象の方が強かった。

あと当時流行ったアイテム等を、販売会社に取材する辺り凄いけど…その社の沿革を長々書かれてもな。加えてアンケートの文章をそのまま掲載していたり、読み物としては正直なんだなって。まあ律義に全部読もうとしたからこの感想なのであって、自分にヒットする話題だけつまんで読むのがいいんじゃないかな。
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2024.11.21

「図説 小松崎茂ワールド」根本圭助編著

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読んでみた、日本人編者によるビジュアル・ムック。2005年発表。

「小松崎茂」は1915年に南千住で誕生し、画家志望から転じてイラストレーターとなった。殊に少年誌での戦記やSFイラストに才能を発揮し、大変な人気を博した。本書では、彼の生涯に渡っての業績を解説していく…という内容。

なのでビジュアル要素は強いものの、伝記的な内容がメインの一冊。とは言え小松崎の生涯は余りの人気故の多忙で、絵をひたすら描く以外殆どエピソード的なものは無かったり(火事くらい?)。代りに同時代の世相や同時代画家の作品も併せて紹介する事で、立体的に小松崎の存在を浮かび上がらせている。

個人的にサンダーバード等での印象が強いので、幅広い作風が知られたのはよかった。まあ小さいカット少々で判った気になるのも何だが、西部劇や秘境物の絵物語をそんな読みたい訳でもないしな。むしろドラマチックな人生ではない分、弟子たちの小松崎を慕う言葉や、その一徹を通した最期に胸を打たれる。
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2024.11.20

「昭和ちびっこ未来画報 / ぼくらの21世紀」初見健一著

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読んでみた、日本人著者によるビジュアル文庫。2012年発表。

少年漫画誌や学習誌等、1950年〜1970年代の子供向けメディアには、来るべき「未来」を予測した記事に溢れていた。本書はそうした当時の予測図を、希望に溢れる未来から破滅的な終末までを集めて紹介している…という内容。

文庫サイズとは言え、本書はそうしたイラストをカラーの見開きで掲載しているので、かなり見やすいのが有難い(まあ元々の印刷が悪いので、文章が読みにくいのは仕方ない)。雑誌記事に限らず、大阪万博(ミャクミャク様じゃない方)パビリオンや相澤ロボット等、同時代の未来的ガジェットも見られて楽しめる。

ただもっと面白い記事があるんじゃないの…という、多少物足りない感覚はあるものの、文庫だし値段的なところもあるので、これで丁度いいのかも。ところで他の書籍にもあった小松崎先生の「宇宙をさまよう都市宇宙船」って、(誰も指摘していないけれど)ジェイムズ・ブリッシュの小説が元ネタなんじゃないかな?

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2024.11.18

「昭和少年SF大図鑑 / 昭和20~40年代僕らの未来予想図」堀江あき子編

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読んでみた、日本人編者によるビジュアル・ムック。2014年発表。

昭和20年から40年にかけての少年向け雑誌では、遥か未来を予測したページが人気を博していた。宇宙船やロボットに未来都市、かつての少年を夢中にさせた「SF」イラストと共に、当時の文化的背景を解説する…という内容。

ネット上でよくネタにされている画像、と言ってしまうと身も蓋もないけれど…大阪万博はじめ、今現在各方面で開発中の「空飛ぶ自動車」の予測イメージなどは、かなりいい線いってる。実車でのドローンがでかくなっただけじゃん、という感じは本書に載っているリフトファンで浮上するものと、かなり近い方式だし。

レトロフューチャーなイラストは楽しいし、2024年の未来人の目からも感心する点は多い。ただ雑誌ページを相当縮小したため記事として読めない上、点数も思ったより多くはないので…ざっとこのジャンルを俯瞰する為の本だろう。しかし今見るとユーモラスな感覚が先に立つ絵だが、本当に皆上手くてすごいな。
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2024.11.17

「荒俣宏の少年マガジン大博覧会」荒俣宏、高山宏著

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読んでみた、日本人著者によるビジュアル書籍。1994年発表。

講談社より1959年(昭和34年)に創刊した、週刊漫画雑誌「少年マガジン」。児童向けからやがて青年読者までもとりこにし、一時期の社会現象にまでなった同誌を、当時の読者だった両著者が様々な側面から解説する…という内容。

書名には「荒俣宏の〜」とあるけど、メインの執筆は高山の方。彼が自身の読者体験…を超え、自叙伝的な自分語りに加えて相当偏った作品評で同誌を語る辺り、正直賛否両論ではなかろうか。とは言え今では忘れられた作品について、当時の熱気と共に解説してくれる辺り、追体験という意味では悪くない。

加えて本書では画期的な巻頭グラビアで一世を風靡した「大伴昌司」の業績に、多くの紙幅を割いている辺り(刊行当時「博物学」で話題だった)荒俣の嗜好が窺える。円谷関連からだと出入り禁止の胡散臭い人物というイメージだし、そのグラビアも如何わしい限りだが…ユニークな時代の立役者だったのだな。
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2024.11.15

「別冊太陽 / 子どもの昭和史 名作コミック集 昭和元年―二十年」平凡社刊

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読んでみた、日本の出版社による雑誌別冊/ビジュアルムック。1989年発表。

戦後画期的な発展を見せた日本の「コミック」。勿論戦前から戦中の時期にはその前段階にして、魅力的な漫画作品が存在した。有名な田河水泡「のらくろ」を始め、当時の子供達を夢中にさせた漫画の数々を紹介する…という内容。

別冊太陽なので、内容自体はあまり説明は必要ないと思うけど…結構古い本だけに、田河水泡ら当時の作家が健在でコメントを残している辺り凄い。ただ刊行当時既にそれらの作品が忘却されつつあるのを嘆く本書だが、2024年の現在では本当に顧みられる事もないな。それだけに貴重な話が読めるのは嬉しい。

基本的には一部ページを(縮小され見にくい)紹介する体裁で、全体像まで判るとは言い難いが…田河水泡でものらくろ以外に紙幅を割いており、作品数も多くかなり幅広く紹介している。昔の作品なのに加えて基本的には低年齢層向けなので、素朴なのは言うまでもないけれど…今読んでも、それが何とも愛らしい。
posted by ぬきやまがいせい at 03:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2024.11.14

「アサヒグラフ別冊 / 戦中戦後紙芝居集成」朝日新聞社刊

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読んでみた、日本の出版社によるビジュアル・ムック。1995年発表。

戦中から戦後の一時期、少年少女を夢中にした「紙芝居」。本書では膨大な作品の中から、絵と裏書の説明文をカラーで収録すると共に、当時観客だった元子供の著名人や関係者証言等から、紙芝居文化を紹介する…という内容。

分厚いムックながら各作品は抜粋・断片的な収録となっているので、流石に全部掲載する訳にはいかなかった模様。失われた作品も多いだろうに、それ以上に手描きという形で大量に制作された事を実感。…本書で有名な作品と言えば「黄金バット」くらいなもので、有象無象の作品からも当時の活気が窺える。

なので全体像はとても語れないものの、胡散臭さやパチモン感があるのは仲々楽しい。例えば何でか幕末の京都には、鞍馬天狗のパチモンが何人もいたりとか。あと本書だけでもフランケンが何人もいるし。なので個々の作品がコンテンツとして、残っていないのは仕方ないけど…ユニークな文化だったんだなと。
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2024.11.12

「沙漠の魔王 / 完全復刻版」福島鉄次著

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読んでみた、日本人作家による絵物語/漫画。2012年発表。

砂漠や密林を股にかけ、秘境地帯の探検へ一家と共に乗り出したボップ少年。彼は様々な敵や危機に際し、「沙漠の魔王」と呼ばれる謎の巨人を呼び出して協力を仰ぐ。ところが魔王は容易く、悪の側にも廻ってしまい…という内容。

1949年から1956年にかけて、雑誌「少年少女冐險王」で連載された絵物語。宮崎駿監督が影響を受けた事で有名だが、戦闘機や潜水戦車といった個性的なメカが登場して楽しませてくれる。基本は「紙芝居」の絵と文章をページ上に配した感じだけれど、漫画の様にコマ割り+吹き出しで構成される回もある。

ほぼ全ページカラーなのに加え、大変に高い画力で描かれた作品ながら…独特の表現から、非常に読みにくい。しかも主人公には姉少女がいた筈なのに、途中から存在が抹消されてしまう(最終回のソードマスターヤマトみたいに、強引なまとめでも無視)。でもプッセちゃんかわいい。特に豹毛皮衣裳の初期。
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2024.11.11

「手塚治虫小説集成」手塚治虫著

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読んでみた、日本人作家による短編小説集。2016年発表。

マンガの神様こと「手塚治虫」は漫画執筆の傍ら、小説やエッセイ等の文章も発表していた。本書は小説での代表作となる中編「蟻人境」をはじめ、キャリア初期から晩年に渡って書かれた、小説を集成したものである…という内容。

基本的にはSFやファンタジーといった、著者自身の漫画作品とも共通する傾向と言っていい。とは言え(意外と言っては失礼だが)本職はだしと言ってもよい出来栄えで、成程流石という感じ。…ただ例えば前述の「蟻人境」が香山滋辺り、SF系短編がブラッドベリやブラウン等、連想させるのも確かかと思われる。

まあこれは、周辺ジャンルもよく研究しているって事の顕われなんだろう。個人的にはエッセイともフィクションともつかない作品の方が、奇妙な味わいがあって好きだ。…手塚ファンにはお馴染みである「ヒョウタンツギ」を主役にした作品は、小説として書かれてた(妖蕈譚)というのは、結構面白いんじゃないかな。
posted by ぬきやまがいせい at 09:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2024.11.09

「マヤ・デレン / 全映画&ドキュメンタリー」マヤ・デレン

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観てみた、アヴァンギャルド短編映画集。2010年発表。

「マヤ・デレン」は1917年にウクライナで生まれ、1922年一家と共にアメリカに移住した。結婚相手と共に短編映画の制作を手掛けたのをきっかけに、映像作家・舞踏家としての道に進んだ。決して多くはない作品を遺し、1961年没。

本作はデレンの映画全6作と共に、彼女のドキュメンタリーを収録したDVD。内容はまあ前衛映画という事になるものの、単純にダンサーによる舞踏や太極拳の演武を収録したものなどは、劇映画でないだけで実験作と言うのも違う気はする。そういうのを音楽すら付けずに見せられると、相当に退屈ではあるけど。

とは言え彼女の代表作「午後の網目」は、カンヌホルダーだけに大変に優れた作品。和楽器演奏による音楽や隠喩に満ちた画面等、シュールな内容ながら、前衛映画にしてはドラマを感じさせる辺りが良いかも。…ドキュメンタリーの方もジョナス・メカス登場やJohn Zornの音楽等もあって、仲々興味深い内容。
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2024.11.08

「Silent avant-garde」V.A.

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観てみた、アヴァンギャルド映画短編オムニバス集。2023年発表。

リュミエール兄弟による発明から間もなく、各国で映画の可能性を探る実験的な作品が作られた。本作は「サイレント」時代の1920年代から現代まで、様々な映像作家達が手掛けた「アヴァンギャルド」短編を集めたオムニバスBD。

1920年代の映画が中心だが、白黒・サイレントに限らず、カラー・トーキーの作品も含まれている。でも音楽のみで台詞の類が使われていない点は共通しているので、「サイレント」という表題を掲げたのではないか。筆者にはほぼ初見となる貴重なものばかりが収録されており、好事家にとっても有難い内容では。

エイゼンシュタインから、デュシャンにマン・レイといったすごいメンツ。ただ内容は、総じてちっとも面白くないという。前衛映画だからまあ仕方ないが、収録作の中だと「バレエ・メカニック」は今見ても楽しいんじゃないかな。坂本龍一が曲のモチーフにしただけに、ジョージ・アンタイルによる音楽も凄くカッコいい。
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2024.11.06

ヴェネツィア時代の彼女の名前

観てみた。マルグリット・デュラス脚本、監督映画。1976年公開。

カルカッタのフランス大使館。40年の時間が過ぎた事で建物は今や廃墟と化し、その姿は嘗ての栄華を思い起こさせるだけにすぎない。そこに以前と変わりのない人々の声だけが虚ろに響いて、往時を忍ばせるのだが…という内容。

「インディア・ソング」の続編、というか姉妹編。そちらの映画に出ていた建物が廃墟となった姿を延々映しているだけの画面に、インディア・ソングで使われた音声をほぼそのまま流すという驚愕の作品。時系列的には後なので、続編と言えるのだろうけれど…すごい実験的な着想と言うか、すごいリサイクル映画。

実際観た感じは廃墟内の暗がりから、それとは関係のない声がボソボソと聴こえるだけなので、まるでホラー映画。幽霊の会話だ。ロバート・ワイズ監督「たたり」の丘の家だろ、これという。…観て面白いかどうかは保証しかねるものの、両作を併せて観ると本当に、デュラスの才気走った感性が窺えるのは確か。
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2024.11.05

インディア・ソング

観てみた。マルグリット・デュラス脚本、監督映画。1975年公開。

1930年代、カルカッタの仏大使館。大使夫人のアンヌ・マリー・ストレッテルは男達全てに身体を許し、女神のごとくにかしずかれていた。そんな時左遷されて来てラホールの元副領事もまた、大使夫人に惹かれるのだが…という内容。

えっそういう話だったの!? …いや相当に突飛な作品で、正直判らなかったわ(当時も賛否両論だったものの、寺山修司らからは絶賛されたとか)。と言うのも本作では人物がパントマイムというか活人画みたいに静止している中、気怠い対話がオフで聴こえてくるという、斬新過ぎる演出が採られているもんで。

雰囲気自体は、アラン・レネとかロブ=グリエ辺りの印象に近いと思うけれど(アンニュイさはアントニオーニ風?)、映画の手法としてはパラジャーノフの「ざくろの色」に通ずるものがあるかも。とは言えデュラスの小説からストーリーを抜き取って、映像主体にしたらこうなる…という感覚は、成程そうかもしれない。
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2024.11.03

ウォールデン

観てみた、ジョナス・メカス監督による実験映画。1968年公開。

「ジョナス・メカス」は1922年リトアニアで誕生し、その後ニューヨークに渡り実験映画の制作を始める様になる。彼は自身の身辺を映像に収めた「日記映画」を撮り続け、本作は中でも3時間の長編であり代表作でもある…という内容。

本作は1964年から1968年にかけて撮影されたもので、家族との日常や旅行先の風景といった、要するにプライベートフィルム。でもそうした中に交流するNYアヴァンギャルド界隈の有名人の姿が捉えられており、C・ドライヤーやウォーホル&ヴェルヴェッツ、ジョン&ヨーコまでと大変貴重な記録となっている。

加えて単なる記録ではなく、映像的に相当な手間で編集が施されており「作品」と呼ぶに足る内容となっている。早回しのラフな映像をスピーディな編集で繋げる事で、前衛的というか都会/ストリートの空気を切り取っている。実験的ではあるけど決して難解でない辺り、同地のアート表現そのままで成る程興味深い。
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2024.11.02

「手塚治虫のマンガの描き方」手塚治虫著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/指南書。2000年発表。

「鉄腕アトム」や「ブラックジャック」等で知られる、漫画の神様こと「手塚治虫」。本書では漫画家を志望する読者に限らず、親や教師といった子供を教え導く人々にも向けて、「マンガ」の持つ楽しさ・描き方を紹介していく…という内容。

流石に神様著というだけあって、漫画入門書としては最も有名な一冊。でも実際に読まなければ知らなかった事も多い。落書きから始まってキャラ・背景の描き方。特に手塚版・北斎漫画とでも言うべき、様々な表情や人物動作等の見本として描かれた、豊富な挿絵はすごい。当時の読者は、さぞや感激したろうな。

個人的に感激したのは、本論に添えられた自叙伝的部分。幼い頃著者の母親が寝物語に聴かせてくれた創作童話に、病気の際母に描いてとねだったパラパラ漫画の思い出。どちらも漫画家・アニメ制作者である手塚の、原点となるエピソードだろう。意外と巷間語られないのは不思議だが…大変感動的だと思う。
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