
読んでみた、日本人作家による短編小説集。1990年発表。
留学中の「余」は「ロンドン塔」を訪れ、そこで行われたであろう歴史的な情景を幻視する…(倫敦塔)。騎士のウィリアムは敵城の姫君を、盾の放つ幻影の中に見るのだが…(幻影の盾)。という表題作を含んだ、全7編が収録されている。
本書は漱石の初期作を集めたもので、いずれも初短編集「漾虚集」(1906年)として刊行された。体験記がいつのまにか夢想へと足を踏み入れたり、中世騎士物語を空想譚へと展開させたりと、「幻想小説」的な作風が目立っている。漱石はポオも高く評価していたとの事で、成る程そうした影響が窺えて興味深い。
でも代表作「吾輩は猫である」と同時期なのに、かなり文章が硬くて取っつきにくい。まあ西洋小説風を頑張って目指したせいかな…という気もしたけれど、収録作「趣味の遺伝」だと割と吾輩猫に近い印象。ただ内容的にあの不謹慎な暴言を、猫ではなく人間主人公に言わせると、これひどい奴だな!となるという…