2023.07.08

「伊豆の踊子・温泉宿 他四篇」川端康成著

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読んでみた、日本人作家による短編小説集。1952年発表。

伊豆で一人旅をする学生の「私」は、旅芸人一座の「踊子」に惹かれ、道連れとして同行する事になり…(伊豆の踊子)。温泉宿に暮らす、様々ないきさつを持った娘達は…(温泉宿)。という表題作を含んだ、全6編が収録されている。

「伊豆の踊子」は以前紹介した田中絹代の映画を始め、美空ひばりや山口百恵といったその時々のスターにより演じられて来た。でも実際原作を読むと実にアッサリとした短編で、あまりロマンスといった感じはないのだな(別れの船で一人泣く主人公の方が印象的)。とは言え地方情緒から来る「情感」は、流石名作。

情感が「幻想」にまで高まっている諸作は、個人的には特に興味深い。祖父の介護記録だという「16歳の日記」は、その生々しさが反転して非現実的な境地に至り、二通の遺書として綴られた「青い海 黒い海」では彼岸の風景を幻視する。…まあ伊豆の踊子の、「失われた時代の情感」自体が、幻想そのものかも。
posted by ぬきやまがいせい at 10:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書
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