2025.04.27

イメージの本

観てみた、ジャン=リュック・ゴダール監督映画。2018年公開。

映画・絵画・文章・音楽をモチーフに、様々な映像イメージを編み上げた実験的作品。「リメイク」「ペテルブルグ夜話」「線路の間の花々は旅の迷い風に揺れて」「法の精神」「中央地帯」という全5章で構成され、映画の歴史と共に、世界で行われる暴力行為への、批判的な眼差しで構成されるものである…という内容。

「映画史」や、ジガ・ヴェルトフ集団での手法を思い起こさせる内容。ただそれらの「全映画の綜合」や「政治的主張」といった明確なコンセプトには欠ける代わりに、(題名通り)多彩な映像を「本」のイメージで、まとめ上げたと思われる。

カンヌ映画祭では最高賞のパルムドールを超える、「スペシャル・パルムドール」を授与されたとの事。まあよく判らないけれど、多分名誉賞的なものでは。本作がゴダールの遺作となった様でもあり、受賞に相応しい。本作は88歳当時の作品との事なので、自身の生涯を総括するという意味でも、相応しい映画だろう。
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2025.04.26

夢の涯てまでも

観てみた。ヴィム・ヴェンダース脚本、監督映画。1991年公開。

1999年、核衛星の落下が懸念され世界は恐怖に怯えていた。そんな中クレアは自動車旅の道中、トレヴァーという謎めいた男を同乗させる。パリで別れた後も彼の存在が気になったクレアは、トレヴァーを世界中追いかける。遂に彼に追いついて共に旅を続けたものの、突然に起きた核爆発の影響で…という内容。

今回観たのは2019年の「ディレクターズカット版」で、公開時より100分長い288分。…世界各国での大々的なロケやNHKによるハイビジョン撮影の協力、日本編での笠智衆の登場等で話題になった大作。…ところが結果は大酷評。

前半のロードムービー的な感覚は結構いいのに、後半は三文SFっぽい描写になって成程唖然。ラストの宇宙船とか「幻の湖」を連想した。…とは言えレトロチックなSFガジェット(バブルカーとか)は嫌いじゃない。野外でのプリミティブな演奏シーンとか、後に多く手掛ける音楽ドキュメンタリーを連想させ興味深い。
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2025.04.24

黒猫・白猫

観てみた、エミール・クストリッツァ監督映画。1998年公開。

ユーゴスラビアを流れる、ドナウ川沿いのある町。自堕落に暮らすマトゥコは列車を襲って石油を奪う計画を立て、不仲な父親・ザーリェの友人である町の大立者・グルガからの協力も得る。ところが結局失敗に終わり、その為マトゥコは息子のザーレを、新興ヤクザ・ダダンの妹と結婚させる事になって…という内容。

クストリッツァと言えば勿論ユーゴスラビアの監督だけど、本作の泥臭い笑いの数々は東欧と言うより南米っぽい。コメディと言うよりマジックリアリズムっぽい。前作「アンダーグラウンド」が同国史を俯瞰する内容だったのに対して、本作では同国の人々のエネルギッシュな生き様を、デフォルメして描いている感じ。

ストーリーらしいストーリーも無く、人々がガチャガチャ騒ぐ様子を眺める作品。ただ軽く流して観られる様なものでもないので(少々不快要素があるもんで)、130分という尺はちと長いかも。…とは言え、パワフルな映画ではあるなあ。
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2025.04.23

英国式庭園殺人事件

観てみた、ピーター・グリーナウェイ監督映画。1982年公開。

17世紀末の英国。南部にあるハーバート家の豪邸に招かれた画家のネヴィルは、不在だという主人が戻るまでに12枚の絵を描く約束を夫人とする。ところが彼が庭園をスケッチするその都度、シャツや梯子といったハーバート氏を思わせる物が入り込む。やがて、その主人本人が見つかるのだが…という内容。

同監督による長編デビュー作だが、Michael Nymanの音楽に加えて「奇矯」な作風が既に顕れている。なので題名から推理物かと思った人が、皆揃って困惑したという…まあ自分もか。グリーナウェイは知っている積りだったのに。

(「数に溺れて」等に先駆ける)パズル的要素は一応あるものの、衣装や調度等、当時の貴族生活を再現した映像の方が目を惹く。それ以上に連続性のない会話の輻輳とかハナ肇みたいな銅像のオッサン等、正直意味不明で訳がわからなくなってしまう。まあ変な映画と判って観れば…やっぱりすごく変な映画だ。
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2025.04.21

トラック

観てみた、マルグリット・デュラス監督映画。1977年公開。

マルグリット・デュラスは未実現に終わった映画の為に書かれた脚本を、ジェラール・ドパルデューに語って聞かせる。その内容はある年配の婦人が、若い運転手のトラックに同乗して旅をする事になるというもの。映画は2組・2人の会話によって進み、やがて婦人の過去が明らかになっていくのだが…という内容。

作者自身がその企画内容を語る体裁で進む、という映画はロブ=グリエやウディ・アレン作品にもあった。でも本作は「作られざる場面」をメタ的に描いている辺り、ズラウスキーの「シルバー・グローブ」に近い印象だったかもしれない。

まあ風景にナレーション風の語りが乗った映像が延々続くので、同監督としては前年の「ヴェネツィア時代の彼女の名前」に呼応した着想ではあるのだろう。直截的な政治的メッセージがあるとゴダール感というか、なんと言うかも感じてしまうけれど…「構想としての映画」という、一種の想念を垣間見る想いがする。
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2025.04.03

果てしなき情熱

観てみた。堀雄二主演、市川崑監督映画。1949年公開。

天涯孤独の作曲家・三木竜太郎。彼にはかつて出逢った想い人、優子があった。偶然竜太郎は彼女が暴漢に襲われた所を救ったものの、自分自身は殺人で投獄される事態に。ところが彼が出所するのを迎えたのは、女給のしんだけだった。竜太郎はしんの想いに応える為に、彼女と結婚したのだが…という内容。

「蘇州夜曲」「ブギウギ娘」等といった服部良一作曲のヒット曲の数々が流れる、いわゆる歌謡映画。でもストーリーは服部と無関係という、但し書きが冒頭に掲げられる。なにせ主人公が暗く、妻に対しても不人情な辺り本当に印象が悪いので…(服部にとっても)こういう人と思われたら困る、って事かもしれないな。

市川崑の監督昇進間もない頃の初期作品だが、当時も酷評されたらしい。陽気な歌謡映画というより、「モンパルナスの灯」みたいな芸術家映画という感じで、それも宜なるかな。とは言え奥さんは可愛いのに…やっぱひどい旦那だわ。
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2025.04.02

月曜日のユカ

観てみた。加賀まりこ主演、中平康監督映画。1964年公開。

横浜のナイトクラブで、一際目を引くのが18歳のユカ。彼女は誰でも体を許し、男を喜ばせるのが生き甲斐と言いつつ、キスだけは頑なに許さない。ユカのパトロンは会社社長の「パパ」。日曜はパパが家族と過ごす日なので、月曜はユカの日。彼女はパパを喜ばせる為、人形が欲しいとねだるのだが…という内容。

原作は安川実の小説。「狂った果実」(1956年)で知られる中平監督の、もう一方の代表作。同作がヌーベルバーグの作家から高く評価された事を知ってか知らずか、本作はかなりヌーベルバーグっぽい。ストップモーションや無声映画風演出、自堕落な青春模様などまさにそのままなのだが…実際はどうなのかな。

とは言え本作で目を引くのは、何と言っても主演の加賀まりこ。小悪魔…むしろ「ニンフェット」と呼ぶべきだろうか(ナボコフの定義とは違うけど)。ただまあ本家ヌーベルバーグより湿っぽいのは、日本ならではの質感で仕方ないか。
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2025.03.31

河内カルメン

観てみた。野川由美子主演、鈴木清順監督映画。1966年公開。

河内で評判の娘・露子は、工場の息子のボンこと彰といい仲。ところが村の悪童から暴行され、母親の不貞を目撃した事で大阪に飛び出した。そこで彼女はバーで勤め、勘造という男と同居する流れに。更にファッションモデルに誘われたものの、騒動は続く。そんな時、久々にボンと再会したのだが…という内容。

原作は今東光の小説で、メリメの「カルメン」からは性に奔放な女性という、単なるイメージを借りているだけ。なのでむしろ本作は「女の一代記」映画の一種と言ってよいだろう。つらい目に色々と遭ったものの、したたかに生きていく女性像…という内容は清順と言うか、今村昌平の重喜劇っぽい印象かもしれない。

でも魚眼レンズを用いた画面や飛び道具みたいな展開、突飛な発想の数々はまさに清順作品。…ただ気になったのは同じカット中に、撮影スピードが変化する辺り。これが演出の内なのか、テレシネ?の不具合なのかよく判らない。
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2025.03.29

東京战争戦後秘話(とうきょうせんそうせんごひわ)

観てみた。後藤和夫主演、大島渚監督映画。1970年公開。

学生運動を主眼に置く大学映画研究会のメンバー・元木象一。彼は部で使うカメラを手にして投身自殺した「あいつ」の存在に執着する。あいつは風景ばかりのフィルムを遺言として残し、恋人だった泰子もいたもののその存在は不確かだった。象一はあいつのフィルムと、同じ風景を撮影するのだが…という内容。

日本ATG製作、佐々木守脚本で音楽は武満徹という興味深い布陣。で内容はと言うと、これがすごく押井守っぽい。投身する不在人物の追跡劇にして、東京の風景論的言及。円環構造。青臭い政治論争は…多分大真面目なんだろうけれど、これをパロディ的に描けばそのまま、うる星やパトレイバーになっちゃう。

なんて感じてしまうのは筆者が単なるアニオタだからだろう、お恥ずかしい。とは言えアヴァンギャルドで難解ながら、路上移動撮影で見られる疾走感や切迫感。時代の空気を切り取った感覚は、アニメに採り入れたくなるのも判るな。
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2025.03.27

楢山節考

観てみた。田中絹代主演、木下惠介監督映画。1958年公開。

山間のある貧しい村では、70歳となった老人は「楢山まいり」と称して、口減らしの為に捨てられる決まりとなっていた。近く70となりそれを待ちかねるかの様なおりんの一方、息子の辰平は新妻を迎えても気分は沈んだままだった。そして遂にその日が来て、辰平は母を背負って山へと向かうのだが…という内容。

原作は深沢七郎の短編小説、本作以外にも今村昌平監督で1983年に映画化された。筆者はそちらを先に観ているけれど…木下監督版はカンヌパルムドールの今村版と比較しても、かなり特異な内容。オールセットの撮影に加えて、常に三味線等の伴奏を用いており、歌舞伎の舞台を援用したものとなっている。

そうした違いからなのか、その時と今の自分の違いからかは判らないけど…本作を見て泣けて泣けて仕方なかった。まあ様式的な伝統を感じさせるセット空間と、残酷にして凛然たる物語の取り合わせには、超然とした美しさがある。
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2025.03.26

ジョン・レノン / 失われた週末

観てみた、R・コーフマン他監督によるドキュメンタリー映画。2022年公開。

1973年から1975年にかけてジョン・レノンとヨーコ・オノの夫妻には、「失われた週末」と呼ばれる別居の期間があった。その際にジョンと恋人の関係だったのが、「メイ・パン」という2人の個人秘書の女性。本作は彼女自身が語る当時のジョンの活動や人柄、そして2人の関係のドキュメンタリーである…という内容。

一時の迷いと言うには結構長い時間だけど、ヨーコと違って音楽面でパンは大した貢献をしていないので、あまり重視されないのは確か。なので本作もゴシップ的興味が無かったら「知らんがな」で終わってしまう。Beatles好きもこんな話知りたいもんかね? と思うので、ファン向けとは違う企図を感じてしまう様な。

いわゆるウーマンリブ的な…いや、そういうのむしろヨーコの得意分野だな。でも本作はパンが一方的に言いたい事を言うだけなので、ヨーコは悪役もいいところ。真実はどんなか、正直判らないけれど…そこまで興味もないもんなあ。
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2025.03.23

トータル・バラライカ・ショー

観てみた、A・カウリスマキ監督によるドキュメンタリー映画。1994年公開。

フィンランドのロックバンド「Leningrad Cowboys」は、ソ連崩壊後の1993年「アレクサンドロフ赤軍合唱・演奏団」とのコンサートを、ヘルシンキにて行った。本作はその際の模様を記録した、音楽ドキュメンタリーである…という内容。

元々同バンドはカウリスマキの映画に登場する為に誕生した架空の存在だったのが、その後本格的な活動を行うに当たっても、やはり同監督が映像面を担当している。本作は7万名の観衆を集めた歴史的な催しで、ステージの方にも赤軍合唱団側と合わせて170名もの人員が上がっているという、大規模なもの。

演奏面では両者の持ち曲を合奏する感じ。まあロックンロールと合唱のミスマッチがすごいけど、面白いのはカウボーイ側の「悲しき天使」。1991年にはカウリスマキの担当でPVも製作された同曲は、勿論Mary Hopkinの歌唱で知られる。…でも元々はロシア歌謡がオリジナルらしい。成程、上手くハマったもんだ。
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2025.03.22

メイキング・オブ・モータウン

観てみた。B・ターナー他監督によるドキュメンタリー映画。2019年公開。

1960年代のデトロイトで、ベリー・ゴーディにより創業されたレーベル「Motown Records」。Marvin GayeやStevie Wonderを始めとする重要なミュージシャンを擁し、アメリカにおけるソウル〜ブラックミュージックの中心的存在となった。本作は関係者インタビューから、その輝かしい歴史を綴る…という内容。

まあ筆者はそんなに聴くジャンルではないのだけど、そのお陰かむしろ知らない話ばかりで為になった。…ゴーディ氏が有能な上に大変に愉快な人物で、本作でも(苦難の時代であっても)愉快なエピソードとして聴くことが出来る。特にエンディングでの社歌の披露は、他の関係者と空気が違い過ぎて大笑いした。

筆者が元々知っていた事は少ないものの…Jackson Fiveとしてのオーディション映像で見られるマイケルは、後に成長した姿をそのまま思わせて衝撃的。スティーヴィーも早熟すぎて衝撃だし、すごい人は最初からすごいのだなあ。
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2025.03.20

ストップ・メイキング・センス

観てみた、ジョナサン・デミ監督によるドキュメンタリー映画。1984年公開。

1974年、David Byrne(vo,g)を中心に結成された「Talking Heads」。本作は彼らが1983年12月に、ハリウッドのパンテージ・シアターで行ったライブを収録した音楽ドキュメンタリーである。1991年のバンド解散後、本作フィルムも埋もれた状態にあったものの、2023年には4Kリマスターの後に再上映された。

本作は幕が上がってから下りるまでの間のライブをそのままお出しして、何も付け加えない素材重視の内容。でも最初にギター1本だけ携えて登場したByrneに、曲目が進むに従って楽器やメンバーが徐々に加わっていくという趣向となっている。純然たる音楽映画ながら、演劇的なハプニング志向も感じられた。

黒人ゲストプレイヤーやコーラス…この頃(80年代)のロックって、ボウイもストーンズもこんなステージだったな。という、多分先駆け的な存在だった筈。でもぬりかべみたいなByrneのすごい横幅のスーツは、誰も真似できないわ。
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2025.03.19

ナイトクラビング / マクシズ・カンザス・シティ

観てみた、ダニー・ガルシア監督によるドキュメンタリー映画。2022年公開。

1960〜80年代にかけてニューヨークで営業した、伝説的なクラブ/ライブハウス「マクシズ・カンザス・シティ」。有名なCBGBと共にNYにおけるパンクロック発展に寄与しながらも、知名度で一歩及ばない同店の歴史を、当時実際にステージに立った関係者や、客として訪れた人々の証言から紹介する…という内容。

要するにヴェルヴェッツの、ライブアルバムのジャケットに写っているのがそのお店(実は自分も知らなくて、てっきりカンザスでの演奏かと思っていた)。…ウォーホルを始めとする、同地を根城にしたアート〜ロックの有名人が集う場所だったそうで、当時の知られざるエピソードが色々と聞けるのは仲々に面白い。

経営者が偽札犯罪を行ってたり、そこにいた全員ドラッグやってた…なんて無茶苦茶な場所の割には、CBGBと違ってトイレは綺麗だったらしい。日本で言うと吉祥寺マイナーみたいな感じ?…かは判らないけれど、憧れてしまうなあ。
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2025.02.24

愛人ジュリエット

観てみた。G・フィリップ主演、マルセル・カルネ監督映画。1951年公開。

刑務所に囚人として収監されたミッシェルは、夢の世界へ旅立つ。彼がたどり着いたのは山の中腹にある小さな村で、そこの住人は皆記憶を失っていた。ミッシェルはそこで現実世界で恋人だった、ジュリエットの姿を求めて訪ね歩く。ジュリエットもまた記憶を失い、しかも青髭という男の虜となってしまい…という内容。

一応夢の話となってはいるけど、仙境・桃源郷に迷い込むといった類の異界譚。ファンタジーと呼んでもいいけど「美女と野獣」等の、上級生向け童話に近い。本作では「忘却」というのをどう捉えるかで、解釈が変わりそうだが…(最後に行くのが現実でなくそっちという事は)理想郷的なものと見ていいんじゃないか。

正直なところ「現実を忘れる=幸福」と言われたら、その方が納得しやすいもんなあ。…日本でなら泉鏡花的な幽玄物語か、あっけらかんななろう展開にでもなりそうだけど、本作における「逃避」の感覚は現実への心残りと痛みが伴う。
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2025.02.22

しのび逢い / ムッシュ・リポアの恋愛修行(公開時タイトル:しのび逢い)

観てみた。G・フィリップ主演、ルネ・クレマン監督映画。1954年公開。

資産家の妻を持ちながらも恋多き男、アンドレ・リポワ。彼は妻・キャサリンの不在中、彼女の友人であるパトリシアを自宅に招く。これまでの人生をプレイボーイとして生きて来たリポワは、パトリシアを物にするべく過去の女性遍歴を語って聞かせる。教養も金も何も無い彼が、ロンドンで送った生活とは…という内容。

公開時にはフランス映画らしい、しっとりとした邦題が付けられたけれど、内容を踏まえてしまうといかにも不似合いなので…日本再公開の際に、上記の副題が付けられた模様。と言うのも頭カラッポの見掛けだけいい色男が、しまいにゃホームレスにまで堕ち、無茶苦茶なカサノバ生活を送るというコメディなので。

ただ人々との交流の並列構成と、主人公の独白で内面を語る趣向が、「田舎司祭の日記」にちょっと近い。要はいわゆる「ビルドゥングスロマン」(小説じゃないけど)と同種の作品。まああれで、主人公が成長できたかどうかは疑問だが。
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2025.02.21

田舎司祭の日記

観てみた。ロベール・ブレッソン脚本、監督映画。1950年公開。

アンブリクールという田舎の村に赴任して来た、若き「司祭」。彼は村人との交流で起きた出来事や、胃痛に悩まされる自身の健康状態等について、日々「日記」を付ける。だが伯爵家庭での夫人やその娘との交流をはじめ、人々からの視線は厳しかった。結局彼は医者から、末期の胃癌と診断され…という内容。

ブレッソン監督らしく、宗教を題材にした作品。しかも「バルタザールどこへ行く」でのロバみたいに、寓意的手法も採ってはいないので…多分本作で語られるのは、若き司祭が受ける受難と試練という、観たそのままなんじゃないかな。

無理に普遍的な見方をすると、田舎とのディスコミュニケーションで…余所者がアメリカのテキサス辺りで地元民から迫害?され、結局死んでしまうという、ちょっとH・G・ルイスのホラーみたいな話になる。流石に無理があるけれど、まあ信仰心の是非云々は仲々理解が難しいので、そういう風に曲解してみました。
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2025.02.19

はなればなれに

観てみた。ジャン=リュック・ゴダール脚本、監督映画。1964年公開。

フランツとアルチュールは、英語学校でオディルという娘と出逢い、2人ともが恋に落ちてしまった。彼女の話では同居している叔母の家には、大金が隠されているという。彼らは札束を手に入れるべく、計画を進めるのだが…という内容。

傑作コメディ/犯罪映画ながら日本では長らく公開されず、正式に上映されたのは2001年になってからという本作。また傑作なのにアマプラで妙に点数が低いのは、同名日本映画と評価が混同されてしまっている為みたい。…内容はポップな青春描写を、ゴダールお得意の脱臼的な演出で見せる、いつもの感じ。

会話中急に無音になったり、3人が急に振り付けを合わせたダンスを始めたり。更にルーブル美術館内を大疾走した後、急にノワール調の破滅を迎えるという…自由過ぎる空気が楽しい。実験的と言うほどかしこまった感じではないし、今観ても斬新で意表を突いたこの感覚は、「永遠の青春」と言いたくなるのだな。
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2025.02.18

5時から7時までのクレオ

観てみた。アニエス・ヴァルダ脚本、監督映画。1962年公開。

タロット占いで出た不吉な予言におびえる、女性歌手のクレオ。彼女は2時間後の7時に医者から聞かされる検査結果で、癌だという告知を恐れているのだ。クレオはパリ市内を移動し、様々な知人たちと顔を合わせるも、不安は消えない。そんな時公園で、休暇中の兵士・アントワーヌと出逢ったのだが…という内容。

作中の経過時間と上映時間を大体一致させて、若い女性の行動と内面とを描いた作品。癌うんぬんはそれなりに重い題材だが、過度にシリアスに展開する訳でなく、ポップでキュートな当時のパリ文化を切り取っている辺りが見所。

加えて街中の人々の会話や兵士の存在が、リアルタイムの(アルジェリア等)社会問題もさりげなく織り込む辺りは巧み。それでも自分が知る中では、ヴァルダ作品としてはストーリーがちゃんとある劇映画なので観やすい方だと思う。…因みに劇中のサイレント映画に出演しているのは、ゴダールなのだそうです。
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