2019.01.23

「空飛び猫」アーシュラ・K・ル=グウィン著、村上春樹訳

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読んでみた、アメリカの女性作家による童話/絵本。1988年発表。

ある街の裏路地、ごみ捨て場の側で4匹の子猫が生まれた。しかもその子猫達には「翼」が生えており、自由に空を飛ぶ事が出来た。だが悪い環境の生活で子供達の行く末を心配した母猫は、4匹にこの街を去るよう言い…という内容。

「ゲド戦記」等のファンタジーや、「闇の左手」といったSFで知られる作者が書いた児童向小説。ゲドよりも更に低年齢層に向けた内容で、(全ページにある訳ではないが)素敵な挿絵を配した絵本に近い作品。…尚本書のお話自体は田舎に移り住むだけで終わるので、続編の3冊も併せて読んだらいいかもしれない。

で日本語訳の担当は村上春樹。後書きで妙に自己主張して来るものの、訳自体はいい仕事してる。さりげなく社会問題等を織り込む辺りル=グウィンらしいけれど、まず空を飛ぶ猫という題材が魅力的すぎる。本書の猫達は多分突然変異で、種として固定されていない様だが、それで連想したのが…(次回に続く)
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2019.01.22

「落語手帖 / 梗概・成立・鑑賞・藝談・能書事典」矢野誠一著

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読んでみた、日本人著者による解説事典。1994年発表。

市井の人々の巻き起こす笑いを描き、江戸時代より日本人に愛されて来た話芸「落語」。本書は「目黒のさんま」「寿限無」といった代表的な238の演目を、(副題にある)5つの項目に基づいた解説から紹介する文庫事典…という内容。

「梗概」というのは要するにあらすじだけれど、サラッと読んだだけじゃ判らないサゲがあるので(現代では馴染みの薄い言葉の地口とか)その辺を「鑑賞」として補ってくれるのが有り難い。まあそれでも「?」というのはあったが。…1演目当たり2枚という簡素な記述ながら、それでも結構なページ数で読み応えあった。

そうした解説には研究者以外にも山田洋次や古谷三敏、更に夏目漱石なんて人達が落語について記した文章から、引用されているのも面白い。尚本書は1988年に刊行されたもので、自分が読んだのは文庫版。その後にも改訂版が出ているので、結構なロングセラーかも。…よし落語に詳しくなった気がするぞ。
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2019.01.21

「科学革命の政治学 / 科学からみた現代史」吉岡斉著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1987年発表。

「量子力学」「相対性理論」「天文学」といった、大きな科学的飛躍がもたらされた20世紀。それら「科学革命」とも呼ぶべき発見が、人間社会にいかなる影響を及ぼしたのか。本書では科学革命の概略を踏まえて検証する…という内容。

題名には「政治学」とあるもののそれは新書らしい売り文句で、内容自体は副題の方が合致している。上記発見に関する概史から始まり、科学研究の概念的モデルの説明や、科学と国家権力との関わり等について論を進めていく。ただ30年前の本だけあって、最新情報として触れられる部分は流石に古いのだが…

その後に起きた科学や社会における出来事を思い起こしながら読むと、仲々に興味深い(特にカミオカンデとノーベル賞との関係など)。…ちなみに本書は、ガンダムセンチネル・ムックに掲載されていたカトキハジメによる推薦図書の中の一冊。まあ自分はあまり、ミノフスキー粒子どうこうは思い浮かばなかったかな。
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2019.01.16

「くっすん大黒」町田康著

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読んでみた、日本人作家による中編小説集。1997年発表。

妻に逃げられた旦那、部屋の大黒像を捨てようとあちこちフラフラ。その後は旧友を伴ってドキュメンタリーに出演するのだが…(くっすん大黒)。うどん店勤めの男が女子店員と揉めた挙げ句逃走して身を隠す。その後金を稼ぐべくある故人の遺骨を、遺族に返す仕事を引き受けたのだが…(河原のアバラ)という2編。

本書の作者である町田は、以前町田町蔵の名で音楽活動を行っていたパンク・ロッカー。その頃より詩集等は出版していたものの「くっすん大黒」で文壇デビューを飾った後は作家活動を本業とし、2000年には芥川賞も獲得している。

本書収録の2編も独特のスピーディーな文体が際立つ作品で、流石パンク・ロッカーやどてらい男ヌ(やつ)やで…と思ったけど、読み進むに連れて語り口といい人物のやり取りといい、これ落語そのままだなと。実際作者は上方落語に造詣が深いとの事で成程。市井の中に潜む奇想、という辺りも落語っぽいかも。
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2019.01.15

「百頭女」マックス・エルンスト著、巖谷國士訳

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読んでみた、ドイツ人画家による小説/画集。1929年発表。

シュルレアリスムの代表的な画家として知られる、エルンストが制作した「コラージュ・ロマン」と呼ばれる一冊。百数十点の挿画それぞれに短い文章が付けられた形としては絵本に近いもので、後には「カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢」「慈善週間」という、同じ手法を用いた本も出版された…という内容。

その手法というのがいわゆる「コラージュ」で、本書の様に突飛な要素を組み合わせるアイデアはエルンストの発案だと言われている。当時発行されていた挿絵や版画等の画像を切り抜き貼り合わせたもので…(影響を受けた?側を譬えに挙げるのもアレだが)何だかギリアムによるモンティパイソンのアニメみたい。

ただ「ロマン(小説)」とは言っているものの、話の方は何がなんやらよくわからんね(怪鳥ロプロプ空を飛べ〜)。…なお邦訳書には澁澤龍彦や埴谷雄高といった人達が寄稿しており、そういうのが併せて読めるというのも豪華で嬉しい。
posted by ぬきやまがいせい at 21:26 | Comment(0) | 読書

2019.01.14

「押井守・映像機械論[メカフィリア]」押井守著

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読んでみた、日本の映画監督によるエッセイ集。2004年発表。

アニメ映画「攻殻機動隊」における銃器や、実写映画「ケルベロス・サーガ」の強化服等。押井守監督作品に登場した数々のメカに関する自身による解説を始めとして、架空世界に登場させるべく創造された「メカ」と映像表現の関係を語っていく。竹内敦志のイラスト等を、共に収録したビジュアル・エッセイ…という内容。

内容自体は模型雑誌「モデルグラフィックス」掲載の「迷走ガジェットFILE」という連載をまとめたものだが、本文中で触れられているメカの設定画や実在兵器の写真等も併せて掲載されているので、間口も広く楽しい読み物になっている。勿論作者のメカへのこだわりや、複雑に屈折した想いも汲み取れるのが面白い。

特にデザイナー出渕裕への辛辣かつ愛情たっぷりの論評は、両者のファンなら一読の価値があるだろう。まあ個人的には実はメカよりも「天使のたまご」制作に関して、ユングの元型を採り入れていたって述懐が興味深かったんだけど…
posted by ぬきやまがいせい at 23:26 | Comment(0) | 読書

2019.01.08

「鷲は飛び立った」ジャック・ヒギンズ著、菊池光訳

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読んでみた、イギリス人作家による戦争冒険小説。1991年発表。

チャーチル誘拐作戦の後死亡したと思われたシュタイナ中佐が、捕らえられ英国内で監禁されているという情報がもたらされる。ドイツ軍により、今度はシュタイナを救出するための作戦が開始された。IRA協力者のデヴリンが単身英国に潜入を果たし、修道院から脱出させるべく工作を始めるのだが…という内容。

(前回から続く)…なんと続編が書かれてしまった。無理あるだろどうやって続けるんだよと思ったら、シュタイナ中佐が実は生きていたという直球の後日談。でも相応な規模の軍事作戦だった前作とは違って今回はほぼデヴリンによる単独行動なので、戦争物というよりはスパイ小説という印象の方が強くなっている。

そうは言っても、前作を台無しにする続編という批判も出る訳で…(いくつか矛盾もある)。ただまあ個人的には、前作に登場した人々が生き残ったと作者本人が保証してくれたのは、やはりほっとする想いがしたのも間違い無いのよな。
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2019.01.07

「鷲は舞い降りた」ジャック・ヒギンズ著、菊池光訳

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読んでみた、イギリス人作家による戦争冒険小説。1975年発表。

第二次大戦中。ドイツ軍情報局にスパイより、英首相チャーチルがある邸宅に極秘で滞在するという情報がもたらされた。軍上層部は落下傘降下で英国内に猟兵部隊を潜入させ、チャーチルを誘拐するという大胆な作戦を立案。そこでシュタイナ中佐麾下の部隊や、IRAの協力者が送り込まれたのだが…という内容。

発表後すぐベストセラーとなり、それまで複数ペンネームを使っていた著者がヒギンズ名義に絞るきっかけにもなった、冒険小説名作中の名作(1991年に「完全版」として改訂)。映画化もされたけれど、こっちはそんなでもないみたい。

内容は実話風味を漂わせる導入から、長い準備段階を経てラストまで一気に突っ走る。あまり詳しく書くのもアレだけど、本作が冒険小説や戦争映画での、少人数特殊部隊の敵地潜入から要人救助(誘拐)という定番的内容の、お手本になっていたのだなと。見事な結末まで、本当に完璧な作品だが…(次回に続く)。
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2019.01.04

「イスラエル秘密外交 / モサドを率いた男の告白」 エフライム・ハレヴィ著、河野純治訳

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読んでみた、イスラエル人著者によるノンフィクション。2006年発表。

世界最強の諜報集団と謳われるイスラエルの「モサド」。著者は同機関の職員として長年活動し、1998年から4年半長官の任に就いてイスラエル外交の最前線に身を置いた。その際の実体験を踏まえた、同国外交史を綴ったのが本作。

だからスパイ合戦が読めるのかと思ったら違った(…そういう話なら多分落合信彦の本の方がいい)。911前後の中東情勢の概略から始まって、イスラエルは勿論敵対勢力も含めた各指導者に関する辛辣な寸評。更に今後の世界情勢への分析・提言といった、元モサド長官という特殊な立場からの見解が興味深い。

勿論知られざるイスラエル外交の裏話も読める。ただ個人的には知らない個人名やらの固有名詞が頻出して面食らったけど、モサドが外交の前面に立っていて裏のスパイ活動ばかりでもないのが判って面白かった。ただこの本を読む限りだとモサド工作員って、しょっちゅう捕まって内外で問題化してる気がするが…
posted by ぬきやまがいせい at 20:45 | Comment(0) | 読書