2023.03.23

「ブロディーの報告書」J・L・ボルヘス著、鼓直訳

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読んでみた、アルゼンチン人作家による短編小説集。1970年発表。

語り手が入手した、ある未発表の手稿。それはスコットランド人の宣教師・ブロディーが政府宛てにしたためた、ムルク(ヤフー)という未開種族の奇妙な生態に関する報告書だった。…という表題作を含んだ、全11編が収録されている。

上記作はガリバー旅行記を踏まえたものなので、著者の作風を言い表す「バベルの図書館」という印象にも合致していると思う。でも本書はならず者や争いを題材に、主に自国の風土に根差したリアリティスティックな作品が中心となっている。…マジックリアリズムからマジックを引いた感じ、とでも言えばいいのか。

なので賛否両論というのも仕方ないけれど…そこはボルヘス、どこか「奇譚」とも言えそうな独特の味わいが残っている。ナイフがもたらす因縁話なんか顕著で、何だかんだ面白いんじゃないかな。個人的にはやはり表題作で「悲しき熱帯」っぽいかな?、と思ったらそれどころでなく、まるでSFなヘンテコさが良い。
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2023.03.20

「ガンシップ」ヘンリー・ジーベル著、江畑謙介訳

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読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1987年発表。

ベトナム戦争当時。米空軍が地上の軽車輛破壊の為に、輸送機の機体に重武装させた「ガンシップ」。本書は同機で低光量TV担当の航法士だった著者が、戦闘や破壊に加え仲間との友情等、かつての日々を振り返る…という内容。

現在でも改良型が運用中のAC-130、本書中だと最大火力は40o砲。その為成果判定が「完全破壊」かどうかで、揉めているのが興味深い。要するに簡単に修理可能では不十分という事だが(その後導入された105o砲のお陰で、現在でも通用している様だ)…そんな話を延々されても余り面白くはないのにな。

本書は孤独な戦闘機パイロットと違い大人数の人間模様が中心で、陽気な青春群像はいかにも米軍戦記という感じ。なので戦闘狂としか思えない一方、著者の苦悩も描かれており意外に奥行きのある内容。個人的にははミサイルの追撃を、回避機動だけ(チャフ/フレアは未装備)でしのいだのには驚かされた。
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2023.03.18

「戦闘機の航空管制 / 航空戦術の一環として兵力の残存と再戦力化に貢献する」園山耕司著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2018年発表。

航空機が安全に離発着する為、その支援・誘導をするのが「航空管制」の役割。本書は自衛隊元航空管制官の著者がその豊富な体験を踏まえ、知られざる軍事における航空管制を、豊富な写真や図版と共に解説する…という内容。

副題の仰々しさからすると防衛・軍事関係の論文みたいだが、実は普通の新書本(まあ「サイエンス・アイ新書」はカラー写真が目を引くシリーズではある)。でも内容はビックリするほど専門的で、これに近い内容を読んだのは多分雑誌「ザ・マーチ」や「軍事研究」とかそんな辺りしかないと思う。かなり貴重なのでは。

ただ書評を見ると(この手の本の常だが)疑いつつ読む必要はありそう。とは言え最新鋭のF-35での航空管制の変化や空中待機誘導の方式等、仲々他では読めない話は多い。でも流石にそういうのばかりではつらいからか…本書後半では普通に(多分著者も専門じゃない)戦闘機の種類の紹介なんかしてた。
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2023.03.17

「ドッグファイトの科学 / 知られざる空中戦闘機動の秘密」赤塚聡著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2012年発表。

戦闘機同士が行う空中戦。特に互いの立場を入れ換え、敵機の後方から射撃機会を伺う「ドッグファイト」は、操縦者の高い技術や力量を必要とする。本書は現代におけるドッグファイトを、機動や装備の面から解説する…という内容。

ハイ/ローヨーヨーやシザーズ運動等、空戦機動を一通り紹介しており、図版と共に判りやすい本。自分は一応知識としてはあったけど…エースコンバットをやっても、旋回だけしてれば大体どうにかなるから(インメルマンすら)使った事ないな。ゲームはTV画面しか視界がないので、機体の平行すらよく判らんし。

とは言え本書では機体の持つ位置エネルギー・運動エネルギー等の概念面を、基本から説明してくれるのに加えて、アクロバット機動やミサイル等が一通り載っているので、楽しく読めるんじゃないかな。特にHOTAS概念による操縦桿・スロットルレバーの操作ボタン類の解説は、結構類書にはないかもしれない。
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2023.03.15

「ファイター・パイロット」フランク・J・オブライエン著、土屋哲朗、光藤亘訳

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読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1986年発表。

ミサイルや機関砲で武装し、強力なジェットエンジンで音速を超えて大空を駆ける戦闘機。本書は「ファイター・パイロット」である著者のベトナム戦争での体験を軸に、戦闘機の運用から将来への展望までを解説していく…という内容。

著者は空軍の所属で、乗機はやはり「F-4ファントム」。装備で20oバルカン砲を挙げているので、型式はおそらくE。…本書でもやはり爆撃に関する解説が中心だが、戦術航法装置=TACAN等の誘導設備。特に前線航空管制=FACの重要性を特記している辺りなど、専門的ながら説得力があって大変興味深い。

一応空中戦に関する解説もあるのだけれど…どうした事かあまり文章に熱を感じない。内容が空中機動どうのじゃなく、AWACSによる誘導を踏まえた空戦だからかという気も。古い本ではあるが実体験部分が素晴らしいのに対して、そうじゃない辺りは単に「古い本」になっちゃってるのは(仕方ないけど)少々残念。
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2023.03.14

「ベトナム空戦史(原題:Phantom over Vietnam)」J・トロッティ著、井上寿郎訳

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読んでみた、アメリカ人著者によるノンフィクション。1984年発表。

1966年、米軍が参戦中のベトナム。著者は海兵隊航空群の戦闘・攻撃隊に所属するパイロットとして、日夜現地上空を飛行していた。主な任務は地上への爆撃だが、その遂行には高度な技術と多大な困難が必要とされ…という内容。

邦題には「空戦史」とあるけれど、包括的な内容ではなく体験談なのに加え、戦闘機同士の空戦の様な話は出てこない。いい加減なもんだが…原題にある通り、著者が乗るのは「F-4ファントム」戦闘爆撃機。本書は同機をまるで尼のカスタマーレビューの様に、実際に用いる人の視点で詳細に解説してるのが見所。

だから世傑等の本では知りえない、「使い勝手」まで綿密に語っているのはすごい。全ファントム好き必読。…ただ逆に機体解説面では判らない点も多い(海兵隊所属で時期的なところからすると、多分B型?)。加えて著者がインテリなので、戦争とは少々違う方面の苦悩を述懐してる辺り、共感面で可否はありそう。
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2023.03.11

「日本探偵小説全集1 / 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎集」黒岩涙香、小酒井不木、甲賀三郎著

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読んでみた、日本人作家による推理小説アンソロジー。1984年発表。

日本で初の探偵小説となる「無残」(1889年)を執筆した「黒岩涙香」をはじめとして、医学者ならではの専門的知見を最初に採り入れた「小酒井不木」。本格・変格という日本独自の概念を提唱した「甲賀三郎」と、日本推理小説初期の作家による画期的な代表作を数々集めた、シリーズの第1巻が本書…という内容。

最近気付いたのだけれど、自分の場合推理小説は古ければ古いだけ好きだな。じゃあ世界最高のミステリは「モルグ街の殺人」や「無残」か…と言ってしまっても、そう的外れではない気が。本書に収録された作品はどれも面白いね。

涙香は翻案中心で独自作は「無残」がほぼ唯一なのは残念だけど、小酒井も甲賀も現在の推理小説と遜色無い作品なのはすごい。ただ本書は殆ど短編で、長編は甲賀の「支倉事件」だけ。これがミステリと言うよりはむしろ実録犯罪小説なのだが…何だか大正のロス疑惑みたいな話で、それはそれでビックリ。
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2022.11.29

「悪魔の紋章」江戸川乱歩著

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読んでみた、日本人作家による長編推理小説。1938年発表。

川手庄太郎は何者かからの恨みを買い、2人の娘は無残にも殺され死体は衆人の目に晒された。「三重渦状紋」という独特の指紋を、犯行現場に残す犯人と対峙するのは、探偵として知られる宗像隆一郎博士なのだが…という内容。

本格推理の書き手として登場した乱歩だが、(まあ色々あって)「エログロ猟奇」を売りにする通俗作品を発表する様になった。元々出たとこ勝負で書き始める為に長編の構成は苦手な乱歩。加えて通俗作品ではバラバラ死体や消失トリック等、過去作からネタを流用する事も増えて…読者の心象はあまり良くない。

本書もネタの使い廻しや、犯人が割とすぐ判ってしまったりと、評価が高いとは言えない内容なのだけれど、その上であえて面白いと言いたい。本書には、本格推理小説としての「結構」が備わっているからじゃないかな。あと春陽堂文庫は、多賀新の表紙がいいよね…と言おうと思ったけど、本書はそうでもないか。
posted by ぬきやまがいせい at 17:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.11.26

「十字街」久生十蘭著

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読んでみた、日本人作家による長編推理/歴史小説。1952年発表。

1933年パリ。日本人留学生・小田は地下鉄車内で死体を運ぶ不審な集団を目撃、命を狙われる様に。その背後にはスタヴィスキーによる一大疑獄事件があり、彼と親睦のあった女性・ユキ子もまた危険に見舞われて…という内容。

本書は前年に朝日新聞で連載された小説だが、その20年ほど前にフランスで起きた「スタヴィスキー事件」が題材。ただ当時の読者もピンと来なかった様で(自分は映画「薔薇のスタビスキー」なら以前観た)、著者が体験したパリ生活の描写を踏まえた上、4人の日本人を絡ませる事で、独自の魅力を加えている。

要するに当時まだまだ遠かった海外を、著者の力業で引き寄せた作品。ジャンルとして言えば、「近代フランスネタの歴史小説」「海外を舞台にした社会派ミステリ」という感じかな。…とは言え「大逆事件」との関連が指摘される事からも判る通り、スッキリした気分で読み終えられる訳ではないので、まあそこは注意。
posted by ぬきやまがいせい at 21:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.11.24

「夢野久作全集10」夢野久作著

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読んでみた、日本人作家による短編集/全集。1992年発表。

1889年福岡県で誕生した「夢野久作」は、僧侶や新聞記者といった経験を経て作家となる。特に雑誌「新青年」での活動は注目を集め、完成まで10年かけた長編「ドグラ・マグラ」は現在でも有名。1936年、47歳の若さで急逝した。

本書はそのドグラ・マグラ完成後・逝去までの、晩年に執筆された作品を中心に集めているとの事。で本書の解説や編者も書いている通り、余り出来が良くなかったりする。…久作と言えば猟奇や奇想の「変格」推理作家というイメージなので、本書での「本格風」なタッチの作品は興味深いと言えば興味深いけれど。

それより本書には、久作が殆ど手掛けなかったという「時代小説」が3編入っており、これが仲々面白い。探偵要素やエログロも関係ない内容ばかりだけれど…中でも「白くれない」という短編は、ある寺の花にまつわる「縁起」を模した擬古文体のもので、彼の僧侶としての経験が反映しているのかもしれないなと。
posted by ぬきやまがいせい at 23:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.11.11

「日本探偵小説全集7 / 木々高太郎集」木々高太郎著

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読んでみた、日本人作家による推理小説アンソロジー。1985年発表。

1897年に山梨県で誕生した「木々高太郎」は、大脳生理学者として活動する一方、作家として「推理小説」を執筆した。本書は長編「わが女学生時代の罪」や短編「文学少女」等の、代表作の数々を集めるものである…という内容。
 
でその「推理小説」という用語を発案したのが、著者と言われている。学者としてはパブロフに師事、作家活動では直木賞の受賞に加え、乱歩らと「探偵小説文学論争」を繰り広げた。更に松本清張の方向性に示唆を与え…と逸話に事欠かない人物だけど、残念ながら作家・作品としては近年すっかり忘却されている。

でも本書は大変に面白い。日本で初めてフロイト精神分析を採り入れたデビュー作「網膜脈視症」を始め、科学的・文学的な手際を加えた著述が画期的。今読んでも現代的な視点に驚くが…当時風に「エログロ猟奇」全開な夢野や乱歩が、文学として評価されているのは皮肉な気も。もっと広く読まれるべきだな。
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2022.11.07

「幻の新鋭機 / 逆転を賭けた傑作機」小川利彦著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2003年発表。

第二次大戦中。日本軍により戦局逆転を目指して計画されるも、完成を目前に開発途中で放棄された数々の「幻の新鋭機」。本書はそれらの戦闘機や爆撃機といった未完の機体を、貴重な写真やイラストと共に紹介する…という内容。

先尾翼・推進式プロペラを持つ戦闘機「震電」や、6発式エンジンで太平洋横断を目指した巨人爆撃機「富嶽」。有名な機体は勿論、輸送機やグライダー等も網羅されていて有難い。ただそのお陰で死屍累々というか水子供養というか…他国の未完機と違ってロマンを感じるどころか、空しくなって来て参ってしまう。

エンジン技術の未熟さや軍部の横槍といった問題がお約束の様に語られる為、著者も「残念」という単語を連発しているし。…なお本書は1977年に刊行された本の文庫版。各機の紹介文自体はあくまで簡潔で、上記した有名機とマイナー機を差別してないのは好印象。カタログ的に眺めるのがいい本じゃないかな。
posted by ぬきやまがいせい at 23:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.11.05

「あゝ疾風戦闘隊 / 大空に生きた強者の半生記録」新藤常右衛門著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/自伝。1971年発表。

第二次大戦中。日本陸軍第16飛行団の団長として、フィリピン島で指揮を行ったのが著者。また41歳当時、B-29爆撃機を撃墜した現役パイロットでもあった。本書では彼の入隊から、飛行学校への転出までを回想する…という内容。

で同部隊が運用したのが、四式戦闘機「疾風」。この機は戦中よりむしろ、戦後米軍が高オクタン燃料を用いてテストした際、素晴らしい性能を発揮した事の方が有名かも。なので本書で疾風について色々語られているかと思ったら…著者は指揮官の立場で部隊の思い出を綴っており、機体には殆ど触れてなかった。

まあ本書中にある無線機の低性能による不利という述懐は、これ疾風に限られないしな。…とは言え、入隊当初所属した気球部隊や(風船爆弾は著者の発案?)初期の戦闘機での逸話は興味深く、日本航空史の一端が感じられてよい。映画「加藤隼戦闘隊」への協力や天皇拝謁なんか、著者ならではでしょう。
posted by ぬきやまがいせい at 22:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.10.13

「栄光加藤隼戦闘隊」安田義人著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/自伝。1986年発表。

第二次大戦中の南方戦線で、加藤建夫日本陸軍中佐の下に活躍したのが、飛行第64戦隊こと「加藤隼戦闘隊」。本書は一式戦闘機・隼パイロットとして戦った著者が、激戦を乗り越え最終的に本土に帰還するまでを描く…という内容。

本書は「今日の話題 ビルマ隼戦記」(1956年)を、全面的に改稿した本の文庫版。…1942年に加藤は戦死し、翌年には安田は部隊を離れた。同隊は終戦まで存続したものの、「加藤隼戦闘隊」ではなくなっていたという。そのため本書は隊の通史的な内容ではなく、実際に隊員だった著者の体験記となっている。

そのお陰か空戦だけでなく、撃墜とそこからの生還等と、波乱万丈なエピソードが満載の本。…因みに映画化までされた同部隊が当時日本中で有名になったのは、(これまた有名な)部隊歌が人気を博した事から。そちらの歌詞にある「隼」が、一式戦闘機の公式名称として採用されたという順番らしい。へえ。
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2022.10.10

「海軍航空隊始末記」源田實著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/自伝。1996年発表。

第二次大戦中。日本海軍参謀として、大鑑巨砲主義に代わる「航空主兵論」を推し進めたのが、著者こと「源田實」。本書は真珠湾奇襲から終戦まで、彼が見つめた戦争の趨勢、航空部隊の部下達への想いを綴ったもの…という内容。

本書は1962年に「〜戦闘篇」として刊行された本の文庫版。つまり前編となる「〜発進篇」(1961年)もあるので、著者が航空主兵論を自己のものとするまでの前史が欠けている(一応解説で概要は判る)。要は本書は戦史的な議論の俎上に乗る事が多いのは当然として、個人史的な側面は承知して読むべきかと。

特に自身が司令官となった「343空」こと剣部隊の部下達を語る筆致は、それまでの戦局・作戦分析とは全く異なりひどく感傷的。本書も身内褒めやら自己保身やらと評されるし、著者が激しい毀誉褒貶に晒されるのは当たり前とは思うけれど…そういう辺りを読んでしまうと、悪く言う気はなくなるなあ。個人的には。
posted by ぬきやまがいせい at 17:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.10.06

「零戦撃墜王 / 空戦八年の記録」岩本徹三著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/自伝。1970年発表。

日本海軍の戦闘機パイロットとして、支那事変から太平洋戦争終戦までの8年間を戦い抜いた「岩本徹三」。本書は彼が大学ノート3冊に書き残した、戦時体験の回想録「空戦ノート」を、著者の没後に刊行したものである…という内容。

200機以上とも言われる撃墜数を誇る日本のトップエース。「零戦虎徹」という異名を持つ著者だが、実際本書を読んでみると意外な事に、零戦についての記述は殆ど見られない。初搭乗した際の印象も書かれてないし、すぐ米新型機が性能的に優勢になったからか、そうした点に軽く不満を述べるに留まっている。

なのにF6F等の新型機相手に、アッサリ撃墜する描写が最後まで続くので、あれ零戦って強いままだったんじゃ?…って気がしてしまう。実際はそんな事もなかったんだろうし、著者ならではな空戦の勝利哲学には圧倒される思いが。とは言え著者の終戦からその後を知ると、「人生」とはやはり簡単ではないなと。
posted by ぬきやまがいせい at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.09.30

「零戦 / その誕生と栄光の記録」堀越二郎著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション/自伝。1970年発表。

第二次大戦中。日本海軍の主戦力として、伝説的な存在とまで賞された「零式艦上戦闘機」。本書は主任設計士として零戦の開発に関わった著者が、数々の技術的困難とその克服をはじめ、同機の栄枯盛衰を綴っていく…という内容。

著者はもちろん、宮崎駿監督の「風立ちぬ」で描かれた堀越二郎。そちらの映画では零戦開発は直接描かれなかったので、ある意味続編みたいな内容かも。…と言うか映画では戦闘機設計の技術的側面はオミットしてしまったので、どちらかと言うと(沈頭鋲導入がメインだった)原作漫画の印象をより強く思い出す。

本人が語るプロジェクトX的な開発秘話は、当時の世界情勢の推移や個人的な感懐とも関連付けて、大変に興味深く読める。本書を現状の日本の「モノづくり」と絡めて、教訓的に読むことも可能だけれど…自分はただのミリオタだから、よく判らんね。それより「美」の追求と犠牲者への「悔恨」の念が、強く胸を打つ。
posted by ぬきやまがいせい at 22:40 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書

2022.09.27

「黒いトランク / 鬼貫警部事件簿」鮎川哲也著

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読んでみた、日本人作家による長編推理小説。1956年発表。

1949年12月、東京の汐留駅。「黒いトランク」の中から見つかったのは、男の腐乱した他殺体。更に九州からその荷物を発送した容疑者もまた、瀬戸内海で自殺体として発見された。鬼貫警部は捜査に乗り出したのだが…という内容。

時刻表トリックものの原点は、松本清張の「点と線」(1957年)…かと思っていたけれど、本書の方が早いんだな。まあ本書では「時刻表」はトリックの一要素でしかなく、最大の謎はクロフツの「樽」との関連で語られる様だ(自分は未読)。推理小説では「早い」事が絶対的に偉いものの(らしい)、本書は大変面白い。

ただ本書のアリバイトリックは複雑さを極めており、正直自分も判ったような判らないような(本書では1949年当時の時刻表や、図表による時系列解説が付いているのは親切)。その後の社会派としての展開を見ると、やはり松本清張と「本格」を貫いた著者とでは、目指してるものは違ったのだなあ、という事も判る。
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2022.09.26

「砂の器」松本清張著

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読んでみた、日本人作家による長編推理小説。1961年発表。

ある日国電蒲田操車場内で、男性の惨殺死体が発見された。今西刑事が目撃者証言にあった方言や、被害者の経歴という僅かな手掛かりから徐々に真相へと迫る一方、捜査線上に浮かぶ関係者に謎の不審死が続いて…という内容。

これまで何回となく映像化された本書で、特に有名なのは1974年版の映画。そちらではドラマチックな管弦楽曲に準えた「人生悲劇」という印象が強いけれど、原作である本書は少々テイストが違う。平凡な刑事が足で捜査する、いかにもな「社会派ミステリ」なのは勿論として…何だか「怪奇大作戦」みたいな感覚も。

戦争にまつわる因縁と疑似科学的な犯罪手口の融合は、これまさしく怪奇大作戦だなって(怪奇と清張作品との影響関係は、検討するべきテーマ)。まあ個人的にはやたら「ミュージック・コンクレート」って言葉が連呼されるのに軽い衝撃が。自分の知ってる同音楽と違う気もしたけど…それも計算のうちかもしれん。
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2022.09.23

「亜愛一郎の狼狽(あ あいいちろうのろうばい)」泡坂妻夫著

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読んでみた、日本人作家による推理小説短編集。1978年発表。

雲や昆虫といった、風変わりな被写体専門のカメラマン「亜愛一郎」。長身で彫りの深いマスクの美男子である反面、臆病で挙動不審なところが玉に瑕。だがそんな彼が一旦事件に遭遇すると、超人的な推理を発揮して…という内容。

著者が雑誌「幻影城」新人賞に応募し、佳作入選した「DL2号機事件」を含む初の作品集。「日本のブラウン神父」とも評される、亜愛一郎の初登場作でもある。「ユニーク」が服を着て歩いている様な人物造形で、ライトな作風ともマッチして好感が持てるのだが…背景が一切判らないミステリアスなキャラでもある。

まあそういうところを、気にして読むような作品でないのも確か。日常的な空気の中に起きる謎や事件を、アッサリと解き明かす「探偵=神的存在」の権化という見方も出来るだろう(社会不適応と言うより、童子神的だ)。…とは言え本書には珠玉のアイデアが詰まっており、それ自体仲々に「神がかり」的じゃないか。
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