2024.05.15

「時の他に敵なし」マイクル・ビショップ著、大島豊訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編SF小説。1982年発表。

更新世の時代へと時間旅行した、黒人青年・ジョシュア。彼は石器時代のアフリカで、「ホモ・ハビリス」という旧人類と接触する。ジョシュアはその集団に溶け込んで長期間生活をし、遂には子供までもうける事となるのだが…という内容。

乱暴な説明をすると、2001年冒頭「人類の夜明け」の猿人集団の中で生活する様な話。そちらに加えて、主人公自身の来歴を語る自分探し的なパートが、同時進行する構成となっている。その為SFと言うよりも、すごく一般小説っぽい印象がある。実際時間旅行ではなく(ネタバレ)だし、まあそういう事だろうなと。

社会問題・社会意識的な要素が推されるので、フラナリー・オコナーとかそういう辺りを想起したのだけれど…ネビュラ賞の長編小説部門で受賞した、立派なSFなのも確か(また「グリンプス」との類似を指摘したい…義父アホすぎ)。でもやはり一種の「青春小説」として読んだ方が、色々しっくり来る気はするかなあ。
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2024.04.29

「時間封鎖」ロバート・チャールズ・ウィルスン著、茂木健訳

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読んでみた、カナダ人作家による長編SF小説。2005年発表。

ある日を境に、夜空から星が消えた。地球全体を「スピン」と呼ばれる膜が取り囲み、しかもその現象の外では時間が1億倍の速度で流れていた。人類は火星環境を地球化し、そこに移民を送る計画を実行するのだが…という内容。

ヒューゴー賞獲得の本作は、続編「無限記憶」「連環宇宙」へと続く3部作の最初の本。気宇壮大で意表を突くSF的アイデアと共に、等身大の人物達が未曾有の苦境に立ち向かう、一般小説的な内容となっている(父親的存在との軋轢/対立は最近「グリンプス」でも読んだので、余計に一般小説的印象を持った)。

そのせいで本書前半は(時系列が前後する構成もあってか)正直乗り切れなかったけれど、事の真相が判明してディザスター展開になってからは、ちょっとグレッグ・ベアを思わせ、相当面白く読めた。成程ヒューゴー賞だけの事はある。…でも個人的にはこれで納得してしまって、それ程続編は気にならないかも。
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2024.04.24

「故郷から10000光年」ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア著、伊藤典夫訳

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読んでみた、アメリカ人作家によるSF短編小説集。1973年発表。

本書は著者が「ティプトリー・ジュニア」名義でSFを発表する様になった、初期の短編を集めた作品集である。ハリイ・ハリスンが「彼女」を見い出した経緯を、回想した序文を寄せている。本書タイトルの由来となった短編、「マザー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」を始めとする、全15編を収録…という内容。

本書の白眉は「故郷へ歩いた男」。異様な状況設定と抒情的で感傷的な作風が、見事な時間SFとして結晶している。ただその代わりに他は、「起」もなしに「承」が始まって「転」も「結」もなしに「承」だけで終わる印象の作品ばかり。これは未熟だからなのか?…まあ「たったひとつ〜」では、そんな印象なかったしな。

でも本書は著者自身の体験が反映しているという述懐を元に、「悲劇的な最期」から振り返ると、案外すんなりと納得できてしまう感じはある。…ただ常に追い詰められているかの様な切迫感は、作家本来の持ち味でもあるんだろうけど。
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2024.04.21

「グリンプス」ルイス・シャイナー著、小川隆訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編SF/ファンタジー小説。1993年発表。

長年の不和の後に父親を事故で亡くした、ステレオ修理業を営むレイ。彼はある日、敬愛するロックバンドの存在しない楽曲を再現する能力に気付く。そして彼は「幻のアルバム」を世に出す為に、苦闘を始めたのだが…という内容。

そのアルバムというのが、Beach BoysやDoorsにJimi Hendrixの作品だというのだから、まさにロックファンの夢が叶う作品だろう…刊行当時は。今やSmileもFirst Rays〜も、オフィシャルリリースされているのだから時は無常に流れた。それでも本作の着想の見事さは、いささかも損なわれていないのでは。

それより問題なのは…本作が途中から、精神科のカウンセリングみたいになっちゃう辺り。主人公と周囲との軋轢・葛藤が大きく採り上げられており、別に辛気臭い方のウディ・アレン作品みたいなのが読みたい訳じゃないんだがって。元々別個に構想していた2冊の本を、合体させたそうで…どうしたもんだろ、これ。
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2024.04.17

「人類と病 / 国際政治から見る感染症と健康格差」詫摩佳代著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2020年発表。

人類すべてが乗り越えるべき大きな課題が、あらゆる「病」の克服である。本書では新型コロナを始め、ペストやエイズ等の感染症。更に近年先進国で問題となった生活習慣病等、国際的な取り組みの歴史を解説する…という内容。

本書の執筆を始めたのは2015年からとの事だが、実際に刊行されたのは「コロナ禍」が社会問題と化した2020年4月。実に象徴的なタイミングながら、本書は目先のトピックばかりに囚われている訳ではなく、人類と病との戦いをこれまでの歴史から振り返り、今後の課題を提示する包括的内容となっている。

興味深いのは劇的とも言える天然痘の撲滅等だけではなく、身近な生活習慣病が同列な問題として並置される辺り。国際間・企業間の利害や、個人的嗜好の尊重にその逆の貧困等…一筋縄ではいかない困難からは、コロナが一段落した様に見える今であっても、戦いにはまだ終わりが見えないのだなあ、と。
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2024.04.15

「戦後世界経済史 / 自由と平等の視点から」猪木武徳著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2009年発表。

第二次大戦後の復興から始まって、石油危機にソ連崩壊、グローバリゼーションといった激動の時代を過ごした「世界経済」。本書では、主要先進国に留まらず周辺諸国の動向も含めて、包括的に戦後経済を解説する…という内容。

とにかく幅広く、包括的な話題を採り上げているのが特長。相応に分厚い新書本ながら、よくここまで簡潔にまとめ上げたものだと。まあ読んだ感じは解説されたと言うより「並べられた」という印象だが…著者も冒頭のはしがきで「粗い地図」を描いたと記しているので、概観した「眺め」そのものが肝要なのだろう。

とは言え、自分も同時代を過ごした様なトピック(日米経済摩擦とか)など、今となってはあれって何だったんだろうな、という気分になった。そうした個人史的な感懐に触れる一方で、殆ど馴染みのない国々の経済動向もまた存在する訳で。そうした本だからか、世界の「多様性」に思いを馳せたり、馳せなかったり…
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2024.04.06

「歴代天皇総覧 / 皇位はどう継承されたか」笠原英彦著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2001年発表。

神話の時代から現代まで、時代の趨勢と共に連綿と続いてきた「天皇」。本書では初代神武天皇から第124代昭和天皇、5代の北朝天皇を含む歴代の天皇を、その系譜や事績と共に日本の歴史そのものを俯瞰していく…という内容。

本書は2021年に、第125代の平成天皇までを含む増補版が刊行されている。各天皇の紹介が初代から順番に載っており、各項目で記述に多少重複がある所を見ると、事典的な使い方をする本とも言えるけど…個人的には通読した方が面白いと思う。古事記・日本書紀から現代まで、地続きなのはやはり壮観。

実在すら怪しい存在と、自分もTV等で拝見した実在の人物が、同じ調子で書かれているのは実に不思議な感覚。また天皇を中心にしたコンパクトな日本史の本として読み、あれはああいう経緯だったのかという、新たな知見も得られた様にも思う。是非はまあ置いといて、ユニークな存在だというのを再確認した。
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2024.04.02

「日本近代史」坂野潤治著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。2012年発表。

明治維新を発端として、日本は「近代」への道を歩み始めた。本書では太平洋戦争へと至る80年の歴史を、「改革」「革命」「建設」「運用」「再編」「危機」といった概念区分に分けて、日本のl近代史を再考するものである…という内容。

450頁もある分厚い新書だが、日本近代史をまとめるのは著者にとっても一苦労で、1年がかりの執筆だったとの事。でも読者としては日本が維新から戦争へと、あれよあれよという間に転がり落ちる様を目撃する事になる。江戸から昭和はそれぞれ個別の印象だったけれど、通史として興味を維持したまま読めた。

多分エッセイ的に著者自身の、(歴史や執筆に関する)「個人的な述懐」が差し挟まれているからかも。…本書は東日本大震災直後という事もあって、その大事件から来る社会変動や歴史観への影響を感じるのはた易い。そういう意味で近代史の本だが、歴史は個人の感情に基づくものという印象も得られたかも。
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2024.03.28

「日本語 新版」金田一春彦著

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読んでみた、日本人著者によるノンフィクション。1988年発表。

我々日本人が話し・書き、用いる言語である「日本語」。その意義・特質を外国語との比較に基づいて、発音や語彙、表記や文法といった様々な側面。更に多くの研究例や文学等の実用例を引きつつ、平易に解説していく…という内容。

本書は1957年、同じく岩波新書から刊行された同題の本の新版。旧版の刊行時からベストセラーとなり、現在でも読み継がれるロングセラーとなった名著である。これだけ豊富な内容が新書2冊にまとまっているので手が出しやすく、(著者本人も言っている通り)「日本語」というタイトルも決定版的な印象があるな。

圧倒的な物量のお陰か、日本語のよい面も悪い面も割とフラットに提示している印象。大変に重要な論題を扱っているとは言え、身近すぎる日本語なだけに、雑学・小ネタ集としても面白く読める筈。…とは言えすごい情報量なので、「日本語」の洪水をワッと浴びせるのはやめたまえ…と、言いたくなったりもして。
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2024.03.26

「娘たちの学校」J・ランジュ、M・ミオー著、菅原孝雄訳

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読んでみた、フランス人作家による長編小説/対話篇。1655年発表。

ある男性から求愛されている、まだ生娘のファンション。彼女をその気にさせるよう頼まれたスザンヌは、ファンションに男性との「性」の手解きをする。やがて想いを遂げたファンションは、その経験をスザンヌに語るのだが…という内容。

300部のみが地下出版された本書だが、当局の逆鱗に触れてしまい、焚書・発禁の上に著者のミオーには死罪が下された(でも逃亡)。これまで語られる機会が多かった割に、その希少性から仲々内容が知られなかったという本書。…で内容的には、2人の女性の対話形式で綴られる「ハウトゥーSEX」みたいな本。

なのでポルノと言うならまあそうだけど、官能小説の類とは違う感じ。著者は男性だそうなので、本当に女性を啓蒙する目的で書いたのかも(見出しが詳細で、すぐそのページが引ける仕様になっているし)。確かに面白いは面白いものの…「あまりのみだらさ、あまりの猥褻さ」なんて、帯にある文章は大袈裟だなあ。
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2024.03.24

「少女ヴィクトリア」セレナ・ウォーフィールド著、中村康治訳

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読んでみた、フランス人?作家による長編小説。1953?年発表。

屋根裏から発見された日記には、かつてその屋敷で暮らした少女・ヴィクトリアの性生活が告白されていた。屋敷の一家が迎えた2人の姉弟は、奔放な性の交わりで彼女を誘惑し、やがて引き返せない事態にまで陥り…という内容。

海外の性愛・ポルノ小説が200点程も訳出・刊行された「富士見ロマン文庫」、本書はその最初のラインナップだった。かつて西洋では発禁になっていたり、金子國義らが挿画を担当していたりと、今見ても好事家的な興味を惹かれる。内容も…まあエロ小説としては流石に刺激不足ながら、今でも仲々面白く読めた。

原書では当初「作者不詳」だったのだが、米国刊行の際にウォーフィールドという女性名がクレジットされた。でも今調べたらその作者は何と、ジョルジュ・バタイユの奥方である「ダイアン・ド・ボアルネ」が正体だとの事(!)。その説が正しいのかどうか判らないけれど、謎めいており本書の魅力を一層高める話だな。
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2024.03.23

「南回帰線」ヘンリー・ミラー著、河野一郎訳

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読んでみた、アメリカ人作家による長編小説。1939年発表。

ニューヨークの電信会社で採用され、雇用主任という役職を得た主人公。そんな彼の思考は幼い頃の危険な遊びから、近年における奔放な性遍歴。そして宇宙的な規模の思索へと、自由気ままに広がっていくのだが…という内容。

本書は「北回帰線」に続く著者の第2長編で、しかもそちらと同じく内容が猥褻的だとされ、各国で発禁処分となってしまった。自分が読んだ印象だと処女作は冒涜的ではあっても猥褻かなあ?、と思ったのと違って、本書は直接的描写も結構あるので致し方ないかも…という感じ(なので流れから本書を採り上げた)。

「冒涜的」と言ったけれど…イメージ的にはランボーやボードレールが「意識の流れ」で、長編小説を書いたかの様な作風なんだな。また若者の刹那的な生活描写が脈絡なく混沌的に描かれるのは、まさにロストジェネレーションとビートジェネレーションの橋渡し。そして、結末の巨視的な思考には感動してしまった。

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2024.03.21

「エロ事師たち」野坂昭如著

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読んでみた、日本人作家による長編小説。1966年発表。

昭和30年代。盗聴テープやブルーフィルムといった猥褻物を売りさばき、売春の手配といった非合法の商売までするのが「エロ事師」の通称・スブやん。彼は警察の目をかいくぐり、仲間達と共に大阪で荒稼ぎするのだが…という内容。

著者の初長編小説にして代表作。関西弁を駆使したリズミカルな文体で、戦後まだ間もない頃に裏で行われた性風俗事情を描いて、当時高く評価された。日本独特な湿度の高さと猥雑さを備えたエロティシズム文学…と言うか、ラブレー的に図太いファルスを大阪を舞台に描き、今現在読んでもべらぼうに面白い。

と同時に「死」を「性」と表裏一体のものとして描いた辺り、フロイト的だったりバタイユ的だったりするものの…そういう頭先行の学者的な分析を拒むかの様に、「生」的な反力がある。なので小難しい話はやはり似合わない。本書タイトルの(ちょっと引いてしまう)野卑さの通りに、生命力を感じたらいいんじゃないかな。
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2024.03.20

「花と蛇」団鬼六著

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読んでみた、日本人作家による長編小説。1992年-1993年発表。

遠山財閥のトップ・隆義の後妻である、美貌の令夫人・静子。監禁された彼女は、義娘を始めとする親しい人々と共に、ズベ公集団やヤクザどもから烈しい屈辱的な性的責め苦を受ける。そのSM地獄には、終わりがなく…という内容。

1962年「奇譚クラブ」誌で連載開始の本書(当初は花巻京太郎名義)、日本官能小説の先駆的作品として後続に多大な影響を与えた。実際読んでみて現在の官能小説と、殆ど変わらないのに驚いたけれど…今回読んだ太田出版刊行の3巻本には、加筆修正が入っているらしい。まあその上でも、やはりすごい。

すごいのは内容だけでなく「長さ」でもあって、完成版だと文庫10巻分にも渡って、延々SM描写が綴られる。それが余りにも同じ様な場面ばかりで、正直途中で読むのが面倒になった。でも最後には達観というか、悟りの境地に至る奇妙な清涼感があって…本書は「未完」とあるけれど、これ以上は必要ないよな。
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2024.03.18

「ファニー・ヒル / 一娼婦の手記」ジョン・クレランド著、中野好之訳

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読んでみた、イギリス人作家による長編小説。1748、1749年発表。

貧困の為に田舎から、大都会ロンドンへとやって来た「ファニー・ヒル」。彼女は結婚するも、夫とは別離する運命に見舞われ、やがて娼婦へと身を堕とす。本書はファニーがある夫人へ宛てた、手紙の形を採った告白録…という内容。

本書は近代好色文学のはしりとなった本との事で、先に紹介した「我が秘密の生涯」でも執筆の動機として触れられている。確かにエロ描写満載なのだが…時代的に直接描写は避けられており、修辞や比喩を重ねるだけ重ねた文体は、今読んで興奮できるようなものでは。それにファニーが娼婦になるのは本書では半分過ぎての上、彼女自身の体験より見たり聴いたりが中心だったりする。

結末での丸く収まりすぎな大団円からして、時代がかった一大ロマンスという印象。とは言え複数の訳者による邦書が出ている人気作?なのに加えて、日本での出版事情等も踏まえた上で読むと、やはり興味深い一冊じゃないかな。
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2024.03.17

「ロベルトは今夜」ピエール・クロソウスキー著、若林真訳

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読んでみた、フランス人作家による中編小説集。2006年発表。

元神学教授のオクターヴは、妻ロベルトに客と不倫の関係を結ばせもてなしとする、「歓待の掟」という考えに憑り付かれていた。それを知った甥アントワーヌは…という表題作(1953年)と共に「ナントの勅令破棄」(1959年)を収録。

上記の2作に「プロンプター」(1960年)を加えて、著者の小説の代表作である「歓待の掟」3部作を構成する。でも本書は3作目を欠く上、2作の発表順が入れ替わっており正直「?」となる。それ以上に案外直截的な性描写があるのに対して、恐ろしく難解な神学・哲学的な対話篇であるという、相当屈折した作品集。

これまた難解だが、先に読んだ「バフォメット」(1965年)が解説を読んだらまだ判ったのに対し、本書はまったく以てチンプンカンプン。「俗」な要素と「聖」な要素が結びついているのは(勿論意図的にしても)、質の悪い冗談みたいに思えてくる。個人的には文章で読むブニュエルの映画みたい、という印象かなあ?
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2024.03.15

「我が秘密の生涯」作者不詳、田村隆一訳

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読んでみた、作者不明の長編小説。1998年発表。

本書はある男が死後、友人に託した回想録である。その内容は彼の「性」にまつわる体験談で、幼い頃の性の目覚めから初老となった自分自身を見つめる記述。そして女性に限らず男性との関係までが、膨大な量書き綴られている。

…という体裁で19世紀の末頃に、私家版として刊行された好色小説が本書。作者は不明ながら、ヘンリー・スペンサー・アシュビーというイギリス人実業家が執筆者と推定されている。なにしろエロ本蒐集家としても有名だった人物なので(谷村新司みたい)。読むと案外面白く、開高健や丸谷才一も絶賛したとの事。

ただ完訳版は全11巻という、尋常でない長さのもの。流石に自分も全部読む気にはならなかったので、河出書房版を読んだのだが…そちらは挿話を抜粋したダイジェスト版で、文庫本1冊(それでも結構な厚みがあった)。まあ手軽に読む分にはこれで充分だとは思うけれど、物好きな人は全訳版に挑戦しては?
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2024.03.14

「デカメロン」ボッカッチョ著、平川祐弘訳

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読んでみた、イタリア人作家による短編小説連作集。2012年発表。

14世紀半ば。大流行中のペストから逃れる為、男女10人がフィレンツェ郊外に引き籠る。その際各人が、一つずつ物語を披露するという趣向となった。それが10日間に渡って行われた、「デカメロン(十日物語)」である…という内容。

名前ばかりが有名だけれど、実際に読んでみると軽い小噺の集合体という感じ(とは言えどんなに短くとも、100話って分量はやはり通読するのが大変だな)。それから所謂「艶笑物」の方面を期待して読んでみると、むしろエッチな事ばかりしてると痛い目に遭うぞという、教訓説話としての印象が強いように思われる。

なので何を期待するかにもよるけど…本書の解説は、その手引きになるんじゃないかな。河出書房の新訳版には詳細な註と解説が付されており、予備知識がなくても楽しめた(まあ完訳ゆえの冗長さはあるかも)。その解説によると「神曲」は事前に知っておいた方がよい様だが…まあ別に読む分には関係ないよ。
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2024.03.12

「性と愛情の心理」フロイド著、安田徳太郎、安田一郎訳

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読んでみた、オーストリア人著者による科学論文集。1950年発表。

人間の無意識領域の解明で、心理学分野の画期的な先駆者となった「ジークムント・フロイト」。本書は彼の業績の中でも「性と愛情」に関する研究での論文をまとめ、フロイト精神分析の独自性を紹介する一冊である…という内容。

本書は「性の理論に関する三つの論文」(1905年)及び、「[文化的]性モラルと現代の神経質」(1908年)を一緒にまとめたもの。著者名が「フロイド」な辺りからも判る通り、翻訳自体はかなり古いものだが…(噛み砕いた入門書ではなく)フロイト自身の文章で彼の研究に触れられるのには、今なお価値はあるはず。

ただ(あまり詳しくないけれど)近年フロイト精神分析は、純粋科学として大分重きを置かれる事はなくなった感が。文学や芸術への多大な影響を介して知った様な自分にとっては、少々寂しい気もする訳だけど…逆に言えば本書も、文学の一種として読めばいいのかも。訳文と共に難しいものの、やはり興味深い。
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2024.03.11

「血と薔薇 全3号・復原」白順社刊

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読んでみた、日本の雑誌の復刻版。2003年発表。

「血と薔薇」は1968年から1969年にかけて、天声出版より全4号刊行された雑誌。うち3号までが「澁澤龍彦」の責任編集を謳っており、古書として長年高価取引されて来た。本書はその3号をまとめて復元したもの…という内容。

「エロティシズムと残酷の総合研究誌」という標題の元に、種村季弘や稲垣足穂といった錚々たる執筆陣が寄稿しており(澁澤はマンディアルグ「城の中のイギリス人」を連載)現在でも読み応えがある。と言うか何とも浮世離れした内容で、当時の世相等は殆ど反映していない為か…ある意味超然とした風情の雑誌。

本書である復元版は、実はオリジナル版よりも紙質や印刷がクオリティアップしているそうで、豪華な装いは1万超えという値段にも充分見合っているのでは(自分が持っているのは二版なので、結構売れた様だし)。ただ個人的には「エロティシズムの専門誌」という意味だと、この3冊よりもいいと思っているのが…

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